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御使いの誓い

 みるくが家に帰ると、スーツ姿でお洒落をしたお母さんが待っていた。


「みるくお帰りなさい。疲れているかもしれないけど、大急ぎでシャワーを浴びてこの洋服に着替えて頂戴ね。今からとても大事な用でお出かけするから。」


 お母さんがとても真剣な様子だったので、みるくは大急ぎでシャワーを浴びる。

 シャワーで済ませるには寒いけれど、そんなことは言ってられません。

 みるくがシャワーを浴び終わると、手早くお母さんがドライヤーをかけてくれる。


「お母さん、この服どうしたの?」


 紺地のベルベットのワンピースは、袖口と襟元にかなり凝った白いレースが使われている品質のよいものだ。


「それはみるくの服よ。オーバーはこれ。」


 渡されたのはオーバードレスといわれる類のもので、羽織ってもいつもの上着と違い、軽いうえに動きを妨げない。ごく薄い菫色の上品な仕立てだった、


 髪を両サイドから編み込んで、そこに洋服と同色・同素材の細いリボンをつけられるに及んで、もう何も言えなくなったみるくだった。

 黒いタイツに同色の革靴は足首のところで、ぱちりと留める仕様になっている。

 みるくはとうとう笑いだした。


「おかあさん、これじゃぁまるで小公女みたいだよ。」


 全て新しく揃えられたのが嬉しくて、ミルクははじゃいでいる。

 ちょっとだけお姫さまみたいだよと言いかけたのですが、さすがにそれはないだろうと公女さまに格下げするという気遣いをしたのです。


 はしゃぐみるくをよそにお母さんは、なんとなく固い表情をしています。

 家の前に車が止まった気配がしました。

 みるくの家は簡易鉄筋という作りのアパートなので、車がくるとすぐにわかるのです。


「みるく、車がきたわ。行きましょう。」


 タクシーでも呼んだのかしら?豪勢だなぁと思いながらみるくが外に出てみると、かなり立派な車が停まっていて細マッチョの素敵なおじさんが立っています。


「九鬼さん、わざわざお迎えいただかなくても、良かったんですよ。」


 お母さんがそういうと、九鬼さんは、


「大事なことですから。」


 とだけいって、私たちを車に案内しました。


 みるくは、だんだん不安になってしまいました。

 お母さんは、何かへんです。


「みこと、みこと、なにがあるのかなぁ。」


 小声でみことに相談すると。


「大丈夫だよ。みるく。任せておきなさい。」


 なんだかみことは、何かを知っているみたいです。



 車はお母さんがお勤めしている病院にとまりました。


「お母さん、誰かのお見舞いなの?」


 みるくが質問しているのに、お母さんは全く聞こえないかのように、九鬼さんの後ろをずんずん進んでいきます。

 九鬼さんは、病院へは行かずに、その隣に建てられた家の方に向かいます。

 ここは守のおうちです。

 表札にも大津と書いてあります。


 もはやなにも言うまい。 

 みるくは覚悟をきめました。

 本当は守がいるなら困ったことがあっても、きっと助けてもらえると思ったのです。

 みるくは守をリーダーとして結構信頼しているのです。


 みるくのおうちがいくつも入るぐらい大きな部屋に、みるく達は案内されました。


「守!俊!いったいどうしたの?」


 部屋には守と俊が仲良く並んでソファーに座っていたので、みるくはすぐにその隣に腰かけました。


「どうしたの、もしかして今日の冒険がバレちゃったとか?」


 人面樹とか天狗礫とかやっぱりそういうのは、大人は嫌いかもしれないとみるくは思ったのだ。


「いや、僕も何で呼ばれたのか、なんで俊やみるくがここにいるのかも知らないんだ。多分僕もみるくと同じ意見だけどね。」


 と、守は答えた。

 守にだって原因か今日のことしか考えられない。



 「お待たせしました。」


 そこにやってきたのは守の祖父で総合病院院長である大津守也と、長く三峯神社の宮司をなさっていた長老さまです。

 長老さまはみるくが博物館に入り浸っていいる時に知り合いましたが、みんなが長老さまというので名前は知りません。

 

「おじいさま。」


 守と俊の言葉が重なりました。

 では長老さまは俊のお爺さんだったのだな、とみるくは納得しました。



「みるくちゃん、急に呼び出してごめんね。でも皇学園の制服がよく似あっている。さすがに血は争えないねぇ、守也。」


「おそれいります、長老。申訳ないがすべてを話す時が来たようだね。冴子さん。」


 名前を呼ばれて、お母さんは黙って頭を下げました。


「少し長い話になる、坐ってください。」


 俊のお爺さんはそういうと、みるくの顔を見ていいました。


「みるく、みるくは自分のお父さんのことは何か聞いているかい?」


 みるくは首をブンブンと横に振りました。

 お行儀が悪いと叱られそうでしたが、お母さんは咎めませんでした。


「それでは俊は、守人おじさんのことは聞いたことがあるかな?」


「お父さんのお兄さんですね。随分若い時に亡くなったと聞いています。」


「その通りだ。実は守人は結婚してほんの数ヶ月で亡くなってしまった。自分の娘の顔すら見ることなくね。」


 子どもたちは、シーンとしてしまいました。 

 この話の流れからすると、つまり、それは。


「おじいさま。それではみるくが守人おじさまの娘だと言うのですか?僕の従妹だと?」


 俊は大声で叫びましたが、叫びたいのはみるくの方です。

 なんでお母さんは大津のお嫁さんを辞めて、看護婦さんとして働いていたのでしょうか?


