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第四十六話 師匠

今回は文量が少し多くなってしまったため、投稿が遅れてしまいました。すみませんでした。

 堂桜子さんの家に行ってから三日後、堂桜子さんから話を聞いて気が済んだのか、三月はしつこく花宮さんの過去を追求しなくなった。


愛佳の言う通り、後は自然に話してくれるのを待つ事を選んだらしい。懸命である。


...... これで本当にいいのか? 話として成り立たないじゃないか! というみんなの声は知らないふりとしよう。


暑い日差しの中、帰宅路を歩いて帰ってきたから、汗がびしょ濡れだ。月魄アジトに帰ってきたので、ひとまずシャワーを浴びる事にするか。あー......頭がボーっとする。


風呂のドアを開けると、小柄の何者かの背中が視界に入った。煙で見えづらい。



「もう、人が風呂に入ってるのに誰ですか......きゃああ!! さ、咲斗くん!? 何覗いてるんですか!?」


「うわぁ!! 三月!? 今日のシフトはどうしたの!?」


「今日はお休みって教えたじゃないですか!れ 咲斗くんこそ学校早かったんですか!?」


「愛佳から聞いてないのかよ!!」


「知りませんよそんな事!! てかいつまで見てるんですか!!」


「みみみ見てないですごめんなさいごめんなさい!!」


「大体、人影とかでわかるでしょう! そんな事にも気づかないなんて......この、変態咲斗くん!」



次の瞬間、俺の顔に三月からのシャワーの水が降り掛かった。そして、バタン! と大きな音を立て、ドアを閉めた。


......どうしよう、花宮さん所じゃなくなった。三月が風呂に入った後、何をすれば許してくれるだろうか......。



「咲斗兄ちゃん、三月姉ちゃんがシャワー浴びてるから......あ、遅かったかー」


「イマチ!! もっと早く教えてくれよ!!」


「しょうがないじゃん! 動画編集いい所だったんだから! てか咲斗兄ちゃんこそ、大体三月姉ちゃんの下着を見て、入ってるか入ってないか判断出来なかったの?」


「うっ、それは......」


「反論出来ないんじゃん。ま、私は知らないけどね」



と言って、脱衣所から出ていった。...... 目撃者が一人増えてしまった。しかも女。



俺は自分の愚かさを感じ、跪いていた。






シャワーを浴びて、髪を拭きながらリビングに戻ると、見られてしまったのが恥ずかしいのか、近くにあったぬいぐるみを抱いて座っていた。



「み、三月? さっきは本当にごめん......」


「......ふん、咲斗くんなんか知らないです」



この調子じゃ、三月は許してくれなさそうだ。顔をこっちにも見せてくれない。



「まあまあ、間違いなんて誰にでもあるよ。三月ちゃんも許してあげてよ?」



意外にも愛佳は、俺のことを庇ってくれている。なんでだろうか?



