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第八話 店長のお呼び出し

朝、いつもの憂鬱タイムがやってきた。月曜日の朝は憂鬱だと言われているが、俺は毎日憂鬱な状態に陥っている。ただ、今日はそんな憂鬱な気分を吹っ飛ばしてくれる人がいる。そんな人を待つために、あの公園へやってきた。しかし、もう既にその人は来ていたようだ。




「あ、咲斗くん、おはようございます」


「おはよう。じゃあ早速出発しようか」




 そう、三月と俺は今日から一緒に登校することになった(三月は通勤だけど)。俺はこの一生、こんな体験ができるなんて考えもしなかった。本当に幸せだ。




「咲斗くん、私、本当に接客業出来るのでしょうか......」




 三月は自信なさげに、弱音を吐いた。こんな時こそ、俺が勇気を与えなくちゃ。




「大丈夫、三月は俺よりも話せる能力を持っているじゃないか。それに、うまくいかなくたって、店長が何とかしてくれるって!」



「本当ですか? なら、咲斗くんの言葉を信じますよ。あ、そういえば......」




 三月は鞄の中から、何かを探し始めた。一体何をするつもりなんだ?



「あ、ありました。これ、大根おろしです。大家さんが昨日手違いで、大量にすりおろしてしまったようで、私にくれたんです。それでも余ってしまったので、咲斗くんに少しおすそ分けしようと思い、持って来たんです。お昼休みの時間帯に食べてください」




 少しとは言っているが、俺の目に入るのは大きめのタッパーなんだが......。




「これ、すりおろし大根です。昨日花宮さんが大量にすりおろしてしまったので、私に分けてくれたんです。でも、私一人じゃこの量は食べられないので、咲斗くんにおすそ分け、ということなんです。どうか受け取ってください」


「あ、ありがとう......」




 だ、大根おろしかぁ......。しかも花宮さん、手違いじゃなくてなんかストレスとか感じて、絶対わざと擦っただろ? 意識してあんな量擦らないよ! と、とにかくどうしよう、確か大根おろしって日持ち悪いよね? しかも今日の昼飯サンドイッチだし......何とかサンドイッチの間に挟んで食べるか......。どんな味するんだろう?」




「あ、もう学校ですね。それでは、学校頑張ってきてください」

「ありがとう。三月も頑張ってね」




 三月は手を振り、ショットへと向かって行った。はぁ......こんな幸せな登校は初めてだ。大体、小学校の頃は集団登校だったし、中学校の頃はちょっと遠い場所にあったから自転車で行ってたし、高校生になって初めて一人で歩いて登校できるようになったのだ。高校生最高!




「ねぇ......咲斗くんさっき女の子と登校してなかった?」


「そうそう! まぢどうしたんだろ?むしろあたし達が幻覚見てたんじゃね?」


「「ハハハハハ!」」




 俺の後ろでは、陰口を言っているク〇JKが俺を事を話題にして楽しんでいた。なーんでこういうJKはわざわざ聞こえるように大声で話すんだ? そうしなきゃ気が済まないんすか? それで、なんでそういう奴に限ってモテたり彼氏できたりするんですか? 三月みたいな奴しかいない世界の方が絶対いいと思うんですけどなあみんなそう思うだろ?



......まあこんな事今に知ったことじゃないし、そんなことよりも学校送れちゃうぅ! 急がなきゃ! (急にアニメの女子高生みたいな風になるのやめろ)


                              *


 今日の時間割は、1時間目から4時間目にかけて終業式だった。ずっと体育座りしていたからケツが凄く痛い。というか今日から一緒に三月と登校するとか言ってたけど、明日から春休みだってことを完全に忘れてた。


 ってことは、次に一緒に登校するのは春休み明けってことになるのか。うわぁ......前までは春休み待ち遠しい! って思ってたけど、今は春休み終われ、っていう感情の方が強い。始まってもないのになんてことを考えるんだ俺は。




