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シンクロ観覧者 ~自分は自分、あなたはあなた~

作者: 黒みりん

全ての方に感謝の意。

 ある日、5月か9月か4月の何日かの日に私たちは遊園地に行くことにした。これまでも何回か訪れた事がある場所ではあるが、水族館や映画館と続いてのデートということもあって再び訪れることにした。

 

「良い天気だね!こんな天気なら、お弁当を作って公園でも良かったかも!・・・まあ、今の時代じゃツイッターとかに上げられることにもなりそうだけど・・・。」彼女は言う。

 「ツイッターなんか気にしてたら、どこへも行けやしないよ。ここでだって変な事をしたら上げられる可能性もあるんだし。気にしないで楽しもうよ。」僕が答える。

 彼女は、ちょっと考えてから僕の手を握る。「そうねえ・・・。気にしない方が良いのは確かね!ここのランチの値段の高さは気になるところだけど、払うのは私じゃないし気にせず行こっか!」彼女は笑いながら、僕をレストランまでひっぱっていく。

 まあ、払うのは僕で構わないのだが彼女のお弁当には未練がある。・・・というか、遊園地の手作りお弁当も有りなのではないかと思った。彼女と二人だけの時間・・・。誰が見ていようと僕は気にせず彼女とのデートを満喫したかった。


 お昼ごはんを済ませて、色々な乗り物に彼女と乗った。ジェットコースター、コーヒーカップ。一人では楽しめそうに無い乗り物でも、彼女となら楽しむことができた。

 「いやあ~、こうしてると童心に帰りますな~。よーし!次はあそこに行きましょ!」彼女は笑顔で遊園地内を進んでいく。

 「そんなに急がなくても大丈夫だよ。乗り物は逃げないからもう少しゆっくり・・・。」僕は言う。彼女は、人差し指を3回横にゆらしちっちっちっとつぶやく。

 「それがそうじゃないんだよねー。時が経つのは早いもんなんだよ。だって、ほらもう夕日が見えるんだよ!?」僕はそう言われ時計を見る。18時57分。確かに言われてみれば、もうそろそろ帰り支度を始めても良いころかも知れない。時間はあっという間に過ぎてしまう。それが楽しい時間ならなおさらだ。

 「そうだね・・・。でもこの時間なら次の乗り物で最後にしようよ。」彼女は、ちょっと考えてからうなずいた。「うん。分かった。じゃあ、最後は観覧車に乗りましょう!きっと綺麗な夕日が見えると思うんだー。」僕たちは最後の乗り物を観覧者に決めた。・・・まあ、最初から観覧車に乗ろうとは思っていたんだが。


 「お待ちのお客様どうぞー。」係員の指示と同時に僕たちは観覧車に乗り込んだ。ゆっくりゆっくりと動いていく観覧者に、さっきまでせわしなくしていた彼女も落ち着きを取り戻したようだ。夕日が持つ暖かく優しい光を浴びて、僕たちは回っていく。・・・よし、そろそろ良い頃だろう。僕は観覧車が頂上に達する時に言おうとしていた言葉があった。遊園地に来る前から言おうとしていた言葉。観覧車に最後に乗ろうと決めた時に彼女に伝えようとした言葉が。「あのさ・・・。」僕は彼女に話しかける。

 「なあに?」彼女が僕の言葉に反応する。よし。言おう・・・とした時だった。

 (がちゃんっ!)激しい音があたり一面にこだました。頂上に達したと思った瞬間、観覧車は止まってしまった。僕も彼女も何も出来なかった。しばらくの間、動き出すのを待つしかなさそうだ。


 しばらく待っても、観覧車はまだ動かない。彼女は少し不安そうだ。「大丈夫だよ。きっとすぐ動くよ。他の人だって乗ってるんだから、心配ないよ。」僕は彼女に話しかける。

 「うん。そうだよね・・・。」彼女は答えるが、やはりまだ不安そうだ。無理も無いか・・・と思い、僕は少し黙っておくことにした。

 すると、突然頭の中に何かが流れ込んできた。僕は何がなんだか分からない。が、あまり気持ちの良いものではないことは確かだった。その証拠に、僕は窓枠に頭をつけて耐えることしか出来なかったからだ。


