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「それにしても驚きましたねぇ。まさか、あの羌瘣が」


「本当にね」


感極まったように言葉を紡ぎ出す若青に、雪苑も頷いた。

幼き頃、共に雪苑に仕えた仲である羌瘣との10年越しの再会を果たし、彼女も彼女なりに喜んでいた。


「見事なまでの美しさだったわ。あの可憐な少女が恐ろしい程美しくなるとは」


「確かに彼女は美しゅうございましたが、それでも国一と称されるほどの美姫は雪苑様をおいて他には居りませんわ」


月琴が言う。

彼女の目は、恍惚としていて雪苑本人が見ていて大丈夫か、と声をかけたくなるほどに危うかった。



「おかしなことね。賢妃にも同じようなことを言われたわ」


「本当の事で御座いますもの」


月琴は鷹揚に頷くと、賢妃の使った茶器を下げるため、立ち上がった。そして、あ、と声をあげた。

何かあったのだろうか、と訝し気な表情を作り、雪苑は問いかける。


「どうしたの?」


「たった今思い出したのですが、雪苑様。宦官、要りませんか?」


それはあまりにも唐突な申し出だった。

思わず口に含んでいた桂花茶を吹き出すところだったが、すんでのところでとどまった。


「宦官っていうと……皇帝以外男の立ち入ることの出来ない後宮なんかに良くいる、妃嬪の護衛だったり皇帝が後宮に来る時の護衛をする役目の、去勢をした男性のことよね……?」


「えぇ、そうです。他の姫君なんかは湯浴みを手伝わせたり、時には出産にも立ち会うことがあるそうで」


「出産にも!?」



優雅な手付きで月琴は雪苑の茶器に、桂花茶のお代わりをいれる。淹れたてのそれは、しゅーしゅーと湯気を噴き出しながら茶器におさまった。



「この宮にも人が増えて参りましたし、そろそろ男手も必要では?」


そこで、若青が口を開く。

3人の女官と、侍女長の他にも、雪靉宮での衣装に関わる者、食事に関わる者、行事ごとに関わる者……と、続々と人は増えていた。


「そうねぇ。でもいきなりそんなことを言ってすぐに手配できるものなの?」


「ご心配なく。うってつけの人材を、わたくしが用意致しますので」


「そ、そう?」


何やら自身たっぷりに頷いてみせる彼女に、底知れぬ不安を感じたのは自分だけだろうか……?



そして、不運にもその不安という名の嫌な予感は的中してしまう。






「お久しぶりですね、雪苑様!」



数日後、宦官として現れた人物は、何と顔見知りだった。

それも、


「あ、姉上も変わりないようで!」


良かったです〜とぽりぽり頭をかく彼は、若青の弟、張劉基である。普段しっかりしていながらも大事なところでヘマをやらかす若青とは正反対の気質の持ち主で、彼はやる気にむらがあり、何かと軽い態度のように思える。だが、実はいざというときに頼もしかったりするのを雪苑は知っている。何せ雪苑が物心ついた時から彼は既に乳姉妹若青の弟として生を受けていたのだから。


「あ、あんた宦官だったの……?」


驚くのも無理ない。

最後にあったのは自分の入内の三日前であるはずだが、その時は健全な男性だったように思える。


何がどうしてこうなったのだろうか……、と考えた所で雪苑ははたと思い当たる。もしかしたら彼は元からこういう趣味をもっていたのかもしれない。もう、そうとしか言いようがないほどに知人の去勢は破壊力が半端なかった。



「違いますよ。雪苑様に宦官が必要だと姉上が仰ったので」



ちょんぎってきちゃいました。



そんな風に明るく語る劉基に、雪苑が最大限に引いたのは誰の目にも明らかだった。やっぱりこいつは軽い男だった。……いや、むしろ性の象徴であるアレを切り落とした時点でもう劉基は男ではないのだろうか。


「劉基……あんた何やってんの」


「え?」


「秋麗、言ってたわよ。若青が後宮に入るんだったら暫く出会いは望めない。だったら早いとこ劉基に結婚してもらいたいねぇ。孫の顔が見たい、って」


「おお、完成度高いですね、雪苑様母上そっくり」


「あら、そう?ありがとう……じゃなくて!」


天然な所は若青にそっくりである。

無自覚にぽんぽんと言葉の矢が飛んでくるために回避するのが難しく、咄嗟に突っ込んでしまうのは昔からそうだった。そのために、雪苑は張姉兄相手に悔しい思いをしていたのである。



「……今日から、よろしくね」



ため息を隠そうともしない雪苑だったが、脳内常にお花畑、という売り文句がつきそうな劉基は気にすることなく、雪曖宮に居る女官達への挨拶回りをしにいった。





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