Re:なろうSANGETSU Qi
成楼 のリ・チョウは知識豊富、才能ある人で、自分に自信を持っていて、また出世も早く、若くして地位につき、頭角を現したが、小説家になりたいという夢を叶えるために退路を断つべく仕事を辞め、日々執筆に励み始めた。
公務員として、腐り切ったこの国を支える礎の一つとなるよりは、作家としての名を広め、後世に残したいと考えたのである。
しかし、公募に応募してもなかなか日の目を見ず、貯えも底を尽きかけ、体は痩せ、髪はボサボサ、なのに目ばかりはギラギラとし、かつての【キュン死に! 爽やか系イケメン紹介】と職場広報にも書かれた姿はどこにもない。
ついには元の職場に派遣として戻り、食いつなぐことにした。
これは自分の小説の才を、半ば諦めたためでもある。
かつての同僚は当時の彼よりも出世し上司となり、昔【上から目線】で心の中では見下していた人物から仕事をもらう事は、彼のプライドをいたく傷付けた。
それでも半年ばかり働いていたある日、今度はWeb小説にトライしようと、新規小説を投稿したリ・チョウは、他のユーザーを見てこう思った。
『俺の方が技術もあり、巧い小説を書いている。なのになぜ、ptが入らず、ランキングに上がらないのだろうか?』
相変わらずの【ウエメセ】で、彼は他のユーザーとの交流などもせず、あくまでも自分のやり方にこだわり、また、自分の方が技術的に上だという思いから、どうしても誰かにWeb小説のコツを聞くことができなかった。
派遣の仕事だけでなく、執筆も、そしてWeb小説でもプライドを粉々にされたリ・チョウは、とうとう仕事を突然辞め引きこもり、ある日リ・チョウの部屋からわけのわからない叫び声が聞こえたと思うと、それ以来ぱったりと姿を消した。
その後、リ・チョウの姿を見たものはいない。
ある年、サイバー警察の捜査官が、先頃詐欺事件にて押収したパソコンを調査中に、ある小説投稿サイトにログインした。
このパスワードは詐欺事件の受け子が他のサイトで使っていたものと一致する、何か証拠が残っているかもしれないと履歴を見ると、画面から突然、虎の吼える声がした。
否、それは虎のカタチをしたキャラクターだった。
パソコン画面のグラフィックの限界を超えたリアリティ溢れる虎が、今まさに、画面から出て喰らわんと牙を見せ迫ると、不意に虎の動きが止まり、人の言葉で喋ったのだった。
「危なかった……もう少しで食べてしまうところであった」
その独特なイケメンヴォイスに聞き覚えのある捜査官は思わず問うた。
「おまえは、学生時代の友人、リ・チョウではないか?」
去ろうとした虎が止まり、小さな16×16サイズのアイコンになり、いかにも、リ・チョウであると応えた。
「おお、そうだったのか。これはどういうことだ? どこかで遠隔操作をしているのか?」
「いや、そういうわけではない。俺は、Web小説サイト内に囚われ虎のアイコンになり、気に食わないユーザーを喰らう、ネット小説の獣になったのだ」
捜査官は慄いた。かつて友人であった、あの才能高きリ・チョウは、もしや詐欺事件に巻き込まれたか、あるいはひょっとして、詐欺グループの一員になってしまったのかと尋ねてみたかったのだが、予想を超える答えだった。
「一体全体、どういう事だ? 友人のリ・チョウが、画面の中で虎となったというのか? 冗談はよしてくれ。本当は、別の場所で生きていて、どういう仕掛けか、このパソコンを介して語りかけているのだろう?」
「お前は俺の数少ない友人の一人だ。お前が今ここにいるのも何かの縁に違いない。俺がどうしてこうなったのか、聞いてほしい」
そう言うと、虎は640×480のサイズのドット絵のようになり、これならお前を襲う事なく話せる、と切り出した。
小説の執筆がうまくいかない中、かつての職場で派遣社員として働くも、自分が見下していた者が上司になり、その頃Web小説に投稿を始めたが、リ・チョウの方が技術的に優れているのに、ランキングに載らない。そんなこんなですっかり挫けたリ・チョウは、気付いたら自分の小説を破り、勢いでパソコンも壊そうとしたところ、吸い込まれるようにして、虎のアイコンになっていたのだ、と。
