第003話 『そして俺は…生き残れるのか?』
コミケの疲れが全然抜けない…
やっと継続出来ました( ´ー`)フゥー...
(実際はコミケ前に2/3書いてたんですがね(^_^;))
『グオオオオオオォォッ!!!!』
洞窟を出た途端、真後ろ…洞窟の上から腹に響く大ボリュームで吠える熊の様な…いや、熊よりも数段デカイ獣が俺を待ち構えていた!
洞窟の入口から一気にダッシュしたのが急な下り坂の為、どうやっても止まれない!止まったら後ろにいる獣…いや、バケモノに捕まりあっという間にこの世界での一生を終えてしまうことになるだろう…薫子の行方を探すことも出来ずに!
俺は止まれないなら駆け抜けるしか無い!と、全速力で走りだした!!
『グワァァッ!』
超大型の獣はその場でズンッと腹に響く重低音の唸り声をあげ俺を追いかけ始める!
その一歩一歩がズシンッと辺りに地響きを起こさせている様な気がするぐらいの大型…超重量を持ったバケモノだ…それが俺を追いかけてくる…
こんな事は生まれて一度も経験した事はない、追われることは水泳では幾らでもあったが大体水泳ではコースが違うので真後ろから追ってくる何てことは絶対にない。
高校に入った一年の時、大会で記録を出して全校生徒の前で褒められた時には、どうしてこの平成も四半世紀を越えようとしてるこの時代に生存しているのか居るのかわからないテンプレ不良連中に『イイ気になんなよクソが!』とか絡まれた事はあったが、連中は結局体を鍛えている訳ではなく『威圧する事しか出来ない粋がっているだけの連中』だと知ってるので何も怖くはなかった。
別の競技で成績で負けた奴が一番になった奴を逆恨みして追っかけて刺した…なんて話は聞いたことはあったが俺の周りにそんな奴は存在しなかったしな…唯一俺が死んだ時に刺したちっさいオッサンが俺に初めて刃物を向けた相手であり、逃げる隙も何も無かったのでこっちの世界に来て初めてではなく、完全に生涯初めての生死に関わる全速力ダッシュだ!
リズミカルな地響きと『ガァッ!』というバケモノのうなり声…そのプレッシャーからすぐ真後ろに近づいて来ている様に思える…それが気になり後ろを確認したいのだが…後ろを確認すると走るモーションが悪くなって速度が落ち、バケモノに捕まってしまう可能性が高いので確認したくとも確認できない!!ソレでなくとも悪路…というか道のない岩だらけの山の急斜面だ、死にたくなかったら兎に角全速力!!ホントどうしてこうなった!ただ気合を入れて出発しただけだったのに…っていうか出発する前から狙われてたんだからどうやってもこうなったのか?!
最初に見たバケモノの印象は『熊』、手足の長さが同じ程度で四つん這いで走るタイプの獣がさらにデカくなったものだという風に思えた…
それこそ三毛別羆事件のクマと同じかそれよりデカイ感じだぞ!ありえないだろ!!…いや、どう見ても異世界なのだからこんなのでも当たり前なのかもしれない…しかし、こんなのにイキナリ狙われるとかどんだけついてないんだよ俺!!
熊というのは山の『登り』は早いが『下り』は遅い生き物らしい、考えてみれば判るだろう人間だって四つん這いになってたら坂を登るのは楽になるが、下りでそんな事は出来ない。だから熊に襲われたら斜面なら下りを全速力で走れば熊に追いつかれる事ははないらしい…薫子の語った豆知識だった!