「守人はこの国の術者だった。そして妖との戦いで死んでしまったんだ。冴子さんはね、できれば大津の血からみるくを遠ざけたかったんだ。大津というのは古くから日本を守る一族なのだよ。」


「けれどみるく、やはりおまえは私の孫娘だ。大津の血は覚醒し、みことが君の守護についたね。」


「そして守。大津の直系は常に守という名前が与えられる。お前の血は特に濃いようだ。生まれた時からお前には守護がいた。」


「おじいさま、どういうことですか。」


「執事の九鬼だよ守。九鬼は八咫烏。熊野権現さまの御使いだ。」


 九鬼さんが進み出ると、あっという間にカラスにその姿を変えました。

 そしてみこととヤマトも同じようにその姿を現しました。


「さすがに歴史ある一族だのう。ここにいるわしの孫、国見俊そして、大津の皇子に血筋である大津守・大津みるく、お前たちの皇学園編入を宮司の長老の名のもとに許可することとする。」


 国見のおじいさまがそう宣言すると高津のおじいさまとお母さんそして俊が深々と答礼しましたが、私と守はぽかんとしてそれを見ていました。


「守護の者は、主と正式な契約をするがよい。」

 長老さまの言葉で、御使いたちはみるみる人化しました。


 ヤマトはまるで外国映画のボディガードみたいにな筋肉質の青年になって、俊の前にひざまずき

「我が主を俊と認めます。」と誓いました。


 九鬼さんは守の前にひざまずき

「守さまにお仕えします。」といいましたが、スレンダーの素敵なおじさまが言うととっても色ぽく聞こえます。


 そしてみことは高校生くらいの男の子の姿になると

「みるく、僕はいつでも君と一緒だよ。」といって首筋の痣にキスをしました。


 その途端、守と俊がみことにとびかかろうとしましたが、みことはもう一度首にキスするとそのまま首の中に入ってしまいました。


「あの、エロ猫何しやがる。」


「みるく、なんでキスなんてさせてんだ。」


 俊も守も激怒していますが、もともとみことはいつも首に入る時には痣を舐めていたのです。

 それを説明すると、二人そろって残念な子を見る目になると


「調教されてんじゃねえよ!」

 ってお説教してきましたが、悪いのはみことなのにどうしてみるくが叱られるのでしょうか?


「そんなことより俊、皇学園ってなに?私たち転校でもするの?」


 今日の出来事はみるくの頭の処理能力を大幅に上回りました。

 誰かに説明してもらわなくては、無理そうです。


「冴子さんからみことの話を聞いて、準備は全て終わっている。。皇学園への編入手続きと引越しの手配もだ。今夜はみんな、この家に泊まるといい。俊君から詳しい説明をしておいてくれ。」

 と、高津のおじいさまが言います。


「待って、待ってよ。のぞみや猛にさよならも言えないの?」


 みるくが言うと


「実害はなかったとはいえ、お前たちはすでに妖に出会ってしまった。妖は術者の気配には敏感なのだ。そして妖にとって術者の卵なんぞ最高の餌だ。結界に守られた皇学園でなくては、お前たちが危ないのだ。我慢しておくれ。」


 申し訳なさそうにおじいさまは言うと、そっとみるくを抱き寄せて


「すまないみるく。冴子さんの希望どおりお前だけは高津の定めから解き放ってやりたかったのだが、こうなってしまっては皇学園で学なばなければ妖の贄になるだけなのだ。」

 

 おじいさまはとても哀しそうでした。

 もしかしたら妖に殺されたという、みるくのお父さんのことでも思い出しているのかもしれません。


 守がみるくの手をひいて、自分の部屋に案内します。

 きっとそこで俊から説明を受けるつもりのようです。


 「皇学園と聞いて、どんなイメージが浮かぶ?」っと、俊が聞きました。


「戦前は皇族や華族の学校だったんだろう?今では一般人も入学できるけれど、上品なお坊ちゃん、お嬢ちゃんが学ぶイメージかな。僕は医者になる必要もあるのに、そんなところに入って大丈夫だろうか?」


「そうだね。守のいうイメージが一般的だろうね。ところが実は皇学園には公表されてない事実がある。それが、術者の卵を集めた、術者養成学校だという点だ。勉学の面でも世界でもトップクラスの学問が学べる。もともと術者というのは、一般人よりも能力が高いんだ。」


「でもそれじゃあ何でお姫さまや皇子さまが入学しているの?術者じゃないでしょう?」


「みこと、日本で一番霊力の高い方こそがこの国の天皇なんだよ。神社で一番偉い人も同じなんだ。術というのは血によって継承するんだよ。だからそれを守るために皇族や華族という仕組みが作られたんだ。」


「じゃあもしかして、術者がお姫さまとかを守ってるんじゃなくて、お姫さまが普通の人を守っているってことなの?」


「わかりやすい例えだね。本当はあべこべなんだ。名家とかいうと守られてるイメージだけど、本当は戦ってるって訳なんだ。」


 なんか今までの常識がひっくり返ってしまいました。

 つまりみるくは名家の血をひくから、妖と戦わなければいけないということみたいです。


「そういう訳だから、安心していいよ。医者になるための大学に進学できるくらいの勉強は皇学園で十分にできるからね。それに加えて術式の勉強もある。たっぷり学べるよ。」


 それを聞いて守は嬉しそうですが、みるくは少しも嬉しくありません。

 こんなことなら目覚めなきゃよかったなぁ。

 みるくはみことを拾ったことを激しく後悔しました。

 みるくのモットーは、のんびり、まったり、だったからです。

 

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