第六話 陰キャが女の子の服を選ぶ話
木実先生の話を聞いて、俺は心が軽くなった。そんな気持ちで、俺は今日もショットへと入っていった。自販機コーナーへ向かうと、オレンジジュースを飲みながら自販機に寄りかかりながら待っていた三月の姿があった。
「あ、咲斗くん。学校お疲れ様でした。って、なんで涙目なんですか?」
「......俺はこの一年間、愚かな過ちをしてたみたいでさ。そんなことを気づかせてくれたのも三月だ。改めて、ありがとう」
「いえいえ! とんでもないですよ! それより、今日はどうしますか?」
「そうだな......ていうか、今日も白衣着ているんだな。もしかしたら、気がついてから服そのまま同じの来ているの?」
「し、しょうがないじゃないですか! ここら辺には私と同じくらいの子はいませんから、服を譲ってもらったりできませんし......お金も無駄遣いできませんし......この服には愛着があるんです......」
三月はふてくされてしまった。そんなふてくされている顔もかわいいなこの子。こんなかわいい子が白衣で町中を歩いているって考えたら、なんか萌える。でも、こんな落ち着いた性格をした少女をあまり注目を浴びさせるわけにもいかないし......。
「そうだ、まずは服を買いに行こうよ! 俺がお金出してあげるからさ!」
「えっ!? そんなの申し訳ないですよ! 私の容姿なんて別に、気にしなくてもいいですよ......」
「いいっていいって、俺と三月が出会った記念ってことでさ。女の子なんだからオシャレくらいはしたいでしょ? 遠慮しないでいいんだよ」
「でも私、服選びのセンスなんてないですし......ほら、私の白衣の下に着ている服だって......」
そういうと三月は、ボタンをほどいて、下の服を見せてきた。着ていたのは、ピンクのうさぎが大胆に描かれているTシャツだった。あちゃ~、確かにセンスないわこれは......。
「だから言ったでしょ? こんな人がオシャレに決められるわけありませんよ......」
「何言ってるのさ、俺だって、休みの日はオタクTシャツしか着ないし、ファッションセンスは皆無さ。それに、今の時代はスマホという優れモノがあるじゃない。今流行りの服だって一瞬でわかるよ」
俺はスマホを取り出して、(JK 流行り ファッション)と検索エンジンをかけた。こんな単語を検索するなんて人生初めてだ。もしも電車内とかでこんな事して近くの人に見られたら、確実に通報されるだろう。よい子の大人たちはくれぐれもけんさくしないようにね!
「ほら、これ見て! なんちゃらスカートとか俺の未知の世界が広がっているよ! とりあえずさ、店にいってみない? 店員さんとかにも聞いてさ、いい服見つけようよ? さ、行こ?」
「え、ちょっと咲斗くん!?」
俺は三月の手を引いて、ショットを出て行った。店長は後ろで呆然と見てたけど、また後で戻ってくるから安心して。
「よし、早速向かおうか!」
「あの......この町って、まともな服屋ありましたっけ?」
「......あ」
そうだった。完全に忘れていたけど、ここはド田舎町だったんだ。ここら辺は服屋っていったら、年配の人とかが着る一着500円くらいの服が売っている場所しかないのだ。いくら服を持ってないとはいえ、三月にそんな服を着せるわけにはいけないだろ......。もうこれしかない!
「立間市だ! 隣の立間市に向かおう! もうすぐバスくるから!」
バスの時間わかるのか......って思う人いるでしょ? あのね、一日五本しかでてないからいつ、どの時間に来ることくらいみんな知っているのだ。五本っていい方だよ!? バスは一日一本の、テレビも無ェ、ラジオも無ェ村だってあるんだからな!?
