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第七話 三月のお勤め先決め

 あれから急いでバス停まで走ったのだが、バスはもうすでに到着していた。時計はちょうど17時を指していて、出発時間ギリギリの時間だった。急いで駆け込み乗車してしまったったが、運転手は笑顔で「あぶなかったねぇ」と許してくれた。

 


「ふぅ......危なかったね。んじゃあ、バイト先を調べよっか」


「そ、そうですね」



 俺はスマホを取り出し、バイ〇ルのアプリを起動した。あ、企業案件ではございません。



「ほら、ここに条件を入れて......あっ、結構あるね! あんな田舎町の癖に!」


「咲斗くん、それをいっちゃ駄目ですよ......あ、このパン屋とかはどうでしょう?」


「うーん。パン屋は仕込みをするから大変だよ?本格的に働くのなら朝3時起きしなきゃ......育ち盛りの子がそんな早く起きたら生活バランス崩れるよ?」


「そ、そうですね......じ、じゃあこの日給一万のはどうでしょうか?」


「絶対ダメ。確実に怪しいよ。女の子が一人でそんなところいっちゃいけません!」


「わ、わかりました......」




 ここでまたみんなは疑問を投げるだろう、なんでお前はそういうのに詳しいんだ、と。理由はね、俺がまだ中学生の頃、すっごくアルバイトがしたくてね、高校生になったらすぐにでもいいからどこかにバイト出来たらいいなって思ってたんだ。


 でも、いざ高校生になった途端、なんだか色々と忙しくなったり、別に働く必要ない状況になったから、俺はアルバイトとは一時期無縁だったのだ。まあ、その働く必要がなくなった理由は、また今度時間をかけて話すから......。




「......咲斗くん、ここに来ていうのもあれですが、ホントに私の記憶探しに手伝っていて、自分の事は大丈夫なんですか?あっ、別に嫌というわけじゃなくて......」


「何を今さら言うのさ、俺は三月に大切な物を教えてくれたんだから、記憶探しなんてお安い事だよ。自分の身を捧げてもいいくらいだ。それに、俺は三月に誓ったでしょ? 絶対記憶を取り戻すって。任務を果たすまでは、一緒にいるからさ、ね?」


「......本当ですか。もし、任務を果たせなかったり、約束を破った場合、どうするんですか?」


「んー。じゃあ、一生三月の召使いになる......なんてどう......かな?」


「召使い!?......まあ、いいですよ? ゴミ出しも、買い出しにだって言ってもらいますから」


「えぇ、そんなのでいいの? 三月は召使のスケールが小さいなぁ」


「「アハハハハハ!!」」




 バス内に笑い声が響き渡った。バスなんかに若者が乗っている事なんて滅多にないから、他の乗客員は、若者が元気で何よりだ、と微笑みながら許してくれたようだ。


 本当に三月といると楽しい。こんなに楽しいのはホント何年ぶりだろう。こんな体験ができるってことを、中学一年生の俺に教えに行きたいくらいだ。あの時は本当に暗黒期だったからね。

 

                      *


「卯月~、卯月に到着でございます」



 卯月町に到着すると、三月は一目散に運転席の方へ向かった。



「運転手さん、騒がしくしてしまってすみませんでした......」


「なぁに嬢ちゃん、若者の声が聞こえただけ私はとても嬉しいよ。寧ろお金なんていらないくらいさぁ。ハッハッハッ!」



 運転手さんは快く受け入れてくれた。本当に優しいなぁ、三月も運転手さんも。ほんと微笑ましい。あ、運転手さんはあんな事いってたけど、ちゃんとお金は三月の分もちゃんと俺が払います。無賃乗車はさすがにいけないです。



