突然の来客
カインは地下9階のオーダーメイド専門のメイドロイドの工場でショタコン領主の注文書通りのメイドロイドを制作していた
「あの変態の趣味には引くけど、言うて他の貴族も似たり寄ったりだしな…」
カイン商店の裏のヒット商品であるメイドロイドは、貴族社会の闇に上手いこと溶け込んでいた
注文者は男性が多いが、最近では女性からの需要も中々ある
面子や見た目を重視し、つまらない格付けが好きな貴族からすると
側使いとして有能で、見目麗しく、命令に絶対服従し、裏切ることが無いメイドロイド達は正に理想の商品だった
そして何よりその完成度の高さ故、普通の人間と全く区別がつかない所がポイントだ
中には自分の影武者として自分そっくりのメイドロイドを希望する小賢しい奴もいるくらいだ
「まぁオーダーメイド品は高く付くから儲かればそれで良いんだけどね よしガワはこんなもんかな」
一糸纏わぬ子供の姿をしたメイドロイドが完成した
大体領主の希望通りにしたつもりだ
「あとは人格を入れて調整した後、動作テストして初期化して終了だな」
設定通りの人格をいれ、起動すると目を開いた
「初めましてご主人様、メイドロイド O100034です。動作テストを開始します。マニュアルP.3をお開きください。今から同じ動きを致しますので不備があれば項目にチェックをいれ返品処理をお願い致します。」
ひとしきり動作をチェックした後、人格に問題がないかテストする
「私の名前は?」
「カイン様です」
「君の名前は?」
「まだありません」
「よし、ここを触られるとどんな感じがする?」
「ムズムズします」
「じゃあこれは?」
「き、気持ちいいです…」
「今の感じを10としてこれは?」
「5…5です」
「ではコレは?」
「2です」
「ではコレは?」
「ひゃうっ!!………せ、1000ですぅ………」
その場で股間を押さえてへたり込んでしまった
よしコレであの変態の希望する感度になったことが分かった 感度1000倍とか頭の悪い文面を見た時は天才かと思った
因みに軽く腹をくすぐっただけだ
「初期化と…あとの梱包は任せる」
「かしこまりたご主人様」
この階のメイドロイドに命じると、ナターリアがエレベーターから降りてきた
「お忙しいところ失礼しますご主人様、カイン様にお会いしたいと言う方が玄関にいらしております」
「え、俺に来客?」
(顔が割れてる奴以外には俺が何処に住んでいるのかは教えていない筈だ…)
「分かった お前は警戒した上で護衛を頼む」
「分かりました」
1階に着くと隠し扉から玄関に向かった
ナターリアが玄関を開けると同じくらいの背丈の子供が立っていた
ボロ布を目元まで被っている
「え〜と…今晩は…」
「こ、今晩…は……」
消え入りそうな声で返事をしたその子は声の高さ的に女の子だろうと察した
「僕の名前はカイン 君の名前は?こんな時間に何しにきたの?」
子供らしく少し明るめに質問してみた
「え、え〜と……」
「……………」
中々言い出さない
「ひ、昼間は!!…助けてくれて…ありがとう……ござい…ました…」
(ん?助けた……?)
全く人助けをした覚えがないカインは必死で目の前の子供を思い出していた
(待て待て待て、昼間何してたっけ?いつも通りあのクソガキたちを指導して、催涙スプレー試してみて……他に何かしたか?いやそもそもこの子自体に見覚えがない!!マジで誰何だこの子……!)
