56 理解と納得
⋯⋯うん、死んだんだな。
呆気なく死んだな。ってことはここは死後の世界ってやつか?
「おーい! クレインー!」
⋯⋯
⋯⋯
クレインの名前を呼んでみたけど、返事はない。一緒に死んだんならここにいるはずなのに。あの状況下でクレインだけ生き残ってる可能性はほぼ無いだろうし⋯⋯
プラプラと辺りを歩いてみてはいるものの、何もありゃしない。ここはどこだ? って、死後の世界だってわかってるだろ、俺⋯⋯
「っ!?」
暫くプラプラと歩いていた俺の鼻に懐かしい匂いが入ってきた。他の家庭と同じようで違った匂い。
くんっ。
あぁ、やっぱりだ。母さんが得意な野菜の多く入った暖かいスープの匂い。
俺は匂いの方へ無心で走った。真っ白な空間でどれだけ走れば近づけるか分かりはしないけど、何かの手掛かりかもしれない。
「うっ!」
急に辺り一面が光に覆われ、視界が晴れるとそこには俺の家があった。いや、俺達の。両親と過ごした家が。
「どうなってんだ?」
考えたってわかりっこない。母さんが作ってくれていたスープの匂いに誘われて扉を開けた。
「ったく、だからあれほど引き返せって言ったんだ。とりあえず久しぶりだろ、冷めないうちにスープ飲めよ。うっまいぞ!」
「はっ⋯⋯?」
「父さんの言うことはちゃんと聞きなさいってあれほど言ったでしょ? まったく⋯⋯誰に似たのかしら⋯⋯」
扉を開けた、俺の家の姿はいつもの家で。
違うのはテーブルに座る両親の姿と湯気が立っているスープがあるって事だった。
あぁ、昔からの懐かしい風景だ。俺はこの母さんが作ってくれるスープが好きだった。
「って、いやいやいやっ! はっ? はぁ~?
意味が全然わからねーよ! ちゃんと説明しろよ!」
理解は出来た。見たまんまだ。だけど、納得は出来ない。両親の姿も、言っている意味も、何もかもがだ。
「あっ、やっと来たのね。私は久しぶりにお風呂でゆっくりしちゃったわよ。シュウもスープ飲んだらお風呂入った方がいいわよ」
ギーっと奥の扉がゆっくりと開くと、髪がまだ濡れており、肩にタオルをかけた風呂上がりであろうクレインがやってきた。
あぁ、さらに謎だな⋯⋯
この状況で、なんの違和感もないクレインが可笑しいのか?
それとも俺が可笑しいのか?
いや、どう考えたってこの状況下が可笑しすぎるだろ!
「全てが謎だ! なんなんだよこの状況は?
俺は死んだんだろ? で、これが死後の世界ってやつなのか?
のんびり過ごすって事が死後の世界なのかよっ!」
「んっ? お前はなに言ってんだ?
お前達は死んじゃいねーぞ。死んでるのは俺達の方だ。なぁ母さん」
「えぇそうよ。そんな大声だして慌て蓋向くなんて落ち着きがない子ね。まったく⋯⋯誰に似たのかしら⋯⋯」
「はぁ?」
「まぁ聞きてぇ事も色々あるだろうが、まずはスープ飲んじゃえよ、冷めちまったら母さんに悪いぞ」
相変わらず説明が下手くそ過ぎる父も、おっとりしすぎな母も、俺の記憶にある両親だ。
はぁ~⋯⋯。とりあえずスープを飲むことにしよう。考えるのも、驚くのも疲れたし⋯⋯




