第一章vol.5「お仕事はつらいよ」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
␣␣␣ 朝、王国出版の朝刊で無事族の残党をサナダコセイ指揮の元『近衛騎士団』、『王国兵団』で鎮圧したという記事が載った。
␣␣␣ 今回のMVPであった人物は、相変わらず早朝のランニングついでに朝市に出向いていた。
「おっ!おはよう英雄さん!今日は安くしといてやるよ!」
「ははは······勘弁してくれよ。恥ずかしい」
␣␣␣朝市では朝刊に目を通した各店の店主がコセイに声をかける。コセイは恥ずかしそうに頭を撫でる。暫く普段通りの買い物を済ませ相も変わらずからかわれながら歩いていると
「あ、先輩じゃないですか」
「先輩はよしてくれよ、香菜」
␣␣␣ある女性に声をかけられる。香菜と呼ばれたシーナより少しだけ短い黒髪に艶があり、年がコセイより一つ下なだけあり、まだ少し幼さも残るその女性は、本名を涼風香菜と言う。ここで疑問が浮かぶだろうがそれもその筈、香菜も異世界に偶然転生してしまった1人なのである。
――――そう、異世界転生された人間はコセイ1人ではない。
␣␣␣ある日地球で、日本の自衛隊の一部の部隊が集団失踪する事件があった。その失踪した人間は今、ほとんど『聖火憲兵』として王国に仕えている。一部ではマルス帝国側に転生してしまった人間もいるらしいが、定かではない。
␣␣␣香菜は母親の様に、それでいて隣に住んでいる見慣れた幼馴染みの様な笑顔でコセイにはにかむ。その笑顔はとてもぎこちなくて、とても優しい。コセイはおもわず目を逸らす。
␣␣␣商店街を抜け、子供の遊び場の様な砂が敷かれた公園があった。二人はそこにあったベンチに腰掛ける。幸い、朝方なので人気は少ない場所であった。香菜は相変わらず笑顔を絶やさずコセイを見つめる。
「先輩。浮かない顔していますね」
「だから······まあいいや。浮かない顔してるか?」
「えぇ、昨日はあんなに大活躍でしたのに」
␣␣␣それは昼の事を言っているのだろうか、それとも夜の事を言っているのだろうか、コセイには検討もつかない。しかし、それを言及せずにコセイは天を仰ぎ、大きなため息をつく。
「はぁ······、まぁ別に悩みがあるとかじゃないさ」
「でしょうねー」
「お前······」
␣␣␣ 香菜は悪戯な表情をしてコセイを見る。すぐに「冗談ですよ」と弁解すると続けて
「真田先輩の事はここの住人よりも知っているつもりですから」
「······」
――沈黙が続く。先に声を発したのはコセイだった。
「ただなんとなく、疲れてなぁ」
「疲れた?」と、香菜が首を傾げる。コセイは「あぁ」と呟く様に言ってから
「族の襲撃による警護の強化が新しく俺の仕事に上乗せされたんだ」
␣␣␣コセイとアリシアが昨夜、鎮圧した族の後処理をし、コセイの屋敷に戻った後に王国のお目付け役に押しつけられた書類が屋敷に送られてきた。先の報告書を記入し、「どうしたもんか」と唸りながら今朝に至る。
「と言っても発見が出来たのは『近衛騎士団』の見回りのお陰だし、これ以上警備強化しろと言われてもなぁ、って」
「ふむふむ、なるほど」
␣␣␣ 香菜はわざとらしく納得した様な声を上げ、首を頷かせる。コセイに目を細めて見つめられたためか、香菜は頬を少し赤らめながら恥ずかしそうに俯く。その後急にばっと顔を上げて
「あ、私達を警備に使えば良いじゃないですか!それならお目付け役さんも納得ですよ!」
「········なるほど。だけど大々的には『聖火憲兵』を動かすのは結構難しいんだよなぁ」
「なにも情報公開を迫られてる訳じゃないんですし、裏向きで動かせばいいんですよ。そこら辺は隊長がやってくれるでしょうし」
␣␣␣ 香菜が軽く、そんなことを言ってくる。コセイは顔を顰めてその意見を批判する。