後ろを追いかけてきているバケモノはそういう体型をしているのだから、二足歩行の俺が全速力で走り続ければ何時か距離が開いて諦めてくれるはずだ…うん、多分…まだ300mぐらいしか洞窟から離れていない…森に入れるまでまだまだ距離は有る…まだ森までの半分も行ってないと思う
俺は普段水泳で体を鍛えるのをメインでやってはいるが、プールに入れない時やロケで遠出している時にはジョギングなどで体を鈍らせない様にしている…体を鈍らせないようになのでただ惰性で走るのではなく、全速力と軽いランニングを交互に繰り返す様な走り方で20kgぐらいは平気で走れる体力はある。
…だが常に下り坂で全速力、通常の足に掛かる負荷とは桁が違う力かかり続けると言う状況…さらに人生初めての追われる恐怖にビビリが入っても居る…足を縺れさせてコケる訳には行かないのだが…如何せんこの状況でいつまで足が言う事を聞いてくれるのか…自信がなくなってきていた…
500m…もう半分は超えただろう…バケモノとの距離は近づいていると思っていたがやはり四足の超重量の獣故かその距離は多少開いているようで地響きと獣の息遣いはさっきより遠くに有る…とは言え気を抜ける訳はない…あんなバケモノに襲われたら持っている剣なんかでどうにかなるもんじゃない!後ろから追ってくる相手は昔見た映画の剣闘士が戦った虎がまるで子供に見えるレベルのバケモノなのだ。
600m…あと少しで森だ!そう思った時だろうか…ふとバケモノの走る地響きが消えた……追うのを諦めたのか?と思ったのだが状況は全然違った!イキナリ辺りが暗くなったのである!ココは何も植物の生えていない山の斜面、空には太陽を覆い隠すようなモノは無かったはず…ならばいったい何が影を作っているのか!?
回答は先程のバケモノの走る地響きとは違うレベル、衝撃と言って良いズドン!と言う音と共に走っている俺の目の前に現れた!距離を開けていると思っていた先ほどのバケモノが何故か目の前30m先に土煙と共に居たのである。
『ジャンプ…なんてもんじゃないだろよ…オイッ!』
実際にはかなり呼吸が苦しくてそんなはっきりと言えた訳ではないが意識の上ではしっかりツッコミを入れている。
熊に追いかけられたら軽自動車波の威圧感があるんだろうが…この正面に立っているのは…どうみても高速を走る大型ダンプ並みの威圧感が有る…ちょっとでも引っ掛けられでもしたらそれだけで即死レベルの威圧感…いや、これマジでショートソードとかでどうにかなる相手じゃないだろ!?
バケモノはゆっくりとこちらを振り向き、コレで逃げられない…とでも言いたそうに『グガァッ!』と吠えこちらに見下したような視線を向けてくる。
大の字に両前足を開き立ち上がった姿に俺は愕然とする…立ち上がったそのバケモノの身長は多分4mを超えてる…腕も足もありえないぐらいに太く逞しい…俺の胴体よりも熊の腕のほうが数倍太いぞ…このバケモノその上でさらに馬鹿げた物が付いていた…腕と足の間に皮膜がある!?いや、皮膜って…これモモンガとかの系列の生き物なのかよ?どう考えても重量ではグラム単位ではなくトンで数えたほうが早いような重量級の生き物だぞ?ってか、手足は熊のようにそんなに長くもないのにそのちょっとした皮膜でさっきみたいな距離の滑空が可能なのか?そんなの理屈に合わないだろ!?
あんな図体を飛ばそうと思ったらソレこそ体の面積の数倍の皮膜と骨格が必要になってくるだろ…アレであんなにジャンプするとかどんなチートだよ!やっぱりこの世界、俺の育った世界とは違う法則が存在してると考えないといけない事が多すぎるぞ!
モモンガのような小型の動物は目が大きく口が小さい…それは脅威に対して警戒をするために視覚が進化しているから、そして小さな餌を常食とし大した量の食料を必要としないから…大型の動物は目が小さく顎がでかくなる…目は大きな獲物を見つける為だけに必要な訳で…小型動物ほどの大きな目は必要ない…大きなガタイを維持するために餌も大きい物を補食しそれを食らうために顎も大きくなる…ならばコレは熊に皮膜が出来たものじゃ無くモモンガ的な物が大型に進化した物なのか…
尻尾も大型哺乳類にはありえないほどにデカく太く逞しく見えるモノだった…モモンガやムササビの様に空中での舵の役割を果たしているのかもしれない…アレだけ大きな尻尾ならバランスを取ってる可能性もある
生命の危機にやたらと頭の中の回転だけは早くなっているが…今生き残る為に必要な情報は全然出てきていない!どうする!?
