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拾参

久々の投稿です


黎昭儀の妊娠が発覚してから早三週間が過ぎようとしていた。

相変わらず義龍の訪れはない。

後宮では、子を成したために黎昭儀が寵姫に返り咲いたのだ……とまことしとやかに囁かれていた。そして、貴妃は寵愛を失ったのだ、と。



「本日のお召し物は如何なさいますか、雪苑様」


「そうねぇ……右から二番目」



藍色を基調とした、金色の蝶の刺繍が入っている衣装を選ぶ。

最近の雪苑のお気に入りだ。

というのも。



「好きですねぇ」


「だって、ほら。羌瘣から貰った髪飾りに良く似合うわ」



羌瘣が李国から届いたという宝石を腕利きの商人に加工させ、髪飾りにしたててくれたのだ。因みに雪苑と羌瘣、お揃いである。



「えぇ、まことに」



穏やかに微笑む月琴。なんと最近、親の勧めで縁談がまとまったというのだ。お相手は軍に所属する感じの良い好青年で、月琴より四つ下の23歳。雪苑も何度か顔を見たことがある。若いのにその昇進ぶりは見事だ、と義龍もだいぶ前に言っていた。


きっと結婚も若いうちにしているのだろうなぁ、と思っていたので意外だ。何でも今まで何回も見合いをしてきたがどの娘も彼の方から断りを入れていたらしい。つまりは月琴にも春が来たのである。生涯の伴侶を得た月琴は、本当に幸せそうだ。



「あ、そうだ。今夜も陛下、いらっしゃらないそうです」



最早聞き慣れてしまったその一言に、雪苑はふーん、と相槌を打つ。まぁ、今は大変な時期だし仕方ないだろう。雪苑にとっては全くもってどうでもいい。

だがしかし、どうも淑妃の動きが宜しくないというのを羌瘣から聞いた。どう宜しくないのかというと、そりゃあもう全体的に。



黒江、と呼ばれる新参者の女官を自宮の奥部屋に閉じ込めているそうだ。10日ほど前に入宮したのにも関わらず、彼女は淑妃から絶大な信頼を得ているらしい。呪術師か何かの類ではないか、と羌瘣は言っていたが、確証がないために踏み込めない。



「宜しいのですか、雪苑様」


「何が?」


「……そりゃあ、黎昭儀様に陛下を取られていいんですか?ってことで……」


「取られるも何も、あいつは私のもんじゃない」



きっぱりと、そう言う。

そう、義龍は雪苑のものではない。

反対に、自分も義龍のものではないのだ。


……と。

大花が部屋に駆け込んでくる。



「雪苑様。菻充儀と申す者が雪苑様にお会いしたいと申しているのですが」


そう、彼女から告げられた時、来たか、と雪苑は思った。先日、羌瘣との話題にのぼった、毒を入手したという彼女である。刃を潰した剣の手入れをしながら、雪苑は大花に彼女を通すよう、指示した。




「菻充儀と申します。貴妃様におかれましては、ご機嫌麗しゅう」



程なくしてやってきた彼女は、慣例通りの挨拶を済ませると人払い出来ないか、と雪苑に伺いをたてた。紅い裳裾を引き摺りながら、しずしずと近づいてくる彼女。再び頭を垂れると、



「お願い申し上げます、貴妃様。事は深刻なのでございます!」



……怪しい。

ちらり、と後ろを向くと目が合った若青が無言で首をふり……


(追っ払え、と?)


しっしっ、と野良猫を払う手つきをしながら菻充儀を睨みつけた。雪苑はその横に控える燐と月琴にも目を向けたが、彼女達も同様である。




「面を上げなさい、充儀」


若青達が態度で示したように、雪苑にも菻充儀を訝しむ気持ち、そして出来ることならばお引き取り頂きたい、という気持ちがあった。至極当然のことである。相手は毒を所有していて、自分を狙っているのかもしれないのだから。


しかし、話だけでも聞いてやろうと思った。

そこには、これまで形式的な、それも表面的な挨拶でしか言葉を交わしたことの無い人物を、他人からの噂や忠言で敵と決めつけるのは良くない……という雪苑なりの持論がある。



その噂や忠言が、信頼のおける者からのものであったとしても。



「菻充儀。わたくしに何か用か」



菻充儀は、誰の目から見てもわかるくらいに震えていた。

これから自らが犯す罪の大きさに戦いてか、或いは……。


そう、考えていたものだから次に菻充儀が発した言葉はあまりにも意外すぎた。



「後宮の頂点たる、貴妃様にお願い申し上げます!どうか、どうかわたくしをお助け下さいまし!」



「今、なんと」



「わたくしを、淑妃様からお助け下さいませ!」



しかも相手は淑妃ときた。

開いた口が塞がらない……しかし彼女やほかの女官達の手前、間抜けな顔を見せるわけにはいかない……従って、表情は誤魔化しの意味を込めた薄ら笑い、内心では大絶叫、という気持ちの悪い状態に落ち着いた。否、全くもって落ち着いていないのだが。


「順序だてて説明なさい。何が、お前をそうさせたのだ」



菻充儀の父親、菻工部侍郎は宰相と共に工部尚書も務める淑妃の父親、高氏の名実共に子飼いの人物である。侍郎という役職は尚書の直属の部下で、彼自身取り立てて才が無いにも関わらず高氏の推しでそこまで成り上がったからにして。



その力関係は娘達も変わらない。

高淑妃の昇格と共に菻充儀も昇格していった。

だから、菻充儀は淑妃に逆らえない。



それなのに、何故。




「淑妃様が、 范修儀様に毒をお渡しになりました」



「……え、」



思わず声が、漏れ出る。

鄭賢妃の話では、毒の件は淑妃には関係ないはずだ。

それも毒を所持しているのは范修儀ではなく、菻充儀……。


誰かが、嘘をついている?



菻充儀?



鄭賢妃?




それとも……否、考えればきりがない。

わかるのは唯一つ。




「范修儀様は黎昭儀様のお命を奪うつもりにございます!」






これが、女と女の戦いなのだ。

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