39 こうしてダンジョンは制覇が出来なくなった
「ねぇ? わかってるわよね?」
一度目を無視したから、また同じことを目が血走ったクレインが言ってくる。一度言われればわかるって言うのに。目を合わせるとお説教がスタートするだろうから、わざと目線を合わせないように左上をボケッと見続ける事にした。
まったく、なんで無視したかくらい考えてほしいものだ⋯⋯
「わかってるわよね!?」
「⋯⋯うるせっ」
一度ならず二度三度と、なぜ無視をしているか考えられないのか? ちょっと考えればわかるだろう? 心当たりが大いにあって、説教をされたくないって事を理解してほしい。
そんなわけで三度目の質問には、反抗をしてみた。
ゴツンっ!
⋯⋯ほほう、そうくるのか。
三度も無視をすると、ゲンコツが飛んでくるのか⋯⋯。ってか、今のゲンコツ見えなかったけど、クレインってこんなに早く動けるんだっけか? いや、怒りでリミッターが外れたってことだろうな。
あぁ、めっちゃ怒ってるの⋯⋯
「なんで? あれなの、学習って言葉を知らないの? 毎回毎回毎回毎回毎回毎回っ!! 目立つなって私は言っているの! 自分の立場っていうのを理解しないよっ!」
「立場を理解させる前に、今いる場所を理解した方がいいぞ。ここ、カウンター。ok? 騒ぐと目立つ。ok?」
ゴツンっ!
⋯⋯言葉は、暴力へと切り替わった。
もう言葉はいらない二人の関係って事かい?
「いってーな。暴力反対だよ。俺はさ、綺麗な女性が暴力を振るうっていう姿は嫌いだな」
「黙れ、そして全女性の冒険者に謝りなさい。そんなことよりほら、シュウの部屋に行くわよ。⋯⋯行 く わ よ!」
クレインは俺の返事も待たず足早に俺の部屋へと足を進めた。仕方ないで、俺はその後をトボトボとついて行くことにした。
当然の事ならがやはり説教は免れないらしい。
クレインの後ろ姿を見ながら、ふと昔を思い出した。
学校に通う前に母からの教育で、「女性に手を出すのは最低。女性を蔑ろにするのも最低。お父さんは絶対に! 私を構ってくれるから最高、ねぇ? お父さん!」と耳にタコが出来るほど入れて育った代償だろうな。このクレインから逃げられないのは。まぁ助かってる部分は多くあるので、逃げたところで困る事になるのは俺の方かもしれない⋯⋯
そういえば、母の前での父の姿は常に萎縮していて、お世辞にも勇者とはかけ離れた姿だった気がする。だから勇者って言葉にピンとこないんだろな⋯⋯
「ねぇボケッとしてるけど、聞いてるの? って、顔見れば分かるわね⋯⋯。はぁ~、とりあえず開けてくれる?」
そう言われ、意識をクレインに戻した時には既に俺の部屋の前だった。扉を開けると、クレインは備え付けの椅子に座わり、俺の顔から目の前の椅子に視線を移し、目で俺も座るように促してくる。
仕方ないので、ベッドに腰かける。
「チッ」と舌打ちが聞こえてくるが、俺なりの小さな反抗だ。父の小さな反抗を当時の俺は、呆れて見ていたが今ならその父の気持ちが良く分かる。
死んでから父の気持ちに気付くダメな俺をお許し下さい。
「今回の事ってさ、十階層を越えるような場所だったんだから、たいした事では無いだろ? クレインから散々言われたし、俺自身も重力魔法を食らっていた時と比較すれば、強くなっているのは実感しているよ。でもさ、ここのダンジョンじゃ俺は新顔だから、話しが大きくなってるだけだろ? それに話しを広げた奴は酒が入ってたって話しだし」
「おだまわりっ!」
ある適度は目立ってしまった事は認めるが、それほどの事ではないだろうと、先制攻撃を仕掛けた俺の言い訳をクレインはテーブルをドンっと叩きながら立ち上がり、いつもの仁王立ちのポーズで俺を見下ろしてきた。
「誤差はあるわよ。でもね、キメラ一体をギリギリで倒せるのが中級冒険者パーティー!
キメラを一体を普通に倒せるようになって初めて上級冒険パーティー!
なのによ。キメラ三体を、一人で、瞬殺出来る冒険者は、たいした事は無い。と、なるわけないでしょ!!」
調子にのって瞬殺しなきゃよかったな⋯⋯
「ここは、イエーサじゃないのよ。権力者に、そんな冒険者がいるってバレれば他の領土に取られないように、各関所にシュウに対しての通行禁止令が出て出れなくなるのよ」
「んなもん逃げれば良いだろ? 昔の俺ですらイエーサの城兵からだって逃げられてたんだからな」
ニコッと笑う俺の両肩を、クレインはガシッと掴みガシガシと揺らし、そのあとに俺の頭をがっちりとホールドまでしてきやがった。
「そんなことしたら国際問題よっ! イカれてるってレベルはじゃないわよ? ねぇこの頭の中には何が入っているのかしら?」
長々と説教をくらったわけだけど、クレインの話しをまとめると、領土にはそれぞれのルールがあり、その領土に入ればその領土に従わねばならないらしい。
強力な冒険者は、冒険者には憧れをもたれ、権力者には道具として利用できるよう権力を振りかざされるそうだ。
領土間のトラブルが起きても、強力な冒険者がいれば強気に出れるし、万が一戦争になった場合でも絶対的な駒として活用ができる。つまり、絶対にバレて良いことなんて何も無いとのことだ。
そんな事ならちゃんと教えておいてくれれば良かったのにと、ため息をついた俺は、本日三度目のゲンコツを食らった。
とりあえず、権力者にバレるまでに時間はかからず、そんな時間もかからずにアクションがある。というのがクレインの読みだ。
そんなわけで、少しでも早く移動するべきとの事で、このまま次の町へと向かうため宿屋の清算を済ませ次の領土へと足を早めた。
「なぁ、朝までゆっくり寝てからでも少し速く走ればよかったんじゃないのか?」
「シュウの少しは、少しじゃ無いわよ! いい加減、自分の力を理解しなさいよ。じゃなきゃイエーサに手紙でも出して重力魔法を再度かけさせるわよ!」
「それは勘弁だよ。また弱っちくなっちまう」
「それが嫌なら、ちゃんとしなさい!」
そんな訳で、せっかくちゃんとしたダンジョン攻略が出来ると思ったのに、また移動する羽目になってしまった。
今度こそはゆっくりとダンジョン攻略をするために、出来る限り自重しようと心に決め、真っ暗な道を松明片手にクレインと歩き続けた。
ここで、第三章は終わります。
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