第五十二話 同級生はお見通し
社長にはあんな偉そうな事を言ってしまったが、俺はちゃんと、花宮さんの笑顔を取り戻す事ができるのだろうか。
......ていうか、花宮さんはどこに行ったんだろう? 駐車場にもバイクないし、そのまま帰っちゃったのかな? ......だとしたら、俺こんな知らない街で一人ぼっち!?
え、どうしよう......車を用意出来る人とかいないし......。
迷っていたその時、一台の軽自動車が駐車場に入ってきた。そして、助手席から窓が開き、そこには知っている顔があった。
「咲斗くん、発見」
「堂桜子さん!! 助かったぁ......」
突然の救世主!! まだ希望は残っていたんだ!!
「......咲斗くんだけ?」
「はい、花宮さん、先に帰っちゃって ......てか、どうして堂桜子さんはここに?」
「説明は後。とりあえず後ろに乗って」
「え? でも何処に向かうんですか?」
「いいから、ほら早くしないと怪しまれるから......」
言われるがままに、俺は後ろのドアを開いて、席へと体を動かした。
隣の座席はダンボールが沢山積んでおり、少し窮屈だ。
「......で、何で俺の居場所がわかったんですか?」
「私達、お仕事の帰りだったんだよ。つい数分前、香織がバイクに乗って、隣の車線で走っていくのを見てね。しかも、いつもよりスピードが出ててさ」
「もしかしたら何かあったのかもしれないと思って、反対車線を走ってみたんだ。そしたら、咲斗くんがいたから」
どうやらこの車を運転しているのは、男の人みたいだ。バックミラーを覗いてみると、どこかで見た事のある顔が写っていた。
「あ、彼は湊斗。ほら、この前写真見せたでしょ? そいつだよ」
「そいつって言わないでよ......初めまして、咲斗くん。急に乗せたりしてごめんね。今から様子を見に、香織の家に行こうと思うんだ。香織の事だから、そこに居ると思ってね」
「根拠も無しに行くんですか?」
「そういう感って、意外と当たるもんよ? いなかったら、いなかったでいいじゃん。ね?」
「そ、そうですか......」
堂桜子さんは、お気楽な気持ちだ。やっぱり、長く一緒に過ごした仲だから、よく花宮さんの事を分かってるんだな。そういうの、なんか素敵だなぁ。
「さーて、立間市に戻るまで大分時間かかるし、気長に話しでもしながら行こうか。......そういえばさ、香織と咲斗くんって、どこでそんなに仲良くなったの?」
堂桜子さんからの急な質問に、思わず肩が上がった。昔から交流はあったけど、月魄に入ってからよく話せるようになったんだし、どう答えれば......。
「もしもーし、咲斗くん? あ、答えたくない?」
「いえ! そういう訳じゃ......ご近所だから、仲良くなったんです」
「......ご近所でそこまで仲良くなるかなぁ? 香織、あまり友達とかと仲良くならないタイプだったから......ま、いいや。香織も知らない間に変わってるんだねぇ」
湊斗さんは首を傾げたが、何とかいい方へと回答を導き出したようだ。花宮さんに関する嘘は、二人にはあまり通じなさそうだな......。
「あ、それと、何で会社の前に立ってたの? しかもあの有名ゲーム会社に。咲斗くんのような高校生が気軽に行くような場所じゃないし......」
「そ、それは......今度製作するゲームの参考資料を作るために社長さんに呼ばれたんです。それで花宮さんにバイクで連れて行ってもらったんです」
「えー、何だか嘘くさいなぁ......他に何かあるんでしょ?」
またしても、湊斗さんが食いついてきた。感が鋭すぎないか?
「本当ですって!! それに、何か気になることがあれば花宮さんに聞けばいいじゃないですか!!」
「そ、そうだね。咲斗くんを攻めてもよくないもんね......そうだ! 僕たちばかり聞くのも悪いし、咲斗くんからの質問も聞かなくちゃ。何かあるかな?」
俺がしたい質問。それはもう決まっている。
「......花宮さんって、笑顔を見せた事とかありますか?」
「え、笑顔かぁ......」
そんな質問をしたら、二人とも口を閉じてしまった。少し、気まづそうな顔をしながら。
「……香織、人前で笑顔を見せる事が恥ずかしいと思ってるみたいなんだよね。ニヤニヤするくらいなら、キリッとした表情をしていた方がいい。そっちの方が格好いいからって、昔、そう言ってたんだ」
「僕達が香織の笑顔を見た回数も、指で数える程しかないよね……」
……となると、花宮さんが笑顔を見せなくなったのは、高校生の時からなのかもしれない。
だけど、笑顔を見せる事を恥ずかしがるのは何故だ? これも、虎上が関係しているのか?
──そもそも、俺はどうすればいいんだろうか? 社長さんには、花宮さんの笑顔を戻すように頼まれた。
だけど、社長さんは花宮さんと虎上を離そうとしている。離した所で、笑顔は戻ってくるのか? 花宮さんはそんな事で笑顔になってくれるのか?
三月には、家族の話には首を突っ込むなと言われているけど……俺は花宮さんをどうサポートすればいいんだ?
「……咲斗くんは、香織を笑顔にしたい?」
「……え?」
堂桜子さんは、車窓を見ながら、突然俺にそう言ってきた。
「そ、そりゃあそう思います! 花宮さんには笑顔でいて欲しいです!」
「私も同じ気持ち。だから、一緒に花宮さんを笑顔にしてみない? 湊斗も勿論手伝ってくれるよね?」
「ああ。友達として、協力しない訳にはいかないし、僕自身も香織を笑顔にしたいからね」
──そうだ。俺には今、花宮さんの同級生と一緒にいるんだ。何も1人で考える事じゃない。これなら、笑顔に出来るかもしれない。
「じゃあ、そう決まれば、一秒でも早く行かなきゃね!!」
「法定速度ちゃんと守ってねー」
湊斗さんの車は、法定速度を守りながらも、段々スピードを上げながら、花宮さんの家へと向かっていった。




