36 逃走と言い訳
ダンジョンから外に出ると、夕方から夜へと変わりかけていた。幾つもの松明が焚かれていて、雰囲気は最高だ。イエーサのダンジョンと同じで、ダンジョンの入り口付近には今日の成果などを話している冒険者達もいて、このダンジョンが愛されているのがわかる。
まぁ、イエーサの時の俺は、夜中まで潜っていたからダンジョンから出て冒険者の姿を見るなんて殆ど無かったけど。
「ふぅ、日が沈みきっちまう前までには、出てこれたな。みんな、お疲れさん!」
ダンジョンの緊張感が取れた事で、ザッパ達は肩や腰に手を当てながらストレッチを始めている。俺の横にいるリタールは一瞬明るい表情にはなったけど、直ぐに視線を落とし深刻な顔になった。
「嬢ちゃん、そんな顔すんなって。ミスは誰にだってあるし、もう終わっちまったことだ。次の事を考えて前向きに行動するのが仲間の為でもあるだろ」
ザッパはリタールの頭をゴシゴシと撫で、ザッパ以外も「これから頑張れよ」と応援する。
「⋯⋯で、だ」
リタールの頭に手を置いたままザッパは、獲物を見つけた狼のような目で、俺をギロリと見つめる。
あっ、このタイミングで来るのね?
「あいたたっ~! お腹が痛い~! 今すぐトイレに行かなくちゃ漏れる~!」
勿論、嘘だ。
しかし、他に何も思い付かなかったから、仕方ない。学校じゃヤバくなったら逃げろとしか習ってないし、こういう時の対処方法を教えてくれなかった学校がいけないのだ。
「お、おいっ!」
ザッパ達がどれくらいの早さで走れるかは知らないが、ダンジョンの疲労はあるだろうし、見た目が筋肉達なので捕まるような事は無いはずだ。
走りながら、一瞬チラッと後ろを振り向いたが、呆気にとられたのか追ってくる様子は感じない。
俺はそのまま全速力で宿屋まで逃げた。
「あら、ダンジョンに行ったのに早かったわね」
宿屋に着き、自分の部屋へと向かう途中でクレインと会ってしまった。まだ何も知らないはずのクレインだし、ここは少しだけ会話して部屋へ行こう。
「あ、あぁ。初日だし、まだまだ日はあるからな。初日から無理をするのはバカがやることさ。俺は慎重なんだ」
「⋯⋯ふ~ん。慎重ね。ダンジョン好きのシュウがねぇ」
あれ? 疑われるの早くね?
「そ、それに力を抑えろって言ったのはクレインじゃないか。それさえなきゃ自由気ままに、戦って好きなように潜れたのにさ」
「まあ確かにそうね。シュウが全力で戦ったりしたら、周りが黙って無いだろうし。周りに溶け込むって事は重要な事よ。シュウの場合、ただ走るだけだっておかしな速度なんだから」
「⋯⋯」
走ったような気がするな。全速力で⋯⋯
「まさかとは思うけど、やらしてないわよね?」
クレインの目が疑いから怒りに変わったのがよくわかる。腕を組んだからいつもの怒りのポーズだし。
「えっ? まさか。まだ初日だぞ。なわけないだろ?」
「って言いながら、依頼受ける度にやらかしてるじゃない」
「依頼とダンジョンは全くの別物だぞ。依頼は金の為に仕方なくやってる言ってしまえば、仕事だ。でもダンジョンは違う。
ダンジョンって言うのは理想郷なんだぞ。何もしなくったって、幸せなんだ。目で見て、鼻で感じて、ダンジョンの声を耳で⋯⋯」
「あ~! もういいわ。ダンジョン愛を語られても疲れるだけよ。私は一日動き回って体が疲れてるのに、耳まで疲れたくは無いわ。じゃあ明日からも気を付けてね、おやすみ」
クレインは手をヒラヒラとさせながら、下の階へと向かうために階段を降りていった。何かよくわからないが、助かった⋯⋯
ここのダンジョンはでかいし、ザッパ達に会うことはもう無いかも知れない。会ったとしても逃げれば済む事だしな。
俺はお気楽に考えて、さっさと飯を食って寝ることにした。また明日からのダンジョン生活が始まる訳だし、体調は万全に整えておきたいからな。
冒険者達の情報共有速度がこんなにも早いのかと、驚かされたのは次の日になってからだった。