「どうもありがとうございました」


「俺からも、ありがとうございました」



 俺は運賃箱に、三月の分の運賃も含め、お金を入れた。



「はい、またご利用くださいね。次乗る時はICカードが使えるようになってからかな? ハッハッハッ! それじゃあね!」



 運転手さんは軽いジョークを言うと、バスのドアを閉め、次の停留所へと向かって行った。こういう温かい会話は結構好きだ。コミュ障の俺でも話せる。



「さて、この後どうしましょうか? 結局アルバイト先は見つかりませんでしたね......」


「いや三月、まだ一つだけ残っているよ。ネットには載ってなかった場所がね」


「? 一体どこにあるんですか?」


「三月も知っている場所だよ。ついてきて」



 また俺は三月の腕を掴んで、その場所へと連れて行った。


                                       *


「ええっ!? ここで働くの!?」


「この通りだ、頼むよ由梨!」




 そう、俺お馴染みの、ショットだ。ここなら俺だって毎日三月の様子を見にいけるし、幼馴染も働いている店なら信頼性も高い。以上の理由から、俺はこの店を選んだのだ。しかし由梨は結構、戸惑っているらしい。




「わ、私は別にいいんだけどさ、ゲームセンターのお仕事って色々と大変だよ? それに、まだこんなに小さいのに......」


「小さいって、一応153㎝くらいはありますよ。それに、今はお金が足りないんです。大変な事だっていう事はわかりますよ。そんな大変な事を乗り越えてこそ、働くという意味があると思うんです」




 わお。三月がブラック会社の教訓みたいな事言いだした。みんなはこんな教訓の会社はぜったいはいっちゃだめだよ? あ、ショットはブラック企業じゃないからね。




「良いことを言ったな、少女よ!」


「あ、あなたは!?」



 店の裏から出てきたのは、ここの店主、泰三(たいぞう)店長だ。なんかカッコつけてるけど、47歳でこのテンションは俺にとってキツイ。




「お父さん! やめてよそういうの! 恥ずかしくないの!?」


「まあまあいいじゃないか。それより嬢ちゃん、うちで働きたいんだって?」


「は、はい......」




 三月はさっきの店長の登場シーンを見て、若干引いていた。まあこれが普通の反応だからね。




「それじゃあ、こういうのはどう? あそこにあるDark shooterっていうゲームで、僕に勝ったらここで働いてもいい。それが採用条件ってことで」



 ......何を言ってんだここの店長は。こんなか弱い女の子が店を所持しているガチゲーマーに勝てるわけがないだろう! そもそもそんな採用試験聞いたことないぞ!





「え!?わ、私に出来るでしょうか......」


「大丈夫大丈夫、ちゃんとハンデはつけてあげるからさ、気軽にやって大丈夫だよ。あと、咲斗と一緒にやるってのもありだよ?」


「......咲斗くんとならきっと大丈夫です。一緒にやってくれるでしょうか?」


「うん、こんな所で嫌だなんて言うわけがないさ。さあ、やろう」


「よぅし! じゃあ早速準備に取り掛かるか! 由梨、多分もう客来ないと思うが、店番頼むぞ!」


「もう、お父さんは......カウンター越しから見てるから、三月ちゃん、頑張ってね」


「はい!頑張ります!」




 三月はとっても張り切っているが、心配なのは俺自身だ。いくらDark shooterをやっていたと言え、もう2、3年前の話だ。あの時の感覚は、しばらくリズムトレジャーをやっていたおかげで、完全に忘れてしまっている。そんな俺が、本当に三月の護衛になれるだろうか......。


                             *


 まず勝負の前に、Dark shooterの説明といこう。2005年製で、今は倒産してしまった[タッガーテイメント]という会社から発売されたシューティングゲームである。



 専用カードを使って記録し、スコアを更新していくというゲームだ。生産数が少なかったため、今ではレア機種となっていて、たまに温泉街やパーキングエリアで見かけることが出来る。


 そんな中、このショットにある筐体の一つはレアカラーとなっていて、シューティングゲームマニアたちはこの機種を遊ぶために遥々と遠くからやって来ている。もちろん、今回対決するのは普通のカラーだ。


