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第五十一話 フラワーパレスか、虎上牙か

卯月町からバイクで出発してから2時間が経った。本当は高速道路を使いたかったが、法律上の問題もあって、仕方なく国道を走りながら、秋風市へ向かう事になったのだった。


そして、一旦休憩として、近くのコンビニに立ち寄り、カップ麺を買って食べる事にした。


俺は激辛麺、花宮さんはカップうどんというチョイスだ。


イートインコーナーで、お湯を入れて3分経ったので、早めのお昼ご飯を食べる事にした。



「……咲ちゃん、こんなに暑い日に激辛麺なんか食って、口やられねぇか?」


「へ? こんなの全然辛くないですよ? むしろ甘く感じるくらいですし」


「あぁ、そう言えばお前、味覚音痴だったか……」



みかくおんち? 花宮さんってば冗談は良してくださいよ。…… あまーい!!



窓から見える景色、一見何の変哲もない車通りが多いただの道路に見えるが、トラック、高級車、普通の車……と、ついつい見はいってしまう。テレビを観ているのと同じ感覚なのだろうか。



「…… 速いなあのバイク。私も、咲ちゃんと同じくらいの歳の時は、堂桜子や湊斗を後ろに乗せてかっ飛ばしてたよ。海へ行ったり、都市へ行ったりして…… あの頃は楽しかったなぁ、なんて、よく仕事中に思うもんだ」


「そ、そうなんですか……俺も、バイクの免許取得してみようかな……」


「お、咲ちゃんもその気になったか? 湊斗のやつも、私のバイクに乗ったら、免許を取る気になってよ、私が講師になってやったんだ。無事受かって、湊斗も私と一緒にかっ飛ばしてたな。だから、咲ちゃんに講師に付いてやってもいいぞ」


「本当ですか! 是非お願いします!」


「へへ、いつでもいいぜ。受かったら、三月に後ろに乗せてやりな」


「な、なんで三月が出てくるんですか! 関係ないですよ!」


「そう否定する割には、顔が真っ赤だが? あ、激辛麺のせいか?」


「違うけど、違わないって言うか……」



何だか、今日の花宮さんはいつもより楽しそうだった。まるで、高校生に戻っているかのように。



「さ、いつまでも道草食ってられねぇぞ。早く食って親父に真相を明かして貰わなくちゃな」


「は、はい!」



汁が飛び散りそうな程早く麺を啜り、少しでも早く向かわなくては、そう思ったのであった。





風を切る速さで走るバイクは、山道を抜け、道脇には段々と店が増えてきた。


秋風市。夏音市よりはビルは少ないけど、俺から見たら都会レベルだ。



「あと200mで、ヒマワリワーキングに着くぞ。心の準備は出来てるか?」


「いや、逆に段々と心臓の音が速くなってます。あのヒマワリワーキングに行くんですから……」


「そんなに緊張する事ないだろ? 咲ちゃんはただ私と一緒に居りゃいいんだからよ。寧ろ、久しぶりに親父と話す私の方が心の準備が出来てねぇよ」


「でも、同じ会社で働いていて、しかも部長なんですし、お父さんと話す機会もあるんじゃないですか?」


「……話す機会がなかった、って言うより、話したくなかったんだよ。話したところで、どうせ嫌味しか言われないんだから……」



バイクの後ろから見た花宮さんの背中は、道が悪いのか分からないけど、震えてるように見えた。


そして、バイクは段々と低速していき、ついにはエンジンも切った。



「……ほら、着いたぞ。ここが私が所属している会社、ヒマワリワーキングだ」



株式会社ヒマワリワーキング。他の建物とは違い、外装もピカピカで、上を見上げるも、最上階が見えないほど高く、立派な会社だ。


この会社で、小学生の頃から遊んでいたゲームが作られているのかぁ……凄いなぁ……。



「何ボケっとしてるんだ。早く受付に行くぞ」


「あ、はい! ……ってか、花宮さん今日パーカーに短パンですけど、その服装って会社的にまずいんじゃ……」


「今日は会社の事で相談に来たわけじゃねぇんだし、私にスーツなんて似合わないだろ。ほら、私に着いてきな」



──花宮さんのスーツ姿、結構見てみたいかも。と思いながら、花宮の後に続いた。自動ドアを抜けると、ヒマワリワーキング社が作ったゲームのキャラクターのパネルがお出迎えしてくれた。


あれは「目指せバンドマン!」の主人公、加奈子ちゃん。そっちは「ウサ耳大作戦」のマスコットキャラクター、ラビナ助……ここら辺看板キャラだし、ゲーマーとして知ってて当然だね。


受付の前に行くと、お姉さんが戸惑った顔をしていた。



「あの、社内はスーツが基本ですが…… ご要件は?」


「こっちにはしばらく来てないから、あんたも分かんないよな。こんな手はあまり使いたくないんだけど……私は社内広報部部長、兼社長の娘、花宮香織だ。社長に、今度のユーザー参加型ミーティングの事前調査の事で用がある。その事前調査に協力してくれるのが、こいつだ」



