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第十七話 そして、出発の日に

 朝10時、寝ている俺に向けて一本の電話が鳴った。イラつきながらも、俺は電話機を取った。


「おい何だよ! こんな時間から電話かけてきて!」

「里島です。モーニングコールです。早く起きないと朝食が冷めてしまいます。それに、少々話したいことがあるもので......」

「......ったく、しょうがねえな。速攻で向かうから、待ってろ」


 予定より1時間少ない睡眠量だったが、仕方なくさっさとジャージに着替えて、食道へと向かうことにした。というか、話したいことって一体なんだ?


                                  *


 食堂は一階の右端にある。俺の部屋は、3階のど真ん中にあるわけで、移動するのに不便なのである。


 そもそもこの施設は、廃病院だったのを俺が買い取って、改良工事をしたものなので、部屋の割り当ては元の病院と同じようになっている。まだ使えそうな物は田畑さんが判断していて、実際に使っているというケースもある。


「お待ちしておりました、ボス。今日の朝食は和風にしてみました」

 

 食堂へ入ると、ザ・日本の朝食と言わざるを得ない食べ物が並んでいた。料理は里島が作っており、料理の腕前は結構ある。


「では、頂きます。......うん。今日も絶品だな」

「お褒めの言葉を頂き、光栄に思います。それで、話したいという件ですが......卯月町へ今日から出発しませんか?」

「え? なんで今日? 明日でも明後日でも別にいいじゃねえか?」

「理由といたしましては、町の雰囲気に少しでも早く慣れてほしいのと、今日の内に行かないと、道路が工事に入ってしまって、通行止めでしばらくの間、卯月町へ行けないようになってしまうのです。やむをえない判断といたしまして......」

 

 俺は食事を一旦やめ、スマホを取り出し、交通情報を調べた。見てみたら、30日もかかるらしい。もし工事が終わったタイミングで卯月高校へ行ったって、確実に教室になじめないだろう。里島、流石の判断力だ。


「それなら仕方ない。承認する」

「ありがとうございます。でしたら、今日の夜9時にはこの施設から出ますので、それまでに色々と準備をしてください。そういえば、一つ疑問が。ボスが施設から離れている間、誰を施設内で一番偉い立場にさせますか?」

「そうだな......まあとりあえず、乙葉(おとは)に頼むか。あの子、仕切るの上手だからな......」


 乙葉、本名、羽田(はねだ) 乙葉(おとは)は、俺より二つ年下で、団員強化担当に所属している。とは言っても、運動雑誌とかに書いてあるトレーニング法をそのままやっているだけなんだよな......。実力は確かにあるがな。


「了解しました。只今、乙葉に連絡をしてきますので、ボスはごゆっくりお食べになってください。味噌汁のおかわりが鍋に入っていますので、食べたかったらどうぞよそってください。ではこれで、失礼します」


 そう言って、里島は食堂を離れた。食堂には、俺一人だけになってしまった。......まあボッチ飯でも悲しくねぇし。大体いつも一人で動画配信してるから全然平気だし。


「ふあぁぁ......うっかり寝過ごしちゃった......あ、蓮くん、おはよう。あなたもお寝坊?」

「おはよう、田畑さん。これでも早い方だよ......」


 髪がボサボサのままで、田畑さんが食堂に入って来た。なんか少しほっとしてしまった自分が悔しい。


「さて、私は買い溜めしたカップ麺でも食べようっと」

「あ、鍋に里島が作った味噌汁入ってるから、食べていいよ」

「あら、ありがとう。たまには私も自炊してみようかな。......そういえば、背中は大丈夫?」

「まあ、昨日よりは痛みは納まったよ」


 そういったものの、まだ少々の痛みは残っている。流石に一晩で治るわけがないがな。


「今日、この施設出ちゃうんでしょ? 私がいなくても大丈夫なの?」

「心配すんなって。何とかしてみせるよ」

「根拠もなしに、よく言えたもんだよね。まあ、あっちに行っても、電話くらいは頂戴よね」

「わかった......」

「......」


 ──何だか朝から暗い空気の食事が続いてしまった。


                               *


 午後3時、俺はゲーム実況の動画配信を見ていた。だが、荷造りは全く進んでいなかった。持っていくものなんて殆どないし、書類とかも置きっぱなしで十分だろう。


「失礼します。ボス、荷造りは順調に進んでいますか?」

「え? あ、ああ。キャンピングカーで暮らすんだから、持っていくものなんて、少しの方がいいだろ?」

「さようでございます。自家用の物なので、少々狭いので、なるべく貴重品だけを......ゲーム実況は後にして、早く荷造りの準備をして欲しいんですが。行く寸前にやったとしても、かえってバタバタしていらないものまで持って行ってしまう羽目になります。私もお手伝いさせていただきますので、今から始めましょう?」


