1話 召喚
霧峰風都。高校三年生。
朝。今日は、卒業式だった。
高校の最後を締めくくる大切な日。
天気予報は快晴。
窓からは爽やかな朝の光がさしていた。
「高校最後の日か」
いけない、いけない。今日くらいは早くこいと言われてたんだった。
遅刻魔だった俺は、その日、珍しく早く教室に入った。
「おはよう、霧峰くん。今日はちゃんと遅れずに来たのね」
出会い頭に、黒髪の美女がトゲのある声を向けてくる。
容姿端麗、成績優秀、品行方正。おまけに風紀員委員長という肩書き付きのクールビューティー。
清水紗耶香。それがこいつの名前だ。
「お、おはよう。卒業式に出さないなんて脅迫されたら、いやでも遅刻できないわな」
「私がいくら注意しても治すどころか連続記録を更新し続けていたあなたがね」
「性なんだよ。悪かったって」
そう、この女は、高校で初めて出会ってからずっとこの様子であった。
正義感が強いというか、お節介というか、俺は結構苦手だ。
「卒業式だというのに、その格好はなに?」
「格好? いつも通りにきちんと着こなしてるだろ?」
「卒業式なのに、いつも通り?」
呆れた顔で、俺を見る。
「ヤッホー! あれー!! きりっち、今日は早いんだね!」
ピリつく空気を打ち破ったのは、歳のわりに身長も精神年齢も低いことで有名な、森琴葉だ。
「卒業式だからな」
何か気づいたように、真顔で俺の方を見た。
「卒業式なのにその格好?」
こいつも同じことを言うのか。
ふと周りを見渡してみれば、確かに全員髪を飾っていた。
あの無頓着な性格で有名なイケメン、夢野孝之助でさえ、長い髪をオールバックにし、他クラスの女子の目線さえも集めていた。
なんだよあいつ……やる時はやるってやつが一番モテるんだよ、クソやろう。
俺の妬みに気づいたか、本を机に置くと、こちらに歩いてきた。
「おはっす。清水も森もおはっす」
「おはよう」
「おはぁっす!」
「おはっす。お前、こう言う時はちゃんと気合いいれるんだな。遊ぶときいつもジャージのくせして」
「俺は特別何かするつもりなかったんだけど、姉ちゃんが」
出たな。姉。こいつの姉はテレビでもよく見かける売れっ子女優だ。
極度のブラコンで、こいつの変化は、だいたい姉のせいであることが多い。
「ふうたはいつも通りだな?」
「早くくることに命かけててそこまで手が回らなかったわ」
「まあいいんじゃないか? いつも通りが一番だよ」
はあ、こいつがモテるの頷けるわ。姉に調教されてるんだろうな、何をいえば相手が喜ぶのか。
しばらくすれば、クラス三十人全てが揃った。
ふわあ、とあくびを漏らす。
「早起きしすぎて眠い」
――バタン!!
急に扉が閉まった。
全員席についてるし、外には誰もいないはず。
教室がざわつく。
そして、それは突然訪れた。
密閉された室内に、急に光が溢れたのだ。
目の前が真っ白に染まり、視界が開けた時には、俺たちは教室にいなかった。