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第四十八話 私と師匠の話

 一晩が経過し、朝から元気に鳴いている蝉達の声で目が覚めた。


 洗面所で顔を洗い、リビングへと戻ると、花宮さんは月魄のみんなをリビングに集めていた。いつになく真剣な表情をした花宮さんを見て、皆が背筋を伸ばしながら待っていた。



「咲斗くん、昨日花宮さんに何したんですか......」


「何もしてないよ!」


「必死ですね......その態度を見るに、何もしてない事はわかりました」



 疑われるのも仕方ないだろう。昨晩、同じ部屋で二人だけで寝たのだから。冷静に考えると、ちょっとヤバくね?



「よし、全員揃ったな。少しだけ......いや、数時間かかるかもしれないが、私の話を聞いてほしい」


 

 まだ足は完治していないため、胡坐(あぐら)をかきながら、花宮さんは皆の目線を集めた。



「......皆を呼んだのは他でもねぇ。先週、白月たちにあの写真を見せてから、私の様子がおかしいと感じた人もいるだろう。あの時すぐに事情を話せばこんな事にはならなかったけど、中々言い出せなくてよ......でも、昨日ネマチがこう言ってたんだ、自分の弱い所を見せるのは、強い証、ってな」


 

 全員の目線は、クッションを抱いて座っていたネマチに集まった。 



「わ、私......?」

 

「ネマチ、そんな事言ってたのー? カッコいーじゃん!」


「もう......イマチったら......花宮さんも......恥ずかしいから......」


「わかったわかった、すまない。それで、私の弱い所、それは()()()()()()()()()って事だ。全部一人で抱え込んで、悩みを解決させないまま、心に閉まっておく。めんどくさい性格だろ?」


「そんな事ないですよ......」


「そうか? で、私はもっと強くなる為に、今日こうやって会を開いた訳だ。ここまでは理解したか?」



 全員、その場で頷いた。



「わかった。では早速、話に移り替わろう。まずは、あの写真に写っていた男......。師匠の事だ」





 今から九年前、すなわち、私がまだ中学生だった頃だ。


 放課後は図書館に行って、本を読んだり、課題や予習をして暇をつぶしていた。


 そんなある日、図書館の窓から見える公園に、とある男がヌンチャクを振り回していて、トレーニングらしき事をしていた。


 最初は何となく見過ごしていたが、まるで龍の舞のような見事なヌンチャク裁きに、気づくと私は目を奪われていた。


 居てもたってもいられず、図書館を抜け出して、青年の方へ寄ってみた。



「あ、あの......」


「......ん? なんだお前、ヌンチャクに興味があるのか?」


「う、うん!」


「そうか。じゃあ、少し貸してやるよ」



 ヌンチャクを受け取り、彼のように振ってみた。テレビで見たことがあるから、少しくらいは出来るだろうと、私はヌンチャクを舐めていた。


 中々上手く使う事が出来ず、つい自分の左足に直撃させてしまった。



「っっ!!」


「おいおい、大丈夫か? もう危険だ、返しな」


「嫌だ! まだできる!」



 私の根気強さに、彼も驚いていた。だが、直ぐに気を戻して、私の持っていたヌンチャクを掴み、奪い返してきた。



「上手く使いこなしたいんなら、手本を見ろ」



 彼が見せてくれたヌンチャク裁きは、間近で見るともっとかっこいいものだった。


 そしてその時、私は彼の様になりたい。その衝動から、こんな事を口にした。



「私を......私を弟子にしてください!!」



 そんな私の頼みに、彼はこう言い返した。



「......ああ、よろしくな」




 それからというものの、厳しい練習が続いた。

 

 運動神経は昔から良い方だった。だけど、中学時代は部活には入らなかった。何というか、あの独特なノリがどうも自分には合わなくてな......。


 だから、私は放課後になると、公民館で練習をしていた。友達も少ない方だったから、交流関係を持つのは師匠くらいしかいなかった。



「おりゃっ! ど、どうかな師匠?」


「違う違う。小手返しっつーのはな、こうやるんだ。よく見て覚えろ」



 師匠はいつも優しく、私に技を教えてくれた。厳しい時もあったけど、それは師匠の愛j......やめよう、こんなキモイ話は。


 そんな師匠の名は虎上 牙(とらがみ きば)。当時は高校生。今の咲ちゃん達と同じくらいの年だな。


 師匠はある映画を見てヌンチャクにハマったみたいで、全て独学で覚えたらしい。高校では、私と同じように馴染めなかったみたいで、いつもこうやってヌンチャクを振り回して、ストレスを発散してるのだとか。



