ただ空を見ていた
二人の少年が原っぱに寝転がっていた。
「ねぇ、伸ちゃん。どうやって楽しんだらいいの?これ」
「竹ちゃんは不器用だね。こういうものは、楽しもうと思う必要はないんだよ」
伸ちゃんは目を閉じて、じっとしている。竹ちゃんもそれを真似てみた。
風がびゅうと通り過ぎる音。
草がかさかさ、とざわめく音。
遠くでする、野球の音。
竹ちゃんはなんだかつまらなくなって、上体を起こした。
「ねぇ、伸ちゃん。全然つまらないよ、これ」
「竹ちゃんはいつもゆったりとしてるからさ。僕みたいに毎日忙しく生きてると、こういう時間に価値があるように思えるのさ」
竹ちゃんはなんだか馬鹿にされたような気になって、立ち上がった。
「もういいよ、伸ちゃん。ぼく、帰るから」
「おいおい、待ってくれよ。竹ちゃんがいてくれないと困ってしまうよ」
「どうしてだよ、一人でそうしてればいいだろ」
「こういうのを誰かに分かってもらいたかったんだ。お願いだから、隣にいてくれ」
伸ちゃんは目線だけを竹ちゃんにくれている。
竹ちゃんは渋々、また伸ちゃんの横に寝転がった。
「よし、じゃあ竹ちゃん、こうするといいよ。雲の形を見て、何に似てるか想像するのさ」
「想像......?」
「そうさ、たとえばあの目の前にある大きな雲を見てごらん。あれなんか、体育の小島先生にそっくりだろ?」
「......いや、全然そうは見えないよ。僕にはいなり寿司かなんかに見える」
「そうそう、それでいいんだよ。そうやって雲の形を想像していくと、なんだかとてもどうでもいい気分になれるのさ」
「どうでもいい気分ってやつが、君の求めているものなのかい?」
「まあ、そうだね。息が詰まった時はそういうのがほしくなるよ」
竹ちゃんは塾に行ったり、生徒会に行ったり、部活に行ったりで忙しそうな伸ちゃんのことを考えた。
確かに伸ちゃんにはこういう時間が必要かもしれない。
「なるほどね、ぼくには伸ちゃんのことが分かったよ」
「何が分かったんだい?」
「伸ちゃんは何だか変だってことがさ」
「どうして、僕が変ってことになるのさ?」
「だってしんどくしてるのは伸ちゃん自身じゃないか。もっとやることを減らせば、こうやって原っぱに寝転がる必要もないのに」
「......それは竹ちゃん。カン違いだよ、僕の事を分ってない証拠さ」
「どうして?僕の言ってることは正しいと思ったのだけど」
竹ちゃんが伸ちゃんの方を見ると、伸ちゃんは清々しい表情をしていた。
「だって、僕はここに気持ちよく寝っ転がる為に、忙しくやっているからさ」
「なんだよ、それ。訳わかんないよ」
「そうかな、僕にはこれが正しいように思えるのだけど」
「.....うーん、僕には変なことに思える」
二人の少年は同じ空を見ている。
ただ空を見ていた -終-