花宮さんは俺の頭をガシッと掴み、顔を受付のお姉さんへと向けさせられた。



「ど、どうもです……」


「し、失礼しました!! 今すぐ社長に手配をします!!」



慌てて電話を片手に取ったお姉さん。さっきまでの冷たい目はどこに行ったんだ、と言わんばかりの慌て用にに変わった。



「……この会社に居たって、社長の娘としてしか扱われないしよ、居場所がないんだ。だから、卯月町でテレワークで働いてるんだ。そっちの方が気が楽だしな」



──花宮さんも、結構辛い思いをしてるんだな……。もっと早くから教えてくれたら良かったのに……。



「お、お待たせしました!! エレベーターに乗って最上階までお上がりください!!」


「ああ、ありがとう。立ち仕事お疲れ様。頑張ってな。さ、行くぞ」



花宮さんに手招かれて、俺はその後を着いて行った。……社内での花宮さんの立ち位置ってどうなの?



エレベーターの前に立ち、↑ボタンを押すと、すぐ様ドアが開いた。エレベーターの中まで光り輝いていて、やっぱりそこらの会社とは違うんだな、と実感するのだった。



「……師匠、なんで親父に裏切られたなんか言ったんだろう。人が良いから、裏切られる事なんかないだろうし……」



窓から見える、段々と高くなっていく街並みを見ながら、花宮さんはそう言った。



「……きっと、何か特別な理由があるんですよ。何か、ね」


「……うん、そうだな。さ、最上階だ」



エレベーターのドアが開き、そこで待ち構えていたのは、高そうな椅子に座り、壁一面に貼られたガラス窓から街を見ていた、花宮さんのお父さんらしき人だった。



「……来たかね。柳水くん、それに、香織。ようこそ、我がヒマワリワーキング本社へ」



クルッ、と椅子を回転させ、花宮さんのお父さんは社長机に肘を置いた。



「香織、お前は正月になっても盆になっても帰ってこないで、何を考えてるんだ?」



花宮さんを見ると、目線を観葉植物へ向け、お父さんにとの目を合わせないようにしていた。



「それに、会社にも全く来ないで、卯月町に籠ってテレワークだの、会社を舐めてるんじゃないか? もう子供じゃないんだぞ。社会人としてしっかりしてくれないか?」


「しゃ、社長さん……あの、今度の新作は、男子高校生のゲームを作るんでしたよね?」


「ああ、すまなかったね、柳水くん。よその子の前でこんな家族の話は耳が痛かったね。ささ、そこの椅子に座っておくれ」



……本当に嫌味から始まったな。雲行きが怪しくなってきたなこりゃ。



「おっと、自己紹介がまだだったね。私はここ、ヒマワリワーキングの社長、花宮菊郎(きくろう)だ」


「や、柳水咲斗です。好きなゲームは「目指せバンドマン!」です……」


「おお、随分と懐かしい物を出してきたじゃないか。やっぱり、今時の子もそういうのが好きなのかね?」


「あ、はい。今でも通用するデザインとゲーム性だと……」



段々と自然な流れで、話が進んで行った。花宮さんはと言うと、フードを被ってじっと固まったままだった。





30分後、俺の好きなキャラ、ストーリー、ゲームシステムを出来るだけ話し、話も終盤に差し掛かってきた。



「柳水くん、今日はどうもありがとう。君の貴重な意見、大切に預からせて頂くよ。」


「こちらこそ、貴重な開発の裏話等も聞けて、とても楽しかったです。本日はありがとうございました……」



──花宮さん、もう話終わったんですけど、まだ固まってるんですか? と言う顔で横を見ても、花宮さんは固まったままだった。



「……お前はいつまで黙ってるつもりだ? 一言くらい話してくれてもいいじゃないか」


「うるせぇ、クソ親父。これで満足したか?」


「お、お前という奴は! 久しぶりに会った第一声がクソ親父とは…… やっぱり家に帰って来い!」


「ああ? 親父が居ない時にちょくちょく帰ってるよ。……本当は、別の理由でここに来たんだよ。この写真に写っているこいつ、見覚えないか」



短パンのポケットから取り出した写真を、菊郎社長に渡した。



「これは……虎上くんじゃないか。彼がどうしたんだ?」


「知ってるのか!? 教えろ、お前はなんで師匠を裏切ったんだ!?」


「裏切ったとは酷いじゃないか。それに、師匠って今言ったな。やっぱり、あの事は間違ってなかったか……」



菊郎社長は机に写真を置き、一度立ち上がり、またガラス窓から町を見下ろした。そして、大きなため息をついた。



「──解雇したんだよ、虎上くんを。()()()()にな」


「……っ!! 何だとクソ親父!! 何が私の為だって言うんだよ!!」


「知っているぞ、お前がそんな下品な口調になった理由を。中学二年生頃だったかな、お前がそんな男みたいな口調で父さんに話しかけてきたのは」



過去を振り返りながら、菊郎社長は部屋の中を歩き回り始めた。



「今でも覚えてる。秋の終わり頃、早く会社を終わらせて家に帰ろうとした時、父さんは偶然、お前が公民館に行く姿を見てしまったんだ。一緒に居たのは、口が悪く、ヌンチャクを振り回した虎上くんだ。悲しみと同時に、怒りが込み上げてきたよ。娘の性格を曲げてしまった怒りがね」


