【エピローグ】第二十話 【大量】女の子と魚釣りしに行ってみた!
4月1日、世間はエイプリルフールで騒いでる頃、俺はそんなことも気にせずに、朝から早く起きて、「現実は辛いから異世界でチヤホヤされたい」のイベントを走っていた。ランキング100位以内は当たり前だから、リズムトレジャーでやれない分、今ポイントを稼いでるのだ。どっちかを優先することはできない。どっちも平等に愛してるからね。
「咲斗、なんか女の子から家に来てるわよ。三月? ちゃんって子らしいんだけど、あんた、女友達出来たの?」
「姉さん、久しぶりに帰って来たからって、ノックしないで入ってこないでよ......三月がうちに来てる? またまた、エイプリルフールネタじゃないの?」
「そんなのはSNSで済ませたわ。早く待たせてないで、行ってあげなさいよ。あんたにそんなのが出来たなんてね」
どうやら姉が言っていることは事実らしい。てかちゃんと嘘ネタとかやるんだ......。
*
家の門に行ってみると、帽子を被って、見たことの無いTシャツを着た三月が立っていた。
「咲斗くん、突然押しかけてすみません。今から、山へ魚釣りに行きませんか?」
「......魚釣り?」
衝撃的なお誘いだった。いきなり魚釣りなんてどうしたんだ......あ、そういえば、春平町の山に行った時、釣りしたいって言ってたっけ。
「でもさ、あんな所今から行ったら、時間足りなくなるよ?」
「今回行くのは、あの山じゃないです。これを見て下さい」
そう言うと三月は、とあるチラシのような物を取り出した。
「なになに......釣堀でヤマメ、イワナが取り放題。釣り竿レンタル無料。さらに端のクーポンをご提示で、料金が半額......おお、結構いいじゃん」
「朝ごはんの時、大家さんにもらったんです。魚釣りに行きたい! という熱が冷める前に行ってきな、って」
なるほど、だから今日来たってことか。まあ折角その気なら、行ってみてもいいかな。
この瞬間、俺の優先順位は、(現実は辛いから異世界でチヤホヤされたい=リズムトレジャー<<<三月)という感じになった。
「じゃあ支度してくるから、ちょっと待ってて......うわお! 姉さん!!」
一旦玄関に戻った瞬間、姉さんが目の前に立ってた。
「あんたは......折角私が帰って来たってのに、これから女の子とデートって......全くもう」
「で、でででデートじゃねえし! てか姉ちゃんだって、帰ってきたところで、聖剣☆プリンスの2・5次元ライブのDVDしか見てないじゃん!! それでも見てなよ!!」
「何ですって!? この! ......まあ喧嘩してる場合じゃないわね。早く行ってきなさい。人を待たせるなんて、男として最低の行為よ」
何とか姉さんが怒りを抑えて、俺に構うのをストップしてくれた。
姉さんは俺の3つ上で、オタ目のJDである。昔はよく、聖剣☆プリンスのBL同人をリビングで真顔で読んでいたヤバい人だったけど、今は別居生活だから、どうしてるのかはわからない。まあ、昔と変わってないだろうけど。
*
10分後、支度を終えた俺は、三月が待っている家の門の前まで急いだ。
「お待たせ。さて、行こうか」
「......咲斗くんのお姉さん、かなり濃いキャラしてましたね......」
「え、どうして? あれで濃いキャラなの?」
「さっき出てきて、お水をくれたんですが、何か凄い......デュフフ......みたいな声出しながら渡してきて......」
──しまった。姉さんはBL好きだけじゃなくて、ロリコンでもあるんだった!! だから、三月を見て、あんなデュフフ......なんて言っちゃったんだ!! 姉さん何やってるんだよ!!
「ま、まあ、あの部類はショットで一杯見てきましたから、平気ですよ。それより、早く行きましょっか!」
「そうだね! じゃあしゅっぱ~......!?」
ふと家の窓を見て見ると、息をハァハァさせながら、カーテンの隙間から外を覗くように見せかけて、三月を凝視していた。怖いって姉さん! 勘弁してくれよ!!