「──ねぇ、師匠? 私、どうしたら師匠みたいに、強くて格好良くなれるかな?」


 

 ある日の休憩時間、私はそんな質問をした。師匠は口に含んだ水を飲み干すと、一息ついてこう言った。



「──とにかく、真似する事だな。俺も真似てここまで上手くなったんだから、お前だって真似れば、俺みたいに上手く扱えるようになるぞ」


「じゃあじゃあ......わかったよ、師匠......こんな感じに、クールな感じで話せば、師匠に少しでも近づけるかな?」


「身近な事から真似るのも有りだが......お前はそれでいいのか? 折角可愛い口調してんだからよ?」


「か、可愛くなんかないも......ねぇよ!!」



──何を隠そう、私がこんな口調になったのも、師匠に少しでも近づけるようにしたからである。そこから今まで、ずっと変わらず、この口調で今まで過ごして来たのだ。

 




 それから大分月日が経ち、私は中学三年生、師匠は高校三年生となった。



「うぉらあ!! ......どーだ、師匠?」


「──ああ、お前に何も言う事は無い、綺麗でカッコいい、完璧な技だ」



 三年も経てば、私もかなり上手くヌンチャクを操れるようになった。そして、大分男らしく育ってきた。


 そして私には、一つ心配にしていた事があった。......師匠との別れだ。




「......なあ師匠、私達、まだこのままの関係で居られるよな?」


「............」


「......何で何も言わないんだよ?」


「......技の続きをやれ、香織」



 師匠はこの話をすると、口を閉じて何も言ってくれなかった。それと同時に、嫌な予感がしてきた。



 そして、その嫌な予感は当たってしまうのである。



 卒業式の後、いつものように師匠の元へと、公民館へと駆け付けた。だが、そこに師匠の姿はなかった。


 呆然と立っていると、公民館のおばさんが申し訳なさそうな顔をしながら、一つの手紙を手渡してきた。中には......。



(さようなら ありがとう 虎上)



 この文字を見た瞬間、私の眼は涙でいっぱいになってしまった。


 突然の別れ、不意な言葉。そんな事実に対して、私はく事しか出来なかった。



 ※



「......それで、これがその手紙だ」



 話にも出てきたあの封筒を、花宮さんはみんなに見せてくれた。年季のせいかもしれないが、紙に不規則にしわがついているのが目立った。



「......まあ、それがあの写真の男の話だ。あの後、私は上手く学校生活を送れるか心配してたけどよ、堂桜子や湊斗のおかげで、楽しくやってこれたんだ。......なんか、朝から暗い話して悪いな」


「そんな事ないですよ。悲しみはみんなで分かち合う物ですから。......でも、まだ少し疑問が残ります」


「何だ、三月?」



 三月はあの写真を見ながら、眉を寄せながらこう言った。



「何故、月魄の写真に写っているか、という事です。一つ聞きたいのですが、この写真に写っている虎上さんは、何歳ぐらいだか分かりますか?」


「......少なくとも、私が師匠と別れてからの写真だな。大学生くらい......だろうか?」


「という事は......強くなってこの月魄に入って、平和を守る為に、大家さんと別れた......とかなのでしょうか」


「三月ちゃん、そんな事言っちゃダメだよ!! 花宮さんの気持ちも考えなきゃ!!」


「......!! す、すみません、愛佳さん。失敬でした......」



 でも、憶測を考えるのは自由だ。真実に近い物を挙げていく......だけど、失礼に当たることもあるから注意が必要になる。



「いいか三月、俺らが武器を回収する活動をし始めたのは、最近の事なんだぞ。昔はただの大学のサークルみたいに、ただ集まって話をするだけの組だったんだ。だから、その可能性はまずないんだ」


「そうそう、リーダーの言う通りだよ。......でも、どんな理由で月魄に入ってるのかな?」



 考えれば考えるほど、謎が深まっていく。



「......とりあえず、この話は置いておこう。花宮さん、続きを聞かせてくださいよ」


「ああ、じゃあ次は......高校を入学してからの話だ」

 


 


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