 どういうゲームかというと、コントローラーが銃の形になっていて、画面に出てきた敵を銃で撃つ、というなんというベタなゲームである。


 このゲームのキャッチコピーは、「子供も年配も、みんなダークショット!」というのだが、ゲームバランスと難易度がおかしい為、一定の支持しか得ることしか出来なかったのだ。いわゆるクソ......おっと、これ以上は言わないでおこう。ここにDark shooterを愛して止まない人がいるからね。




「フリープレイモードにして......はいOK。さて、一応チュートリアルが入ったから、ちょっとやってて」


「は、はい!......なんですか、宇宙組織がうんちゃらかんちゃらって?」




 こんなのよくありがちなストーリーだ。しかもこのゲーム、スキップボタンがない。専用のカードを作らない限り、プレイする都度、このストーリーを聞く羽目になるのだ。このゲームを引退した後に聞いた話で、こんなんで大ヒットを狙っていたなんて聞いた日には、失笑したよ。なんかもう少しアイデアを絞ってほしかった。 




「やっと終わりました......何なんですかこのゲーム」


「うん、俺もよくこんなゲームやっていたなぁって思う。あ、チュートリアル始まるみたいだよ」


「は、はい。えっと、敵が来たときはレバーを引いてダークショットをぶっ放せ......これ私自身はどういう立場なんですか?」


「一応主人公は悪者サイドらしいよ。正義のやつらをやっつけるってゲームだし」


「えぇ......あっ、敵です!」




  画面上には下級ヒーロー、チュートリアルマンが出てきた。弱点は頭のマークで、三回当てたら倒せる雑魚キャラである。......もうなんか説明するの恥ずかしくなってきた。





「えっと、そこのボタンを押して......って討伐早ぁ!?」




 なんと三月は初心者なのに、頭のマークを目掛けて3連射して、オーバーキルをした。いや、偶然か?




「え、なんか感覚でやったら出来てしまって......あ、また出てきました!えいっ!」




 三月はレバーを引くと、またマークに3連射して、あっという間に倒してしまった。これは......どういうことだ?



「み、三月ちゃん、なかなかの腕前じゃないか......」




 店長が裏から戻ってくると、唖然とした顔でそういった。Dark shooterに厳しい店長が褒めるなんて、三月は相当上手いのだろう。




「咲斗くん、なんか私咲斗くん無しでいける気がします。アドバイスとかもいりません。それに、難易度だって一番難しいのでやります」


「ほ、本気で言っているの?」


「咲斗、安心しろ。三月ちゃんはきっとできる子だ。下手したら俺が負けるかもしれない」




 まさか、長年やり続けている店長がそこまで言うとは......。



「......わかりました。三月、信じているよ」


「はい、絶対勝ってみせます。店長、整いました」


「わかった。よし、じゃあ難易度は両方一番難しいので......」




 店長が対戦モードをセットすると、対決開始のカウントダウンが始まった。そして、3・2・1・

0と、ゲームがスタートした。




「よし、まずはこの敵を......いっ!?」


「へへ、討伐です!」




 まず三月が先手を取ったようだ。やりおる。



「くそ......じゃあこいつはどうだ? っよし! 討伐だ! どうだー店長の力は?」



 今度は店長が討伐したようだ。いい歳して大人げない......。




「お父さん、あんま調子に乗ってると......」


「隙あり! ふふん、5キルです」 




 超ドヤ顔をしている三月は、なんだか嬉しそうだった。まあそうだろうね!




「し、しまったぁ! ......よし、そろそろ本気出してやる!」




 本気出すって言ってる人って、大体最初から本気出している人が言うよね。情けない。


                              *


 5分後、どちらも白熱したバトルを順調に続けており、状況はお互い同じ得点だった。今はラスボス戦で、これを先に討伐した方が勝ちである。


「ま、まさか三月ちゃんがここまで来るとは......」


「そんなことを言ってる暇があったら、一目散にドラゴンの尻尾をスコープに合わせたらどうです?」




 あぁ......三月がとうとう煽りスキルを発動してきた。こんな三月見たくないよぉ!




