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ただの夢……だよな?

作者: 冬乃クマ

 「よう! 優人(ゆうと)久しぶりだな!」


 そう声をかけられ振り向くと俺が知っている彼より少し老けた、いや立派になったスーツ姿の旧友が手を上げこちらに歩いてきた。


 「おう! 久しぶりだな(あきら)お前も仕事終わりか?」

 「そうだよ、休出だよ。同じスーツってことは優人もだろ?」

 「あぁ、俺も仕事終わって来たとこ。にしても10年ぶりか?」

 「そうだなぁ、中学のメンバーで同窓会って初めてじゃないか?」

 「ほんとだな、まぁとりあえず中入るか」


 そう言って明は店の中を指差した。


 「だな、ここって島田(しまだ)の店だろ? すげーな」

 「ほんとな、結構でかい店だよな。まさか家庭科2の島田が店出すとはな~」

 「あいつ2だったのかよ! おれ島田が店出したの招待状で知ったぞ」


 俺は久しぶりに会った明と何でもない会話で盛り上がり2人で店の中に入った。

 店の中は貸し切られているようで、見渡す限り中学のクラスメイト達の姿があちこちに見える。


 「ところで何人集まったんだ?」


 ふと気になったので俺は明にそう尋ねる。


 「全員参加するみたいだぞ、俺らの中学って田舎なのにこんな都会の店に全員参加って結構すごいよな」

 「全員か、確かにすごいな。でも1クラス42人だったけどな。俺はそれより島田が都会で店やってけてるのがすげーよ」

 「ほんとな、それは言えてる。俺は高校入って高校の人の多さと6クラスあるのにびびったよ」

 「あぁ、明は高校から結構都会の方に行ってたもんな」


 そんな話をしている最中1人、気になる人を見つけた。

 

 「なぁ、明。あいつ誰だっけ? まじで全然思い出せない」

 「どれどれ、誰だ?」


 俺はクラスメイト達と話す1人の男性を指差した。


 「ん? 誰だよ。香澄(かすみ)ちゃんか? (あおい)ちゃんか? それとも美紀(みき)ちゃんか?」

 「おい! いや、女じゃねーよ! 男だよ! ほら! あの黒いスーツ着ててさ――――」

 「あぁ、あいつか。お前まじで言ってんの? あいつは――――」


 明の雰囲気が何か少し変わったような気がした。

 明が何か答えかけた時、俺達の会話が遮られた。


 「優人! 明! お前ら久しぶりじゃん! いたなら声かけてくれよ!」

 「おぉ、久しぶりだな晴樹(はるき)! いやーちょうど店の前で優人と会ってさ。めちゃくちゃ話し込んでたわ! わりーな」

 「なんだ晴樹いたのか、気づかなかったわ」


 俺は疑問の答えが聞けそうな時にタイミングが良いのか悪いのか会話を遮った晴樹を適当にあしらった。

 俺は当時こいつら3人とよく遊んでいた記憶がある。


 「おいおい、優人それはひでーだろー。10年ぶりじゃんかよ! 何ならおれ1番早くここ来てっからね」

 「いや、10年ぶりじゃないだろ、先週も一緒に飲み行ったろ」

 「そーいや行ったな、あそこ刺身めっちゃうまかったからまた行こーぜ」

 

