05 一週間後
卒業式から一週間経ったが結局二人の情報は何も入っては来ていない。学校に通わせたときから、いつかは旅立ってしまうと、昔から生徒達の両親は決心しているらしく、特に捜索に出ることもしない。
親なんてそんなもんなのかね。俺の両親は他界してしまってるからわからないけど。
とりあえず俺は、これからやるべき事をノートにまとめた。
1、自分を知る
レアジョブなんてものを授かってしまったので、先輩方の情報は無い。自分自身で何が出来るかを模索していくしかない。
2、初期ダンジョンソロ攻略
学生時代にパーティーを組んで攻略していたダンジョンを一人で攻略出来るようになる。
耳にタコが出来るほど言われ続けていたのが、
【最初のうちは先輩パーティーには参加するな!】だ。
何でも冒険歴が長くなると出来て当たり前とつい思ってしまうらしく、俺達新人にはハードになり最悪の場合死んでしまうらしい。
3、お金を稼ぐ
何をするにも金は必要だ。武器や防具もそうだが、卒業してからも実家にいるのは冒険者になれなかった人だけらしい。
変な風習だと思うけど、そういうものならそうするしかない。
まぁこんなもんだろう。
とりあえずはダンジョンに潜って、安全マージンを確保しながら戦っていれば、剣術も魔法も体になれるだろう。
座学が嫌いだったから、習うより慣れろ精神でダンジョンに潜ることにした。
⋯⋯
⋯⋯⋯⋯
学校で使っていたダンジョンは、在校生や元同級生でわちゃわちゃしていた。
そういえば去年の今頃も、わちゃわちゃしてたな。あの時は先輩方に憧れていた俺も、憧れる存在になるって言うのは悪くない。
「あっ、シュウさん。卒業おめでとうございます。冒険者になられたんですね!」
一個下の在校生が話しかけてきたが、名前はわからない。学生は上は覚えるけど下は全く覚えないものだ。上は話題になるけど、下は話題になら無いからな。
話し掛けても大丈夫なんだと周りが理解すると、話し掛けてきたパーティーの面々も近づいてくる。
「ありがと。冒険者って言っても駆け出しだしこれからだよ。やれることも、出来ることもこれからは自分で覚えなきゃならないから大変さ」
名前はわからないが後輩達は後輩だ。先輩風は吹かす。
「そーなんですね。シュウさんのジョブはなんだったんですか?」
目をキラキラさせながら質問してくる後輩達は可愛いものだ。一個しか違わないけど、冒険者ジョブは憧れの的なんだ。
「それが、ディッファレントっていうやつで、レアだからよくわからないんだよね」
俺は恥ずかしさもあり、頭をポリポリとかきながら答える。自分が授かったジョブがよくわからないって言うのは恥ずかしいことだ。
「⋯⋯ふ~ん。ドンマイっす! じゃみんな行こーぜ!」
⋯⋯
あぁ、そうだよな。後輩の立場からしたら、自分が何者かわからないけど冒険者ですって。ヤバい奴だと思われても仕方ない。
それでも俺のノートに四番目の項目を付け加えておこう。来年の【春風の息吹】には絶対に参加すると。
人生最大の恐怖を経験してないからそんな顔が出来たってことを教えてやる。
それからの俺は出来る限り後輩達には会わないように地下へ地下へと進んだ。覚えなくてもいい、後輩の顔を覚えるのは無駄だからな。
「でぃあー!」「しゃー!」「ファイヤー!」「ヒーリング!」「うりゃー!」⋯⋯
と、倒せそうなモンスターばかり倒していて、何となくわかったのは、剣と魔法発動時間が早まったことだ。
ジョブを授かっただけで五年分くらいの成長だぞ!
ディッファレントってのが結局は何なのかはよくわからないが、異なる二つ物ってニュアンスだろうし、魔法も剣術も成長してるなら、俺はどっちも成長するレアジョブだと思う。
なので、【魔法剣士】って事だな。実際、どっちも成長してるし、二つの物だし嘘は言っていない。
「あれ~シュウじゃん! 一週間ぶりだね。どう調子は?」
「⋯⋯あっ、よう。まぁまぁかな」
元クラスメイトのリリーに見つかり話しかけられる。俺はこの女がどうも苦手だ。すぐに蹴りをしてくるから苦手と言うよりかは嫌いに近いかもしれない。
「ふ~ん。そうっ! のわりには元気無いじゃん」
「友達二人が行方不明だし、授かったジョブもまだ良くわかってないしな」
「あ~⋯⋯確かに。でも、あの二人ならそのうちヒョッコリ会える気がするから大丈夫だって! 私も何か分かったら連絡するよ」
あれ、もしかしてコイツ卒業してから良い人になったのか?
「ありがとう。そーいえば、いつも一緒にいるドスコイはどうした? あいつたしか格闘、イデッ!!」
「あんたって卒業してもデリカシーが無いのね! レディーに対して言っちゃいけない言葉もあるのっ!」
やっぱり嫌いだ。今度リリーには辞書を送ろう。レディーの所に蛍光ペンを引いてから。