第十五話 帰路途中で
「はぁ......絶対にこっちの方が速かったじゃねえか......」
下山し始めた俺らは、傾斜一本道を下って行った。このルートだったら20分で下山できるな。
「だってさ、あれが一番の安全ルートだったんだもん。あんな危険なところ歩かせたくなかったんだもん。あ、そこ落とし穴あるよ」
「うわあ! あ、あぶねぇ......」
俺の目の前に、また大きな穴が広がった。楽な道だと思ってたが、危険な道であった。三月は穴に落ちるのを怖がって、俺の背中におぶられている。もう半分涙目だ。
「うぅ、怖いです......」
「安心して、三月ちゃん。私がいる限り、二人は危険な目にはあわないよ!」
「ほ、本当ですか......」
まあ、愛佳の危険物を察知する力があって本当によかった。ここに来なかったら、高牧と同じ目にあっていたところだろう。本当にいてよかった。
「それにしても、高牧さんは大丈夫なんでしょうか......」
「三月ちゃんは優しいねぇ。あんなやつどうでもいいよ。落ちて転生でもしたらいいんじゃない?」
「そんな転生嫌です......」
俺もそんな転生嫌だ。もしもそうなったらこっちで悪い事してたから初期装備しか女神は与えてくれなさそう。
*
その後赤坂駅についた俺らは、バスに30分くらい揺られて春平駅へ戻った。
「わああ! ネギかけお好み焼きとっても美味しそう!」
「愛佳さん愛佳さん、チーズ乗せお好み焼きってのも美味しそうですよ!」
「じゃあ二人で半分ずつ分けっこしようか! 咲斗くんは何にする?」
「うーん......このキムチ乗せってのもいいし、鷹の爪ソースがかかったのもいいな......」
時間も7時になってたので、晩御飯を食べるべく三月が行きたがっていたマルエンに来ていた。SNS映えを狙った店とか言ってたから俺の期待値は少なかったが、激辛メニューも豊富だったので、俺的にも気に入った店になった。
「あ、全乗せできるのかこれ? じゃあ辛い物系全部乗せにするわ! すみませーん!」
「はい、ご注文はいかがいたしますか?」
店員さんの満開スマイルが俺の顔に入ってきた。結構可愛いし、どっかの喫茶店とは大違いだ。
「お、お客様? いかがされました?」
「あ、すみません......これととこれとこれでお願いします」
「はい! 焼き加減はいかがされますか?」
「や、焼き加減?」
あれ、ここお好み焼き屋だったっけ? ステーキ屋っぽい仕様だな......。
「咲斗くん、ミディアムがお勧めらしいですよ!」
「じゃあ私もそれにする!」
「......じゃあ全員ミディアムで」
「全員ミディアムで! かしこまりました! ただ今具材をお取りしてきますのでお待ちくださいねー」
どうやらこの店はもんじゃ焼きみたいに、目の前で焼いてくれるそうだ。よくSNSで流れてくるあれだ、なんか職人が技を見せながら焼いてくれるやつ。
「お待たせしました。それでは今からお作りいたします。ヘイ! 暗転!」
「え!? 何!?」
急に店内は全ての明かりを消し、暗闇状態になってしまった。すると、上からいきなりミラーボールが下りてきて、ディスコのような空気に変わった。そして、アゲアゲな曲が流れてきた。
「咲斗くん、ここの店は曲に乗りながら作ってくれるとても面白い店なんですよ。あ、そうだ。すみません、アニソンアレンジバージョンありますか?」
「もちろんです! それじゃあ、アニソンアレンジバージョン、ミュージックスタート!」
するとアゲアゲだった曲がピタリと鳴りやみ、知っているイントロが流れてきた。
「おお! 【バトルは程ほどに】の主題歌[バトルの定義]だ! テンションあがる!」
「アハハ......来てよかったねぇ、咲斗くん......」
*
「はい、3人分出来上がり! お待たせしました!」
「待たせたなんて! 最高の時間でした! レビュー☆5を通り越して☆10です」
まだ俺の興奮は治まらなかった。あの後も、7人の血とかBoodeeenの主題歌などが流れて、もう最高のひと時だった。
「咲斗くん、まだ食べてもないのに昇天しないでください。てか本当に辛そうですねそれ......」
「ホント......見てるだけで口の中がピリピリする......」
確かに二人がそう言うのもわかる。だってもはや焼き加減とか関係なしに、激辛ソースが生地にしみこんでいて、キムチや鷹の爪ソースで埋め尽くされていて、もはや原型がないという感じである。だが、そういう所がとても美味しそうなんだよな。
「ま、まあ私達も食べよっか。てかこれ写真より遥かに美味しそうじゃない?」
「そうですよね! 期待できますよね......んん、美味しいです!」
「ホント、最高に美味しいね! じゃあ三月ちゃん、私のチーズ乗せお好み焼きも食べて! ほら、口あけて?」
「は、恥ずかしいですよ愛佳さん......」
「そんなこと言わずにさ、ほら、ね?」
「わ、わかりました......お、美味しいですで、では私のも......」
「わーい! 頂きます! んん~、癖になりそう~!」
──何だか見ているこっちが恥ずかしくなってきた。愛佳は男子が傍にいても普通に女の子らしさ全開でいるんだね。みんなそんなものなのかな?
