第五話 JKっぽい先生
──あああ......俺今夢でも見てるのかな......顔がもう真っ赤っかだ。俺は自室のベットに横になりながら、今日会ったことを振り返っていた。
記憶喪失した女の子が急に現れて来るなんて、もはや運命なのかな......? いやいや! まさかそんなことはないだろ! てか、俺がそんなのに選ばれるなんて、一体どうなんだろうか......。
ええい! いつまでも恥ずかしがるな俺! こんな時こそ、パソコン開いて、ファントムRの動画見て、気を紛らわすぞ!
さてと......あ、ちょうど配信開始したみたいだな。[今来ました]......と。
〔はい、いらっしゃい......今日も......元気に、ゲーム実況をやって行こうと思います......〕
──何なんだ? 今日は妙に元気がない......。みんなもコメント欄に、[元気ないね]と記入しているし、どうしたんだろう?
〔え、元気ないって? ......実はな、大切な物を失ってしまったんだ。気分転換に、ちょっと配信始めたんだけど......よく考えたらこんな事やってる場合じゃなかったよな......すみません、やっぱり配信切ります〕
と言い残して、画面は(ライブ ストリームはオフラインです)に変わった。どうやら俺もファントムRも不調らしい。こんな日は、さっさと寝るか......。
*
キーンコーンカーンコーン......と、六時間目の授業の終了を告げるチャイムが鳴り響き、黒板に字を書く先生の手も止まった。
「今日の授業はこれでおしまいです。ここ二年生の授業でもやる凄く大事な文法だから、家で復習してきてくださいね。はい起立......礼!」
「「「ありがとうございました」」」
挨拶を終えると、俺は英語の教科書類を急いで鞄にしまい、身なりを整え、うつ伏せになり始めた。俺はこういう時間が大嫌いなのだ。みんなこの後の予定とかを言い始めるからである。
「タピオカミルクティー飲みに行こー!」とか、「映画観に行こうぜ!」とか、陰キャには全く無縁の話を聞かされて、嫌気がさす。しかもさ、卯月町はタピオカも映画館もない田舎町だから、みんな電車に乗って隣町とかで遊ぶんだよ?地元民からしたらとてつもない屈辱だぜ?なぁ、わかるかそこのイキリ男女ども!
「咲斗?うつ伏せになって具合悪いんか?」
「いつもの事だろ? 心配しなくて大丈夫」
「......またあそこのグループみてて嫉妬してたんか? 気にすんなよ、俺だって部活で毎日練習や。先月なんて休み一つなかったんやで? あいつらを見ると、俺もたまに嫉妬してしまうんや。気持ちは充分わかる」
「......竜騎! 仲間がいた! 俺と同じ思いをしている人がいた!」
俺は嬉しくなって、キラキラした目で竜騎を見た。
「んがっ! ちょっと咲斗なんや急に手掴んできて!?」
「やっぱり竜騎は、俺と分かり合える数少ない友達だよ!」
「......数少ないとか悲しい事言わんで、もっと友達作れや」
そんな会話をしてると、教室のドアが急に開いて、担任の先生が入ってきた。
「はーい! みんな席に座ってー! 今日のHRは、特にありませーん! みんなぁ、各自の行動場所に向かってくださいねー! はい、ではさよーならー!」
うちのクラスの担任、木実先生はいつもテンションが高い。服装もニットセーターに、超短い赤のスカート履いていて、うちの町のJKよりもJKな服を着ている。なんでこんなに体力が有り余っているのか知りたい。裏の姿を見てみたい。
「おーっと咲斗くん? ちょっといらっしゃい?」
ビクッ。俺は呼び出しに弱い。いや、誰でもそうか。てかそんなことよりなんだこっちに来いって......?
「咲斗くん、まーたお指が赤くなってますよー? さぞかし、勉強のし過ぎで赤くなったんでしょうねー?」
「いや、音ゲ......もちろん、勉強ですとも。ってえ? そ、それだけの事で呼んだんです......か?」
「それだけの事じゃないですよ? この一年間、咲斗とあまりコミュニケーションをとる事が出来なかったから呼んだんです。実は先生、春から先生じゃなくなるのです」
突然のカミングアウトだった。先生じゃなくなる? ということは......。
「......つまり、辞めちゃうんです......か?」
「そうです。私に先生という職業は向いてないです。やめるのはもったいないっていうのは自分が一番わかっています。でも、他にいい仕事が見つかったので。心配してたんですよ? 咲斗くんがこの学校に馴染めていなくて。でも、こうやって今、コミュニケーションをとることができて、ウチは嬉しいです」
俺は初めて先生の心の声を聞いた。先生だって心配してくれてないだろう、と思っていた自分は馬鹿だ。身近にもこんなに思ってくれる人がいることに。
「先生......ごめんなさい。俺、正直先生の気持ちなんて知らなかったです。こんな馬鹿な生徒でごめんなさい......」
「ちょっと、涙目にならないでください! まだ咲斗くんは二年間残っています! 私には残されていない時間を咲斗くんは持っています! 私の分まで学校生活を楽しんでくださいね。それじゃあ、ここで。お時間いただいてごめんね?」
「そんな......明日、楽しんでくださいね......」
「ンフフ。ありがと。じゃあ、気を付けて帰るのですよ?」
先生は髪を払って、教室を出て行った。なんか、今日は心がとても温かくなった。