「……師匠の様に強くなりたかったから、真似しただけだ」


「真似だと? ふざけるんじゃない。今日もパーカーに短パン、父さんがなって欲しくない姿で来てるじゃないか。虎上くんをこのまま我が社で働かせてたら、香織はもっと酷い姿になってただろう……」


「人を偏見で見るんじゃねぇ!!!!」



花宮さんは急に立ち上がり、菊郎社長の方へと向かい、赤いネクタイを上に引っ張った。



「師匠は……虎上はそんな酷い男じゃねぇ!! 気配りも出来て誰よりも優しい!! 口調が悪くて何が悪いってんだよ!! 優しさがあるんだったら、そんなの関係ねぇだろうが!!!」



今まで見たことが無い、花宮さんの本気の怒りだった。血管が浮き出てくる程、強いな力で掴んでいるのがよく分かる。



「は、離せ香織! 離さないと、フラワーパレスの管理も私が仕切るぞ!」


「……っ! 誰がお前なんかにフラワーパレスを渡すか! こっちには大切な住民だって居るんだよ!」



引っ張った赤いネクタイを突き放し、菊郎社長そのまま壁に張り付いた。



「ぐっ……け、権利はこの私にある。いつだってその気になれば、撤去だって出来るんだぞ……」


「そ、それだけはやめてください!!」



三月に首を突っ込むな、とは言われたけども思わず声を出してしまった。



「ど、どうしたんだ柳水くん?」


「フラワーパレスには、三月という友達が住んでいます。もしもフラワーパレスを更地にしてしまったら、三月が住む場所が無くなってしまいます。だから……俺からもお願いです! 撤去だけはやめてください!!」


「柳水くんまで言うかね……なら、条件を付けよう。簡単な事だ、虎上くんと縁を切る。それだけでいいのだ」


「し、師匠と縁を切るだと!? ふざけんな!誰がそんな事……」


「お前の為だ。これ以上お前を悪い大人に育てたくない。虎上くんがあの時の青年だと分かった瞬間、私は即解雇したよ。これ以上の接触を避ける為に、な」


「まだ言うかこの野郎!!」


「フラワーパレスを取るか、虎上くんを取るか……答えは三日後に聞こうじゃないか。今日はもう帰れ」


「言わなくても帰るよ!! 親父と一緒に居ても、嫌気が刺さる!! 二度と顔を合わせたくないくらいだよ!! 親父がここまでクズな人間だとは思わなかったよ!!」



花宮さんはエレベーターの↓ボタンを押し、エレベーターに乗り込んだ。はっきりと顔は見えなかったけど、声は震えていた。今にも泣きそうなくらい。



「申し訳ない、柳水くん。みっともない親子喧嘩を見せてしまって……私は、昔の香織に戻って欲しかっただけなんだ」



菊郎社長は腰を抑えながら社長机に座り、引き出しの三番目を開き、一枚の写真を取り出した。



「昔の香織の写真だ。今と違って驚くかな」



菊郎社長が見せてきた写真は、ひまわり畑で仲良くピースをした二人が写っていた。花宮さんは、俺達には見せない、後ろのひまわりのような、無邪気で満面の笑みで写っていた。



「あの頃の笑顔は、あの日から今日まで戻って来ることなかった。少しでも香織の笑顔を見たくて、虎上くんと香織の距離を離してしまった……」



菊郎社長も菊郎社長也に、色々と考えているのか。娘の心配は、いつになったってするものなんだな。



「心配だ……香織……」


「……大丈夫です。花宮さん……花宮香織さんは、また、笑顔を見せてくれます」


「──君のような子供が、どうしてそんな事を言えるのだ? 」



──確かに根拠はない。だけど、失ってしまった笑顔は、いつかは戻ってくる。かつての俺の様に……。



「……そう信じていれば、願いは叶うはずだと思うからです。今度会う時は、お互い笑顔で会いましょう。それでは、俺も失礼します」



荷物をまとめ、机に置きっぱなしの虎上の写真も持っていき、エレベーターの前に立った。



「君が香織とどういう関係か知らないが、君はとてもいい子だ。香織を……よろしく頼むよ」


「はい、わかりました。それでは失礼します」



エレベーターに乗り込み、閉まるドア。締り際に、菊郎社長は手を振って、俺を送ってくれた。振り返した時には、もうドアは閉まってしまった。



──フラワーパレスを取るか、虎上を取るか、花宮さんはどっちを取るだろうか。いや、どっちも選べないだろう。


そんな花宮さんを、全力サポートしなくちゃ、同じ月魄の一員として。少しでも、気持ちを軽くさせるため。



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