*
釣堀は、ここから4つ先の町、皐月町にある為、今回も電車移動になった。それまでの短時間、三月と、俺の姉について色々と話していた。
「それでね、中二の夏にね、突然妹が欲しい! って、俺と、姉さんの友達の妹と取り換えっこしたいって言ってたっけ......」
「や、ヤバいですね。それで、取り換えっこしたんですか?」
「まさか! コミュ症の俺にそんな真似されたら困るから、何とかお金渡して許してもらったよ......」
「お金で解決したんですか......ハァ」
三月は突然、何のためらいもなく、大きなため息をついた。
「どうしたの? そんなため息ついて?」
「咲斗くんの話聞いてたら、もしかしたら......私にも兄妹っていたのかな......と、思いまして......」
「大丈夫だよ。もし、兄妹いたとしても、絶対に心配してくれるって!」
「......そうですかね? そうだったら、今頃捜索届提出して、警察とかに保護されてもおかしくないんですが......」
三月は、暗い顔になってしまった。
「......今はそんなこと考えないでさ、遊ぶことを楽しもうよ! 休日にストレスを溜めるなんて、体に悪いよ。ほら、もう皐月町に着くよ?」
「......咲斗くんの言う通りですね。元気出さなくちゃですね。魚釣り、魚釣り!!」
元気を取り戻したようだ。折角遊ぶのに、暗い空気なんて嫌だもんね!
*
「はい、というわけでね、魚釣りに皐月町のとある釣堀へやって来ました! いやー見て下さいこの広さ! 結構大きいですよ!!」
「咲斗くん、自撮りなんかして、何してるんですか......」
「動画配信者ごっこ。なんか急激にやりたくなってね」
無事到着した俺らは、結構な釣堀の大きさに驚いていた。どうせ小さい場所なんだろうと思ってたから、想像以上の大きさだった。なんか偏見で見てて申し訳ないと思った。
「咲斗くん、早速そこの受付に行って釣竿をもらいましょう!」
「わかったわかったって......す、すみませーん、釣り竿のレンタルを......え!?」
「いらっしゃいませ......ん?? どうしましたお客さん? そんな驚いた顔して?」
驚くのも当然だ。受付を担当していたのは、なんと穴に落ちたはずの高牧だったからである。それに、口調も大分変わって......。もしかして、頭でも打ったのか?
「た、高牧だよな!? どうしてここに!?」
「いや、何で僕の名前を知ってるんですか? あ、このネームプレート見たからか!! ......それにしてもお客さん、なーんか見たことあるような......気のせいかな?」
「た、多分そうですよ!! いやー、僕もすみませんでした!!」
どうやら俺と会ったという記憶は、脳の片隅に少しだけ残ってるらしいが、明確には残ってないようだ。やっぱりあの謎の穴のせいなのだろうか......。
まあ、このまま関わってトラブルになるのも嫌だし、このまま初対面のフリを通し続けようか......。
「じゃあ、渓流釣り一日を二枚......あとクーポンを......」
「わかりました! それでは、二枚で4000円のところ、クーポンを使いまして2000円になります!」
「あ、はぁい。えっと、財布を......」
「待ってください!! 今日は私に払わせてほしいです!!」
俺が鞄から財布を取り出そうとした途端、三月は俺の鞄のチャックを閉めてきた。
「で、でも三月、まだ給料もらってないでしょ? それに、あと三万しかないのに?」
「大丈夫ですよ。朝晩ご飯付きで、さらに電気代も水道代も、全部大家さんが負担してくれていて、私が使うお金は飲料代くらいしかありませんでした。こんな日こそ、私の持っているお金を使うべきだと考えてます。それに、私から誘っておいて、お金を払わせるわけにもいきませんからね。だから、今日は私の奢りです」
「三月......じゃあ、今日は奢りになろうかな。ありがとね」
お言葉に甘えて、今日は三月の奢りとなった。
三月はマジックテープ財布をビリビリ音をたてながら明け、千円を二枚取り出した。
「はい、ちょうど二千円ですね! ......こちら、餌となります。それでは、あちらにあるお好きな釣竿を選んで、釣りを楽しんできてくださいね!」
「はいっ! ありがとうございます! さあ、咲斗くん、早く釣り竿選びましょう!」
「三月、走るとコケるぞー。......あんなに楽しそうにしちゃって」
こうして、俺らの魚釣りが、始まろうとしていた。
*
「お、ここら辺がいいんじゃないかな?」
「そうですね。じゃあ座って早速始めましょうか。えっと、針に餌のミミズを......」
「三月、虫とか平気なの?」
「はい。全く気になりません。昔から多分好きだったんでしょうね。咲斗くんはどうなんですか?」
「......無理。ダンゴ虫しか触れない。三月、餌付けてくれない? 」
「いいですよ。虫が苦手なんて、男らしくないですね」
わかってるよそれくらい! 昔、クワガタに指挟まれて、トラウマが残ってそれ以来触れなくなったんだよ! にしても、見てるだけでグロイ......。
「はい、付けられました。じゃあ、釣り堀のなかに入れましょうか。えい!」
三月は竿を振って糸を遠くへ投げると、丁度いいくらいのところで、釣り針が沈んでいった。
「三月、投げるの上手だね! もしかして、ショットにある【フィッシャーになろう!】でもやったのか?」
「えへへ。疑似体験しただけでもここまでできるなんてビックリです。もしかして、咲斗くんもその経験しかないんですか?」
「まあね、実際にやるのは今日が初めてだね。じゃあ俺も投げるぞ! そりゃ!」
俺が竿を振って糸を遠くへ投げると、ほぼ、三月が沈めている釣り針の近くに自分の釣り針も沈んだ。これ伝わってるか?
