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第三十七話 GW四日目、月魄の日常

 GW四日目、いつものように音ゲーをしにショットへ向かう......途中でフラワーパレスに寄っていき、部屋の前でこう叫ぶのだ。




「リンク・オープンっ!!」




 合言葉を言うと、部屋の中から出てきた光が俺を包み込み、俺の意識が消えていくのであった。



 数秒後、目が覚めると、そこは月魄のアジトだった。そう、今日も俺は、月魄の一員として活動する為に、ここに来たのであったのだ......。



「なーに咲斗兄ちゃん、一人でぶつぶつ話しててキモイよ?」


「うるさいなイマチ、気分的にそう言いたかったんだよ。んで、涼太くんは?」


「徹夜でブログ書いていたから、まだ寝てるよ? 睡眠の邪魔したら鬼のように怒こって来るから、声かけないようにねー。さてと、私もゲーム実況の収録してくるかね......」




 そう言って、イマチは自身の部屋へと戻っていった。先程、"月魄の一員"と供述しましたが、対して自分は何も活躍できていない事をこの場を借りて謝罪したいと思います。


 またそんなキモイ独り言を言いながら、リビングへと入っていくと、ソファで横になって、モンスター厳選をしているネマチの姿があった。腹を出して、みっともないんだから......。




「......咲斗お兄ちゃん、ポテチ買ってきてよ」


「たった今着た人に言うセリフじゃないだろ。暇なら自分で買ってくればいいじゃんか?」


「今日は動きたくないデーだから......」


「そういえば、今日ここから三つ先の町のNEOで中古ゲーム半額セールやってるらしいよ」


「行ってきます......」




 動きたくないデーの決まりを早速破ったネマチは、玄関から飛び出した。ゲームという響きに弱い彼女にとってはパワーワードだっただろうか。



 そんなネマチと入れ替わるかのように、愛佳がリビングの中に入って来た。



「やあやあ柳水くん、この前の疲れは取れた?」


「だいぶ良くなったよ。じゃあ、早速宿題を片付けちゃおうか」



 今日の目的はというと、愛佳と一緒に宿題をやる、というものだった。GWという短期休みに、多大な宿題というのはセットみたいなものだから、早めに片づけないと、後で鳴く羽目になるからね。