「あの、お金は......」
「三月、いちいちお金の事を気にしちゃだめだよ? 三月は今、金銭面で凄く困っているんだから、俺がいくらでも出してあげる。今日は俺の奢りだ。さ、バスにの乗ろう?」
「......ありがとうございます。いつか絶対に返しますね」
「お客さん、もう出発しますよー。急いで急いで」
運転手さんにせかされながら、俺はバスの階段に一段あがり、三月の手を引いた。なんだか三月は照れていた。
隣町とはいえ、バスでさえ20分かかる場所に立間市はある。そこまでは数々の山道、坂道を超えていく必要がある。地面が凸凹しているので、バスが激しく揺れることなんてザラにある。
電車でもいけるのだが、先程のDKやらJKが電車内にありふれているため、乗りたくないのだ。......あれ ?今俺がやってる事って、あいつらと変わってなくない? あんなに嫉妬とかしてたけど、やっている事は同じくない?
「咲斗くん、バス結構揺れますね。酔いませんか?」
「俺は酔うタイプじゃないから大丈夫だよ。三月は大丈夫?」
「私も大丈夫みたいです。まだ自分の事とかもよく知れていませんが、また一つ知ることができました」
──そっか。三月はまだ自分の事がはっきりとしていない、赤ちゃんみたいな状態なんだ。これも分からないのか......なんてのは通用しない。どんどんと色んな事を知っていこう、そういう心意気で生きていかないとね。
〔間もなく、立間に到着いたします。降りる際は下車ボタンを押してください〕
運転手さんのアナウンスが流れたので、俺は下車ボタンを押そうとした。
「待って! わ、私に押させて......ください」
三月は自分がいきなり大きな声を出してしまったことに気づき、かぁ~っと顔面を赤くしてしまった。熟成したリンゴみたいに真っ赤だ。
「い、いいよ。ほら、押してみ?」
「は、はい......」
バス内はおじいさんやおばあさんしかいなかった為、気を利かせて三月がボタンを押すのを譲ってくれたようだ。本当になんかすみません。
そして、三月はボタンを押した。すると〔ピンポーン♪〕というチャイムがバス内に響き渡った。
「こ、これがチャイムですか!いいですね、癖になりそうです!ではもう一回」
「やめとけ。っていうかこういうのは一回押したらならないもんだぞ?」
「じ、じゃあまた今度にします......」
三月はしょぼんとしてしまった。そういえば、昔ノリで買った小さい下車ボタンがあったな。処分に困ってたから、今度三月にあげよう......。
*
無事に下車した俺らは、辺りを見回した。そこそこと店が充実していて、大体の人はここで買い出しに出ている。ちなみに三月は、一人で町外に出るのは危険だから、卯月町の小さいスーパーで買えと花宮さんから言われているらしい。
「ねぇ咲斗くん、早く行きましょうよ! どこにあるんですか?」
「まあまあ落ち着けって。まあ服屋って言っても、ショッピングモールの中にあるアウトレットになるんだけどさ」
「いやいや! アウトレットだって構いませんよ! むしろお財布面にも優しいんじゃないですか?」
「確かにね。でも無理して安いのを買ったりしなくていいんだよ? 三月の気に入った服を買ってね」
「ありがとうございます!」
三月はとてもウキウキしている。この三日間忙しかったから、ようやく女の子らしい事が出来て嬉しいんだろう。
「あ、あれですか?イ〇ンって書いてあるやつですか?」
「三月、店名を言うのはちょっとやめとこうか?色々とまずいから......まあそうだよ、イ〇ンってところ......」
もうやけくそだ。まだジャ〇コって言った方がよかったかな? いや、どちらにしろ駄目だわ......。
「へぇ、普通のスーパーの倍以上ありますね」
「まあな。ここはスーツとか化粧品とかも売っているからね」
三月は興味深々で、看板の文字を見上げた。卯月町では絶対に見上げるなんてことは体験できないからな......。卯月町って、どんだけ田舎町なんだよ。
「ほら、入口ですよ。ボーっとしてないで入りましょ、咲斗くん?」
「え、あ、ごめんね。入ろっか」
俺はついついボーっとしてしまうことが多い。それだからこの前だって竜騎に怒られたのだ。そういう所は直していきたいよね......。
エスカレーターを上がって3Fへ行き、降りてすぐ右にあるのが、今日俺らが目当てで来た服屋だ。まあ普通のチェーン店なわけだが、最近は結構可愛い服も出そろっているらしいからね。いつだかまとめサイトで見た記憶がある。
「いらっしゃいませぇ~!今日はご来店ありがとうございますぅ~!」
出た。俺が服屋に滅多にいかない理由その一[超元気いい店員さんが超笑顔で挨拶してくる]だ。ただえさえでも人と接するのが苦手なのに、こんなキラキラしている店員とまともに話せる訳がないだろ!