「じゃあ、半分にして食べよっか! ......はい、半分どうぞ!」
「ありがとうございます。じゃあ私も。......にしても、今日は本当に疲れましたね。明日筋肉痛ルートですよ」
「そういえば、明日もバイトあるの?」
「はい。週5でありますからね。でも正直なところ、あそこの店人の出入り少ないんで座ってポップ作りしている時間の方が長いんです」
「た、確かに言われて見ればそうかも......」
だとしても、ゲーセンって立ち仕事がほとんどだから、筋肉痛になったら相当辛い思いするだろうな......。心配だなぁ。まあ明日も行くし、見て行ってあげようっと。
*
マルエンにお邪魔した後、お土産に[一腹ど~屋]に寄って、名物のわらび餅を買った後、終電がすぐだったので急いで駅まで走り、なんとかギリギリ電車間に合った。あんな町で一泊するのはキツイから、乗れてよかった。
「店長......メンテナンス終了しました......」
「ふふふ、三月ちゃん、寝ちゃったね」
「ああ、結構急な山道が続いて体が疲れたからな。てか寝言の癖が凄い。......愛佳、いきなりだがこれから色々と聞きたいことがあるんだが」
愛佳には秘密がありすぎる。こういう機会に聞き出すのもありだろう。
「そういえば、柳水くん、まるで別人みたいだねぇ。朝までの態度と全然違う。もしかしてコミュバン付けてるの?」
「そうだよ。これのお陰で楽々と話せるようになった。それで質問その一、なんでコミュバンとか機械の名前、使い方をお前が知ってるんだ?」
「いきなりその質問かー。まあそれはね、私のスマホに秘密があるんだよ。ちょっとこれ見て」
俺は愛佳のスマホを見ると、そこにはのコミュバン仕組みが書かれていた図が出てきた。
「ある人から作って貰ったの、発明品解析アプリ。そのゴーグルや手袋には特別なチップが入っていて、周辺にあると反応して読み取ってくれるんだ。三月ちゃんと別れた後、スマホが読み取っていてその機能を知ったんだ。三月ちゃんにはあんな目に合わせて本当に申し訳ない事をしたよ……」
「まあ仕方ないだろ、お前もそういう仕組みを知らなかったんならさ。んじゃ続いて質問その二、あんな広い山の中で、なんで俺らの居場所が分かったんだ?」
「それはね...... 三月ちゃん、ちょっとごめんね」
愛佳は三月の髪に留めていたヘアピンを抜きとった。
「このヘアピンにGPS機能が付いていてね、万が一何かあると行けないからバレないようにあげたんだ。そんでこれは危険が察知されると、私のスマホに通知が届くようになっているんだ。便利でしょこれ! ネットショッピングで安く売ってたから多めに買ったんだけど、今後三月ちゃんに何かあると行けないから、柳水くんにも分けてあげるね!」
愛佳は三本ヘアピンをくれた。男が持ってるなんて何か変な感じだな......。
「まあ...ありがとう。もしかして俺らをあの道に連れていかせたのって、高牧らが来るってのを知った上でそうしたのか?」
「まあ、なるべく危険な目には合わせたくなかったからね。しかし、あいつも真正面から来るとは思わなかったなー。でも、柳水くんは凄いよ、あんな敵にビビらず立ち向かっていくなんてさ」
「いや、あれはコミュバンがあったから……」
「あのね、コミュバンがあってもそこまで勇敢になる訳じゃないんだよ、柳水くんの中に眠っている力なのかもね」
眠っている力か......なんだか照れるな。
「照れてるとこ悪いけど、まだ質問とかあったりする?」
「え? ああ、今一番聞きたいことがある。高牧らとはどういう関係なんだ? あいつサキアイとか呼んでたし」
「──高牧らは......具体的にいうと私らにとっても敵だね。サキアイってのは私がアイツに名乗っている組織内仮名、つまりコードネームだね」
「組織? 一体なんの組織だよ?」
「......流石にそこまでは言えないよ。必要以上の情報は教えるなってリーダーが言ってたからさ。掟を守らないと追放されるし」
「そうか......今の所、質問はそれくらいだな。答えてくれてありがとな」
「いやいや、照れくさいなー。あ、あとね、この事は学校の皆には絶対言わないでよ? 今日起こった事もね?」
「お、おう……」
愛佳は俺の口を指でふさいできた。結構そういうところあるよな、この子。まあそう言われたけど、学校で話す相手なんてほとんどいないからバレる危険はほぼないんだよなぁ......。いやでもこのコミュバンで話し相手が出来るかもしれないしね。
「むにゃむにゃ......今どこら辺ですか......?」
「あ、三月ちゃん起きた? もうすぐ卯月駅に着くよ」
「そうですか...... 随分と寝てしまいましたね。今日はとてもワクワクした一日でした。咲斗くん、愛佳さん、ありがとうございました」
「いやいや! 私もとっても楽しかったよ! ねぇ、柳水くん?」
「う、うん。とっても楽しかったよな?」
俺と愛佳は眼を合わせた。俺らにとってはとってもハラハラする一日だったから。
「ねぇ、次はいつにします? 明日にしますか?」
「無理です。そこまで行くのに100kmもあるからね」
「ひゃ、100km!?それは 流石に遠すぎますね...... なら5月のゴールデンウィーク辺りはどうですか?」
「ゴールデンウィークかぁ......出来たら行こうな」
「わあい!そうしましょそうしましょ! 今度こそ記憶が戻るかもしれません!」
「ああ、そうだな。もしかしたらもっといい、発明品が見つかるかも知れないからな」
こうして俺達は約束を交わした......てか俺はファントムRに会うために三月に協力してあげたつもりが、敵から三月を守るために協力している様になってしまったな......まあいつか会えるっしょ!
この時俺はそう呑気に思っていた。既にとある争いに巻き込まれているとは知らずに......。