距離はあと10m…現状で何かいい案は思いつかない…どうやってもあの熊モドキに打ちのめされて動けなくなる未来しか想像できない…『死中に活を求める』とか言うけど…流石に無理だろ…
昔、銃の無い時代に熊と戦う戦士はとにかく密着し腕巻いた鉄輪を熊の口に噛ませ牙を封じ、熊の腹にナイフをつき入れたそうだ…密着してしまえば熊の爪も役立たずになると言う理屈からだそうだが…そこに至るまでに間違いなく決死圏を超えねばならない…この話を聞いた時にはどれだけ命がけなんだ…と思ったものだが…
今オレがもし同じことをしようとすれば…多分目の前の熊モドキの腕の長さ太さを見る限りその攻撃範囲は通常の熊の倍以上、その範囲に入れば間違いなく全身の骨を砕かれるだろう…だが今は止まることも出来ない…このままイチかバチかで全身の力を込めて剣を奴の腹に突き刺すか!?
いや、いくらこの剣が切れ味が鋭かろうがあの熊モドキの筋肉を貫けるとは思えない…あの大きさなら皮膚の分厚さも普通の熊より分厚いだろうし…その下の皮下脂肪で衝撃も吸収される…
攻撃してもダメ、逃げようとしても止まれない…なら…もうコレしか無い!!
『うおおおおおぉぉっ!!!!』
俺はさらに加速しつつ左腰に吊っていたショートソードを鞘ごと引きちぎり、左手にショートソード、右手に鞘を持って剣を抜くと同時に熊モドキの手前でジャンプしてみせる!
熊モドキは俺が玉砕覚悟で突っ込んできたと思ったのだろう上げた両手を更に上に引き上げ爪で俺を仕留めようとする…だが、俺の狙いはバケモノの頭を攻撃することじゃあない!
ジャンプの頂点手前で俺は右手に持っていた鞘を思い切り熊モドキの顔に向かって投げつける!!左利きじゃない俺が左手に剣、右手に鞘を持った理由はこの為だ!
熊モドキは反射的にその鞘を振り上げた右手で叩き落とす…その瞬間バケモノは俺から注意が逸れた…コレが狙いだった!!
ジャンプはバケモノの手の届く手前で落ち…俺はそのまま大の字になっているバケモノの股の下をスライディング気味に潜り抜けるためのブラフだったのだ!!
四つん這いになったままのバケモノの股下を抜くのは絶対に無理だ、だからジャンプして奴の注意を上に引きつけ、同時に鞘で相手の注意を俺から逸らす…熊は投げつけた鞘と自分の手の死角で俺を見失ったのだ。
俺は股下をくぐり抜ける時に置き土産とショートソードを振るう!
バケモノはその斬撃で俺が股下をくぐったことに気がついた!が、『ガァッ!!』っと一声上げながら振り向きザマに爪を振るうが其処に俺は既に居ない。
俺はスライディングの体制から立ち上がり再び急な下り坂を全速力で駆け出していた…振り向いた時には俺は既に5m先を全力疾走中…もう奴は普通に走った所で追いつけない!
熊モドキの頭が良ければココで諦めてくれたのだろうが…奴はどうやら獲物だとおもってた人間に攻撃されたことに激昂したらしく俺を諦めるつもりは無いようだ…
『グワアアアアアアアアアッッッ!!!!』
怒り全開で雄叫びを上げ再び地響きを響かせながら俺を追いかけ崖を下り始めた…
いくら怒り心頭でも熊モドキの走る速度が上がるはずはない…奴は早々にジャンプして俺を追い越そうとするはず…
俺は何時熊モドキがジャンプするのかを待ち構えながら疾走する…
さっきの俺の上を大きな影が出来たタイミングでは遅すぎる…奴の足音がしなくなったら…
地響きを伴っていた奴の足音が消えた!!!
俺は即横っ飛びして熊モドキの大きなの影から抜け出す!見上げると熊モドキは地上8m以上の高さを滑空している!?…ホントにモモンガみたいに飛べるのかよ!!
だが、その滑空のバランスが崩れる…尻尾が変な方向を向いているのだ!熊モドキは空中でバランスを取ろうとするがそのバランスを取るために一番重要な尻尾が不調なのである!
俺はさっき股下をくぐる時に後ろ足ではなく尻尾の付け根を切りつけたのだ!
