第一章vol.2「大臣就任式前夜」
話のチュートリアルは今回までなので、もう少しお付き合い下さい······
␣␣␣未だアリシアは自らの胸にメグを埋もれさせながら、ドS女王に縛られ鞭で叩かれる人のような顔をしながら、ぐるぐると駒のように回っていた。抵抗虚しくいくら力を振り絞っても離す気はないと理解したメグは、大人しく全身の力が抜けたかのように脱力した状態でスイングされていた。その光景はさながら絶叫マシーンの様に見えた。某富士何とかの。
␣␣␣カウンターに右肘を置きながら、その光景を眺めていたコセイは、ドクスの声で振り返る。
「それで。何故唐突に大臣職に就きたいと?」
「それは······」
とコセイは言いながら間を置く。単に理由を考えていなかったという訳でないが、何故だか沈黙をしたい気分になったのだった。コセイはその後ドクスを真っ直ぐ見つめ
「······まぁ、なにか企んでる訳では無いですよ。ふとした時に国務大臣として王国に仕えたい願望があるじゃないですか」
「よく分からないな」
「とにかく理由は聞かないで欲しいですかね。それでその相談なんですけど······」
「あぁ、そうだったね。で、その相談ってのはいったい僕に、というか僕達に何を手伝って欲しいのかな?」
「これから国の仕事をしていく上で、外交問題での亀裂から軽い紛争が何回かはあるんじゃないかなと。それで表向きではなく裏でギルドの皆さんに支えて頂きたいな、と」
「なるほど、確かに騎士団や兵団が表向きで解決していくには難しい問題はある。うん、いい考えだと思う」
「それで、提案の方は」
恐る恐る聞くコセイに、ドクスは「ははは。そんなに怯えなくてもいいじゃないか」と笑いながら
「おっけー。その提案に乗ろう。盗賊団ギルドは君を全面的にフォローしていくよ」
「······!············ありがとうがざいますっ!」
␣␣␣これにてコセイの中での戦力の補強、及び下準備は完了したのであった。
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␣␣␣酒場を離れたしばらく後、メグを連れ屋敷に戻ると言ったアリシアは大通りでコセイと別れ、現在コセイは街道の大通りを中央の王城に向かって歩いていた。そして、顎に再び手をやり空いた手の方で肘を支えるようにしながら少し俯き
「これで、準備はだいたい終わり、といっても一つしかやってないけどな······」
␣␣␣ ため息を吐きながら肉眼で確認出来るようになってきた王城を見上げる。王城はジュプト王国領域内で2番目に高い土地なので王都からは少しだけ斜め上を見上げることで、王城を目指できる。コセイは王城を暫く眺めた後、もう一度ため息を吐きながら
「ドクス大佐、俺の目的を知ったら失望するのかな······」
と、どことなく悲しげな顔をしながら呟いた。
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␣␣␣ 王城の門の前に着き、4人の護衛兵2人の近衛の騎士に事情を説明し、門を開けてもらいコセイは王城の中央広間に居た。
「かーっ!相変わらずでけぇなぁ!」
␣␣␣ホールの中央から開けた天井を見上げ、6回建てはあろう階層の全てがこのホールを見下ろせる様に大きな穴が空いていてた。
␣␣␣次期国王の任命式、『近衛騎士団』団長及び『王国兵団』総司令の新任式などがここで行われる。この中央広間は様々な部屋と繋がっているが、基本的には立ち入りが禁止されているため、遠回りでも他の道を通り移動するしかない。では何故コセイが今ここに入ってこれるかと言うと
「おぉよく来た!コセイ」
年寄りとはとても思えない若々しく太い声音で突然名前を呼ばれる。声のする方を向くと、顔がシワで刻まれ優しい顔立ちをした、正装なのか潔白のマントを羽織り玉座に腰掛けていた。
「······どうも、ご無沙汰しています」
「はっはっはっ!元気そうで何より何より!」
␣␣␣久しぶりに友人と言葉を交わしたからだろうか、やけに喜々として高らかに笑う。その笑い声に若干怖気付きながらも、久しぶりにあっても相変わらず元気そうなその老体に思わず苦笑いをする。
「早速本題に入りたいのですが、ゲルニオ国王」
「ふむ、例の件の御礼として何か欲しい物、したい事を何でも申せと言うあれか」
「はい。実はですね······」
␣␣␣ 驚かれるであろう事を覚悟しながら、コセイは小さく深呼吸をし、やけに真面目な顔でゲルニオに向け言い放った。
「国務大臣の就任を希望致します」
「いいよ」
「······ほぇ?」
␣␣␣コセイはあっさりと肯定されて、思わず素っ頓狂な声を上げてその場で固まった。
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「······ほぇ?」
「随分と面白い声を上げるじゃないか!はっはっ!」
「あの······?ちゃんと聞いてました?」