必死に昼間の蛮行を思い出していたカインは逆に質問してみることにした
「え、えーと僕が何かしたかなぁ?良ければ教えてもらいたいんだけどぉ…」
「え!……それはその……」
「あはは…」
中々言い出さないのにちょっとイライラして愛想笑いが出てしまった
「あ、あの!僕、フューイって言います
それで、あの子達に…その…いつも、いじめられてて…それで……見てたんです!あの子達と戦ってるところ!それでお礼が言いたくてここまで来たんです!」
(お、僕っ子とは…… そう言うことか…ふっ…なるほど俺もいつのまにか誰かのヒーローになってたみたいだな…)
多分違うが都合良く解釈したカインは調子に乗り始めた
「フューイだね!いいって当たり前の事をしただけさ!」
「あの、お礼なら何でもします!出来るのことはあまりないです…けど…」
「ん?何でもか……分かった僕と友達になろうよ!それで良い?」
珍しく年頃の子供らしい対応をカインは選んだ ここで変に突っ込むと墓穴を掘りそうだったからだ
「ふぇ!そ、そんなことで良いんですか?」
「もちろん!仲良くしようね!」
「……はい!」
嬉しそうな声を上げて口元からは笑顔が見えた
「ところで、今更なんだけどお顔って見せてもらう事できるかな?」
ボロ切れのせいで顔が全く見えなかったのが少し引っかかったのでダメ元で聞くことにした
「え!え、でも……」
「いや〜名前は分かっても顔が分からないとまた会えないでしょ〜?それだと僕困っちゃうな〜」
「う、うぅ…」
未だにモジモジして中々見せようとしない
「じゃあフューイとは友達になれないや またね」
そのままドアを閉めようとした
「ご主人様、最低です」
さすがのナターリアも引いたらしい
「まっ…待ってよぉ!ごめんなさい行かないでぇ!」
涙声になりながら駆け出して袖を掴んできた瞬間
布がフワッと宙に浮いた
「あっ………」
ぱっちりとした淡いグリーンの瞳に…肩まで伸びる綺麗な栗毛色の髪…そこから覗く人ならざる尖った耳……
「は?…エルフ!?」
こんな所に居るはずのない種族を目にして思わず声を上げてしまった
少し歴史の話をしよう
この世界では、大昔にエルフ族と人族は元々同じ種族だったのだが、たまたまその種の中から多少魔力が高く、耳の尖った突然変異種が現れ、エルフ族として分岐した
それからは100年近く共生関係が続いていたが、人族は少数派であるエルフ族と次第に溝を深めていた
その差を決定的にした出来事が「スート事件」である
スートという名のエルフが、ある時見た目の違いだけで人族の村から追放されてしまった経験を嘆き、似た境遇にあったエルフ達に対して民族主義を説き、スート派と言う一大派閥を作り上げたのだ
そしてスート派の巨大化と共に過激化した一部の暴徒が人族の村を襲撃したことにより、エルフと人との対立が決定的なものになった
それ以降、人族は共通してエルフに対する報復を理由に民族浄化を続け、辺境のアンヌの森まで追い込んだのだった
それがどうしてこんな所にいるのだろうか?
「え…えっと…隠しててごめんなさい!酷いことしないで………」
フューイと名乗るエルフは、目尻に涙を浮かべ恐怖に満ちた顔をし震えていた
「そ、そんなことしないよ!!
(…周りに見られたらまずい!)
ナターリア!急いでフューイを質問室に!」
「直ぐに」
「え!ちょっ…むぐぅ!」
ナターリアは素早くボロ切れでフューイの耳を隠した後、ヒョイと脇に抱え上げ、口を押さえながらカインとダッシュで地下6階の質問室に向かった
「ナターリア すぐに質問の用意を」
「直ちに」
質問とはもちろん尋問のことである
質問室は、信用できない相手から安全かつ確実に情報を引き出すための部屋である
ナターリアによって特殊な椅子に手足を拘束され目隠しと猿轡をされたフューイは、何とか逃げ出そうともがいていた
「んー!!んー!!」
ギシギシと椅子が軋むが、ガッチリと床に固定された椅子はびくともしない
「ご主人様、用意が完了致しました」
「ご苦労だったナターリア 下がっていろ」
「かしこまりました」
「フューイ まず一つ、君は俺と友達になった身として危害は加えない事を約束しよう
そして二つ、ここでは嘘は命取りになる たとえ少しでも隠し事や嘘があれば、この真実の石が嘘を見抜き反応する
内容次第では……分かるね?」