「あのなぁ······警護の案にドクスさんが賛成するのも難しそうなのに、押しつけられるわけないだろ?」
「むぅ」
␣␣␣ 香菜があざとく口を尖らせて拗ねる。しかし香菜は勝手に話を進めてしまう。
「ドクスさんには私が言っておきますから!先輩は気にしないで大臣のお仕事してればいいんですよっ!」
「おまっ······いや、というかお前何でそんなに協力的なんだよ」
「そんなの········真田先輩を大切だからに、決まってるじゃないですか」
「――――」
␣␣␣何気なく聞いたそんな質問に、香菜は真面目に返答する。その思いがけない発言にコセイはおもわず絶句する。
␣␣␣ 彼女は自らを差別をせず区別をせず優しく接してくれた先輩を心から想っていた。
――彼の側で彼を支えたい。私を見て欲しい。
私と――
一緒に居て欲しい。
␣␣␣ だがそれは叶わなかった。彼には愛すべき相手が、この世界で出来てしまったから。
「先輩」
「······なんだ」
「今······幸せですか?」
␣␣␣ コセイは黙る。答えはもう既に出ているが、果たしてこの答えは彼女、香菜にとって望んでいる答えなのか否か。
――コセイには分かるはずのないことであった。
「幸せだよ」
「そうですか······」
「幸せだ。俺には好きな奴がいる。そして、俺を好きになってくれる、支えてくれる奴がいる」
「――――」
「もし、この世界に別れを告げた時、向こうに戻れた時、俺はお前と一緒に居てやるよ」
「――――――」
「だからこの世界では、俺を支えてくれ。頼む」
␣␣␣ 香菜はため息を吐く。落胆ではない、優柔不断な好きな男をしょうがないと割り切ってしまう様なため息。
␣␣␣香菜はコセイを目を合わせる。そして今日、あるいは今までで一番の笑顔で笑い
「――仕方ないですね······。分かりました!待っていますからね?先輩!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
␣␣␣香菜と別れ、コセイは屋敷に戻った。
屋敷のドアを開けると
「む、帰ったかコセイ」
␣␣␣鋭く、それでいてその鋭さをふんわり包む優しさをさも垣間見える声音がする。そして玄関をひょこっと覗く普段の立ち振る舞いからは想像出来ない様な子供らしい行動をとる。
␣␣␣ その赤髪の女性シーナに微笑みコセイは朝の挨拶を交わす。
「あぁ、ただいみゃ······」
␣␣␣··················。
――――噛んだ。
␣␣␣シーナが口を腕で覆い必死に肩を震わせながら笑いをこらえる。コセイは少しだけ恥ずかしくなって朝の挨拶を言い直す。
「た、ただいま······」
「あ、あぁ······おっ、ぶっ、おかえり······」
「笑いすぎだぞ!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ほれ」
「さんきゅ」
␣␣␣シーナがすで用意したと思われる朝ごはんがコセイの前に出される。昨日コセイが買って、冷蔵魔法具に入れておいた魚を塩焼きにしたものだ。
白飯と白身魚の塩焼きを交互に口に投げ込み、大根に似た野菜の味噌汁で喉に流し込む。
「うまっ。シーナは相変わらず料理が上手だよな。これなら良いお嫁さんに慣れそうだな?シーナさん、後でお話が」
「いいからっ!さっさと食べ終われ!」
␣␣␣ 朝飯を残さず食べたコセイは自らの食器を台所で汚れを洗い落としながらシーナに話しかける。
「そういや、今日仕事あんのか?俺は自宅で仕事するんだけどさ。もし、あれならお昼に弁当作って届けてやるぜ?」
「それはありがたいが今日は仕事は夜間出勤だ。普段深夜帰りの連中が今回は朝出勤らしくてな」
「『リヒト教』の教徒、か」
「·········あぁ」
␣␣␣言うまでもなく昨日の族達は『リヒト教』の教徒であった。しかも、白いフードというのは『リヒト教』の中でも特に危険視されている『正教会』の教徒である。
