第十九話 感謝の気持ちを込めた手紙
春平町へ行ってから、約一週間がたった。あれからというのも、これといった事件は起こっていない。平和なのは素晴らしい事だ。でも、三月の記憶を戻すためには、危険な目に合わなくてはならなかった。そんな危険が迫ってくる前に、今日を楽しく生きよう、そう思ったのだった。
「あ、咲斗くん、お待たせしました。花宮さんが寝坊して、お弁当を作る時間が無かったので、急速で作ってもらったのですが、こんな時間になってしまいました......」
「大丈夫だよ、三月。俺は三月の為なら何時間だって待つさ。なーんてね......どした三月?」
またまた三月は、顔を真っ赤っかに染めた。
「そういえば......この前花宮さんにカップルの意味を教えてもらったのですが......そんな事言ってるから店員さんに勘違いされるんですよ!! 咲斗くんのバカァ!!!」
三月はそう言うと、俺をポカポカ殴ってきた。
「し、しょうがないだろ!? 三月のコミュバンがあるから、無意識に言っちゃうんだから! それを最小限でも制御するために、今日は自分のコミュバンを置いてきたんだから!」
「そんなの関係ないです! 咲斗くんは後から後悔しないんですか!?」
「そりゃするさ! 後からあんなこと言わなきゃ良かったとか思うよ! ......てか今はそんな事してる場合じゃない! 早く学校行かなきゃ!」
「あっ、咲斗くん! 待ってください!!」
俺は三月のポカポカから抜けだし、速攻で学校へと向かった。
*
今日は離任式である。唯一、俺が春休みに学校へ行く理由の一つだ。小学生や中学生の時は、「春休みにもなって何でわざわざ学校に行かなきゃならないんだよ......」なんて思っていたが、高校生になった今、そんな気持ちにはなってなかった。寧ろ、行くべきものと思っている。
「咲斗、お前はなんか木実先生に渡すものあるんか?」
「ああ、最初は物をプレゼントにしようと思ったけど、やっぱり手紙が一番いいと思って、思いが一番近い、今日の朝に執筆してきたんだ」
「え? 書くの忘れてたんちゃうのか?」
「違うよ竜騎!! そんな事、忘れるわけないだろ!!」
「へぇ、あの咲斗が......あ、そろそろ花道始まるで」
竜騎が気が付くと、卯月高校を離任する先生達が、ぞろぞろと歩きながら生徒たちに挨拶をしたり、プレゼントを渡したりしていった。他の先生はぶっちゃけどうだっていい。木実先生だけに用があるんだ......。
そして、俺らの目の前に、とうとう木実先生がやって来た。今日は真面目なスーツ姿を纏って、JKらしさは一ミリもない。
「咲斗、今がチャンスや!」
「わかった! こ、木実せん......うわぁ!」
「木実せんせー! 最後に写真とらせてー!」
「私も私もー!」
こんな時に限ってク〇JK共が前へ割り込んできやがった!! 折角のチャンスを、お前らの身勝手な行動で台無しにしやがって!! ほんまにク〇だな!
「はいっ、チーズ☆ はあい、撮れましたね! それでは、じゃあね!」
「咲斗、今度こそ行ける!」
「ああ! こ、木実せん......おわぁ!」
「邪魔だ! あっ木実先生! ご退任なられて本当に悲しいです......」
俺の後ろにいた、体育教師の大木が、俺を押しのけて、木実先生と会話を始めてしまった。何だよク〇教師が! 生徒にはマナーを守れなんてほざいてる癖に、自分がまず出来てねーじゃんかよ!! 何、生徒指導やってる癖にそんな真似が出来るんだよ!? お前が早く退任しろよ!!!!