「咲斗ー、弁当食おうぜ! ......なんか今日はすっごくご機嫌さんやなぁ。どしたん?」


「え、そう? いたって普通だと思うけどな?」


「嘘だ、俺にはわかるで。うつ伏せしている高さがいつもよりも3センチ高かったんや」


「何その判断基準。うつ伏せが3センチ高いとか、多分この世で竜騎くらいしか見分けつけられないよ......まあ確かにご機嫌かもね」


「じゃあそのご機嫌の起源はなんや、ソシャゲガチャでUR当たったんか?」


「俺はリアルガチャでUR......いや、UUURを引き当ててしまったようなんだ」


「......なんやそれ。言いづらいし、んな言葉ねぇし、そもそもリアルガチャって何や?まぁこれ以上は追求せぇへんわ......」




 竜騎は呆れた顔をしながら弁当袋を広げた。わかっている。竜騎は本当にわかっている。これ以上俺に追求したって何も解決しないことを。そもそも記憶喪失した子と隣町に行って服買ってショット行って採用試験して受かってさらには登校までして......なんて話したとても「何の新作ギャルゲや?」と言われておしまいだ。言わない方が絶対いい。




「お、咲斗今日サンドイッチやん。あと......なんですりおろし大根?」


「いやぁ、近所の人に大量に余ったから貰っちゃってさ、竜騎も食べてよ。ほら、今日焼き鮭じゃん」


「あ、ありがとな......咲斗はサンドイッチに挟んで食べるんか?」


「まぁ、そうでもしなきゃ消費できないし......はいできた!すりおろし大根ハムサンド!」




 俺が作ったサンドは、人気がない動画配信者がやる(オリジナルサンドイッチを作ってみた!)みたいな完成度だった。まあ、正直俺も何でこんな発想にたどり着いたのかわからない。




「咲斗、嫌そうな顔しないでや、折角作ったんだから食ってみや」


「う、うん......あれ、意外といけるな」


「ほ、ホンマか? 俺にも一ちぎりくれ......ヴッ......辛゛い゛......」




 竜騎は一ちぎりを口に入れると何故か竜騎は口を抑えながら下を向いた。お口に合わなかったのかな?




「さ、咲斗......これ、ホンマに美味いと思うんか......?だとしたら相当な味音痴やで......」


「嘘だぁ。竜騎の口がお子様なんじゃないの?」


「あ、煽りやがって......やっぱそのまま食べんのが一番やわ......」




 竜騎はおとなしく、鮭に大根おろしをつけて食べ始めた。俺の口がおかしいんかなぁ?炒り卵スパゲッティとか美味しいのに、なんかみんな引くんだよね......なんでだろう?

 





「はぁい! 今日のHRはここまでぇ! みんな、精一杯春休み、楽しんでねー!」



 木実先生は今日最終日だけど、いつもと同じようなテンションで俺らに話してくれた。本当にこの春でここを出て行ってしまうのか......未だに信じられない。離任式の日、何か持っていこう。


「咲斗ー。部室途中までいっしょに行こか。......なんや、そんな落ち込んでどうしたんや?木実先生の事か?」


「まぁ、そうだね......え、竜騎も知ってるの?」


「当たり前やろ。一応うちの部活の副顧問やで。大分前からそんな話を聞いてたわ」




 俺だけに伝えたんじゃなかったのか......まあでも、竜騎の部活の人らと俺にしか伝わってないから、それはそれでいいかな......。



「な、なあ咲斗、そこの自販機で飲み物買ってくれへん?さっきの大根おろしサンドイッチで口の中が辛くて辛くて仕方ないんや。水筒の中身があっという間に空になってしもうて......」


