第三十三話 ブラック企業に休みがやって来る
ここからレイレンこと、幻霊 蓮パートです。
GW二日目、俺と里島はアジトに一回戻ることにした。乙葉との約束もあるし、何よりもちゃんとやってるのかどうか知りたいからだ。
この前咲斗に聞いた夏音市訪問の件だが、今頃何をやってんだがな。あそこは別に何にもないし、月魄の奴らは何を目的にして行ってんだ? 謎だな...... 何だか少しうらやましいかもな、なんて。
「ボス、もう少しでアジトに着きますよ。降りる準備を初めてください」
「ハイハイ、分かった分かった...... なあ里島、お前は休み欲しいか?」
「わ、私ですか? えーと...... 貰えるなら欲しいですが......」
「よしわかった。GW終了までは、メカニズミカルの活動を休止する事にしよう」
その瞬間、車は急ブレーキがかかった。何も障害物などもないのに、突然車は止まった。
「てててて...... あ、危ねぇじゃねぇか! 車通りが少ない所だから助かったけど、高速道路でやったら迷惑かかるだろ!」
「だだだだだって! ボスが急にそんな事言うからですよ! 土日休みもないメカニズミカルが急に休めるなんて、ボス頭おかしくなったんじゃないですか!?」
「殴るぞ? たまの休みは人を癒す。それに、過労死してしまう団員がいたら困ると思ってな」
そう、たまにのサービスは大切だ。会社で言う社長の立場の俺は、団員に指示する権利を持っている。言わば、俺の指示には絶対に従わなくては行けないのだ。だからこれは絶対に休めという命令でもあるのだ。
「ボス、今から全速力で車のスピードを上げます。しっかり捕まっててください」
「馬鹿! そんなスピード出さなくてもいいからああああああああ!!!!」
メカニズミカルの革命だと感じたのか、里島は風を切るスピードでアクセルを踏んだ。折角命が助かったのに、またすぐ命を無くしそうで怖い。
「ボスが帰ってきたらと思ったら、急に食堂に集合なんて、どうしたんだろうな?」
「もしかすると、休みとかくれるかもしれないぞ?」
「まさか! 土日休みがないメカニズミカルが休みだなんて有り得ないでしょ? 祝日の日も大体休ませてくれないし」
団員はそんな事を口にしているが、俺は相当最低な事をしていたかもしれない。思い返してみれば、休みが一度もないとか、法律的にもアウトだし、何よりも団員が可哀想だ。
「皆さん静かに。ただ今より、お帰りなさい会に合わせ、ボスからのご報告があります。それではボス、お願いします」
里島が左手を下にだし、こちらへと案内してきた。そして、俺は壇上に上がって、マイクを構えた。
「えー...... 団員のみなさん、普段の活動お疲れ様。まずは俺がいなかった間に何か重大な事があったか聞きたい。乙葉、壇上に上がってこい」
「はぁい! ボスぅ~、会いたかったよ~」
乙葉は俺の頬を乙葉の頬でスリスリしてきやがった。ここでガツンと叱りたいが、久しぶりの再開だから、少しは許してやろう。
「ん゛ん゛っ、乙葉、ボスの言った事をもう忘れたの?」
「わ、わかってるし! えっとね......ボスがいない間も、基礎練を怠らず、狙撃訓練もやったよ! ...... でも、一つだけ問題が」
「何だ、その問題とやらは?」
「それがね...... 筒音絵亜と、その部下たちが、昨日から見当たらないの......」
な、何だと!? 筒音絵亜がいない!?
「な、何か心当たりはないか!? 些細なことでもいい、教えてくれ!」
「...... 恐らくだけど、高牧の事と関係はあるとは思う。高牧がいなくなってから、あの子の様子変だし......」
高牧...... 確かに絵亜は高牧班の副リーダー的存在だったが、それ以外に何が関係があるだろうか?
