13 事実
学生時代と変わらず自身の強化を行う日々の生活。朝起きてダンジョンに潜り、夕方くらいにはダンジョンから出る。そのため太陽の光を浴びる時間が学生時代と比較すると圧倒的に減っている。
これ不健康だよな⋯⋯太陽の光を浴びながらやれるなにか趣味があればいいんだろうか。
素振りか? 筋トレか? 持久走か?
いや、それは趣味じゃなくて鍛練だな。
そんな事を思ったので、今日はダンジョンには潜らず町をプラプラしながら何かないかと散歩をしている。武器も持たず軽装に身を包みこうして歩いているのは何時ぶりだろう。
「あれ、シュウじゃねーか。久しぶりだな」
「あぁ毎日ダンジョンに潜ってばかりは不健康だと思って今日は趣味探しだよ」
黒いゴブリン以来のコロルと会ったのはたまたまだったが、ここでコロルと会ったのが運命の別れ道だったんだなと後になって思った。
「はぁ? お前毎日ダンジョンにいたのかよ。そりゃ見かけねーわけだ」
「えっ?」
「はぁ?」
目を合わせたまま、お互い何を言ってるのかサッパリわからない状況だ。
「いやいや、冒険者職に就いたら毎日潜るのは常識だろ?」
「どこの常識だよそれ? みんな定期的に休息は取ってるぞ」
「⋯⋯嘘だろ」
子供の頃から予定の無い日は、ダンジョンに潜るものだと思っていた俺には驚きだ。なんだその休息って言うのは?
「まぁ、お前はおかしさの塊だから今さらか?」
「いやいやいや、おかしい事なんかしてなかったろ?」
やれやれと言わんばかりに苦笑しながら小馬鹿にしてくるコロルを、ぶん殴りたい気持ちを押し殺して質問してみる。
「んなことないぞ、周りから言われたこと無かったのか?」
「ん⋯⋯」
学生時代を思い出しても、一度だっておかしいとは言われたことは無い。言われた記憶は無いが、苦笑いされていた記憶なら何となくだが思い出した⋯⋯
「言われた事は無いが、何故か苦笑いされた事はあったような気がするな」
「あぁ、みんなは気を使って言いはしなかったのか⋯⋯」
「な、なぁ。ちなみにどんなところがおかしかったんだ?」
「んっ? そうだな。登下校は必ず全力ダッシュだっし、毎日一番に学校に登校して筋トレしてたし、休みの日はアディと必ずダンジョンに潜ってたし。どんだけだよって話しだったな」
そう言いながらコロルは笑っているが、全く笑えない⋯⋯
周りは親の目が無いからサボっているとばかり思っていた。アディに関しては優秀すぎたから俺が追い付くまでサボっているとばかり思っていたし。
「あ、そうそうついでに一個、気になった事があるんだけど聞いていいか?」
「あ、あぁ⋯⋯何でも聞いてくれ」
楽しそうに聞いてくるコロルをぶん殴りたい気持ちはまだ収まっちゃいないが、おかしいのを気づかせてくれたんだ。感謝はしないとな。
「学生の時は左だったのに、この前助けてくれたときは右手で武器持ってたろ?」
何をいってるんだコイツは? やっぱり殴った方がいいのか?
普段は逆手で訓練するのなんて当たり前だろ⋯⋯
「おいおい⋯⋯利き手が負傷したらどうするんだ? 万が一の為にも普段から逆手を鍛えるだろう?」
「⋯⋯マジかよお前? 逆手でそんなことしてる奴どこにいんだ?」
⋯⋯
⋯⋯⋯⋯
「まさかとは思うけど、みんな利き手のみを鍛えてるのか?」
「当たり前だろ」
なるほど。そう言われれば確かにかもしれない。あんだけ鍛練していたにも関わらず周りと比較すると俺は弱かった⋯⋯
「悪い、ちょっと行く場所がある」
「ちょっ、シュウ!」
会話を勝手に切り上げたのは悪いだろうが、おれは真実を知るために行かなければならない。
そう、真実を知るであろう人達のもとへ