37 誤解
昨晩はいつもより早めに寝たことで、早朝には目が覚めた。小鳥達の声が聞こえてきて、窓を開けてみれば、太陽の日差しが部屋へと差し込んで俄然やる気が出てくる。
まぁ、ダンジョンに潜ってしまえば天候なんて関係ないんだけど、あくまでも気持ちの問題だ。
「飯は途中で適当に何か買うか」
一度ダンジョンに潜れば、何も食わないのはざらだ。以前は、日保ちする干し肉を持って潜ったりもしたけど、邪魔な物を増やすくらいならば、多少の空腹があっても動きやすさの方が重要だ。味は不味いが、魔物だって火を通せば食える。
空腹で死ぬ訳じゃない。
途中、出店で串に刺さった焼き肉二本と握り飯を一つ買い、食いながらダンジョンの入り口へと向かって歩いていると、途中途中ですれ違う冒険者達に目を向けられているのに気がつく。
肉の匂いに興味を持ったか? と、最初は思っていたけど、食い終わってからも視線を感じるし、どうやら肉の匂いが原因では無いようだな。
「お前さんか? 少女を助けるために一人でキメラを三体も瞬殺したっていう冒険者は」
あぁ⋯⋯やっぱりそっちか⋯⋯
いや、多分そうではないだろうかと、薄々感じてはいたけど、実際に声をかけられれば嫌でも理解出来る。
冒険者の情報網を完全に舐めてたわ⋯⋯
「はぁ? そんな冒険者いるのかよ、実際にいるなら俺も是非会ってみたいな」
「あぁそうだよな。悪い人違いだったみたいだな。聞いた外見にそのままだったから、お前さんだと思っちまった」
なるほど。外見までしっかりと情報共有されているって訳か。ならば面倒ではあるけど、一度宿屋に戻って見た目を変えてくれば何の問題もないって事だな。
「もし、そんな冒険者に会えたなら、どこで会えたか教えてくれよ」
と、早々に冒険者から冒険者に別れをつげて宿屋に向かうが⋯⋯
あれ? もし着替えた事がクレインに見つかったら間違いなく、バレるんじゃないのか?
ん~⋯⋯
誤魔化しがききそうな冒険者達と、誤魔化しがきかなそうなクレイン⋯⋯ならばこのままダンジョンに潜っているほうが絶対にいいよね。ダンジョンに潜ってしまえばそんなに冒険者に目を止めたりはしないだろうし。ダンジョンに潜ってるのにわざわざ冒険者を観察するとか、そんな無駄な時間は使わないだろうし。
そんなわけで、一度は宿屋に向けて歩き始めていた俺は、くるっと回れ右してダンジョンへと再度、進む。もういちいち人目なんて気にしてるのはヤメだ。
その後もちょくちょくと声が聞こえたり、話しをかけられたりしたが適当にあしらってダンジョン前までやって来ると、見知った冒険者と出くわした。
「ここにいればすぐに会えると思っていました! この前は、助けて頂いてありがとうございます。それで⋯⋯」
「ちょっと待て! 走れるか? 走れるなら全力でついてきてっ!」
俺の前で頭を90度まで下げ、感謝されるが周りの目がギロっとこちらに集中している。絶対にバレている。ってか適当にあしらった冒険者もいやがるじゃねーか。何か睨んでね?
バレているならば逃げる。面倒事は嫌だ。とりあえず昨日助けた少女の腕を握るとダンジョンの中へと向かった。
えっと、この子の名前なんだっけ⋯⋯?
しばらくダンジョンを走り、奥まった人目のつかなそうな場所にたどり着いた。ここなら多少は見つかるまで時間は稼げるだろう。ん? 腕を放した少女は胸の前で手を重ねて、俺をじっと見てくる。なぜそんな怯えた目なんだろう。そんなに早く走ったわけでも、強く腕を握ったわけでも無いのにな⋯⋯
「⋯⋯ここで私を襲うんですか? そ、その。まだ経験無いんですよ私! 助けて貰ったのは感謝してますが、体で払えって言うんですか? 私、未経験なんですよ?」
うん、二回も言わなくてもわかるから。それを言ったら俺もそういう経験無いから、同じだし。むしろなぜそうなるのかがわからん。
「変態ですね」
えっ⋯⋯何で助けた俺は、軽蔑の目で見られているんだろう。これだから女って嫌いだ。