 晴樹とは職場が近いこともあり今でもよく遊んでいる。


 「そこどこだよ、今度行く時は俺も誘ってくれよ」


 明が俺と晴樹の肩を組みふざけ合っている。

 何だか昔に戻ったようですごく楽しく感じる。


 「そういや、何の話してたんだ?」


 そこで晴樹が切り出した。

 うん、晴樹にしては良いことを聞いてくれたなって思った。


 「あぁ、そうだったな。優人がさ思い出せないんだってよ。あいつのこと」

 「ん? あいつって誰だよ?」


 まただ、また明の雰囲気が少し変わった。

 暗くなったと言うべきだろうか。


 「優人、誰だっけ? お前が思い出せない奴」


 少し考え事をしていたせいか、急に話を振られ驚いた。

 というより少し答えを聞くのが怖くなってきた。


 「……ん? あ、あぁあそこ香澄ちゃん達の近くにいる黒いスーツを着た坊主の奴だよ」

 「あぁ、あいつか」


 晴樹はあからさまに嫌悪感を出した。


 「ふっ。お前さそれはまじないだろ。めっちゃ仲良かっただろ」


 晴樹は軽く鼻で笑い、俺の目を見てそう言った。

 晴樹の出した嫌悪感は確実に俺に向いているのだと今嫌でも気づかされた。


 「そ、そうなんだっけ? 本当にごめん。まじで思い出せないんだ」

 「ってことらしいわ晴樹」

 「だってあいつは――――」


 ここで会場がざわつきまたしても俺が聞きたい答えが遮られてしまった。


 「えっと、皆久しぶりです! 出席番号ラッキー(セブン)佐久井真理(さくいまり)です! 今日はここに皆集まってくれてありがとう! 今日は久しぶりに会った皆で時間の許す限り楽しみましょう! あとこの場所を提供してくれた島田(じゅん)くんから挨拶お願いします!」


 マイクを持ち店の奥で簡単な開会の挨拶が始まった。


 「えぇ、ご紹介に預かりました島田純です! 久しぶりに会った皆に食って欲しくて腕振るって飯作ったから皆思う存分腹いっぱい食ってくれ! オードブルになってるから好きなもん好きなだけ食ってくれ! 酒も用意してある! 足んなくなったら何でも言ってくれ速攻で出すから! じゃあ今日は皆で楽しもう! 以上! 冷めないうちにどんどん食ってくれ!」


 店内は拍手やら野次やら歓喜の声でより一層騒がしくなり同窓会が始まった。

 店内には大きい丸いテーブルが用意してあり、皆店の奥の並べられた料理やら酒を各々持ち好きなテーブルへ運び昔話や仕事の話に花を咲かせ始める。


 「俺らも取ってこよーぜ」


 晴樹はそう言うと颯爽と店の奥へ行ってしまった。


 「俺達も行こうぜ」


 俺は頷き明の後を追う。

 俺達が料理を取り、酒を持ち晴樹の姿を探していると俺達が先ほどまで話していた入り口近くのテーブルで大きい肉をくわえた晴樹が手を振っているのが見えた。


 「あいつもうあっちで食ってんのか」


 俺は苦笑し、晴樹の行動の速さに驚くばかりだ。

 昔から晴樹の行動力には驚かされた覚えがある。

 まぁその話はいいとして俺は明と晴樹のいるテーブルへ向かった。


 「おー! ゆーくんにあっきー待ってたよ! そろそろ来るかなって思ってたとこ!」

 

 テーブルに着くと赤いワンピースを着た髪の長い女性が声をかけて来た。

 多野茜(たのあかね)だ。


 「おー! 同じあっきー仲間がいたか。隣失礼しまーす」


 そう言って明は茜の隣の席へ着いた。


 「何で俺達が来るってわかったんだ?」


 そう言って俺は明の隣の席に着く。


 「何でってこいつらがいればあんたらも来るだろうなって思うでしょー」

 

 そう言って茜は俺の向かいに座る2人を指差した。

 茜が指を指した先には晴樹ともう1人黒いスーツを着た坊主の男がいた。


 「あ、あぁ。なるほどね」


 テーブルの向かいに視線をやると晴樹は変わらず肉を頬張り、スーツの男は俺を見てにっこり笑っている。

 俺はまだこいつのことが思い出せないでいる。

 本当に誰だっけ? 昔の記憶を漁っても一向に出てこない。

 名前も遊んだこともこの顔さえも。


 「なるほどなってお前こいつのこと覚えてないんだろ?」


 晴樹が隣に座るスーツの男を指差しそんな空気の読めない発言をする。

 俺が晴樹を見ると必然的に隣に座るスーツの男が嫌でも目に入る。

 そのスーツの男は静かに笑っていた。


 「え、まじで?」

 「本当?」

 

 茜が目を丸くして驚き、その隣に座る葵もサラダを頬張りながら驚いている。

 