「ヒィッ…………」
フューイは小さく悲鳴を上げ必死で首を縦に振った
「よろしい では質問に答えてもらおうか」
目隠しと猿轡を外されたフューイはゴホゴホと咳き込んだ
カインによる威力面接が始まった
「君がここに来た理由は、本当に先程のお礼を言いたかったからなのか?」
「そ、そうです!」
魔石は反応しない本当である
「そうか、ではそれ以外に理由はあるのかね?」
「あ、ありません!……うっ……」
魔石が光った 嘘をついている
みるみるうちに顔が青ざめたフューイは震え始めた
「ほう、君は嘘をついているね 何を隠しているのか言ってもらおうか」
「ひぃぃぃ!」
フューイは分かりやすく目を泳がせながら必死に言い訳を探しているようだ
「あ、あの、そ、それは…ヒクッ しょっ…正直に言えば…ヒクッ…許して貰えますか……?」
フューイはパニックのあまりしゃくりながら予防線を引き始めた
「あー泣かせるつもりは無いんだよフューイ 僕は質問しているだけなんだから 勿論、話は聞いてあげよう」
「そ、その…僕!僕は…ついこの前まで…隣の地のりょ…領主様に…ど、奴隷として飼われてて…その……」
「奴隷…だって?」
魔石は反応しない 本当のことだ
「それが突然……解放されて…何も持たずにこの村まで逃げてきたんです……そしたら…」
(悪ガキに目を付けられたと……)
なるほど奴隷だったなら納得できる しかもただ逃げて来たわけではなく解放された奴隷だとは… それはつまり……
「分かった…前置きはいい 君の本当の目的を教えてくれ」
覚悟を決めたようにフューイは深呼吸した後答えた
「ぼ、僕を…!ここで…引き取って…働かせてください!!どんなことでもします!!」
(…やっぱりそうなるか……参ったな)
かわいいメイドを雇うのはやぶさかではないが、相手は人間にとって忌むべき相手認定されてるエルフだ
人族でも耳が少し尖ってるだけで石を投げられるこの世界で、エルフを雇う人間はいない
「フューイ 悪いがそれはできない相談だ
君の過去には同情するがそれ以上でもそれ以下でもない 君がエルフであると言うのは僕たちにとって死活問題なんだよ」
「そ、そんな………うぐっ……」
項垂れて大粒の涙を流すフューイは、失意の念に満ちていた
エルフに生まれただけで、どうしてここまでされなければいけないのか
人間に会う度に何度も感じた怒りの念は、最早怒りにもならず静かな悲しみとして心に影を落とす
(もう嫌になっちゃったなぁ……)
フューイの心は限界を越えようとしていた
「だが君がエルフの誇りを捨てるのならば協力できる」
「………え?」
フューイは思ってもなかった言葉を受けて思わず顔を上げてしまった
「それって…どう言うこと……なんですか?」
「言葉足らずだったね もっと具体的に言おうか その耳を隠してくれるなら僕が君を雇っても良いと言ってるんだよフューイ」
「そ、それだけで良いんですか?」
フューイの顔に少し光が差した
「それだけか………エルフは自分の耳にアイデンティティを置いてるらしいから、それを隠すなんて絶対に嫌がると思ったんだけどなぁ 君はそれで良いのかいフューイ?」
「はい!僕は確かにエルフとして生まれたけど、この耳には正直、嫌な思い出ばかりで…後悔はありません!」
フューイは真剣な目でカインの目を見る
「………分かった 僕の負けだよ… 正式に僕が君を雇用しよう ただし住み込みでの雇用は初めてだから条件は追って君に伝えるけどそれで良いかい?」
「はい!構いません!…あと……」
「ん?何だい?」
「いえ、一つ気になったんですけど……カイン…様はこの家の…偉い人…ではないですよね?」
「偉い人? あぁこの家の主人じゃないからそんな事を決める決定権があるのかってことね」
「そ、そこまでは…」
フューイは、引きつった笑顔を浮かべながら弱く否定した
「いや良いんだよ 確かに君には少し説明が必要かもだけど……
機密情報だから省くよ 心配すんな」
「え、えぇ〜………」
「それはそうと今日からよろしく新人くん」
「……はい!」
こうしてエルフの少女フューイがカイン商店の新メンバーとして加入したのだった……
皆さんこんにちは 寒いですね
最近、段々とユニーク数が増えてきて嬉しく思っております
短いですがこれからもよろしくお願い致します