␣␣␣『リヒト教』には『正教会』・『邪教会』・『中央教会』の三つの宗派が存在する。『中央教会』は穏健派で、他の二つの宗派を敵視している。しかし残りの二つ、特に『正教会』が戦闘において、とてつもない勢力を持っている。
「夜間襲撃に乗じて、精鋭を夜型に配備したってことか」
「あぁ」とシーナはコーヒーをカップに注ぎコセイの前に差し出す。それを口に運びながらコセイは考える。
␣␣␣果たしてそれで本当に対応出来るのか、教徒達ならまだしも本命である
「『大罪』が出てきたら、対応出来るのか······」
「······」
␣␣␣シーナも思わず静かになる。
␣␣␣ 『大罪』とは何か
␣␣␣『大罪』とは『正教会』の幹部とも言える人物達の事である。この名前が世に知られているのは『大罪』と呼ばれる者が自らを『大罪』と名乗り甚大な被害出して消える、といった手口を今までに何度もやられてきたからだ。
␣␣␣ その『大罪』と呼ばれている者達で確認済みなのは
『色欲』・『嫉妬』・『暴食』
␣␣␣ 特に『色欲』と『嫉妬』は被害規模がとてつもなく広く、危険視されている。
しかし······
「『暴食』の目撃が王国進軍開発区域付近にあった······」
␣␣␣コセイは空を仰ぐようにして唸る。
――――『暴食』
␣␣␣これが最もコセイ達王国側の上層部が警戒している人物。
␣␣␣この『暴食』と言う『大罪』は他の確認された『大罪』より災害規模はあまり広くなく、死人も数人しか出ない。
――――しかし、その数人の死人が非常に国を苦しめていた。
␣␣␣『暴食』は自称武人として名乗り、その国の最高戦力に近い人間を相手取り、ことごとくその戦力を潰してきた。
そう――――――千人分の兵士の犠牲よりも重い、死。
「今度の作戦。上手くいけばいいんだけどねぇ······」
「こっ、こらっ。そんな消極的な事を言うんじゃないっ」
␣␣␣ネガティブな発言をしたコセイをシーナが咎める。コセイは「悪い悪い」と苦笑いをして、コーヒーを口に含み、席を立つ。
ぎしぎしと軋む音が椅子からする。コセイは立ち上がり、大き伸びをして「ほんじゃあ内職するから」と言って、リビングを後にしようとする。
「あぁ、ちょっと」
␣␣␣シーナが若干焦りを見せながらコセイを止める。コセイは何事かと振り向いて首を傾げる。
シーナは顔を少し赤く染めて、もじもじしながら「あ、あの······」と、言葉を濁す。
「い、今······その、二人······きりだ······から」
「マ!?」
␣␣␣ シーナの台詞に被せるように思わず叫んでしまったコセイ。そのせいかシーナは余計に顔を赤くして肩を縮める。
――――そう、今現在2人はその名の如く二人きりであった。
「も······もう少し話がしたいのだが······」
「そ、そりゃあ······喜んで!」
␣␣␣コセイは唐突な出来事に思わず声が震える。
␣␣␣ 今更だが、コセイはシーナの事が初めて会った時から一目惚れしていたのだ。そして何度もアタックをしてみたが、すげなくあしらわれたり、時にはぶん投げられたり、といつも失敗に終わっていた。
␣␣␣だがしかし、今回は違う。ムードを作ろうとしていたのはシーナの方であった。
␣␣␣シーナが羞恥で死んでしまいそうな顔をしながら肩を震わせながらコセイを見上げる。
「し、死にそう······はっ!······恥ずかしくて、死にそう······」
「しししし死ぬな!俺とお前の子供を産むまで死ぬんじゃあない!」
「だから前から結婚もしてやらんし、お前の子供なんてもってのほかだ!セクハラ男!」
␣␣␣シーナは顔を真っ赤にしながら恥ずかしがり、はたまた真っ赤にしながら激怒した。そして、両手で顔を覆い隠ししゃがみこむ。
「わっ、悪かったって!だから泣くな!」