「月魄にはもう慣れた?」


「まあね。シェアハウスだと思えばなんて事ないさ」


「ならよかった。そういえば、三月ちゃんと花宮さんは?」


「午後から来るってさ。......あの二人は来て何をすればいいんだろうな」



 そんな事を思いながら、沢山の課題が残された数学のワークを開くのであった。






「......はあ~! やっと終わった!」


「現実から逃げるな、まだ4ページ残ってるだろ?」


「いいじゃんいいじゃん、休憩も大切だよ? もうお昼なんだし、焼きそば作ってあげる!」


「そうですか......俺も手伝うよ」




 愛佳の後を追って、台所へと向かい、冷蔵庫の中から具材を取り出すのだった。



「じゃあ柳水くんはニンジン切ってくれる?」


「了解。......なあ、夏音市で言ってた、"アイツ"さんの事はもう大丈夫?」


「......大丈夫なわけないよ。まだ忘れられる訳ないじゃん」




 俺の空気の読めない発言によって、バットコミュニケーションの選択が選ばれてしまったようだ。......だが、いつまでも引きずっている訳にはいかないだろう。




「......一回、"アイツ"さん話してみない? いつまでも気にしていたら、ずっとその思いを背負ったまま生きていくかもしれないよ?」


「で、でも私、そんな自信ないよ......」


「何弱気になっているんだよ、愛佳らしくないぞ? きっと大丈夫だからさ、俺が保証してあげるから」


「......そうだね、そうだよね。わかった、これを作って食べたら、アイツの所に行ってくる」





 元気になった愛佳は、またキャベツを切り始めた。その横顔は、なんだか自信に溢れていた。





「ただいま......フフフ、大量に買えた......」





リビングに入って来たのは、買い物を終えたネマチだった。




「お帰り、ネマチ......って何だその大量に入ってる袋は?」


「これ......? もちろん厳選用、通信交換用、シリーズ物実況の為のROM......」


「またネマチそんなに買ってきたの? まあネマチのお小遣いで買ったから文句は言えないけど......とりあえず荷物置いたら手を洗って、私らの手伝いしてくれる?」


「了解、愛佳お姉ちゃん......」





──俺も人の事は言えない。音ゲーやる為の手袋をもう50個は持っているのだから。リズムトレジャーなど、主にやる五つの音ゲー用と、保存用で集めてるから......。






「ねぇ咲斗お兄ちゃん、ネマチが食材切る担当に変わるから......イマチを呼んできてくれる......?」


「ああ、いいぞ。包丁に気を付けるんだぞ?」


「咲斗お兄ちゃんよりは包丁握ってる回数多いもん......」




あまりそういう発言は慎みなさい、いろいろ誤解を招く原因になるだろ......。






「はーい、開けていいよー」




イマチの部屋のドアにノックをし、許可を貰った俺は部屋に入った。


日中だと言うのに、部屋の雰囲気は暗く、体に悪そうな環境でイマチは動画編集をしていた。




「んで、咲斗兄ちゃんは何のご用でここに来たのかな?」


「ネマチが俺に呼んできてって頼まれたから来たんだ。にしても、電気くらいは付けろよ」




俺が電気を付ける紐を引っ張ろうとすると、イマチは急に立ち上がり、俺の手を掴み、それを横に払った。





「駄目! これがいいの! 暗い方が集中出来るの!もう眼鏡掛けてるし、これ以上目は悪くならないし、ナイトシフトモード使ってるから大丈夫......」


「分かった分かった! 邪魔してすみませんでした!」





......そんな彼女が編集している動画を見ると、やっぱり大変そうな工夫が沢山用意されていた。


SE、字幕、エフェクト......これを中学生がやってるんだぜ?





「ねぇ咲斗兄ちゃん、今度コラボ実況しよーよ。ウィローくんの知名度をアップさせてあげようじゃない」


「は!? なんで俺のチャンネル名知ってるんだよ!?」


「そりゃあ私、あの36人のチャンネル登録者の内の一人だもの。よく勉強配信とかやってるでしょ? いつも笑いを抑えながら観てるよ 」





あああああああ!!! 特定出来る物は何も無かった筈なのに!! 声はちょっと出してたけど!!




「で、ネマチが呼んでるって? じゃあ一旦休憩がてら行きますか。あ、ドア閉めてきてね」




イマチが部屋から出ていく中、俺は膝を着いて落ち込んでいた。身バレ......身バレだけは気をつけてたのに......。



そして俺は、愛佳に呼ばれるまで、ずっと跪いていたのだった。






「ふぁあ......今何時......?」




寝惚けた我が月魄のリーダー、涼太くんが激しい寝癖を立てながら、リビングに入ってきた。


眼はまだ半空きで、服はシワシワで、この状態で外には出れない容姿だった。




「12時半だよリーダー。いいブログは書けた?」


「ああ、この前の夏音市訪問でいいネタがいっぱいあったから、最高の記事が書けた。...... ネマチ、またそんなにゲームソフト買ってきたのか?」


「涼太お兄ちゃんまで......? 趣味だし......これで収入得てる訳だし......文句は言えないはず......」


「うっ......悪かった、ああ悪かった」



ネマチの圧のあるその言葉は、本当に文句が出なかったようだ。今の時代、動画実況している人の方が地位が高いのか......。





「早く食べないと焼きそば冷めちゃうよ。ほらほら、みんな席に着いて!」





月魄内一番のお姉さん、愛佳は指揮を執って、みんなをダイニングテーブルに座らせた。





「はい、じゃあいただきます!」




愛佳の合図で、楽しい昼食が始まるのであった……。






「後片付けやらせてごめんね? あと、この事はみんなには言わないでね......じゃあ、行ってくるね」


「ああ、行ってらっしゃい」




リンクオープンを決めた愛佳は、光に包まれて、アジトから消えてった。


ちゃんと気持ち伝えてこい、という気持ちを込めながら、俺は見送った。



......このように、月魄は毎日過ごしているらしい。一昨日の感じからだと、考えられないだろう?



昨日、一昨日で彼女ら一緒に居たが、分かったことが幾つかある。




一つ目は、ここは異空間にあると誰かが言っていたが、それは嘘だったっぽい。出入口のドアノブを開けたら、そこは普通の町だったのだ。


だから、電気も水道も、通っていて当たり前なのである。誰や、そんな事言った奴。




二つ目は、みんな何かしらの武器、能力を持っているらしい。涼太くんはロックシード、愛佳は電刀、響也さんはサイコキネシス......などなどだ。


武器の調達は、月魄に残っていたもの、愛佳の実家直伝のもの......普通じゃあ有り得ない家庭環境に恵まれているものだ。




三つ目は特に大したことは無いのだが、このアジトは来たい時に来ていいが、一週間に一度は顔を合わせなくては行けないらしい。


これも信頼度を上げるためだ、と昔のメンバーが言ってたらしい。......まあ悪くはないけど。



これらの他にも、まだまだ謎は残っている。だが、早い内に知らない方がいい事だってあるさ。一変に分かっちゃったら、面白くないもんね。




「......何一人でブツブツ言ってるんですか?」


「みみみ三月!? それに花宮さん!? いつから居たの!?」



後ろを振り返ると、冷たい視線を向けた三月と花宮さんが立っていた。



「さっき来たばかりだが...... 皿洗い変わってやろうか? 二人とも遊んできな」



「あ、ありがとうございます......」




お言葉に甘えさせて貰い、俺は休憩をとることにした。



ソファに向かうと、さっきと全く同じ格好で、モンスター厳選をしているネマチがいた。


最初会った時はオドオド系かと思ったのに、全くそんな素振りを見せることはなかった。もう俺らに慣れたっている証かもな。




「あ、ネマチさん、こんにちは」


「三月お姉ちゃん...... さん付け禁止でしょ......」


「......! ご、ごめんなさい、ネマチさ......ちゃん......」




三月は例え歳下だろうが、関係なく敬語を使ってしまう。礼儀正しいから悪い事ではないのだが......。



「まあいいや......三月お姉ちゃん、そっちのゲーム機で孵化厳選手伝ってくれない......? なーんて、わかるわけ......え、何でやり方分かるの......?」


