カーネリアン
(石言葉は友情)
いまでもかんがえることが、ある。
これって日本円でいくらくらいなんだろうと伯夷は考えた。近所の土産屋。10枚セットのポストカードを手に取る。円相場のことを考えようとしたら、後ろからぽん、と、肩を叩かれて、彼は思わず振り返った。
「ようハクイ。…なんだ、また買ってるのか」
「……おう」
「ははは、もしかしてガールフレンドか?」
背の高い青年が、伯夷のすぐ傍で、にかにか笑って立っていた。大学で知り合った友人である。癖の強いプラチナブロンドの髪を揺らしながら、そうだろ?と青年はまた聞いた。伯夷は少し間をおいてから、いいや違う、と彼の推測を否定した。意外そうな顔をされるが、伯夷は気にしない。字面的に間違いはない、が、この国においてガールフレンドという表現は、日本語のそれより意味合いが強い。そういったニュアンスの違いに、伯夷はときどき、今でも迷う。
「彼女じゃない」
「違うのか?なんだ……頻繁に手紙でやりとりする相手だろ、並みの友情より深いものがあるのかと」
言われた伯夷は、ほんの一瞬だけ動きを止めた。友人は、己が買おうとしているものと同じポストカードを手にとって、しげしげと眺めている。伯夷もまた、手の中にあるポストカードをじっと見つめた。そして、遠い日本にいる親友のことを、おもった。
いまでも考えることがある。彼女は一体、自分の何だったんだろう。どうして自分はずっと、彼女の隣に居続けていたのだろう。どうして。
何故きみでなければならなかったのだろう。
(どうして?)
きみのこと。
伯夷はぎゅ、と眼を瞑って、それからゆっくりと瞼を上げた。ガールフレンドじゃない。もう一度言った言葉に、親友だよ、がきのころからの。と、そう付け足す。そう親友。だけどもしかしたらもっと深い。ふかい。
きみのこと。きみがいなければならなかったころの、俺のこと。
いまでも。
……そう、あれは、どうしてだったのだろう。
そうかそうかと頷く友人を視界の端に捕らえながら、伯夷はポストカードを会計に持っていった。手放されるポンド。それに見合うような内容を書かなくてはと思う。何を書こう。なにを書いても彼女は喜ぶだろう。そんな親友が、いっそう面白がってくれること。笑顔になれるようなことがいい、伯夷はそう思った。
(寂しいとか会いたいとか、そんな似合わない泣き言を言われないように)
たとえ遠くたって大丈夫なように。
店の外に出て、買ったばかりのポストカードを日に翳す。伯夷は笑った。
そうして今だって、きみのことを、おもうよ。
以前ブログにあげた小説の書き直し。
伯夷は男の子の名前です。中国の賢人が名前の由来。