 「それは酷いよ、あんなに仲良かったのに」

 「ほんとだよね、酷すぎ」


 こいつらもだ、こいつらも今雰囲気が変わった。

 明と晴樹のように。

 何だかイライラしてきた。

 確かに忘れた俺が悪い、悪いのは分かっているがここまで、久々に会う友人皆にここまで嫌悪感を向けられることだろうか。


 「いや、しょーがねーだろ」


 俺はつい不機嫌そうにそう返してしまう。


 「は? 何でゆーくんがキレてんの?」

 「まぁまぁ、楽しくいこーよ」

 「何でお前がちょっとキレてんだよー」


 茜が怒るのを隣に座る明が宥め、晴樹が笑って流してくれた。

 晴樹のせいでこうなったのに晴樹に笑って流されたのも何だか釈然としない。

 俺達のテーブルだけ静まりかえるが、それは一瞬だけだった。

 この時もスーツの男は静かに笑って俺を見ていた。


 「やっほー、ここ空いてるー?」

 「おっ久ぁ~お肉持ってきてあげたから皆食べて~」


 ここで酒のボトルを2本持った香澄と肉が山盛りに盛りつけられた皿を両手に持った美紀が来て俺の隣に座った。

 二人が来た途端さっきまでの空気はなかったことのように俺以外の全員が笑顔で昔話に花を咲かせ、仕事の話の愚痴を話し始めた。

 俺は何だか居心地が悪く席を立ちトイレへ向かった。


 「まじで誰なんだよ」


 いくら考えても、どれだけ記憶を探っても一向に思い出せない。

 そもそも記憶がないのではないのだろうか。

 あの男の顔に全く見覚えがない、皆がドッキリでも仕掛けている何て事ある訳ないよな。

 ずっとトイレにいるのも何なのでとりあえず元いたテーブルに戻った。


 「おう、優人遅かったな」

 「そーか?」


 明にそう言われたがそんな長い間トイレにいた覚えはないが、ふと時計を見ると結構な時間が経っていた。

 

 「ゆーくんもう酔ったの?」

 「はい、優人くんおしぼり使って」


 茜に茶化され、香澄が俺におしぼりを渡してくれた。


 「いや、そんなことねーよ。ありがと香澄ちゃん」


 そう言って香澄の方を見ると香澄の隣にはスーツの男が座ってこちらを見て笑っている。

 そこ席に座っていた美紀はスーツの男が座っていた晴樹の隣に移動していた。

 俺は何だか気味が悪くなり席に着きおしぼりで手を拭きコップに残っていた酒を一気に喉に流し込んだ。

 先程まで良く冷えていたのに飲んだ酒は生ぬるくなっていた。

 ここでまた時間が気になり時計に目を落とすとたった今席に座る前見たはずの時刻と全く違う時刻を指していた。

 時計が壊れたのかと思い時計をじっくり眺めた。

 眺めた時計は今もなおクルクルと回り動いている。

 時計が壊れたか?それとも俺が酔ってるのか?


 「どうしたの? 優人くん」


 心配させたのか隣の香澄が俺を覗き込む。


 「ん? あぁ何でもないよ」

 「そっか」


 そうだと頷き美紀の方を見ると嫌でもあのスーツの男がこちらを見て笑っている姿が目に入る。


 「なぁ、ところで優人思い出したか? こいつのこと」


 晴樹がスーツの男を指差しそう俺に問う。

 テーブルに座る皆が各々話していた会話を辞め、一斉に俺を見る。

 

 「い、いや、すまん。何度も思い返してみたけど全然分かんない」


 ここで先程まで騒がしかった店内が静まり返っていることに気づく。

 少し怖くなり後ろを振り返ると店内にいる皆が俺を見ていた。


 「酷い」

 「酷すぎる」

 「本気かよ」

 「仲良かったのに」

 「でもあいつが」

 「あ、そっか」

 「だよな」


 色んな声が俺の頭に響いてくる。

 俺は耳を塞ぎ、目を強く閉じた。

 