「簡単に許したら、咲斗くんは反省しません。愛佳さんは分からないんですか、他人に裸を見られたショックを」


「えっ......考えた事もなかった......ごめん......」



──愛佳は男の裸を見た事があるのか? すっごい焦った顔をしてる。



「とにかく、私は許しませんから。何をしても無駄です」


「じゃあ、饅頭をくれるって言ったら?」


「それは......まあ、その時は考えますけど。ってか、大家さん、いつからいたんですか......」



ドア付近に経っていた花宮さん。今日は珍しく、半袖のパーカーだ。



「咲斗くんなんか知らないです、辺りからだな。まあ話は何となく分かった。咲ちゃん、今から饅頭買いに行こうぜ。立間市に上手い和菓子屋があるんだ」


「は、はい! 案内してください!」


「よし、決まりだな。夕飯は白月に任せたから、飯の心配はしなくていいぞ。んじゃ、行くか」



三月の期限を治すべく、花宮さんと立間市へ行く事になった。







「はい、毎度ありね」



和菓子屋のおばさんから、饅頭が入った袋を貰った。


袋を覗くと、出来たてのいい匂いがする饅頭が、俺の鼻を擽らせる。



「うわぁ、美味そうだなぁ......」


「アジトに帰るまで我慢だぞ。にしても、まだこの時間帯は涼しくないな......」



今日も学校は午前終わりだった。現在の時刻は三時半、まだ日もそんなに沈んでないのだ。少し曇りがかっているいるも、暑い事には変わりない。



「あー、ちょっと疲れたから、そこのベンチで休もうぜ」


「うん、いいですよ」



俺と花宮さんは一旦腰を掛け、木陰のベンチで休むにした。



「ねぇ、花宮さん、何で俺と二人でここに来ようと思ったんですか?」


「はぁ? 逆に聞くがよ、三月ここに連れて来たら、空気最悪じゃねぇかよ。咲ちゃんはそんなの耐えられるのか?」


「た、耐えられないです......」


「だろ? それくらい察しろよな......なぁ、今まで聞かなかったけど、何で三月って名付けたんだ?」


「三月と初めて出会った頃、白衣を着てたじゃないですか。その時に、胸ポケットに三日月のワッペンが付いていて、そこから三月って名前を付けたんです」


「なるほどな......一体、本名は何なんだろうな......もしも三月の親御さんがいきなり来たら、私、どう反応するだろうな」


「それは三月にとってはいい事ですけど、我々にとっては、別れを意味しますからね……引き止める気持ちも分かりますが......」



三月との別れって、あるのだろうか。今まで当たり前の存在だったから、そんな事意識した事がなかった。


改めて質問されると、答えが出てこない物だ。



「でもよ、その瞬間が来た時の為に、私は三月を立派に育てなきゃいけねぇ。飯を食わせたり、家事の仕方を教えてやったり......でも、私は男っぽいから、お淑やかさとか育む力はねぇしよ......それは愛佳さんや佐田姉妹に自然と教わってればいいけどよ......」


