表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/54

第四十七話 強がってるけど、悲しかった

季節外れの雨が降る中、ボロボロの花宮さんの肩を組みながら、何とかアジトに戻ることが出来た。


虎上から貰った数々の衝撃は、花宮さんでも耐えられなかった様だ。メカニズミカルに入った事、その原因は花宮さんのお父さんにある事……でも、何故そこでお父さんが出て来たのだ? 何処に共通点があるのだろうか?



「──大家さん、ソファでずっと寝てますね……」


「仕方ないよ、色々と傷もあるし、精神的にも疲れちゃってるから。花宮さんだって、そんな時はあるよ」



シャワーを浴びてから、晩御飯も食べずにずっと寝ているから、そりゃあ、いつもの花宮さんを見てたら、みんな心配するだろう。



「それにしても、全然起きそうにないな……。明日は土曜日だから、花宮さんここに泊まらせるか」


「そうだね。私、佐田姉妹の部屋で寝るよ。あ、三月ちゃんもね」


「……え、お前らも泊まるの?」


「何言ってるのさリーダー、みんなで泊まるなんて機会、滅多にないじゃん? それに、みんなで泊まれば、花宮さんだって少しは気が楽になるでしょ?」


「まぁ……それもそうか。咲斗は俺の部屋で……」


「ううん、今日はここのリビングで寝るよ。花宮さん、一人で居たら悲しむと思うから、誰かが傍に居てあげないとね」


「そうか……じゃあよろしくな」



涼太くんは不思議そうな顔をしながら、布団を取りに行った。


……まぁ、早い所夏休みの課題を終わらせる為に、リビングでちょっとやろうと思ってるだけだけど。


そんな時、ふと気配を感じ、横を振り返ってみると、饅頭の箱をじっと見つめる三月がいた。


やっぱり、饅頭では無理だったのか……?



「……ごめんね、三月。許して貰えないかな……?」


「今はそんな事よりも、花宮さんが心配です。だから……咲斗くんとは一応仲直りしてあげますから」


「そっか、ありがとう……明日みんなで饅頭食べようか」


「ですね。じゃあ私、涼太さんのお手伝いに行ってきますから。おやすみなさい」



俺もおやすみ、という頃にはもう、三月は涼太くんの後を追い、リビングから退室していた。



「咲斗お兄ちゃん……花宮さん……大丈夫?」



クイッ、クイッ、と服を引っ張った来たのは、ゲーム機を片手に、ダボダボの服を来たネマチだった。



「大丈夫だよ。ヌンチャクで出来た腫れも、段々良くなって来てるよ。だから安心して寝てな」


「寝ない」


「……何で?」


「今日の0時から……新作のゲームが出るから……発売開始と共にプレイしなきゃ……実況者の名が廃る……だから私も時間が来るまで……ここで待機する」



とは言いつつも、瞼は閉じかかっては開け、閉じかかっては開け……の繰り返しである。実況者としてのプライドが高いんだなぁ……。



「わかった。一緒に待ってようか」


「本当……? 寝かけたら起こしてね……」



ネマチは一安心したのか、カーペットに座って、持っていたゲーム機で遊び始めた。


さて、そろそろ自分も課題やるか……。





時刻は十一時を回り、普通ならもう寝てる人が多い頃。自分は数学のワークは一ページしか進まなかった。


ふと付けたテレビの番組に見入ってしまったのだ。この時間帯にやる番組って面白いもんね! じゃねぇよ俺!



