第三十五話 レイレンとサキアイ
読みやすいようにパワーアップしました!
今から四年前...... 入学したてくらいの話が丁度いいだろう。
とある中学に入学した俺は、クラスの自己紹介に見事失敗し、特殊な人間だと思われて、周りの同級生は俺に話しかける事はなかった。まあ特殊なのは事実だが。
常にボッチだった。定番の体育で二人組を作る時だって、いつも組む人がいなくて先生と一緒にやっていた。昼休みだって、いつも一人でうつ伏せになって、次の授業が来るのを待っていた。…… 悲しくなるだけだよな、こんなの。
そんなボッチの俺でも、ちゃんと娯楽はあった。放課後、家に帰ったらすぐに学校の鞄を放り投げて、ある程度の小銭を持ち、近くのゲームセンターへと自転車を走らせた。
そして、入店してから奥に向かい、左の隅っこにある、とある格ゲーをやるために椅子に座り、ハイスコアを目指す。これがいつもの流れだ。これ程幸せな事はない。
突然だが、皆は一人でゲームセンターに行く事はあるだろうか? そんな奴は共感できると思うが、友達同士で来た奴らと会う時、なんか気まづくならないだろうか? 「あーあいつ一人だーwww 」みたいな眼で見られないだろうか?
俺はそんな対策も兼ねて、店の人に事情を説明し、店内にいる間は幽霊の仮面を付けさせて貰う事にしてもらった。勿論、今でもお気に入りだ。
おっと、話が逸れてしまったな。これは失礼した。
ある日、いつものように格ゲーをやっていたのだが、突如『乱入者が現れました。挑戦を挑みますか?』の文字が浮かんできた。こんな過疎ゲームに挑戦者だと? 俺は面白くなってきて、その挑戦を挑むことにした。
最初は俺が勝っていた。ハハッ、仕組みの分からない初心者が挑んできただけか、と舐めプをしていた。しかし、挑戦者は俺の油断を薄めようとしたのか、ジワジワと俺の体力を削っていき、とうとう俺の画面には『 YOU LOSE』、つまり負けを宣告する文字が映っていた。
驚きの余り、俺は台を回り、どいつに負けたんだ!? と確認をした所、見た事のある女の顔だった。だが、それは誰だかは当時わからなかった。
世界を知らなかった。まだこのゲームをやっている奴が他にも存在していて、しかもそいつは俺よりも強かった。俺は自惚れていたんだと、悔しさの余り、その場で涙を流してしまった。
後日、いつものように学校に行くと、昨日の挑戦者は直ぐにわかった。七咲愛佳という奴だ。
俺は気になって、その日は一日中、愛佳の事を見ていた。あ、別にそんな気になるとかじゃねぇし!? 観察だよ観察!!
……それで分かったことは、人と全く関わってない、という事だ。俺と同じ、何をするもボッチで、俺と同じ、いつも机にうつ伏せになって寝ていた。寝てはないか……。
俺はそんな愛佳は気が合うんじゃないか? と思い声を掛けようとしたが、昨日負けた奴だと認知されたらどうしようか、という弱気な気持ちが出てしまい、声を掛けることは出来なかった。
※
ある日、ゲームセンターの店長がこんな企画を立ててくれた。その名も『古参勢・新規勢大歓迎! 格ゲーNo.1 決定戦』という物だ。
かなり古い格ゲーだったから、昔やっていた人はもう立派な大人になっていだろう。だがそんな人ほど、昔の人も楽しんでプレイしよう!という企画だ。
当日参加したのは、俺を含めて16人、もちろん愛佳もそこにいた。まあ後の14人は暇だったから参加した、という企画的には失敗だった。だが俺の目標は、愛佳を倒すことだったから、企画なんて心底どうでもよかった。
とうとう登り詰めた決勝戦、相手はもちろん、愛佳だ。緊張しながら椅子に座った俺に、愛佳はこんな事を言ってきた。
「ねぇ、私その仮面の下を見てみたいな。そうだ! 私が勝ったら、そのお面外してよ!」
意外だった。こんなハッキリと話す愛佳の姿は、授業中にも見せないからだ。そんな気持ちを奮い立たせる程、このゲームに情熱を持っているのだろうか。
「…… ああ、いいだろう!だが、俺が勝ったら、何か隠している事でも話して貰うよ!」
俺の口は勝手に動いていた。不思議と、何故か負ける気がしなかった。中学生って、そんな物だからかな?
