30行小説 その1
30行で世界を救え。異世界勇者ハーレム。
「ここまで、だな……」
振り返った先の美女の微笑みは、別れ際の顔だった──そして、変わることなく綺麗だった。
初めて出会った時から、彼女はまったく変わらない。自分は8つも歳を取ったのに。
「約束の通りに。私と貴方は……ここから別の道を進む。貴方は勇者として、私は……」
俺は何も言わなかった。言えなかった。言うべき言葉が見つからないのだから。何も。
「魔王、として」
笑みは変わらない。ただ、瞳に宿るものが変わった。哀しみから、諦めへ。でも。
「覆せないのか? 戦いたくない……引き返せる。勇者は世界を救うんだ。なら、君だって」
俺は勇者として呼ばれたのに。好きな女の一人救えない奴のどこが勇者だ。何が勇者だ。
「それを確かめる旅だった。そうでしょう? そして無理だと分かった。それに──」
「魔王はね、勇者に逆らうものなのよ」
剣を振り下ろすことしか、出来なかった。彼女は既に受け入れている。それに。
「貴方が私を見逃しても、いずれまた別の勇者が私を殺す。なら。私は、貴方に殺されたい」
彼女の最後の言葉は、皮肉にも託宣に思われた。彼女の居ない、救われた世界への、祈りの。
【制限】
・42文字を1行とする。
・余韻や行間を大切にする。
・世界を救う。
・自我を殺す。
【問題点】
・異世界には行けなかった。
・都合上空行の配列がいまいち納得できないものになった。
・空行は全部2行以上開けたかった。
・ハーレムにならなかった。