「咲斗お兄ちゃん……課題進んだの……?」



耳に付けていたイヤホンを取り外し、今にも寝そうな顔をしたネマチが尋ねてきた。



「進んでない……まあでも、夏休みにやれば良いよね。よし、俺も周回しよ」



完全に諦めモードに突入した俺は、近くにあった毛布を膝にかけ、スマホアプリ「現実は辛いから異世界でチヤホヤされたい」を立ち上げた。


今は水着イベが開催していて、普段周回してない人でもランカーになるのが多い。だから今回は力を入れなきゃ100位以内は厳しいのである。



「──痛たた……今何時だ?」



四時間以上寝ていた花宮さんが、やっと眼を覚ましたようだ。



「あ、花宮さん……十一時です」


「……私とした事が、こんな時間まで寝ちまうとか……とりあえず、朝御飯の支度しなきゃ……っ!」


「花宮さん……!!」



歩き始めた足は、ガクッと曲がり、倒れかかった花宮さんを急いで助けた。



「動いたら駄目です花宮さん! まだ完治してないんだから、安静にして下さい!」


「でもよ……私が作らなかったら、明日の飯はどうすんだよ……」


「菓子パン買ったから、明日はみんなそれで大丈夫ですよ。今日は花宮さんは、皆の事を気遣わないで、自分の事を気遣わないと駄目です!」



花宮さんは、自分の今の状況を理解したのか、ウッ、と驚いた表情を浮かべ、フードを被って眼を隠した。



「……ったく、わかったよ。で、何で咲ちゃんがここに居るんだ?」


「えっ、それは……その……」


「咲斗お兄ちゃん……花宮さんの事を一人にしたら可哀想って、心配してた……だから……起きるまで傍に居てあげたみたい……」


「ネマチ!?」



ずっと黙り混んでいたネマチが、イヤホンを首に掛け、いきなり今までの経歴を暴露してきた。



「……咲ちゃん、私を幾つだと思ってんだ? もう立派な大人だぞ?」


「でも、花宮さんだって、悲しい時は悲しいでしょ? 悲しい感情に、歳なんて関係ないですよ」


「まぁ、そうかもしれないが……」




花宮さんはテーブルに置いてあったせんべいを取り、口に運んだ。喉に流した後、大きな溜息をついた。




「……正直な事言うとよ、咲ちゃんの言う通り、悲しかった。昔は身近な存在だったのに、今は遠い存在になった師匠……気持ちが落ち着かなくて、今日は寝込んじまった」



花宮さんが言っている師匠というのは、虎上の事だろう。



「今みたいに、咲ちゃんに意地張ってたのだって……強くならなきゃって、しっかりしなきゃって、だから弱い自分を見せちゃいけないって……」



今度はスマホを片手に持ち、ネットチラシを見ながら話している花宮さん。特売品を見つけたのか、何かしらの野菜にチェックマークを付けている。



「自分の弱い所を見せるのは、情けだ。師匠はそう言ってた」


「それは……違うと思う……」


「……どうしてだよ、ネマチ?」


「自分の弱い所を見せるのは、強い証。お姉ちゃんやゲームの人達がそう言ってた……」



ネマチも花宮さんと言ってる事は変わらないが、確かにネマチの言うことも正しいと思う。



「──言い返せねぇ。中学生に口説かれるとはな……でも、最近考えてたんだ、いつ私の事を話そうかって事」


「でも……花宮さんは、過去の事を聞かれて嫌じゃないんですか?」


「香織って名前まで知られちまった以上、もう何も乗り越える物はねぇよ。三月も知りたがってたみたいだし、咲ちゃんには師匠の存在もバレちまったし……明日、言える範囲まで話そうと思う」



花宮さんの目は、不安そうだった。知られてしまう事実と、どんな反応されてしまうかの恐怖でいっぱいなのだろう。だから、゛言える範囲まで゛なんて言ったのだろう。



「──まあ、こんな時間に起きてても仕方ねぇし、もう一回寝るか…………なぁ咲ちゃん、今日は、まだ私の傍に居てくれるか?」


「はい……えっ!?」



それは、俺は初めて見る、甘えた言葉を言う花宮さんだった。


いつもは頼りになる側なのに、今日は頼りになってあげる側となったみたいだ。



「なんだよその反応、嫌なのか……?」


「そんな事ないです!!まだ自分は起きてるから、傍にいます!」


「……そうか。そうだ、寝る前に一つだけ……師匠にヌンチャクでぶっ叩かれそうになった時、私を庇おうとしてくれて、ありがとよ。足が震えてるのに、それでも勇気を出して立ち向かってくれて……カッコよかったぞ」



俺の頭に、花宮さんの暖かい手が置かれ、ポンポン、と頭を撫でてくれた。



「あ、ありがとうございます……」


「花宮さん……湿布の変え……」


「ネマチもありがとな。私の勝手でこんな事になったのに、怪我の手当てしてくれて」



そして花宮さんは、ネマチの頭にも、ポンポン、と頭を撫でた。



「頭ポンポンされるの、好き……」


「誰だって、頭を撫でられたら嬉しいさ。私だってな……さ、二人も早く寝ろよ。おやすみ」



と言って、花宮さんは背をこちらに向けて、ソファに寝っ転がった。


さっきよりも、気持ちが落ち着いているような気がした。



「咲斗お兄ちゃん……ネマチ、もう寝るね……」


「え、最新のゲームはやらなくていいのか?」


「いい……そんなの、明日でも出来るし、この時間帯に起きてる人だって限られてるし……何より、折角花宮さんの事を聞けるんなら……聞く時に寝落ちしないように……寝れる時に寝ようと思って……」


「確かにな。……じゃあ俺も寝るか」


「うん……おやすみ……」



眼を擦りながら、ネマチは自室へと戻っていった。


ネマチの言う通り、今日はもう早く寝よう。話を聞きそびれたら、いつ聞けるかわからないし。


明日の事を楽しみにしながら、俺は体に毛布を掛け、花宮さんの寝息が聞こえる中で、瞼を閉じたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