──里島は的確な判断でいつも俺を導いてくれる。こいつがいないと、俺は何の判断も出来ないクズ人間だ。ホント、毎回頼りになる......。


「......わかった。一旦落ちます、っと......んじゃあ、どこから見よっか......」


                                 *


 一時間後、ようやく荷造りを終えられた。少なめに、とは言ったものの、発明品、発明材料、動画機材など、思ったより多くなってしまった。だが、これでも厳選はした方である。


「ようやく終わりましたね。この、【ぼくがかんがえたはつめいひん】というノートは本当に持ってかなくてもいいのですか?」

「捨てろ捨てろ!!! あと、【暗黒日記ダークネス】とか、【オリジナルモンスター大百科(自作品)】とかも焼却炉に燃やせ! てか言わせるな!」


 整理しているうちに、小学校や中学校で書いた黒歴史ノートがわんさか出てきた。友達がいなかった俺が書いたノートだから相当病んでるノートになってる。思い出すだけで頭が壊れそうだ......。


「では、責任を取って私が燃やしてきます。それでは、今後の予定です。18時から送迎会、21時に出発となります。時間まで、好きなことをしていて大丈夫です。ではこれにて失礼します」


 里島はまた、俺の部屋を出て行った。てか送迎会とか聞いてないんだが......まあ、こういう時くらい、一緒にワイワイするのもありかな......。


──今更ながら、部下共がちゃんとやってくれるか心配になってきた。俺がいなくても無事にやってくれるかな......。


                                 *


「ボスの健闘を祈り、乾杯!」

「「「乾杯!!!!」」」


 賑やかな声が、食堂中に響き渡った。俺はそんな様子を誕生日席で眺めていた。あまりこういうのは好きの部類に入らないのだが......。


「ほら、ボスも一杯どうぞ!」

「俺は未成年だ、アルハラで訴えるぞ?」

「わかってますって! ほら、中身はちゃんとサイダーですよ!」


 全く、誤解が生まれるような事は言うなって。ビール瓶多めに注文しなきゃよかった......。


「ちょっと、団員No.48番! しっかりしろ!」

「す、すいません! 乙葉教官!」

「この人、解雇した方がいいんじゃない? ねぇボス?」


 この団員No.48番を叱ったのが、乙葉である。身長は146cmで、黒髪のミニツインテールという、女子らしさ満開の子である。

 

「まあ、こんな楽しい空気を崩すわけにもいかないだろ? 楽しく行こうぜ。そういえば、後の2人は今日は出席してないのか?」

「うん、どっちも用事があるんだって。2人とも、急にここから離れるって伝えたら、とっても驚いていたよ?」

「急だったから、無理もないだろ。まあ、お前が来てくれただけでも、とっても嬉しいから......」

「わあ! ありがとう! ボス大好き!」

「うわっ! き、急に抱き着くなって! 恥ずかしいだろ!」


 こいつは、俺に対して全く敬語を使ってこない。最初は厳しく注意してたんだが、いくら言っても伝わらないから、もうこれでいいことにした。部下共には、「こいつみたいな風になるなよ」という見本になるからな。