「......そんなに辛かった?」




 俺的には結構美味だったけど、竜騎には激マズだったみたいだね。まあ、水くらいなら買ってやってもいいかな。




「今度何らかの形でお返ししろよ。100円入れてボタン押してっと......ほら、受け取りなさい」


「神よ!有難くいただくで!......ぷっはぁ!王道な水は最高やなぁ!」


「幸福感に浸っているとこ悪いけど、なんかあっちで集合かかっている声が聞こえたよ?」


「嘘ぉ!?じ、じゃあこれでな!水ありがたく飲ませてもらうで!やべぇ、急がな......」




 竜騎は足がぐるぐる状態になるような勢いで、練習場所へと向かった行った。さてと、俺もいつもの場所に行くとするか......。


                   


          *


 今日の放課後も俺はショットへと向かう。いつも「学校という監獄から解放されたぁぁ!ようやく自由だぁぁ!」という気持ちも含めてショットに行っているが、今日は「三月は大丈夫かなぁ......?」という気持ちの方が強い。何なのだろうね、この親みたいな気持ち。



「いらっしゃいませ......あ、咲斗くん、学校お疲れ様でした」


「ありがと、三月はなんか問題とかあったか?」


「はい、今の所特に問題はないですが......Dark shooterをやりに来た、バンダナ巻いて、謎のポスターをリュックに指して、チェックの服を着た人がいましたね。なんか拙者とか不慣れな言葉を使っていました」


「そ、そうなんだ......」




 え、まだそういう人っているんだ......。ていうかそんな細かい事まで覚えてるなんて、相当印象に残ったんだろうな......。まあ三月は無事に働けているようだ。


 そういえば、昨日の帰り道三月に聞いた話だが、シフトは開店から友梨が学校から帰ってくるまでになっているらしい。店長は一応事情を知っているらしくて、休みたい日があればいつでも臨時の人を呼べるらしい。




「あ、そうでした! 昨日服の整頓していて、あの白衣のポケットを漁ってたらとあるメモがまた見つかったんですよ! えっと......これです!見てください!」




 三月が差し出した、クシャクシャになったメモのしわを伸ばして見ると、謎のQRコードらしきものが記されていてあった。




「これは大発見ですよ! 何かしらのなんじゃないでしょうか!? さあ、早くポケットの中にあるスマホでその謎の物をかざしてください! さあ!」


「待って待って、一旦落ち着いて! 焦っても解明できないよ!」


「......つ、つい興奮して自分を見失ってしまいました。ごめんなさい......」


「大丈夫。新たな事だったからついテンパっちゃったんだよね。ほら、読み込むよ、見て見て」



俺がQRコードをスマホにかざし読み込むと、何故だか地図アプリが起動した。ピンが指されている場所には、とある山奥の中にある一件の小屋らしき物が映し出された。




「──? どこですかねココ?」


「恐らく三月の記憶があった頃に使っていた場所じゃないのかな?マップの下を見る限り、春平町っていう場所にあるみたいなんだけど......」


「な、なら今からでもいいから行きましょう!あっほら、ちょうど友梨さんも帰ってきた見たいですし!」


「無茶言うなぁ。春平町はな、ここから40キロ先にあるみたいだよ? 今から行ったら確実に夜になるし、山の夜道はとても危ない。山小屋にたどり着きたくてもたどり着けないと思うよ......」


「う......じ、じゃあ明日行きましょう!明日は土曜日ですし、咲斗くんだって春休み突入したんですよね!? なら明日休みをとります!」


「......普通バイト二日目で休む子なんてあまりいないけど、事情を知っているんならいいんじゃない?まあ、明日行こっか」


「やった!うれしいです!」




 貴重な休日ではあるが、三月のため、更にはファントムRの情報が手に入れられるかもしれないから、そんなのお安い御用だ。行くに決まっている。



「三月ちゃん、もうあがっていいよ、お疲れ様。バイト初日はどうだった?」


「はい。とても色々な体験ができて楽しかったです」


「ハハ、よかった!そうだ、さっき聞こえたんだけど、三月ちゃん達、明日春平町にいくんだって? 気を付けなよ、最近物騒な事件起きてるからね。あ、そうそう咲斗、お父さんがあんたに用があるって。カウンターの奥にいるから入っていいよ」


「俺に? なんだろ?」




えっ、俺なんかしたっけ? 出禁のお知らせとかやめてよ?