「うん、ちゃんと聞いとったよ。大臣したいんでしょ?ユーヤッチャイナヨ」
「いや······そのノリはどうかと思う、というかどうかしてると思うんですが······」
簡単にことが運んでしまい、困惑するコセイ。それに対してその反応がとても面白かったのか、ゲルニオはシワを余計に深く刻みながら、コセイの反応を見て笑っていた。
「御礼するから何でもあげるし何でもさせてあげるって言ったのは僕なんだから、断る理由がないじゃないかー」
「いや、まぁそうなんですけど······」
「それに、今王国は意外と緊迫状態なんだよねぇー」
「えぇそれは、知っています」
――――以下説明。
␣␣␣現在ジュプト王国は対国であるマルス大帝国の他に、闇の集団として各国を恐怖に貶めている宗教団体があった。
␣␣␣ その宗教団体は、死の女神ヘルを崇め、また復活を望む活動をしている宗教団体で名前は『リヒト教』という名を名乗っている。ただの思想が危ない宗教団体であれば即刻袋叩きに出来たが、その団体が恐ろしいのは戦闘に長けた実力であった。
␣␣␣ 以前マルス大帝国の防衛最重要都市であったカペラ中枢地区という場所があったのだが、ジュプト王国ですら攻め落とすには半年はかかるとされていた防衛拠点都市を1日も掛からず落とされたという。その際マルス大帝国の中心地まで攻められ、もう帝国は滅ぶ道を辿る運命だと思われたが、突然『リヒト教』の連中は撤退をしたという。その後から突然帝国側が和議を破棄し、王国に敵対し始めたという事件があったのだが今は関係の無い話である。
␣␣␣ とにかくその連中は実力だけは凄まじいらしく、王国初め各国でも悩みの種だと言うことらしい。
「その対策としてすぐにも戦略家、という者が必要だったという次第でな」
「そういう事でしたか。なら折角大臣就任の許可を頂いたことですし、そちらの件も私の仕事の内とさせて頂いても構いません」
「あ、いやでもそれだと色々と役割とかが――」
「私にとって奴らは······必ず打ち倒さなければいけないんですよ」
「――――」
「やらせてください。······いや、やらせてくれゲルニオ」
␣␣␣暫くゲルニオは考える仕草をし、少し時間をおいてからコセイを見つめ悪ガキのような悪戯な笑顔を浮かべながら口を開いた。
「――――ふっ。ふっはっはっ!親友の頼みだからこればかりは仕方がないな!今回だけじゃぞ?コセイ」
「さんきゅー······――――――ゲルニオ!」
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␣␣␣暫くゲルニオと会話をしたコセイは王城を後にし、門をくぐり抜けた。そこでふと「んぉ」と何かを見つけたかのような声を上げ、2人の男女に声をかける。
「おーい!シーナ!ライアー!久しぶりだなー!俺だよ!俺俺!」
「!?コセイ!お前1年間どこで何をしていたっ!」
「これはマスター!お久しぶりですね」
「ライアー、久しぶりだなぁ。シーナ、それは帰ってから話すから······」
「帰る途中でいくらでも時間はあるだろう?何故帰ってからなんだ」
「うーん、じゃあ逆にしよう!今俺がここで何をしていたかを帰ってから。1年間何をしていたかを後で」
「······コセイ、逆という言葉を知っているか?」
「忘れた」
␣␣␣こめかみを押さえ呆れている紅色の首が見えるか見ないか微妙な長さのセミロングヘアーの凛々しい女性、シーナは呆れたと実際に口に漏らしながら
「まぁ、話したくないなら話さくてもいいが皆心配していたんだぞ?」
「お前も?」
「私は······まぁいつか帰ってくるだろうと思っていたから特に心配はしなかったなっ!」
「マスターこいつ熊のように毎日リビングをウロウロしていました」
「よし、報告ご苦労」
「!?」
␣␣␣事実だったのかライアーが言った事に大袈裟に反応するシーナ。そして、頬をほんのりと赤らめながら
「べっ、別に心配しなかった訳でも無いのは認めるが、そんなにウロウロはしていなかったぞ!」
「まぁこの子顔赤くしちゃって。流石は俺の惚れた女」
「そういう事を公衆の面前で言うなぁ!」
␣␣␣ 耳まで赤くしたシーナはコセイの顎下に拳をヒットさせる。思わず不意を付かれ空中に殴り上げられたコセイは体制を崩し地面に体全体を打つ。
「ぐはぁ!」
␣␣␣はぁはぁ言いながら顔を赤くしているシーナは、拳を握るように自分の口元の近くに持っていき一つ咳払いをして未だ腰を強打し、立ち上がることの出来ないコセイを見下ろしながら。
「はぁはぁ············もう······懲りたか····?」
「いてててて······すみません許して下さい···」
␣␣␣コセイは泣き目になりながら打ち付けた腰を擦りながらゆっくりと立ち上がる。その光景を見ながら満足をしたのか、シーナがやけに順風満帆な顔をしながら快く鼻を鳴らし「よろしい」と一言短く告げる。それを一部始終眺めていた茶髪でオールバックにしたような髪型をしたライアーが口元を歪める。こういう日常的なやりとりをしながらコセイ達一行は自らの屋敷へと帰っていった。
