じいさんと僕
光に包まれていた。
そして目の前には真っ白で腰まで伸びた長髪、色の濃いグラサン、口にはタバコ。
そんなガラの悪い爺さんが立っていた、いや浮いていた。
「お~い、コウ!起きろー!そんなに時間ないぞー」
そう声をかけてタバコの煙を吹きかけてくる。
「・・・・」
目が合った。やばい、ナンダコノヒト!絶対おかしい人だ。なんで僕の名前を知っている?それに初対面の人に煙を吹きかけてくるなんて。なんて人だ。あれだ、ヤンキーだ。昔の栄光にすがりつく嫌なタイプの大人だ。僕は知っているんだ。
「昔の俺は尖ってたよ」「俺が産まれた町で俺を知らない奴なんていないから(笑)」
そういう、「え?その話何?」って感じの話をしちゃうタイプの人だ。実際知ってる人に聞くとそんな大した事してないのに、少しの武勇伝に塩コショウとマヨネーズとケチャップつけて周りに話を提出するタイプだ。
早い人間で高校生でかかる病の人だ。義務教育という名の保護が消えたとたん発動条件が整う病のやつだ。
いや落ち着け、今はこのじいさんが浮いてるのが問題だ。なんで変なじいさん浮いてんの?変なじいさんだから浮いてんの?いやここどこだ?焦りで何も思い出せない。今わかってるのは、元ヤンキーのじいさんに絡まれてるこの現状だ。怖い。カツアゲされる。
そーっと気づかれない様に目を離していく。ばれてはいけない、気付いてる事に、それは=カツアゲにつながる。
「いやいや、長い時間見つめ合っといてなに視線はずしてるの?気付かれないと思った?本当に?」
「すーすーすー」
「そんな目を全開のまま寝たふりとか無理だから、口ですーすーとか気付かない人いないから」
ちゅ!気づかれているとは、洞察力のするどいじいさんだ。仕方がない、誤魔化すしか無いだろう。
「あーよく寝た。わ!ここはどこでござるか!?」
「舌打ちが「ちゅ」の時点ですごい焦ってるよね。あとおかしいから、そんな言葉現代で使う人いないから、落ち着いて聞いて、本当に時間ないんだよ」
「あ、はい」
少しずつ落ち着いてきた。なんで僕はこんな所に?いや何この不思議空間。光とじいさんと俺とおまえと酒と女と水と空気と世界の終わりの中心で愛をさけn
「いや落ち着けって!まぁすぐ落ち着けって言う方が無理だろうね。ここは死後の世界だよ。君は死んだのさ。やっと言えたよ、儂は君たちの世界の言葉で神と言われてる存在さ」
「死んだ・・・僕が?神?このじいさんが?宗教だな。こんなグラサンかけてる神がいるかよ。目的は何だ?金だろうな!僕はダマされないぞ。まずは深呼吸して言ってやるんだ」
あ、自分そういうの興味無いんで。おちゅかれちゃまでちゅたー
「心で思った事と喋ってる事逆だよ!なんで心の中で噛んでんだよ!」
「え?読めるんですか?心のなかを?」
「うん、一応神様だから」
そう当たり前の事の様に言ったじいさんは懐から端末を取り出しゆっくりスクロールしていく。
「寿命をまっとうしたみたいだね。衰弱死、なんというか不器用な人生だったんだね」
悲しそうな顔で僕を見つめてくるじいさん。
死んだ?僕が?
落ち着いて見ると色々思い出してきた。
不器用な人生か、確かに器用には生きられなかったな。人と話すのが苦手なまま生きてきた。急に人と話すのが怖くなったのを覚えている。その原因は思い出せないけど。学生時代を経て就職して、友達も家族も作れずに死んだんだった。寂しかった、誰かと楽しく話したかった。恋愛にあこがれた、いつか運命のめぐり合わせがあると信じて生きてた。でも40を過ぎた時、多分このままだとずっと1人だと気付いた。いやうすうす気付いてたんだろうけど、変わらなきゃいけない、何度も思った。周りの人は普通に過ごしている、自分がきっとおかしいんだ。
考えれば考える程自分の殻に閉じこもってしまった気がする。当たり障りない会話だけで過ごしてきた自分の人生を想う。あの時こう話しかければとか、こう答えていたらとか。そうか出来ないまま死んだんだよな。
「落ち着いたかい?落ち着いた所悪いんだけど、本当に時間ないんだ」
「時間ですか?というか僕はこれからどうなるのですか?死んだのなら消える感じですか?」
「んー普通はそうなんだけど・・・人生やり直したい?」
「え?」
「君は人生をやり直したい気持ちが人の何倍も強いみたいだ。そう思う人は多いんだけどね、君ほどそう思っている人はいない。異世界ってことになるけど、君が望むなら叶えよう。君なんか面白いし」
考える。人生をやり直せる?やった、友達だ。恋人だ。もしかしたら叶うかもしれない。普通の人が持っていて僕が持っていなかった物が。異世界とかはどうでもいい。やり直せるんだ。よっしゃー。
「お願いしたいです。異世界っていうのはどうでもいいです、そんな事より、やり直したいです」
「そうか、分かった。少しだけど僕の力も与えるよ。異世界の文明は中世だ、しかもファンタジー。現代で生きてきた君にはハードルが高いだろう、おっと時間だ、詳しい事は君のカバンの中にメモを入れておこう。」
中世ファンタジー?そう聞こうとした瞬間視界が閉ざされていった。