16 女性との出会い
とりあえず走った。必死に走った。人生で一番であろうほど焦りながら走った。人命とは一分一秒が重要なんだ。
茂みをかき分け、倒れている女性を抱き抱えた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「ん⋯⋯、ん~」
生きていた!向こうも助かったが、俺も助かった。ありがとう!
「どうしました? 石ですか? 石がぶつかったんですか? 頭から血が流れてるじゃないですか。すぐに治療しますね。キュア!」
早急に回復魔法を唱え、こうなった原因を確かめる必要がある。可能性はゼロじゃない。もしかしたら他の理由で倒れているかもしれない。石じゃなければ俺のせいではないのでただの人命救助だ。誉められる事をしている。
⋯⋯まぁ多分。いや原因は石だろうけど。
「ヒッ⋯⋯ヒー」
「大丈夫っ! 落ち着いて、落ち着いて」
「なっ、何者ですかっ!?」
回復魔法をかけてあげた俺を突飛ばし、両手で剣を構え鋭い眼光で俺を睨み付けている。
「とりあえず落ち着きましょう! 俺はそこの町に住んでるシュウと言います。今年の春、学校を卒業して冒険者になりました。だから怪しい者でもなんでもありませんよ」
「本当に?」
「ほっ本当ですよ。毎日ダンジョンに潜ってる筋トレ好きなシュウと言えば町の人ならすぐわかると思います」
やだ。自分で言ってて悲しくなってくる⋯⋯。
「あっあ~! 確かに! 毎日笑顔でダンジョンに潜りに行ってる人だ!」
なにその気持ち悪い人。本当に俺? あぁ俺か。
「多分そうです⋯⋯。なので剣を納めてもらっていいですか? ちゃんと話しましょ?」
このままでは10-0で俺が悪い。旅立つ初日に損害賠償なんてされたら、決意の朝が延びてしまう。俺にはそんなに持ち合せがないんだ。また金を貯めるまでダンジョンに潜ることになる。
言いがかりレベルでもいいから、理由を探して少しでも賠償金を減らしたい。
「あっ、すみません。急に身構えてしまって。てっきり魔物か化け物かと思い、茂みに隠れて様子を見ていたら急に石を投げられ剣で弾いたのですが、勢いを殺しきれず頭にぶつかってしまったようです」
「化け物っ? 俺が? な、なんでですかっ?」
「えっ? だって一人で大きな声で叫びながら普通では考えられないほどの力で、走ったりジャンプしたりしていたらそう思いますよ。私も冒険者ですがあんな力を見たことありません。それに大きな声で叫んでいましたし」
大きな声でってやめてくれないかな。馬鹿みたいじゃん。
「なるほど、なるほど。それは災難でしたね。ただ隠れて見られていたら、俺としてもモンスターか何かだと勘違いして攻撃してしまっても仕方のないことですよね? こんな何も無い所で一人ですから、身の危険を感じ先制攻撃が必要であったことはわかってもらえるかと」
「はっ?」
「えっ?」
剣を納めた女性は、拳を作りプルプルさせながらまた俺を睨み付けながら、ズカズカと近づいてきた。
「貴方馬鹿じゃない? 距離を考えなさい、距離を!
いい? 50m以上も離れた茂みが動いただけであの威力の石を投げる必要性がどこにあるのっ? 無いわよね?
それに身の危険? あんだけの力で飛んだりジャンプしたり出来る人が身の危険を感じるわけ無いでしょ!」
「おっしゃる通りです。ハイ⋯⋯」
逃げられない。すでに敬語でも無くなってるし、間違いなく賠償金だ。生きていてくれたのは良かったけど、またダンジョン生活で変な目で見られるのか。
「で、貴方はこんなところで何をしていたんですか?」
「あぁそれは⋯⋯」
俺は今までの事を全て話した。こうなってしまっては誠意を見せるほか無い。それで少しでも理解してもらえれば賠償金は減る。
逆に嘘なんか付いて後からバレるような事があれば、さらに支払い額が増える。
「ふ~ん。なるほどね。わかったわ。なら、一緒に行きましょう!」
「んっ? どこにですか?」
何か満足したような表情を浮かべている。普通はお互いが話し合い、罪を認めればそこでお金を支払いそれで終わりだ。折り合いが付かないときだけギルドや王城に行くものだ。
「決まってるじゃない! 両親の謎を調べによ!」
何を言ってるんだろうこの人は? 一緒にいく理由なんてどこにも無いじゃないか。なぜそれを決まってると言えるんだろう。バカなのかな?
「私はね暇なの。せっかく冒険者になったのにこの二年間はダンジョンに潜るだけの日々。依頼だってそうそうある訳じゃないし、いつもあるのはちょっと危険な場所の薬草の採取。商人の護衛を希望しても女だからって断られちゃうし。だからね、行くの! この世界を知るために!」
「そうなんですね! お断りします」