第五十話 バイクに乗って本社へ
「フラワーパレスを建てた理由か? ……いや、私が建てたんじゃない。じいちゃんが一代目で建てたんだ」
「……つまり、今卯月町に建っているのは二代目と?」
「そうだ。前は祖父の実家として建っていた。だが、じいちゃんも亡くなって、すぐに親戚で相続の会議が行われて、権利は我が家が貰うことになったんだけど……継げる人が私しか居なくってな……」
「そ、そう簡単に継げるものなんですか?」
唯一の住居人、三月が突っ込む速さで質問する。
「まあ、金銭面ではヒマワリワーキングが援助してるし、問題は誰が住むかの話だったんだ。そこで私は、人の少ない卯月町を選んで、一代目も大分古くなってきたし、リフォームも兼ねてここに移転して来たってわけだ」
人の少ないって……まあ事実だから何も言えないけど……。
「親父は猛反対したんだ、私に継がせる事も、卯月町に建たせる事も。そこらへんからだな、親父とめっきり話さなくなったのは……」
「そ、そうなんですか……」
「……だが、私は行かなきゃいけねぇ、親父の元へよ」
花宮さんは突然立ち上がり、拳を強く握り締めた。
「師匠は私の親父に裏切られた、と言っていた。その真相を、親父に直接聞きに行くんだよ。……咲ちゃん、ちょっと一緒に着いてきてくれないか?」
「お、俺が!? 」
「ヒマワリワーキングは、ユーザーの声として、会社にユーザーを集める会をよくやっている。今作っているゲームターゲット層は高校生の男子らしい。だから、咲ちゃんには事前準備として親父に意見を出す……という程で行くぞ」
あのヒマワリワーキングの会社に行ける……いやいやいや、これは任務だ! 虎上の真相をしる為の任務なんだから!
「えー柳水くんだけずるーい! 私も行きたい!」
「愛佳! 咲斗は遊びに行くんじゃないんだぞ! ……俺だって本心は行きたい気持ちでいっぱいなんだから、我慢しようぜ……」
「なんかごめんね、みんな……でも花宮さん、足、もう大丈夫なんですか?」
「まだ少し痛むが、この程度ならバイクを運転出来そうだしな」
──は? バイク? 何言ってるか分からないんだけど。
「……なんだよ咲ちゃん、その顔は。私、バイクの免許持ってんだぜ」
「でも、今まで乗っているところなんて見た事なかったんですが……」
「そうだったっけ? 三月は知ってるよな?」
「し、知りませんよ! どこにバイクなんかあるんですか!!」
「三号室。……ああ、三月はその部屋に入れた事なかったな……さあ、グズグズしてると日が暮れるぞ、今すぐ支度しな、咲ちゃん。さて、私も顔洗ってくるか……」
日が暮れるって……さっき日が昇ったばかりじゃないですか……。
でも、よく気づいたら今は寝巻き用のTシャツ……この格好で行く訳にも行かないし、早くいい服に着替えなきゃ……。
俺も立ち上がったその時、三月が俺の服をクイックィッと引っ張って、俺の足を止めた。
「な、何だ三月?」
「……咲斗くんは、家族の会議に首を突っ込もうとしてるんですよ。あまり挑発を誘う発言は抑えてくださいね」
「で、でも俺は意見を言う係だから……」
「あくまでも目的は虎上さんの真相を明かす事です。咲斗くんのその係は大家さんのお父さんと話す為の建前に過ぎません。……ですが、大家さんの事ですから、お父さんに話が通じなくて、ピンチが降りてくるかも知れません。本当に危険だと感じた時は、止めに入ってください。同じフラワーパレスの住居人からの、お願いです」
「う、うん……できるだけ気をつけるよ……」
※
菓子パンを食べて、服もまともなのに着替えて、月魄アジトから出て、フラワーパレスの庭で待機していた。
数分後、爆音を鳴らし、バイクに乗った花宮さんが砂ぼこりを立てながら現れた。
「お待たせ、どうだカッコいいだろ、私のバイク?」
「俺、あまりバイクとか詳しくないんですけど、なんかカッコいい雰囲気を醸し出しているのは伝わって来ます」
「だろう? 私のバイクの後ろに乗ったヤツは、咲ちゃんで三人目だな。ほら、ヘルメットだ」
恐らく、堂桜子さんと湊斗さんだろう。という事は、高校生から既に乗っていたのか……。てか、なんか今日の花宮さんなんだか無邪気だな……。
「何してんだ咲ちゃん、早くしないと道が混むぞ」
「は、はい! ……って、道が混むって、どこまで行くつもりですか?」
「え、ヒマワリワーキングが秋風市にあるって事を知らねぇのか?」
「し、秋風市? どこっすかそこ?」
「……ここから50キロ先だ。田舎っ子には新鮮なシティだろうけど、まあとにかく説明は着いてからだ。早く乗んな」
花宮さんに急かされて、俺は急いでバイクの後ろに乗った。
「よし、乗ったな。しっかり捕まってろ」
アクセルを捻って、バイクは前進した。そして、徐々にスピードを上げて、気づけば町の風景が凝視出来なくなる程の速さになっていった。
そして、そのバイクのスピードの速さは、過酷な現実に勅命する速さも早くなっていく事を、俺はこの時点ではまだ気づく事ができなかった。




