04 卒業式
春風の息吹も終わり、このままクラスで卒業式が行われる。あのまま卒業式を行ってしまえば、大変な思いをする事は間違いない。
校長先生達もやっかいごとは担任に任せて逃げたいんだろう。俺が校長先生の立場でもそうしただろうな。
そんなわけで各生徒は教室に向かうのだが、その足取りは様々である。
「さっそく武器を調達しなきゃ」
「卒業祝に新しい杖を買ってくれないかな~」
「これからも鍛練に励み己を強化していくぜ」
なんて、望んだジョブを授かった同級生の足取りは軽く将来が輝いている。
「大工ってがらじゃないんだけどな~」
「陸にいれるだけいいじゃねーかよ。俺、船酔いするのに漁師とかキツくね?」
「私は調理師になれたからラッキーよ。これでもう戦わなくてすむんだし」
冒険者系以外のジョブを授かったが現実を受け止められている同級生。
「まじで俺の鍛練の日々はなんだったんだよ」
「冒険者だけにはならないと思ってたから、授業いい加減に受けてたのに、これで最初から鍛え直したら何年かかるんだろ」
「私、ムキムキな体型とか本当ムリ!なんの為にダイエットしてきたと思ってるのよ」
勿論、現実を受け止められない同級生もいる。
まぁどう見てもダイエットしてきた体型では無いから、その意味でも現実を受け止められていないんだろう。ドスコイ⋯⋯
ちなみに俺達三人は誰も口を開ける事はなく終始無言で教室に向かっていた。
俺から何て声をかけたらいいかわかったもんじゃない。
「大丈夫!」「ドンマイ!」「良いことあるって!」
俺が逆の立場だったら、そんなことを言われたらどう思うか?
飼い慣らした小型犬を顔面にぶつけてしまうかもしれない。
友達だとしても、何も言わずそっとしてほしい時期だってあるはずだ。
「遅いぞお前たち! さっさと席につけよー。俺はこの空気からさっさと抜けてリフレッシュしたいんだからな」
俺達の担任のイギュラ先生は、武道家に憧れていたが教育のジョブを授かってしまった人だ。
教育なので人に教えるのは上手いのだが、やりたかったジョブでは無いので、若干性格が歪んでしまったそうだ。
噂では恋人を旅の武道家に取られてから、性格が歪んだって話しもあるけど、真相はわからない。
俺達全員が席に着くと、ダルそうな雰囲気のまま、イギュラ先生は喋り始めた。
「とりあえず机の上に置いてある筒の中に卒業証書が入ってる。名前が間違ってないか各自確認しとけよ。作法とかそういうのめんどくさいからな」
こんなんでもジョブを授かれば担任になれるのだから、凄い事だ。
「まぁ、それぞれが思うことはあるだろうが、授かっちまった事は覆せないんだ。これからどう生きていくかを考えて頑張れ!」
イギュラ先生ならではの励ましなんだろ。
「ただなぁ一番残念なのは優等生だったアディだよな。冒険の話しとか色々と聞きたかったのに⋯⋯まぁ、あれだ。今度猫のノミ取りの方法教えてくれよ。詳しくなるんだろ?」
⋯⋯おい。
アディがプルプル震えてるぞ。辞めろよ。
「おぉ! そうやってプルプルするとノミが取れるのか! お前たち見てみろ。アディはもう次の事を考えて行動してるぞ!」
「⋯⋯く、くそがー! ペット使いでも冒険者やってやるからなー!」
ガタッ!
「アディー!」
アディはそのまま走り去ってしまった。追いかけたい衝動にかられたが、追いかけて何て言えばいい?
冒険者系ジョブを授からなかったらもう成長は出来ない。攻撃力が上がる重い武器も持てない。拳の威力も上がらない。魔法だってこれ以上覚えられない。
小型犬と猫のパーティーでどうやってダンジョンを攻略出来るっていうんだ!
ワンワン、ニャンニャン言うだけじゃゴブリンにだって勝てやしないだ!
くそっ⋯⋯
「あぁ、まずったな。ん~⋯⋯そうだ! ミャリル。花を咲かせて慰めてきてくれよ。同じハズレレアジョブ同士気が合うだろ? それにゴブリンの頭にだって花が咲いてたら可愛いだろ?」
「植物で最強の冒険者になってやるよー!」
ガタッ!
「ミャリルー!」
この先生ダメだ。どんどん空気を悪くする事しかしない。
何て言葉をかけてあげれば良いかはわからないが、ここにいるよりは絶対に良いはずだ。
そう思い、二人を追いかけたが見つけることは出来ず、二人とは会話も出来ないまま別れを迎えてしまった。二人の家に行ってみたが二人とも家には帰ってきていないらしく、足取りもわからなくなってしまった。
卒業式がどうなったかは今となってはどうでもいい。いつかきっとまた会えると信じ俺は俺の道を進むことを決心した。