「ううぅ······ぐずっ。泣いでないもんっ······ずびっ」
「本当に悪かったから!泣くなよぉ!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
␣␣␣コセイがコーヒーをシーナに入れてきてやり、シーナを落ち着かせる。
␣␣␣シーナが一含みコーヒーを飲むと、小さく深呼吸をして心を落ち着かせる仕草を見せる。そして、二人で並んでソファーに腰掛ける。
␣␣␣シーナは未だ少し顔が赤いが、話せる程には回復したようだった。コセイが話をふる。
「それで······どんな話をすればいいんだ?」
「······それを私に聞かないでくれ············」
␣␣␣ぐぅ、気まずい······とコセイが顔を伏せ唸る。シーナも顔を逸らして耳を赤くした。
――暫く沈黙が続いたが、今度はシーナが先に話しかける。
「コセイ。その············。お前は何故私だったのだ?いつも一緒にいたアリシアでは無いのか?」
␣␣␣暫くコセイが無言で窓の外を眺める。理由を考えてる様にも捉えられるが、コセイには元々無論の質問であった。しかし、何故その行動に至ったかというと······
――――アリシアの、事であった。
「俺はお前の事が好きだよ。重いかもしれないけど······それでも、だ。············アリシア、とはもっと違う形だったら俺も······そうだなぁ」
「違う形、とは?」
␣␣␣誰もが違和感を抱くその疑問をシーナが投げかける。コセイはやけに真面目な顔になる。シーナはその横顔をを横目で見ながら少しだけ顔を赤くする。シーナはコセイとの将来を、未だ微塵も考慮していないが、コセイのいくつかの仕草や表情――優しさなどに気になる所があった。これはコセイは愚か、シーナ自身も自覚していない事であった。
と、コセイが頬の張りを緩めて、目を細めはにかみながらシーナに顔を向ける。
「そりゃあ俺が、あの時お前と出会わなければ。ってとこ······かな」
「――――」
␣␣␣シーナは絶句する。自分にも何故その瞬間言葉が喉から絞り出し、声として発せられなかったのかが不思議でならなかった。そこで「やはりそうか」とか「だろうな」とかの言葉が口から出ていてもおかしくない、と。シーナ・フォイアロードはそういう人間だったはずだ。
␣␣␣事実サナダコセイという人間と出会う前は、自分に対する愛情を、好意を、何度も何度も何度も何度も何度もなんどもなんども払い除け、切り捨ててきたはずだ。そんなものはただの体目的やら金目的やら汚い貴族達の、戯れごとに過ぎない事を知っていたから。
――――しかし、コセイは違う。この男は本気であった。そして、払い除けられ渋々と引き下がっていった貴族達とは違い、今も私をめげずに追いかけてくる。
␣␣␣昔、剣の手合わせで賭けをした事があった。その時すらも負けを認めず何度も何度も勝負をしてきた。
――――そうだ。
␣␣␣私がこの男のファミリーに入ったのはこの男の根性を、想いを本気と受け取り、どこまでも諦めるという言葉を知らないかの様に一つの事に取り組む彼を、私が気に入ってしまった事が理由であったはずだ。
――――ま、まさか私は············い、いやいやいや。
「シーナ?」
「ひゃ!?えっ?な、なんだ?」
␣␣␣ 唐突に呼ばれシーナがびくっと肩を震わせ返事をする。先程考えていた事のせいで余計にびくついてしまった。あまりにも驚いたシーナを見て、コセイが思わず肩を震わせながら笑う。
␣␣␣恥ずかしそうにしながらシーナがジト目で続きを促す発言をする。
「········それで、私と出会ってなかったらとはどういう事だ?」
␣␣␣ コセイは「あ、そうだったな」 と惚けた様な口調で続きを話し始める。
「そもそも、お前と会わないって言うのはあそこであの場所に居ないってこと。つまり俺が別の選択をしたってことか」