「え、何となくですが? ......もしかしたら昔、私もこれをやっていたのかもしれませんね」




ここで新たな情報が一つ入ったが、そこまで大した事はなかった。ロード画面で出てくる『○○のヒミツ』みたいなのに載るレベルだし。




「じ、自分でやるから、今は大丈夫......また今度手伝わせてもらうね......」


「は、はい......そう言えばネマチちゃん、宿題は終わったんですか?」




三月がそう言うと、厳選中のネマチは手が止まり、俺らの反対方向の向きに顔を向けた。どうやら現実から目を逸らしたいようだ。




「終わってないんですね......一体何が残ってるんですか?」


「す、数学......響也お兄ちゃんに見てもらった時も......分からなくて寝ちゃって......」


「じゃあ、今度は三月お姉さんに任せてください。こう見えて、高卒レベルの頭脳はあるんですよ私。ほら、勉強道具取って来てください」


「わ、わかった......」



そんな高卒レベルの三月お姉さんの指示に従って、納得のいかない顔をしながらも、ネマチは勉強道具を取りに行った。


──てかさ、俺より三月の方が頭良いんだよな......なんか屈辱的......。




「......咲斗くん、私、お姉さんっぽいですか?」


「ああ、そうかもな。だけど、まだ愛佳には叶わないかな?」


「む......それは経験年数の違いですし......多少は見逃して下さい......」



そう言い訳する所はお姉さんっぽくないんだよなぁ。他に足りないのは、まだ完璧じゃないというか、身長が佐田姉妹と変わらないというか......。



「ふぅ、終わった終わった......どうだ三月、ちゃんとお姉さん出来てるか? ここに来る前に、あんなにお姉さんになりたいってずっと言ってたからよ......」


「ちょ花宮さん!! ここで暴露話するのやめてくださいよ!!」


「へぇ......三月お姉ちゃんそんな事言ってたんだ......かわいい」


「ネネネマチちゃん!? 聞いてたんですか!? ......もう! とにかく宿題開始しますよ!!」



顔から火が出そうな程、恥ずかしさ顔を真っ赤にした自称三月お姉さんは、顔を俺らへ向けてくれなかった。


この様子じゃあ、まだまだ、お姉さんへの道は遠いな......。





「どうだ、私の作った海老フライの味は?」


「んん〜! プリプリした海老とサクサクした衣が合わさって、しゃいこうですぅ......」




 今晩の夕飯は、以前花宮さんが三月に作ってあげると言っていた、海老フライだ。それぞれみんな、美味しそうな顔をしている。




「悪いっすね、こんな美味い料理まで作って貰っちゃって......」


「いいんだよ白月、これも年上の権限だからよ。あんたもいっぱい甘えていいからな」




 花宮さんが来てから、月魄の最年長は花宮さんになったらしい。響也さんの年齢は21歳らしく、二つ下という事になる。


 今まで最年長だった涼太くんにとっては、今の環境は安心感があるんじゃないだろうか。




「なあ咲斗、今日も一日楽しかったか?」


「な、何急にそんな質問してきて......楽しかったよ、涼太くん」


「それならよかった。こんな人らと一緒に過ごして大変かと思ってさ......」




 それは涼太くんも含まれているのかな? まあ確かに変わった個性をもっているな。暗がり編集者のイマチ、厳選厨のネマチ、謎のブロガー、涼太くん......あんたら本当に盗賊か?




「咲ちゃん、三月、これ食ったら、卯月町に帰るぞ」


「えーもう帰っちゃうのー? イマチ寂しい!」


「イマチちゃん、また近いうちに来ますから、その時また遊びましょう?」


「うん! 約束ね!」




 明日は、俺も久しぶりの一人での休日だ。......とは言っても、またショットでリズムトレジャー周回だろうけど。






「それじゃあ咲斗くん、気を付けて帰ってください」


「じゃあな、咲ちゃん」


「ありがとう二人とも、バイバイ」




 フラワーパレスで二人に見送られながら、俺は帰路を辿った。


 


 ......夢のようだ。こんな楽しい生活をできるなんて、高校一年の時ですら思わなかっただろう。こんなに恵まれて、俺は幸せだ。



 あの時、三月と会ってなかったなら、また放課後にリズムトレジャーで遊んでいる生活を続けていただろう。


 イキリ陰キャみたいでも、リア充みたいだって別にそれで構わない。そんなの、なったもん勝ちだもん。......これ以上は言わないしておこう。



 こんな楽しい時間が、いつまでも続けばいいな......ふと終わっちゃったりするのかな......あああダメダメ!! 過去の事はもう捨てたんだ!! 思い出しちゃいけない!! 



 そんな、()()()過去の記憶を蘇らせないために、また月を見上げながら帰ったのだった......




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