「ほら咲斗くん、固まってないで早く探しましょ。私も、この空間に長時間いることを体が受けつけていないようです。さっさと決めて帰りましょう」
「そ、そうだね......」
どうやら三月もやっぱりこういう所が苦手みたいだ。まあ当然の反応だろう。三月の言う通り、さっさと決めて帰ろう。とはいえ、どんな服を買おうか? 最近の流行りの物とはいえ、似合う物でないと買った気がしないだろう。慎重に選ばないとね。
「んー、どんな服がいいのでしょうか......」
「三月! その言葉を発したら......!」
「お客様ぁ~? 何かお困りですかぁ~?」
しまった。これは俺が服屋に滅多にいかない理由その二[別に頼んでもないのにやたらと絡んでくる店員]だ。さっきも言ったけど、人と接するのが苦手なのにこんな所で体力を使いたくないんだ! まあ店側も買ってもらう為に必死にやってるんだろうけどさ!
「よろしければぁ、お似合いの服選びをお手伝いさせていただけませんかぁ?」
「え、いや、その......」
「お気持ちは嬉しいですが、私たちで選ばさせてください。あなたに選んでもらうより、咲斗くんにチョイスしてもらった方が何倍もいいです」
「え? 三月?」
意外にも三月は店員の誘いを断った。俺は正直、大人しめな性格をした三月に、こんな顔があるとは思っていなかった。ぶっちゃけそのまま受け入れると思ってた。俺と一緒だと思ってて申し訳ないです......。
「は、はぁい......わかりましたぁ......」
店員は残念そうな顔で俺らから去っていった。正直イェーイwって気持ちと、申し訳ない気が半々だったが、三月が選んだ選択だから文句は言えない。
「はぁ、行ってくれましたね。あんな店員に選んでもらうよりも、咲斗くんに選んでもらった方が断然いいです」
「ハハハ、嬉しい事言ってくれるね。よし、期待に応えるべく、三月の似合う服を探すぞ!」
こうして、三月の服選びがようやく始まった。
*
開始してから10分後......俺らの服選びは順調に進んでいた。
「これとかどう?」
「うーん。私には可愛すぎないですか?」
なんだか本格的な感じになってきたぞ。服選びって、こんな感じなんだね! たーのしー!
「とりあえず、今カゴに入っている物だけでも試着します。えっと、試着室は......」
「ここじゃないかな?」
「じゃあ、試着してきますね。覗かないでくださいよ?」
「覗かないよ! 寧ろ俺がガードマンになるからさ、安心して着替えて!」
「フフフ。ありがとうございます」
そういうと三月はカーテンを閉めた。俺は近くにあった椅子に腰を掛けた。大体、あってから二日目にして覗くなんて、そんな犯罪者的行為なんてするわけないでしょう! ......まあでも逆に考えて、二日間しかあってない人だから、信頼性はまだ薄いだろう。これは誰にだって言える事だ。
でも、これから信頼性は濃くしていくものだ。そうやって三月とやっていこう。と、そんな事を考えているうちに、三月の着替えが終わったようだ。
「おまたせしました。ど、どうでしょうか......」
カーテンが開かれると、先程俺がスマホを見ながら選んだ、グレースカートに白トップス、それにGジャンを重ねた服を着た三月の姿があった。白衣しか着ていなかったから、ちょっと新鮮味があるが、とても似合っている。
「おお! 可愛いよ三月! 似合う似合う!」
「ほ、本当ですか。ありがとうございます!実は私もこれ気に入っていて、これは絶対はずしたくなかったんです。咲斗くんの一言で決めました。これ買わさせてもらいます!」
三月はニコッと笑った。俺はこの笑顔を見るために今まで生きてきたのかもしれない。喜んでもらってなによりだ。
「ま、まあ他の服もね。これだけじゃなくて他の服も」
「いいえ、これだけでいいんです。後は5着で2000円の普通のTシャツとかズボンにしますね。おしゃれ服を家で着てもあれですし、そういうのは一着持っていれば十分です」
「そ、そう? じ、じゃあ後はいいのね?」
まあ、オシャレにこだわっていてもしょうがないよね。あくまでも着る服を買いに来たわけだし、無理に華買う必要ないのかもね。
「じゃあ、このピンクのと黄色のと......あとはこのズボン......よし、OKです!」
「うん、全部三月が似合いそうな色だね! じゃあお会計行こうか!」
「はい!」
俺らはレジへと向かった。てかレジへ向かうとかこのくだりいる? と思うでしょ? 会計だって俺にとっては戦場なのだよ。最低でもコミュニケーションをとらなくてはならない場所なのだよ。そこで繰り広げられる会話が苦手なんだ。
でも、ここで会計を済ませなかったらここに来た意味は何? 自分の首を絞めるためにここへ来たのか? 違うだろ俺。三月の服を買うために来たんだろ? 今までのやり取りを無駄にするな、さあ行くんだ俺! 勇気を出すんだ!