バン!! と扉がいきなり開く音が聞こえ、食堂にいる全員が音が聞こえた方へ視線を集めると、ボロボロになった絵亜が、ドアにへばりついていた。俺はすぐさま壇上から降り、足を震えさせながらも必死で立とうとする絵亜の傍に駆け寄った。
「絵亜! こんなボロボロになってどうしたんだ!?」
「な、夏音市に行って、サキアイを潰しに行ってました……」
「な、なんでお前が月魄が夏音市に行ってるなんて知ってんだよ!? メカニズミカル内でもその話はしてないぞ!?」
「実は...... ボスが咲斗と話してるのを廊下で偶然聞いてしまって...... 私も今年の春から卯月高校に入ったってボスには報告したはずですが......?」
...... そうだった。こいつも俺と同じ卯月高校に入学したんだった。偶然聞いてしまってのなら、確かに俺が悪いかもしれない。
「...... でも絵亜、サキアイを潰すってのは、間違ってるんじゃない?」
「...... 乙葉はどうしてそう思うのよ?」
「だって、私たちは自ら攻めに行くんじゃなくて、戦ってきた者からの攻撃を防ぐ為に、こういう体制をとっているの。自分達から行くってのは、ボスも望まないはずよ」
「そ、そうなの……? ボス、本当にそうなの?」
「ああ、残念だが、俺は絵亜のやり方を褒める事は出来ない。俺たちは既に兵器を作るという悪い事をしているのに、更に罪を重ねる事はしたくない。それに、潰すって表現はちょっと良くないな」
俺は少し背を低くして、絵亜の目線と同じくするように、絵亜の肩に手を置いた。
「絵亜には言ってなかったな。一応サキアイは俺の幼なじみだ。だったら、こんな喧嘩しないで仲良くすればいいという話だろ? だが、そう上手くは行かないんだよ。メカニズミカル結成時、あいつを仲間にしようとも考えた。でも、俺の家庭の事情で事件に巻き込ませるなんて最低な事出来ない」
「...... ボスは何が言いたいんですか?」
──あれ、確かに俺は何が言いたかったんだろうか? 俺はサキアイのライバルではあるが、幼なじみでもある。ならどうしてあの様な態度を取ってしまうのだろうか......?
「絵亜、とにかくボスの報告が終わったら、直ぐに田畑の所に行って手当をしてもらいなさい。そしてボス、あの報告は良いのですか?」
「...... そうだったな。よし、いいか皆、明日からGW中は、メカニズミカルの活動を一切禁止する!」
「ぼ、ボス、それって!!」
「ああ、お前らはGW中は好きな事をするがいい! 友達と遊んでもいい、買い物に出かけてもいい、何なら家で寝ててもいい!!」
食堂中に、休みを喜ぶ部員の声が響き渡った。ざっと見ると、七割が喜んでる顔、二割がマジ? って顔、一割は、え、いいんですか? という顔だった。
「じゃあボス! 遊園地に行く約束はちゃんと守ってくれるんですか!?」
「ああ、その為の休みだからな。そして、もう一つ課題が出来たから、それを達成する事でもあるな」
「わぁい! ボス大好き〜! ...... おいお前らぁぁぁ!! 何ニヤニヤしてんだぁぁ!! 」
「「「す、すみません!!」」」
極度なツンデレは健在のようだ。なんだか部下が可愛そうに思えてきたかもしんない。
報告会を終えると、部員達は鞄を手にして、一斉にアジトから帰って行った。嬉しそうな人ばかりだが、その反面、悲しそうな人もいる。
「......絵亜、他に痛む所はないか?」
「はい......私はモーニングスター使いですから、怪我なんかなんてそのですから......ひっ!」
「やっぱりまだ回復に時間がかかるか......それにしても、なんでサキアイを倒せるなんて思ったんだ? まだお前の力じゃ、叶う相手じゃないだろ?」
すると絵亜は急に顔を沈めて、大きなため息をついた。
「...... ボスに認めて欲しかったんです。私らのグループだって、やれば他のグループと同じくらいの実力はあるのに、いつも見下されて先を越される......全部高牧のせいなんですよ!! あいつのせいでイメージが下がったんですよ!! ......だから、今が見返せるチャンスだと思って......」
「そうか......それは辛い思いをさせてしまったな。でも、高牧だって、今の原状を変えようって頑張ってたんだぞ」
「......え?」
絵亜は驚いた表情を俺に見せた。
「あいつは毎日のように、影ノ一を捕まえようと、しなくてもいい事を率先してやっていた。失敗する度に、俺に謝りに来ていた。裏で一番になろうと、必死に頑張っていんだ。俺はそんな姿を見て、あいつにミッションを託した。確かお前が風邪で寝込んでいた時だったから知らないと思うがな。そいてあいつは、とうとう帰って来なくなった。俺がもっとちゃんとしていたら、大切な幹部を失う事なんてなかったんだがな......お前だって、少し高牧に似ているじゃん」