 「わっかんねーよ! お前ら何なんだよ! こんな奴知らねーよ!」


 俺はもう訳が分からなくなり声を荒げる。

 途端に先程まで頭の中で響いていた声は消えた。

 俺はゆっくり耳から手を離し目を開けると目の前には眉間に皺を寄せ怒気を纏う晴樹がいた。

 今の今まで目の前にあった料理も酒もテーブルごと消えていた。

 辺りを見渡せば店の中のテーブルが全て消え全員が俺を囲い、俺を睨みつけている。


 「お、おい何だよ」

 

 俺は恐る恐るそう声を発した。

 すると晴樹は俺の胸倉を掴み怒鳴る。


 「お前本当にこいつが分かんねーのか!?」

 「わ、分かんねーよ」

 「お前が殺した――――だろーが!」

 「……は? ……え?」


 あまりにも突然すぎて唐突すぎて理解ができない。


 「お前が中学の時殺した――――だよ!

 「……いや、へ? ……え?」


 俺の頭は一向に理解できず素っ頓狂な声が漏れる。


 「だからお前が夏の川辺で殺した――――だって言ってんだよ!」

 「……お、俺が……殺した?」


 全く意味が分からなかった。

 俺が中学の時、夏の川辺であいつを殺した? 俺が? 何で?

 いくら考えても何度思い返そうとしてもそんな記憶はどこにもない。

 俺はやってない。何も知らない。何かの間違えだ。俺にはそんな記憶はない。

 全身から冷や汗が吹き出し、口の中はカラカラに乾いている。

 恐怖で震える体を俺は両手で無理やり押さえ付け勢いよく先程あいつがいた場所を向いた。

 向いた俺の顔の目の前にはスーツを着た坊主の男がにっこり笑う顔が目の前にあった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「はぁ、はぁ、はぁ――――」


 俺はベットから勢いよく飛び起きた。

 最悪の悪夢を見た。全身からは汗が吹き出し息もかなり上がっている。

 俺は仕事で1カ月程海外に行っていた。

 数時間前に母国にある我が家に帰って来て就寝したところだ。

 部屋の壁に掛けてある時計を見ると昼を過ぎた頃だった。

 

 「はぁ、最悪だ。全然寝れてねーじゃん!」


 俺は冷蔵庫から水を取り出し一気に半分ほど飲み来ている服の裾で口元を拭った。


 「ぷは~、まぁ明日休みだしいっか」


 俺はそのまま玄関の扉を開け扉の横にあるポストを漁る。


 「うっわ、めっちゃあんじゃん」


 うんざりしつつポストの中にある紙を全部鷲掴みし部屋のテーブルの上に置く。


 「どれどれ、これは光熱費か、何だこれ。あぁ何かの勧誘か」


 俺はいる書類といらない書類を分けて行く。

 その最中、俺は1通の封筒が目に留まる。

 

 「……ま、まじかよ」


 俺は驚愕と共に恐怖した。

 俺が手に取った封筒は中学の同窓会の招待状だったからだ。

 

 「ただの夢! びびんなよ俺」


 中を開けてみると日時と集合場所が書いてあった。


 「来週の休日か……島田店出してたのか……」


 鼓動が早まったのが分かる。

 乾いたはずの汗がまた滲む。


 「夢だろ、気にしすぎ……だよな」


 そう自分に言い聞かせ先程開けた水を一口飲む。


 「そういや来週の休日って――――」


 俺はまだ片付けていないテーブル脇に置いたままの旅行鞄から手帳を取り出し予定を確認する。


 「来週、来週の休日はっと……し、仕事か」


 自分の心臓の音がやけにうるさく聞こえる。

 

 「落ち着けよ! 俺!」


 大きくため息を吐き再び水を流し込もうとするがもう水の入った容器は空だった。

 あぁ心臓の音がうるさい、先ほど見た夢が鮮明に脳裏に焼き付いている。

 汗が吹き出し喉が乾く。

 体も震えている気がする。


 「まじで、何なんだよ」


 再度俺の記憶を探しても漁っても何も思い出せない。

 俺の記憶にあの男はいない。

 ただよくある夢だろう。

 そうだ。これはきっと――


 「ただの夢……だよな?」


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