「でも、自分はカッコいいと思いますよ、完璧な女性って感じで」


「私が完璧だって? んなわけねぇだろ。私にだって欠点は沢山あるさ。例えばよ……あん? 咲ちゃん、アレを見ろ」


「アレ?」



花宮さんが指した方に目を向けると、何かの作業服を来た人が三人程いた。もしかすると......いや、もしかしなくても......。



「......メカニズミカルですね。でも、俺は今イマグロガンを持ってないし......」


「私がとっちめてやる。またスマホで私の勇姿を撮っとけ」


「あ、ちょっと!」



花宮さんはポケットからヌンチャクを取り出し、三人組の方へと走っていった。一人で戦わせるのは少し不安だ。でも、花宮さんなら楽勝か......。



「おいメカニズミカル! こんな所で何してんだ!」



花宮さんの大きな一声で、三人組が一斉に俺らの方へ顔を向けた。だが、皆帽子を深くかぶっていて、顔がよく見えなかった。



「あん? ボスの命令で市調査をしてる俺らに文句あるのか? 邪魔するんだったら、こいつで大人しくなるんだな!」



先頭に立っていた小柄な男性が、花宮さんに一発球を打ってきた。だが、そんな物は効かず、キン! という音と共に、球をヌンチャクで跳ね返した。



「......この程度で大人しくなるって思ったなら、お前は相当な阿呆だな。ボスとやらに私の情報は行き届いていないのか?」


「う、うるせぇ!! おい23番!お前もつっ立って見てないで打て!!」


「わかってるよ! 今のは様子見だ様子見!」



と言って、今度は二人同時に乱射してきた。だが花宮さんは、それがどうしたと言わんばかりの顔で、次々と球をヌンチャクで跳ね返した。



「......ちぃっ、何で当たんねぇんだ......くそっ、こうなったら!!」


「おい待て58番。暴力は使うな」



突然、今まで何もしてなかった男が、58番の手を掴んで、攻撃を辞めさせた。この人がこのグループ内で一番地位が高いのだろうか。



「で、でも! 邪魔する奴は......」


「目には目を、ヌンチャクにはヌンチャクを、だろ? ......久しぶりだな、香織」


「......!! し、師匠!?」



帽子で隠れていた眼を露わにしたのは、あの日、月魄のアジトで花宮さんが見つけた、あの写真に写っていた男性だった。



「この九年間何やってたんだよ師匠!! 急に公園にも来なくなって......ずっと心配してたんだぞ!? なのに......なんでメカニズミカルなんかに......」



花宮さんは師匠と呼んでいる男性の胸ぐらを掴み、必死な顔で訴えかけていた。何だか、望まぬ再会を果たしてるようだ。



「ほら......昔みたいによ......また私と一緒に......」


「黙れ」


「......っ!!」



男は手に持っていたヌンチャクで、花宮さんの頬を殴った。頬は真っ赤で、抑えきれない痛みを左手で覆っていた。



「っ......何するんだよ師匠!! ......そうか、メカニズミカルに入って頭がおかしくなったんだな? だったら力ずくでも、その腐った思想を直してやる!!」


「ほう、俺が正気でないと言いたいのか。ならこれが真実だって教えてやる!!」



金属と金属が混じりあった瞬間、キン!!という鈍い音が響いた。


男性と花宮さんのお互いの強力なパワーは、俺の肉眼で見る限りでも岩も打ち砕く程の強さはあった。



「......久しぶりだな、このヌンチャクから伝わる師匠の強さ」


「幾つになっても、ヌンチャク裁きは衰えてない事は褒めてやる。だが所詮、師匠に勝る弟子なんかいねぇんだよ!」



次の瞬間、男はヌンチャクを花宮さんの左足に向かって強力な一撃を入れた。



「ぐ......左足が......だが、まだだ!」


「これだけの一撃を食らって、まだ立てるとでも言うのか? なら完全に立てなくなるまで身体を痛めつけてやろうか?」


「やめろ!!!」



自分でも無意識に、俺は花宮さんの前に立って両手を大きく広げていた。こんな過酷な状況で、呑気にスマホで撮影してられないという気持ちがあったからだろう。だけど、本音を言えば、足の震えが止まらない。



「あん? 急になんだボウズ? お前も香織の様に、このヌンチャクの餌食になりに来たのか?」


「こんな状況で、ただつっ立って見てられないだろ!! 男として代わりに受けてやる!!」


「......ほう、なかなか根性のある奴だな。その勇敢な姿を称えて、今回は見逃してやろう。一応聞くが名前は?」


「......柳水 咲斗。あんたは?」


虎上 牙(とらがみ きば) だ。メカニズミカルの第二グループの副幹部をやっている。筒音 絵亜(つつおと えあ)と同じ立場、と言ったら分かりやすいか。......暫くの間、ボスの命令でここを調査してるから、邪魔してくるんじゃねえぞ。ほらお前ら、今日は切り上げだ。さっさと帰るぞ」



 虎上は他の団員を連れ、この通りから離れようとした。が、左足を負傷しながらも、必死に立ち上がった花宮さんは、虎上の服を掴んで、足を止めさせた。



「最後に一つだけだ......何故メカ二ズミカルに入ったのかだけ教えてくれ......師匠......」


「......お前の親父さんに聞け。俺はな、お前の親父に()()()()()()()()()な?」



 虎上は凄い勢いで、花宮さんを振り払った。そして、そのまま路地裏へと入って、姿を消してしまった。



「師匠......何で......」

 


 体を色々痛められた花宮さんは、気力を無くしてしまった。色々な場所が、赤くなっている。



 その時、まるで神が煽っているかのように、季節遅れの雨が降って来た。それは、悲しみで溢れた雨だった。

 


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