「そして俺は虎として、このWeb小説内を徘徊し、沢山の小説を読む生活を送っていた。たまに腹が減ることがあると、実生活では犯罪者などをしている、気に食わないユーザーのところへ行き、どういうわけかその時だけ画面から飛び出し、喰らっていたのだ。どうだ、恐ろしいだろう? 一番恐ろしいのは、以前はこのユーザーから、と俺が選んでいたのだが、最近はどうも意識が朦朧として、よくわからない相手を食べてしまっていることだ。二つの意味で」
捜査官は受け子の一人が失踪し、見つかっていないことを思い出した。
そして、二つの意味のもう一つに気付き、ケダモノだものと、戦慄いた。
「なあ、俺を友人と呼んでくれる、数少ない友人の一人のお前に、頼みがある。まず、田舎にいる両親に、俺は外国で働き、戻るつもりがないという事を、それとなく伝えてくれないか」
「わかった。うまく手配しよう」
「もう一つ、俺が人間でいる時に、最後に書いた小説だ。読んで、感想を聞かせてくれないか?」
それは、社会派の小説で、事件を追う警部が巨悪と立ち向かうのだが、実はその組織は自分達警察と癒着していた、という内容だった。堅い文章ながら読ませるのだが、どうも警部の心情が理解できないような、もどかしさを感じる。正義感が強過ぎる生き方は、清廉過ぎて浮世から離れているようなのだ。
約二時間後、読み終わり感想を告げる。
「……面白かった。相変わらず、文章が上手いな。ただ、、、」
「言ってくれ、頼む」
「わかった。ただな、この主人公の気持ちに寄り添えないんだ。高潔かつ清廉過ぎて、共感が難しい。捜査官の自分から見ても、理想が高過ぎるんだ」
「……」
「だから、もう少し俗っぽい相棒がついてたら、もっと面白くなるんじゃないか?」
「……!!」
何か閃いたかのように虎の眼が大きく開き、ネコ科特有の、瞳の色が変わった。
「嗚呼! それだ! 俺は、誰かに聞いて、感想を貰って、もっと、もっと、小説を良くしていけば良かったんだ!」
虎は泣いた。吼えながら泣いた。
と、その時、パソコンから白い光が溢れ、虎を包み込んだ。
(……虎よ、美しき虎よ……聞こえますね?)
柔らかな声が、虎と人間の脳内に直接聞こえてくる。
「! 骨伝導型のシステムか?!」
(……違います……わたしは……Web小説の神……この虎が、ようやく気付き、改心したので、機会を与えに……)
「神様?! リ・チョウは、俺の友人は、人間に戻れるのですか?!」
(……いいえ、それはできません……その、代わり……ザッザザ……として、ザザザザザッーー……いかがですか?)
「神様! お願いします! 俺を、(ザザザザー)にしてください!」
(……いいでしょう、虎よ……あらあらえっさーほい!)
白い光が眩く膨らみ、捜査官は目をつぶった。光が収まった頃、そっと目を開けると、パソコン画面から虎のアイコンはいなくなっていた。
画面には一匹の青い蝶が、ひらりひらりと舞っていた。
「カミサマの力で、Re:蝶として生まれ変わったッチョ! みんなの執筆を応援するッチョ♡」
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その後、捜査官はWeb小説デビューし、平日に少しずつ、休日にまとめて、大作を書いた。
後の、【異世界☆転生〜天才惨血鬼は鉄分不足〜】である。
彼にどうして書けたのかを尋ねると、友人が応援してくれたから、と答えがあった。
「がんばるッチョ! ファイトだッチョ! 著著著!」
そうしてリ・チョウ改めRe:蝶は、バタフライエフェクトを起こすなろうの妖精として、みんなの投稿を応援している……。
ーーもし、目の前の画面に、蝶が舞っていたらーー
あなたは多分、疲れている……ッチョ♡
※眼精疲労を感じたら、画面を閉じて、ゆっくりするッチョ♡
《終われ!》