                   *



「ど、どうしたんですか?店長」



カウンターの奥の事務室に向かった俺は、恐る恐る店長の方に行った。



「よう咲斗、ちょっと用があってだな。例のコントローラーなんだが、フリマアプリで部品を探したんだが、なかなか見つかんなくてな」


「まあ、コントローラーの線を売っている所なんて滅多にないでしょうね......なんでよりによってあんな部分を破壊したんですか?」


「うるせぇ、しょうがないだろ。でだな、そのコントローラーを引き取って欲しいんだ。多分お前が一番このゲームやってたからな。処分するより愛着のある奴に渡したいと思ったんだ」


「なるほど、じゃあ遠慮なく貰いますね」



 俺は店長から銃型のコントローラーを受け取った。改めて形を見てみると、銃口の真下に赤色のレーザーがついていて、ヨークという部分に[タッガーテイメント]とロゴマークが書いてあったりなど、色々と丁寧に作られていたようだ。身近な物ほど、気づきずらい事ってあるんだね。




「ありがとよ。くれぐれも使えないからってフリマアプリに出品すんじゃねぇぞ」


「しませんよ! ......にしても懐かしいなぁ。当時の思い出が蘇ってくるな。最後にやったのが......中二くらいの時でしたっけ?」


「そうだな。あの頃は竜騎と一緒に楽しそうにやってやがってなあ。結構古いゲームだったから、お前らしか遊んでくれなかったんだよな......いやぁ懐かしいな」




そう思い出に浸っていると、外から、


「すみませーん! エラーになっちゃったんですけどー!」


となーんか聞き覚えのある女の声が聞こえた。




「はーい、今行きまーす。んじゃ、用は以上だ。ありがとよ」




といって、この部屋を出ていった。てか、本当に俺なんかが受け取ってよかったのだろうか......さっき三月が言っていた人とかにあげたら喜んだんじゃ......。





「すみません、ありがとうございまーす!ってあー!三月ちゃん!それに柳水くんも!」


「な、ななな七咲さん!? どどどどうして!? 」




七咲さんってこういう所に来るの!? しかも一人で!?




「またそれー? 私は七咲だってば!ちょっと今日は用事がなかったから、暇つぶしに遊びにきたんだ!柳水くんは?」


「いや、その、えと、三月に、会い......。」


「えー! 何それつきあってんのー?」


「いや違う違う!な、何か手がかりがあったか聞きに会いにきたんだ!」




本当に七咲さんは神出鬼没だな本当!ていうか本当に暇つぶしできたの!? この前だっていきなり喫茶店に現れたし、またこうやって会うし、ついてきてるんじゃないの!?




「そうだ、七咲さん、春平町って知ってますか? 明日そこに咲斗くんと一緒に行く予定で」


「春平町? 知ってるよ。ていうか柳水くんと二人きりで!? やっぱデート!?」


「ちちちちがいます! 情報採取ですっ! ていうか春平町の事を知ってるんですか? 良かったら一緒に案内してくれませんか? あまりよくわからなくて......それにデート疑惑だって晴れますし」




えっ七咲さんも一緒に?待て待て三月が会話できても俺が会話出来るか心配だぞ? しかもよく知らないわかんない子に!




「そうだね、私もちょっとその日春平町に用事があるからいいよ!」




よくないよ! なんでだよ! ......でも決まった事は仕方ないよね。トホホ......。




「じゃあ明日9時に卯月駅でいいですか」


「オーケー!」


「......わかった」





はぁ......明日大丈夫かな、俺?


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