53 喉
「なぁ、そろそろ戦って感覚つかんどいた方がいいんじゃないのか? この先、どんな強い魔物が出るかわかったもんじゃないぞ」
黒オーガを倒した後も、黒ゴブリンや黒ミノタウロス、黒キメラなどなど。魔物を見つけては戦闘を繰り返してはいるものの、クレインはあーでもない。こーでもない。言うだけで一切戦闘には参加しない⋯⋯
黒キメラには苦戦したものの、回復魔法のおかげで先頭不能になることなく進んではいるものの、これ以上の強い魔物が出てくるようならばクレインにも参加してもらわなくては、結構⋯⋯いや、かなり厳しいと思う。
「⋯⋯」
その何とも言えない顔で見られた所で、俺にはクレインの気持ちを察する力はないぞ。
そんな俺の表情から喋らなきゃわからないと理解して貰えたらしくクレインは重い口を開いてくれた。
「⋯⋯。あのね、私だってそろそろ参加するべきなのは分かってはいるわよ。でもね、私は【暗殺者】であって一撃必殺の特化型なの。
今までの戦闘を観察していたけど、シュウのように連続で避けることも出来ないし、防御力なんてほぼ皆無。
⋯⋯回復魔法が間に合わず死ぬわ」
「完全に足手まといじゃん!」
何こいつ⋯⋯。ポンコツじゃん。
「だ~か~ら~! 観察してるのっ! 魔物の行動パターンを覚えて、回避しながら一撃必中で倒しきれるようにね」
「なら、最初からそう言えば覚えられるまで回避に専念して、クレインの力になれるじゃんか。何で言わないの?」
クレインはクレインなりに努力しているなら、言えば成果までの時間が短縮できるだろうに。
「⋯⋯だって、それで何かミスがあってダメージ受けるのはシュウなのよ⋯⋯」
俯き、俺の顔をチラチラと見ながらボソボソと喋るクレイン。
散々、デカイ声で喋ってたから喉が潰れたか?
痛いなら痛いと言えば良いのに⋯⋯
内部ダメージにも回復魔法が効くかどうかは知らないけど、とりあえずクレインの喉にキュアを唱えた。
「⋯⋯?」
「まぁ、なんだ。あんまり無理するなよ」
効くかどうかは別として、いざという時に声が出なければ危機を知らせることが出来やしない。ダンジョンではお互いの状況報告はとても重要な事だ。
特に、ここじゃ助けてくれる他の冒険者はいないわけだから、何があっても二人だけで乗り越えなきゃならないわけだから。
「う、うん⋯⋯」
回復魔法を唱えても、声は小さいままだし、やはり効果は無かったか。一つ勉強になったな。
とりあえず、水を飲むことをクレインに勧めて、また下へと足を進めた。