「咲斗、もう諦めるしかなさそうや......俺は後で、部活動の中で木実先生のお別れ会やるから、その時に渡すわ。咲斗も一緒に来て渡すか?」
「ううん、あまり馴染めない人達といてもアレだから、ダメだ......諦めるよ......」
「......咲斗」
折角書いた手紙を、木実先生に渡せないまま、時間が過ぎていった。
*
「そんな事があったんですか......どれも酷い内容ですね......」
「だろ? みんな常識ってもんが成ってないないんだよな......」
帰り際にいつものショットに寄って、モップで床掃除をしている三月に、今日の愚痴話をしていた。こういう相談相手が身近に出来て、光栄だ。
「それで、その手紙は、今も持ってるんですか?」
「うん......もう会えないってわかっているけど、なんか捨てられないんだ......」
そう、木実先生はもう行ってしまったのだ。今から学校に戻ったって、いないに決まってるし、どうする事も出来ないのはわかっている。でも、何だかもやもやするのだ......。もう一度会えたら......こんな気持ちに......!
「あれ? 咲斗君じゃないですか!!」
「......え?」
俺の目の前には、今一番会いたかった、木実先生が立っていた。
「せ、先生!? い、一体なんでここに!?」
「昔、ここでDark shooter をやったのを思い出して、最後に遊んでいこうかと思いましてね。......まあ、もう先生じゃなくなったから、タメ語でいっか。そんな事よりも、咲斗君はまた、リズムトレジャーをやりにここに来たの?」
「は、はい......というか、なんでわかったんですか?」
「そりゃあ、竜騎君とお話している声が聞こえてきたからだよ? 咲斗くんはあのゲームの事になると凄くテンションが上がって、大きな声で話してたんだもん」
──カァァァ......と、俺は顔を赤めた。でも、そこまで先生は見ていたんだ。俺が知らない間に。
「咲斗くん、あの手紙は......」
「あっそうだった! 先生、これ......! 離任式の時に渡しそびれてしまった物です!!」
俺はまるでラブレターを渡すかのような勢いで、手紙を差し出した。
「え!? 咲斗君が私に!? あ、ありがとうね! うわぁ~、嬉しい......ここに来て正解だったね」
よかった......。先生は喜んでくれたようだ。このまま一生後悔せずに済んでよかった......。
「......咲斗君は立派になったね。このまま心配せずに、ここから出ていけそうだよ。一生の宝物にするね」
「はい。俺もそう言ってもらって嬉しいです......」
「お、空音ちゃんじゃないか!!」
裏から、店長がやって来た。どうやら驚いた様子だが......。
「あっ店長! ご無沙汰!」
「全く、大人になっても、その女子高生らしさは抜けないんだな......」
「え、店長、先生の事知ってるんすか?」
「何を言ってるんだ。空音は昔、常連客としてたんだぞ。ほら、Dark shooter レアカラーの2位スコアを保持している人だよ」
「え......まさか、あのSKY SOUNDって名前の!?」
「ちょっと、声に出さないで! 恥ずかしい!!」
ここ最近で一番の驚きだった。まさか店長の一つ下の腕前を持ったプレイヤーが、木実先生だったなんて、誰が想像しただろうか。あの記録は、未だに俺でも破られない、最強のプレイヤーだ。すごい! 今こうしてこんな形で会えるなんて!
「空音は今日、ここでDark shooter を遊びに来たんだろ? 折角だから、特別に今だけ、レアカラー筐体をフリープレイ設定にするからさ、思いっきり遊んでけ!」
「わあい! 咲斗君、よかったら一緒に対戦しない?」
「ぜ、是非とも対戦したいです! プロとの対戦、とってもワクワクします!」
「いやいや、プロって言っても昔の話だからね? 今はどうかわからないけど、とにかくやろっか!」
木実せんせ......いや、空音さんが、Dark shooterの方へ向かって行った。ふと、後ろを振り向いて見ると、三月が笑いながら、
「よかったですね。楽しんできてください」
と言ってくれた。ああ、精一杯楽しんでやるさ。
そして、閉店時間まで空音さんと一緒に、Dark shooterで遊んだ。最高のひと時だった。