「こら乙葉! ボスがお困りになってるじゃない! ご迷惑をかけないようにしなさいよ!」

「里島さんは黙って! しばらく会えないんだからこれくらいいいじゃん! ねぇボスぅ~?」


 乙葉は俺にすり寄って来た。全く、甘えん坊が......。


「乙葉! これから部下達を一気に指示していくのに、そんな態度でどうするんですか!?」

「そうだぞ、お前がこの施設のトップに立つんだから、少しは自覚しろよ? 」

「わかってるって。んじゃあ見てて見てて? ......おいお前らああぁ!!! 一斉に立ちやがれぇぇ!!!」

「「「は、はいぃ!!」」」


 楽しそうにしていた部下共の顔が、一瞬にして真っ青になってしまった。


「今から一人一人にぃぃ!! ボスへのメッセージを伝えてもらうぅぅ!! そこのお前から後ろにぃぃぃぃ」

「ストップストップ!! 乙葉の力は十分伝わったからよ!! 一人ずつはキリがねえから! お前らも座れ!」

「そう? まだまだ序の口だよ? 」


 こいつは俺と接する時と部下共に接する態度が全く違う。ネットではこれをギャップ萌えと呼ぶのだろう......。


「ま、まあ安心した。これならお前に任せられそうだ」

「ホント!? わあい!! メカ二ズミカルの名に恥じないように、精一杯頑張るよ!!......あ、学校ある日どうしよ......」

「そしたら、他の幹部に頼んだらいい。無理やりでもいいから、ここに連れてこい」

「わかったよ! でも折角の春休みだっていうのに、ボスと遊べないなんて......一緒にどこかでもいいからお出かけしたかったなぁ......」

「じゃあ、ゴールデンウィーク辺りにまた一度戻ってくるから、その時にどっかしら行こうな?」

「いいの!? 絶対約束だよ!? 」


──乙葉の気持ちはすごく分かる。折角休みなのに、どこも行かないで終わりなんて嫌だもんな。


「ボス! 勝手なことを言わないで下さいよ! 車の手配は私なんですよ!?」

「無理だったら新幹線に乗ってでもここに帰ってくるが? 約束は約束だ。破るなんて絶対やってはいけない行為だろ?」

「ボス......」

「ヘヘーン! ウチの方が大事みたーい!!」

「何ですって!? 私だってこれからずっとボスと一緒に過ごすから! 私の方が大事に決まってるじゃない!」

「何、やる気なの? 今から酒飲ませて運転できないようにしてあげよっか?」


 乙葉と里島はお互い睨みながら、視線をバチバチさせた。いかん、こいつらここでバトルする気だ!


「やめろお前ら! 部下の前でそんな姿を見せて情けないと思わないのか! 俺はみんな平等に大切にしているつもりだ! もしもまだ足りないとでもいうのなら、遠慮なく俺に申し付けるがいい! そうすれば、もっと大切にしてやる!!」


 少し照れ臭い事を言った後、食堂は拍手喝采だった。俺の言葉に感動したのだろうか? 大したことは言ってないはずだが......。


「これでこそ俺らのボスだ!!」

「ボスに乾杯だ!!」


 部下共もなんか盛り上がっているようだから、まあいっか......。


「ウチが間違っていたよ、ボス......」

「私としたことがしたことが、判断力が鈍っていました......」

「わかったならいい。席に戻って、食事を続けろ」

「「はい......」」


 二人は反省してるようだから、特別に許してやるとするか。空気がマズいと飯もマズくなる。そういえば、田畑さんがいないな......何やってるんだろ?


                              *


 そして、出発の時がやって来た。部下全員が、入口の前で見送ってくれるようだ。


「蓮くん、送迎会には来れなくてごめんなさいね? これ作っていたの......」


 田畑さんは大きな籠を俺に渡してきた。中身を空けて見ると、数々の薬品とノートがミッシリと詰まっていた。


「蓮くんや里島さんが怪我したり病気になった時の為に作ったの。使い方を見ても分からないときは、電話して聞いてね。それでも解決しないようだったら、私がすぐに駆け付けるから」

「あ、ありがとうな。医療道具は必須だからな。役に立つぞこれは......」

「わ、私だって役に立つものあるよ! ほらボス! これ受け取って?」


 乙葉が差し出したのは、FPSのゲームソフトだった。


「いいのか? こんな高価な物もらって?」

「いいのいいの! ボスの為ならなんだってあげる! いっその事、私自身を受け取ってくれる?」

「いや、それは遠慮しておく。まあ、移動中に遊ばせてもらうか。確かに役に立つなこれも。ありがとな」


 乙葉の気持ちに応えて、頭を撫でてやった。まだまだ小さい頭だが、これでも立派にこの施設を守ってくれるだろう。


「えへへ。ボスに頭撫でられちゃった! ボス、気を付けるんだよ?」

「わかってるって。お前もみんなの事をしっかり守るんだぞ? そうだ......」


 俺は手にはめていた、3万円くらいの指輪を指から外した。


「これを付けている間は、この施設内のボスだ。誇りに思えよ」

「わああ! ボスにもらった! ボスに指輪もらった! ......ハッ!! お前らぁ! 何ニヤニヤ見てやがる!? 」


 部下共は乙葉の喜んでいる姿を見て、微笑ましくなったようだ。......やっぱり大丈夫かな?


「ボス、そろそろ出発の時間です。車に乗車してください」


 お別れの時間がやってきたようだ。......なんか寂しくなってきたかもな......。


「お前ら、俺がいなくてもちゃんとしろよな? あと、乙葉がピンチになったら、絶対それを優先して、応戦しろ。くれぐれも組織に恥じぬようにな。わかったかお前ら!」

「「「は、はい!」」」

「声が小さいぞ! ......ま、夜だから仕方ないか。じゃあ、行ってくる」


 乙葉や田畑さん、部下共に見送られながら、俺はキャンピングカーに乗車した。


『パリィィン!』

「な、なんだ!? 」


 とてつもなく嫌な気配がする音が施設の裏から聞こえてきた。──どうやら、まだ出発するのには早かったようだ。


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