「別の······」
「すまんがそれは言えない」
␣␣␣ シーナの疑問を遮る様にコセイが重ねて喋る。シーナは顔を顰めるが、そういう事ならと思い、それ以上詮索はしなかった。
コセイはそのシーナの態度に感謝しながら更に続きを話す。
「その選択をしていたら王国に行く事も無かったし、――もちろん、ファミリーなんてモンも存在しなかった訳だな」
␣␣␣それは······と、シーナは少しだけ心が空く感じがした。シーナは実際ここでの暮らしは楽しいと思っている。
␣␣␣ それが無くなるという事は······
「他の連中とも仲良くは出来なかった、という訳か」
「あぁ······、そして俺はいつまでも俺の側で俺を支えてくれたアリシアを選んでいたはずだろうな」
␣␣␣シーナは相槌を躊躇う。そしてまた、暫く沈黙が続く。シーナが何か言おうとしたその時。
「あぅ、おはよぉ」
␣␣␣すっとぼけた幼い声音がきしきしと鳴る階段の音と一緒にコセイとシーナに聞こえてきた。
␣␣␣コセイだけが振り向いてその声音に向かい挨拶を交わす。
「おぅ、おはようメグ。今日はお寝坊さんだな」
「ふみゃあ······。メグはおねむしゃん······」
␣␣␣コセイとメグの会話を、聞くこともなくシーナは机の当たりを真っ直ぐ見つめていた。その瞳は何を見ていたのかは、ここにいる誰も、本人ですらも見当がつかなかった。
␣␣␣コセイはシーナにメグに聞こえない様な小さな声で囁く。
「どうやら、二人きりの時間は終わりみたいだな。今度は俺が二人の時間作るから······また、な?」
「あ、あぁ」
␣␣␣シーナは少しコセイに対して返事が遅れる。それに若干の違和感を感じたコセイだったが、そのままソファーから離れると2階へ上り自らの仕事に取り掛かってしまった――。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
␣␣␣夕暮れ時、コセイが仕事を終え下に降りてくる。コセイがリビングに入ってくるとシーナがメグを抱えてソファーで昼寝をしているのを見つけた。
その平和的な光景に、思わず口がにやけてしまう。しかし、台所のテーブルに腰掛けると同時に、コセイの顔は真剣にそして何かに恐怖するかの様に、なる。
「············『暴食』」
␣␣␣ポツリと呟く未知に近い大物の名は、今回コセイがレギンズ国王のお目付け役から指示のあったもう一つの案件に関係していた。
␣␣␣ 今回の騒動の件、族の仮拠点とされている『女帝の森』と言う、王国から数百里ばかり離れた森林地帯の占領・開拓をせよとの内容であった。実際、そこからならマルス帝国の進軍を牽制出来る足掛かりが得られ、森林地帯の広大さから幾分か王国全体の財政も十分確保出来る。
␣␣␣しかし、コセイには別の目的もあった。それは――
「むにゃ······」
と、メグが突然むくりと起き上がり、辺りをきょろきょろし始めた事で、コセイは我に返る。そして、メグという抱き枕を失くしたシーナが目をしょぼしょぼさせながら同じく起き上がり、窓の外をぼーっと眺める。
␣␣␣コセイはその二人をしばらく眺めて取り敢えず仕事の事から離れる事にした。
「おはよう、2人とも」
「コセー、はよぉー」
「う······、おはよう」
␣␣␣ アリシアとライアーは未だに帰ってきていなかった。コセイはシーナとメグに2人が帰ってきたら夕飯にしようと話しかけようとする。
――――が、
␣␣␣二人の視線がコセイの肩に、じぃっと集中している事にコセイは気づく。シーナが肩に乗せているそれは何かとばかりに指を差し、メグがその――――白い毛並みの毛玉の生き物から目をそらさずにいた。
「ピヨ」
――――その、ひよこを
いつ出せるんだと思ってましたが、ようやく出せて良かったです。ひよこ。