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␣␣␣コセイのファミリーが住んでいる屋敷は王都を出て隣町にある田舎のような地区の森林地帯の目の前に立っている。満場一致で落ち着いた空間が欲しいということだったので、ここに家を建て5人で住むことになった(因みに家はコセイが自ら建てた)。コセイが玄関のドアを開け「ただいまー」と言うと
「あ、帰ってきた。おかぇりなさぁーい」
␣␣␣と、アリシアが出迎えてくれた。王都を出る頃にはもう既に夜だったので屋敷につく頃には、とっくにメグの就寝時間だった。騎士団のシンボルの様なマントを脱ぎながらシーナが
「アリシア、もうメグは寝たのか?」
「えぇ、もぅ寝えましたよぅ。今日は疲れちゃったみたいで、ぐーっすりですぅ」
「······そうか」
␣␣␣ 妙に優しい声音でアリシアに返答するシーナはどこか安心したかのように見えたコセイだった。アリシアが料理を作っておいたらしく、テーブルに人数分の料理が並んでいた。――――――――6つの料理が。ライアーはマントを脱いだ後すぐに自室に上がってしまいアリシアがそれに気づき2人分の料理を片す。シーナがメグが食べたのであろう食事の食器を台所き持っていき食器を流す。コセイは一息つきながら椅子に座り、台所に居た2人を眺め
「一つ報告があるんだけどいいかな?」
「それは2人が居る明日の朝とかではダメか?」
「うーん、2人には先に言っておいた方がいいかなぁって」
「ということは王国絡みだな」
␣␣␣ 察しのいいシーナが食器洗いを終えたのか水を止め、タオルで手を吹きながら向かいのテーブルに座る。そして飲み物を3人分入れたアリシアもコセイの隣のテーブルに座り、話を聞く体制になる。コセイが「大したことではないけど」と言いながらサラダを口に頬張りながら
「俺、王国の国務大臣やる事になった」
␣␣␣と言うと、アリシアとシーナの食事の動きが止まる。驚いているのか2人で顔を合わせながら2人でコセイを目を丸くして見つめる。そしてシーナが先に言葉を発する。
「な······思った以上に驚いたが······ふぅ落ち着いた、······なるほど。まぁ納得は出来る。今までの功績が功績だったからな」
「俺、言うてあんまり功績とか無いけど」
「何言ってるんですかぁ」
␣␣␣ シーナに続いてアリシアが会話に割り込み言葉を発する。シーナとアリシアは初め驚いたものの後に納得し、今では何事も無かったかのように飲み物を飲んだり白米を食べていた。この世界にも白米という存在はあるらしく、この世界の文明はあまり遅れてはいないとコセイは5年前、自らで理解した。
「コセイさんは紛れもなく我が国に貢献しましたぁ。それは昔も今も揺るぎない事実じゃないですかぁ」
「――――――――」
「それに、シーナも私も――――助けられましたから。あなたが思ってるほどにずっとずっと救われ、すごくすごく感謝、していますから」
␣␣␣ いつもの様に気だるげな喋り方ではなく、珍しく真面目にアリシアが言葉を発する。コセイは渋い顔をしながら腕を組み、俯く。
「感謝、している」
␣␣␣そのすぐ後自分の向かい側に座っていた者が声を出す。まるで、絞り出すような。泣き出す、ような。
「コセイが私達にしてくれた事。私に寄せてくれた思い。全部をまとめて、――――――――感謝している」
␣␣␣ ほぅっ、と息を吐き震える手を抑えながら自分から湧き出る、溢れ出てくる何かをぐっと堪えるかのように、シーナは感謝を言葉にする。
「ありがとう、と」
␣␣␣コセイは顔が驚きで固まるのを実感した。胸のあたりが熱くなり、喉が普段以上に乾いている。なんとか声を出そうとして振り絞ってみる。しかし、
「――――――――ぁ」
␣␣␣ 言葉にならない。声が出ない。コセイは2人の女性が自分に対して感謝をしている。そして、その感謝を言葉にして自分に伝えた。にも関わらず、声が出ない。
コセイは自分を責める。情けない、と。自分を責めて責めて責める。これ程自分は弱いのかと。こちらこそありがとう、自分を支えてくれて、自分のそばに居てくれて――――――――自分を選んでくれて、ありがとう。と
「いいんですよ、コセイさん」
␣␣␣優しい声音に顔をはっと上げる。見ると横にアリシアが優しく微笑んだ顔で
「あなたが言葉にしなくても、いいんですよ。あなたの、あなたの言動全てが――――――――――――――――あなたの感謝の印です」
「―――――――――――」
「あなたが私達の事を凄く感謝している事も、自分の弱さを謝り、償おうとしている事も」
「―――――――――――」
「だから――――――――」
␣␣␣月の光が、差し込む。夜の屋敷は明かりがついているにも関わらず、月の光はカーテンを透け、差し込んでくる。
――――――――――――――――今宵は満月。
次回でチュートリアル最後の予定です!
良ければ感想欲しいです。主に内容に対する指摘を······