そしてとうとう、リベンジを果たす時がやって来た。あの日から愛佳のプレイスタイルを研究して、どういう戦法で来るか、そんなのは分かっていた……はずだった。
俺の知らないコンボ技を次々と使って、往来のプレイスタイルとは全く違う戦法で戦って来た。負ける……また負ける……頼む、奇跡を起こせ!
──そんな思いは届かず、またしても俺の画面には『YOU LOSE』の文字が浮かんでしまった。ああ、また負けてしまったんだ。
「さてと、約束通り、その素顔を見せて貰おうか? それっ!!」
「うわぁっ!!」
愛佳は何の予告も無しに、急に仮面を外して来た。俺は怯えた顔を愛佳に見せてしまった。
「…… やっぱり、蓮くんだったんだね」
「し、知ってたの?」
「何となくだよ。プレイヤーネームが『REIREN』って時点で予想はつくしね」
何だか、隠していた自分が恥ずかしくなってきてしまった。隠しきれてない物を必死に隠そうとしていた、俺は本当に馬鹿だ。
「ねぇ、これから蓮くんの事、『レイレン』って呼んでもいい? 私の事もプレイヤーネームの『サキアイ』って呼んでいいからさ!」
「え、えぇ……」
「あれぇ? 敗者は言う事を聞く物じゃない? ね、レイレン?」
この時から、愛佳は脅すのが得意であった。当時はそんな威圧に思わずOKを出してしまったが、今だったらどんな返事をしただろう。
この時から、俺は愛佳の事を『サキアイ』、愛佳は俺の事を『レイレン』と呼びあうようになった。
俺が何でこの名前で呼ばれるのを嫌うかと言うと、敵同士となってしまった今、この負けたという事実を思い出してしまうからである。
まあ、そんな下らない理由だな。
※
この話はまだ終っちゃいない。もう少しだけ付き合ってくれ。
この事件の後……と言っていいのか分からんが、俺たちは徐々に仲が良くなった。学校で話す話題と言えば、格ゲーの事しかなかった。
後日、愛佳の家にお邪魔することになった。人生で初めて友達の家に上がったのが女の子の家なんて口が裂けても言えな……言っちゃった。
まあいい。愛佳の部屋に入ってからアレがすぐに眼に入った。あの格ゲーの筐体が隅に置いてあったのだ。おれは驚きを隠せず、気づけば筐体の前に立っていた。
「私が強い理由、これでわかったでしょ?」
「ああ……にしても、どこて手に入れたんだこんなの?」
「数年前、閉店したスーパーにあったこれを、パパが買い取ってくれたんだ。五千円くらいで済んだみたいだよ」
へぇ、意外と安く帰るもんなんだなぁ、こういう筐体って。そう思いながら俺はコントローラーを握り、ステージ1の相手を倒そうとした。
「……なあサキアイ、あの日もしも俺が勝っていたら、何を明かすつもりだったんだ?」
「…… えー、それ言わなきゃダメ?」
「そんな硬い事言わなくてもいいだろ?」
「じゃあ、一度しか言わないからよく聞いててよ?
私と友達になってくれる?
……そう言おうと思ったんだ。」
それは、愛佳が初めて見せた、照れた表情だった。頬を人差し指で触りながら、恥ずかしい気持ちを押し切って、俺に伝えてくれたのだ。
「……もうそれを言う必要なんかないでしょ。私の中学で初めて出来た友達の、レイレン?」
「は、恥ずかしい事を言うなよ…… ほら、協力プレイでもやるぞ」
「うん! やろやろ!」
俺もありがとう、ぐらいは言いたかった。だが、コミュ症の俺には、そんな勇気はなかった。……いつか言う日なんて来るんだろうか。……知らねーけど。