「いらっしゃいませー!」
「あ、え、その......」
「アプリはダウンロードしておりますかー? ホーム画面をご提示していただくとこちらの商品全て5%引きさせていただきますがー?」
「う、え、じ、じゃあインストールします......」
やっぱ無理だよぉ......。泣く泣く俺は店員が言われるままにインストールした。こんな見た目の俺がアプリなんか入れているわけないじゃん......。こういう人間は空気が読めないの?
「お会計6000円になります!あっアプリご提示ありがとうございますー!ここから5%引き、さらに男女割で......」
「......え?男女割って?」
「こちらをご覧ください!」
店員さんはとある紙を見せてきた。内容は、カップルでお買い物すると20%引きにしてくれるサービスらしい......はえ!? カップル!? 嘘!? 俺と三月が!? そんなふうに見えていたのか!?
「というわけで、25%引きさせていただいて、4500円になりまーす!」
「ねぇ咲斗くん、カップルってなんですか? しかも、顔真っ赤ですよ?」
み、三月がカップルって単語知らなくて助かった......。
「......帰ったら花宮さんに聞いてみてごらん。あ、はい、一万円から......」
俺は恥ずかしながら店員に諭吉様を渡した。なんだか諭吉様は「恥ずかしがるんじゃねえぞ、小僧♪」って言っている気がした。冗談はやめて下さいよ諭吉様......。
「はい、一万円入りましたぁー! それでは、5500円のお釣りになりまぁーす! お買い上げいただきぃ、ありがとうございまぁーす!」
もうこの空気が嫌で嫌でしょうがないから、商品を受け取って、俺らは急いで店の外へ出た。
「はぁ......はぁ......つ、疲れたぁ......もう三日分の体力使ったよこれ......」
「あ、あの、買った服に着替えてきてもいいですか? 早速着て外を歩きたいです」
「う、うん......いいよ......そこにトイレあるから着替えてきなよ」
「咲斗くん? 女の子にトイレとかっていう言葉を発しちゃ駄目ですよ? 化粧室って言ってください。気を付けてください?」
「は、はい。すみません......」
そういうと三月は化粧室へ駆け込んだ。やっぱりこういう常識とかは花宮さんに教わっているのかな?そうでなきゃこんな事言わないでしょ。
スマホで最新の情報を調べる事5分、三月が先程購入した服を着て来た。やっぱり可愛いね。
「さて、用事も済みましたし、そろそろ帰りましょうか。あの、お金はいつ返せば......」
「返さなくて大丈夫だよって言っても多分そのセリフずっと言うだろうね......じゃあ収入が安定したらでいいよ。あ、そうだ! バイト先も決めなきゃね!」
「そ、そうでした!じ、じゃあ帰りのバスで一緒に探してもらってもいいですか?」
「もちろん!あ、あと10分後に来るよ! 急ごう!」
「は、はい!」
俺は三月の腕をつかみながらこのショッピングモールを出て、急いでバス停へ向かった。