「ど、どこがですか?」
「言っただろ、しなくてもいい事を率先してやっているんだよ。同じ過ちをもう繰り返したくないんだ。乙葉にはしっかりと絵亜の気持ちを言っておくから、また何かされたら、俺に電話するがいい。それか、学校でもいいぞ」
ぱぁぁ! と、絵亜の表情は明るくなった。心の中で縛られていた鎖が、一気に壊れるように、気持ちが軽くなったかもしれない。
「ウフフ、どうやら仲直りできたようね。私は家に帰ったって何もないから、このアジトの見回りでもしようかしらね」
「それでもいいけど、活動は禁止だから、くれぐれも気をつけてよ。あ、ここに残る奴がいるならその奴らの面倒も見てくれないかな?」
「いいわよ。それで、絵亜ちゃんはどうするの? お家に帰る?」
「うん、そうするわ。少しは親と弟に顔を見せてやらなくちゃね」
「そういえば絵亜ちゃんのご両親は厳しいんだったのよね。寮に入ってるって言って、親に誤魔化してるんでしょ?」
「そうよ、こんな組織に入ってるなんて、口が滑っても言えないじゃない」
ごもっともです。アットホームな職場です! って言って実はブラック企業でしたーww見たいな感じだからなうちの組織。
「とりあえず絵亜、支度をしてさっさとここから出な。家はどこだったっけ?」
「北波市です。卯月町の六つ先です」
「じゃあそこまで見送ってあげるから、ほら急いだ急いだ」
そう言って、絵亜を自身の部屋に行かせた。俺は里島に電話を入れようと、スマホを取り出した。
「蓮くんって、案外面倒見いいわよね。どこでそんなスキル身に着けたの?」
「知らないよ。体が勝手にそうなるんだからな」
「本当? 妹とかいたんじゃないの?」
「......かもしれないね」
奇妙な質問をされて、少し戸惑いながらも、俺は里島のアカウントを見つけ、赤い通話ボタンを押したのだった。
「本当にいいんですか、家まで送ってくれちゃって?」
「いくらモーニングソルト使いだからって、所詮お前は少女なんだから、少しはか弱い所を見せるのだっていいだろ?」
「理由になってますそれ? あ、ここが私の家です」
たどり着いたのは、住宅街に並んだごく普通の一軒家だった。
「あ、お姉ちゃんー! お帰りなさい!」
「大、ただいま。いい子にしていたかしら?」
「うん! 僕ちゃんとしていたよ! それで、そこにいるのはお姉ちゃんの彼氏?」
「ちちちち違うわよ! 先輩先輩!!」
せ、先輩? まあ間違ってはないか。弟にも誤魔化してるんならね偽っても別にいいかな。絵亜が話している子は、見た目が中学一年生くらいのショ......少年だった。
「絵亜、しっかり休むんだぞ?」
「わ、わかりました! って大、どうしたの?」
「......お兄ちゃん、もしかしてファントムR?」
その瞬間、俺の体は一瞬固まった。まさかここでネットネームを知ってる奴が現れるとは思ってなかったから。だが、これからどう誤魔化すか?
「えーっと......俺はファントムRじゃないけど、知り合いではあるよ。そうだ、今度大くんにサインあげるよ」
「えっいいの!? ありがとうお兄ちゃん! わーいお母さーん!」
そういって大くんは、家の中に走っていった。元気なショ......少年だ。
「ほ、本当にいいんですかボス?」
「サインを書く事なんてお安い御用だ。それに、ファンだってことが何よりも嬉しいからな。......あの声を聞き分ける声はすごいな」
「だ、第大をメカ二ズミカルに誘う予定はありませんからね!?」
「わかってるって。じゃあそろそろ、俺もやる事が残っているから、これで失礼する。またGW明けでな」
絵亜に手を振って、玄関の前から立ち去った。彼氏面っぽくな。
「さて、里島の所にでも戻るか......ってうわっ! な、何やってんだよ里島!?」
家の門を出て、右に曲がろうとした瞬間、腕を組み、壁に寄りかかった里島の姿があった。
「なかなか来ないので迎えに。それにしてもあの大という少年、特殊能力を持っていると思いませんか?」
「そこから既に聞いてたのかよ......まあ絵亜が望んでないから、強引に誘うなんて事はしないから、お前も何かやるんじゃないぞ?」
「私はボスの言いなりにしかなりません。さ、早く車に乗って帰りましょうよ、明日は乙葉とデートなんですよね......ちっ」
そうだった。デートまでとは言わないが、明日は乙葉と遊園地に行く約束をしていたのだった。早く寝ないとだな...... なんで里島は悔しそうな表情を浮かべてんだ?