 私は、あなたと一緒にいると楽しい。遊園地に行くことが決まった時もすごく嬉しかった。だからね・・・、作ちゃったんだお弁当。あなたに食べてもらいたくて、2人で一緒に食べたくてがんばって作ったの。でも、私には勇気がない。あなたの気持ちが分からないから、他の人にどんな目で見られるか怖かったから。私は車の中に置いてきた。あなたのために作った私のお弁当。

 ツイッターなんか気にしなくて良いよと言われた時、私は驚いちゃった。あなたは私とは違って気にしない。私との時間をすごく大事にしてくれる。私が手をつないだ時も拒まなかった。遊園地を急いでまわる私に合わせてくれた。私もあなたに合わせたい。だけど、私には勇気が無い・・・。最後の乗り物は観覧者だ。私は、あなたに合わせられるだろうか?私は、あなたに応えられるだろうか?私はあなたといると楽しいけど苦しい・・・。私はあなたのことが・・・。


 観覧車が動き出す。僕ははっと我にかえる。今のは一体・・・?もしかして今のは・・・。

 「どうしたの?ちょっと寝てたみたいだけど、疲れちゃった?もう、子供なんだから~。」彼女は笑顔で僕に話しかける。

 「うん・・・。そうだねちょっと疲れちゃったみたいだ・・・。」僕は答えるが気の利いた言葉が出てこない。さっきのは夢だったのだろうか?それとも・・・。

 「お客様。お降りの際は足元にご注意ください。」係員の声がする。僕達は、頂上を過ぎゴールを迎えてしまった。僕が君のために用意した言葉も言えないまま。


 「いやー、なんか大変だったよね!観覧車が止まるなんて、私の人生でもかなりの大事件だったよ。」彼女は僕に色々と話しかけてくれる。多分心配してくれているのだろう。しかし、僕は考えてしまう。さっきのあれはなんだったのか?係員の人も他の人も騒いだりしていなかったし・・・。そうこうしているうちに、僕達は自分たちの車に着いた。・・・あっ。僕は思い出し、車の後部座席の扉に手を伸ばす。

 「・・・おっと!前に乗ろうよ。前に・・・あ・・・。」彼女の制止の声も聞かずに僕は扉を開けた。

 

 なんでかな・・・。見つからないと思ったのに。見つかっちゃった・・・。私達のお弁当。あなたは怖い顔をしてお弁当を見てる。・・・ううっ。やっぱり怒るんじゃんかよお。気にしないって言ってくれたじゃないかよお・・・。と思いつつ私は目に涙をためてあなたの言葉を待つ。

 「・・・なんだ、やっぱりお弁当持ってきてたんだね。」私は何故あなたにばれたのか分からないままうなずく。

 「出してくれて良かったのに、僕に気なんか使わなくても良かったのに・・・。」あなたは私に伝えている。

 「家に帰ったら。食べよう。2人で一緒に。それと・・・。」あなたの言葉を私は待っている。

 「作ってくれてありがとう。僕はずっと前から君の事が好きだった。」あなたは私に伝えてくれた。だから、私は私の言葉をあなたに伝える。不安も他人の視線も今はもう感じない。

 「わ、私も好きでした。遊園地の前もそれよりも前から・・・、だからよろしく。」

  

 気が付けば、もうすっかり日も落ちていた。だけどそれも無理はない。時間はどんな時も過ぎていく。それが人生で最高に幸せな時間ならなおさらだ。

 


 

 

 

読んでくださった方ありがとうございました。現在連載中の作品が詰まってしまったので、短編を書いてみました。面白いと感じてくれたら嬉しいです。

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