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03 【閉幕】春風の息吹

 何分たったんだろう⋯⋯


 アディが隣に座ってからは、声もかけられず二人して方針状態になっていた。ただただ昔の記憶が蘇り、あの頃の幸せに浸っていた。


「シュウ、やったぜ! 剣術の初級全て受かったぜ!」


「模擬戦楽しみだな!」


「シュウ、俺より回復魔法得意だろ? コツ教えてくれよ」


 ⋯⋯

 ⋯⋯⋯⋯


 周りの歓喜の声や悲哀は耳には届いていたが、頭には入ってこなかった。

「今の料理長は笑顔なんだ。あの人より下って事はまず無いだろう?」


 はははっ。あの人以下じゃねーか。馬鹿野郎⋯⋯


「シュウ! いないのかシュウ!」


 ⋯⋯


「はっ、はい!」


 自分が呼ばれたことにやっと気がつき、重い足取りで、教壇へと向かう。その途中で、一度アディの方を向くと、無理した笑顔で親指を立てててくれた。


 サンキュー!


 ⋯⋯もうなんだっていいじゃないか。どんなジョブが授けられようが、アディと楽しく過ごそう。

 可愛そうだからミャリルも誘って小さな雑貨屋でも良いかもしれない。

 ジョブが無くったって手先は器用な方だ。この先の事はポジティブに考えよう。


 そんなことを考えながら教壇まで来ると、片膝をつき祈りのポーズをしながら一言呟く。


「私にジョブを」


 自分の体が光輝き、まるでお風呂の浸かったように全身が暖かく感じる。

 その暖かさも次第に収まり、光が消える頃に頭の中で囁かれた。


『貴方はディッファレント』


 ⋯⋯はいっ?


 なんだよディッファレントって。聞いたこと無いレアジョブだぞ。ペット使いってジョブも聞いたことが無いけど、そんなにポンポンとレアは出ないだろ。


 とりあえずここにいても始まらない。

 自分の席へ戻ろう。


 自分の席へと戻るとアディと目があった。


「ど、どうだった?」


「あ、あぁ。ディッファレントだった」


 ⋯⋯

 ⋯⋯⋯⋯


「はぁ? やったじゃねーか! すげーよ!! レアでもアタリ引き当てたじゃねーか? 良くわからないけど」


 俺の手をガシッと掴みながら、今まで死んでいた顔が嘘のようにアディが笑顔で祝福してくれた。良くわかってないくせに。


 しかもペット使いなのに。


「で、でも、アディが⋯⋯」


「俺の事なんかどうだっていいんだよ! 一日でも早く平和な世界頼むぜ、ディッファレントさんよ!」


 そう言いながら、肩を軽く叩いてくるアディが嬉しかった。


「あぁ任せてくれよ、ペット使いさん!」


 そう言うと頬を殴られた。


 俺はこの理不尽な痛みを一生忘れないと思う⋯⋯


「ミャリル!」


「はーいっ!」


 最後の生徒となったミャリルが呼ばれた。


 一年に一個でもレアジョブは珍しい。それが今年は既に二個だ。そんな珍しい事はそうそう起きやしない。それをミャリルも分かっているんだろう。だからだろう、軽い足取りで祭壇へ向かっていく。


「私にジョブを」


 ミャリルが光輝くとアディが呟く。


「なぁ⋯⋯二度あることは三度あるって言わないか?」


「おいおい。流石に無いだろ。そんなにポンポン出たらレアじゃないだろ」


 そう言いながら、ふと思い出す。アディの予想は結構な確率で当たる過去があると。

 それも嫌な事は大抵当たる⋯⋯


「ここ三年はレアジョブが出てないんだぜ。一年に一個と考えたら⋯⋯」


「ギャー」


 その叫びに二人して教壇の方へと目を向けた。


「シュウ、アディ。⋯⋯花屋さんって何? なんで最後の最後でレアジョブ」


 こうして俺達の【春風の息吹】は終わりを迎えた。


 そしてこの後の、担任の何気無い言葉によってアディとミャリルは姿を消した⋯⋯

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