17 その名はクレイン
「えっ?」
「よくわかりました。お断りします」
確実にヤバい人だ。ダンジョンに毎日潜ってる俺に対して言う言葉じゃないっていうのは、この際おいておこう。
だとしてもだ! 石を投げてきた男に一緒に行こうとなんの脈略も言ってくるのがおかしい。
それに大きさもけしからん! 何がとは言わないが⋯⋯。
これ以上ここでこの人と関わり続けても良いことは無いだろう。俺はバックからほんのちょっとだけ平均額より少ない賠償金を地面に置いた。
ヤバい人に絡まれたんだ。少しくらいちょろまかしたって、誰も文句は言わないだろう。
「では⋯⋯ぐえっ!」
立ち去ろうとした俺の首根っこを思いっきり引っ張られた。石を投げた俺が思うのもどうかと思うけど、この人も大概だぞ⋯⋯
「良い? よく聞いて!
このご時世に貴方みたいな若い男性が一人で旅をしている姿は、端から見たら怪しいでしょ? それに私は僧侶のジョブを授かっているの。何かあったときに回復役がいた方が絶対に良いわよね? まぁもし、貴方がそれでも断ると言うのならば、『ダンジョンに潜りすぎて頭が可笑しくなったみたいで、道端で襲われた』って言いふらすわよ」
「うっ⋯⋯」
何がこのご時世なのかはよくわからないが、回復役がいたほうが確かに助かる。ただ、僧侶と言うのならばなぜ腰に剣を刺しているかは謎だが⋯⋯。
そんなことよりも言いふらされるのはマズい! 町の人達は俺の事をおかしな奴だと思っている事から考えれば、納得される可能性が高い。それに子供の頃から悪ふざけばっかりしてきた俺を、あのおっさん達は信じるとは思えない⋯⋯。
「はぁ~仕方ない。足手まといだけにはならないで下さいよ。それと敬語は面倒くさいので敬語を使わなくて良いと言うなら、一緒に行きますよ」
腰に手を当てて、うつ向きながらそう答えた。
「そんなの全然良いわよ。それじゃ決まりね! さぁ元気よく出発しましょう! あ、そうそう私はクレインよ。宜しくね」
前屈みになり、顔の前で人差し指を立てながら挨拶をしてくるその姿、ハッキリ言ってけしかんのですよ。
まぁ言わないけど⋯⋯。
「じゃあ、とりあえず出発するよ」
そう言って、俺は地面に置いたお金を拾い上げて歩き始めた。
「⋯⋯よし、任務完了」
「えっ? なんか言った?」
「んっ? な~んにも言ってないわよ。さぁほら急ぎましょ。野宿する物なんてなんにも持ってないんだから」
そう言いながら、両手で俺の肩を後ろから押しながら歩く。
*
しばらく横に並んで歩いていて、ちょっとばかし気になることが出来た。なんでクレインは俺と同じくらいの荷物を持ってるんだろう? ってか何が入ってるんだろ?
「そう言えば、荷物を取りに帰ったりしなくていいの? そのバックに何が入ってるかは知らないけど、旅に出るってなったら、それに合わせた必要なものをまとめる必要あるでしょ?」
「あぁそれは大丈夫! 必要なものは常に持って行動してるし、大切な物はおう⋯⋯ゴホンゴホンっ。家にちゃんと保管してるからね!」
「えぇ? 常に持って行動するとか邪魔じゃん」
「そ、それは⋯⋯そう! ダンジョンに潜ってるから分からないのよ。ダンジョン外で活動してる冒険者って言うのは、何時なんどき急に遠方への依頼があるかわからないから、必要最低限の物は持ち歩いているのものなのよ!」
「なるほど。確かに一度家に帰るって言うのは面倒だな」
毎日、ダンジョンと家の往復しかしてこなかった俺には初耳の事で、普通というか常識と言うものが抜けてしまっているんだろうな。それであれば、クレインが同行してくれて助かったと言うことか。この旅をしながら常識と言うものを学べる良い機会じゃないか。
俺はクレインと色々な話しをしながら、常識を学べる幸せな気持ちで次の町を目指し歩き続ける。
(ふぅ⋯⋯ボロを出さずに頑張らないと、じゃないと⋯⋯)
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