「くそ......いけぇ! メタストリームショットぉぉぉ!」


「やらせません! ハイパーガード!」




 三月は店長が撃った技を、地面から飛び出してきた壁でブロックした。確かあのコマンド入力はとても難しいし、成功したとしても発動確率は三分の一。そんな確立を三月は引き当てたのだ。




「なにぃ!?」


「そして、ダークウィンドスラッシュショットぉぉ!」



 三月が放った技は、ラスボスの腹を貫通し、粉々と粉砕されていった。そして、三月が操っていたキャラクターに[YOU WIN!]という文字が表示された。



「やった......やりましたよ! 咲斗くん!」


「三月! やったな!」




 俺と三月はハイタッチをした。まさか三月が勝つなんて、誰が想像しただろう。あの店長を破ったのだから。 




「お。俺が初心者に負けるなんて......本当に初心者か?」


「......実は、なんかやったことがあるような気がして......既視感、というんですか。もしかしたら、このゲームと私は何か関係があるんじゃないかと......」




 三月は深刻な表情で気持ちを打ち明けてくれた。俺が見た限りでも、確かにあれは初心者の腕じゃなかった。最後に放った技でさえ、俺がコマンド入力出来るようになったのは一週間くらい練習したからだぞだぞ。それをたった五分で習得するとは......やはり只者じゃない。




「まあ、約束は約束だ。三月ちゃんを採用しよう! ていうか、来てほしい!」


「やった! ありがとうございます!」


「三月、本当によかったな! おめでとう!」




 由梨もカウンターから出てきて、三月の方へ向かった。



「三月ちゃん、これから先輩になるけど、よろしくね!」


「はい! 由梨さん!」



「それにしても、悔しいなぁ......ああもう!」




 店長は悔しさのあまりか、銃のコントローラーについている線を引き延ばした。すると、



『ブチっ』



 と、とてつもなく嫌な気配がする音がした。




「お、お父さん......?」


「......断線した、反応しない」


「「「えええええ!?」」」




 案の定、壊してしまったようだ。あんな凄い音がしたから仕方ないけど......って! そんな事言ってる場合じゃねぇ!



「どうするんですか店長!この店の目玉みたいなものでしょ!?」


「お父さん、もうその会社倒産しちゃったから、修理にも出す事できないじゃない!」


「まあ、フリマアプリで何とか探すよ......ほんと、壊れたのが2Pでよかった......」




 そうか、今の時代そういうサービスがあったんだ。便利だよね!使ったことないけど!それに、店長は幸い2Pでやっていたため、対戦プレイはできなくなったもの、1人プレイは出来る。それに、どうしてもやりたければ隣のレアカラー筐体があるから何とかなる。本当によかった!




「さて、三月ちゃん、色々と手続きするから、ちょっと事務室に来てね」


「はい、了解です」 




 そういうと、三月は店長と一緒に事務室へと向かって行った。俺は由梨と二人になった。



「ねぇ、咲斗。お父さんね、最初から三月ちゃんは採用する予定だったみたいなの」


「え? じゃあなんで、あんな採用試験をしたの?」


「多分、Dark shooterを遊んでほしかったからじゃないかな? 咲斗がやめてから、このゲームが遊ばれるのは月二、三回程度だったんだよ? だからさ、若い人にやってもらって、その面白さを教えようとしたんだと思う」




 ......そうだったのか。店長は子供みたいな所があるけど、寧ろそれがいいのだろう。そういう子供心を無くしちゃ、いつまでもゲームを愛せない。だから自分だけでも、そういう気持ちを持って、「こんなゲームがあったんだ」なんかで風化させないように、店長なりの事をしたんだろう。上手くまとめられないけど、多分そうかな。



「......久しぶりに、俺もやるかなぁ」


「お、咲斗がその気になるなんて、珍しいね」


「ま、たまには遊んでやってもいいかなぁって思ったから、ね?」




 俺は俺なりの照れ隠しをした。しかし、由梨はフフフ、と笑いを挙げた。多分ばれてるんだと思う。




 そんな、楽しい一日が過ぎていった。

 

 

 

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