「咲斗くん、何私の近くに投げてるんですか」
「しょうがないでしょ! 俺だって意識してやっているわけじゃ......お、早速ヒットきた!」
「わ、私も来ました! えっと、リールのハンドル回して......なんかおかしくないですか」
「......ああ。なんか変だな」
何が変化って、俺と三月の釣り糸は同じタイミングで動いている。こんな事ってあり得るのだろうか。
「よし三月! 一緒のタイミングで釣り竿を上にあげるぞ! いち、にの」
「「さん!!!」」
三月と同じタイミングで釣竿を上にあげると、全長25cm位のニジマスが、空に飛びあがった。二人の釣り針を、この鮎は食べようとしていたらしい。
「この鮎は食いしん坊さんですね」
「全くだな......アハハハ!!!」
何だかおかしくなって、あの時みたいにまた二人で大笑いした。
*
数時間後、バケツには大量のニジマスやイワナが入っていた。そろそろお腹もすいてきたので、この魚を串刺し塩焼きにしてもらおうと、高牧に頼みに行った。
「お客さん、こんな大きいニジマス釣るなんてラッキーですね。じゃあ、焼いていくよ」
「はい、お願いします! うわぁ、美味しそうですね......咲斗くん、どうしました?」
「あ、ごめん! また一人で考え事してたんだ!」
本当に何でこうなってしまったんだろうか。グラサンかけてるのは変わってないけど......。なんかもやもやする。
「あの......どうしてここの受付で働こうと思ったんですか?」
「んん? どうして聞きたがるんだい?」
思わず俺は、気になって気になって仕方なくて、ついに禁断の質問をしてしまった。
「まあ、焼いてる間暇だから、教えるよ。俺、気づいたらここで倒れていたんだ。金も持ってないから、近くの公園の水だけで過ごしてたんだ。そしたら、この釣り堀を運営している人が来て、ニジマスやイワナをご馳走になったんだ。助けてくれた恩返しをしたいと思って、ここで働こうって決意したんだ」
──知らない場所で倒れていた? あの穴の先はここになっているのか? でも、高牧の周りにいた部下の姿はないし......。ランダムで行先は選ばれるのか?? まだよく分からないな......。
「はい、出来上がりだよ。暑いから気を付けて食べてね」
串刺し焼き塩ニジマスは、ごくり、と喉から音が鳴ってしまうほど美味そうさを引き出していた。
「三月、このニジマス食べていいよ」
「何言ってるんですか。二人で一緒に釣ったんだから、二人で食べるべきです。まずは咲斗くんが食べる番です。ほら、あーんしてください」
三月は俺の口にニジマスを近づけてきた。恥ずかしいけど、俺はそのニジマスをパクリ、と一かじりした。身が柔らかく、淡白とした、少し水っぽい味が、口の中で広がった。
「美味しい! こんなの初めてだよ! 三月も食べてごらん?」
「どれどれ......おお! 美味しいです! やぱり自分たちで釣った魚は美味しいですね!」
「そうだな! 嬉しそうでよかった」
「ハハハ、お客さん達、カップルかい?」
「「か、カップルなんかじゃありません!!」」
そして俺らは、釣った魚を高牧に美味しく焼いてもらい、二人でお腹いっぱいになるまで食べた。
もし、三月に合わなかったら、今頃俺は何をしていただろうか? 往来のような生活を過ごして来たのだろうか? またリズムトレジャーをひたすらやる生活だったのだろうか?
そんな俺の暗い未来を照らしてくれたのが、三月だ。三月がいてくれたからこそ、今の自分があるのだ。これは偶然なのだろうか? いや、必然だろう。
今後も三月と、こんな風にして過ごせるのなら、俺は幸せだ。