普通陸上で生活する哺乳類なら尻尾の付け根は毛も薄く皮膚も柔らかく筋肉のガードも薄いだろうと当たりを付けたのだ。
陸上哺乳類ならば尻尾は退化してる物が多く大型の哺乳類では虫を避ける程度の能力しかなかったりするし、退化してない小型の哺乳類でも精々バランスを取るための物で腕や足の様な強靭な筋肉に守られた尻尾なんてものはありえない。太く大きく見えていてもモフモフの毛で大きく見えたりするものが殆どで中身は大して筋肉のあるもんじゃない。
爬虫類なら尻尾も攻撃手段になるほど鍛えられているので攻撃しようなんて思わなかったが相手は陸上の大型哺乳類っぽい。なら尻尾は鍛えられるもんじゃないだろうと思った。
本来の熊は尻尾が短く何かに用いる事が出来ないほどに退化してるので攻撃する意味なんかない。だが…この相手はモモンガの様に空を滑空する…その時の尻尾が怪我をしていたら…ソレこそ重大な問題を引き起こすはずだ!
超重量の熊モドキが空を滑空する…ありえない現象を逆手に取れば巨大な熊モドキにもダメージが有るだろう、熊モドキの股をくぐり抜ける瞬間にそう思いついての置き土産だったのだ。
熊モドキはバランスを取り損ない手足をバタつかせるが、そんなことでバランスを取りきれるはずもなく…手足をバタつかせたことで滑空自体を失敗…走っていた時よりも速い滑空の勢いそのままにさらに落下速度を加えて斜面に頭から落ちる!!
地震の様な音を響かせ熊モドキは斜面にあった大きな岩に頭から激突…そのままグルグルとでんぐり返し状態でさらに100mほど斜面を転がり落ち…そして森の太い樹の幹に雷撃の様な音を響かせ激突して止まった…
『思いつきだったんだが…思ってた以上の効果だったな…』
攻撃はたったの一回、尻尾の付け根を切りつけただけ、なのに結果はこの通り…
動こうとしない熊モドキに近づいてみる…まだ息は有るようだが攻撃してくる様子はない。
よく見てみると首が歪な方向を向いている…流石に8m以上の高さからトンレベルの自重の落下の衝撃を首の骨一本で支えきれるはずはなく完全に首が折れている様だ。
その上であの坂を転げ落ちての樹に衝突…体の骨も何箇所かは折れていてもおかしくないだろう…
それでもまだ息はある…本当にケタ違いの生命力だ。
息があるなら下手すりゃまた攻撃してくるかもしれない…確実にトドメを刺さないと安心なんて出来っこない。
とどめを刺す定番は…心臓を止める、首を落とす…どっちも現実的ではない…まるで座っているティディベアの様な体勢になってる熊モドキの前から心臓を貫こうとか…実は気絶してるだけで途中で気が付き爪で攻撃されそうで怖くて出来ないし、背中側から心臓を突き刺すとか筋肉が分厚くて貫けるとも思えないし心臓の位置は地上から2m以上の高さにあるので難易度が高い、首も同じだ…大体俺が両腕で抱きかかえても抱えきれないぐらいに太い首を切り落とすとかメチャクチャだろ?
他にトドメを刺す方法…グロいけどコレしか無いか…いくらバケモノでも脳みそをグチャグチャにされたらどうにもならないだろうしな…
頭に攻撃をくわえるにも今座った状態になってる熊モドキの頭の位置は3m近い高さだ…
どうにか熊モドキの背中によじ登り、60cmはあるその頭の耳の穴に思いきり勢いをつけてショートソードを押しこむ!!
が、硬い骨にあたった感覚はあるが…貫いた感じはない…あれ?人間だと耳から細い針で穿けば脳みそにダメージ与えられるみたいなのドラマでやってたけど…熊だと無理なのか?骨格が違いすぎるのか?
他に脳に直結してそうな部分といえば…目か…頭全体から見ると小さな目だと思ってたが近くで見ると眼窩の大きさは十分にショートソードが通りそうだ…
剣先を黒目がちの熊モドキの目に添え…上半身の力を総動員して突き刺す!
グシャ…とかいう音をさせてショートソードは根本まで突き刺さる。
熊の体が一瞬ビクッと反応し足を滑らしそうになったが頭に突き刺さったショートソードに捕まりずり落ちずに済んだ。
さらにそのショートソードを捻って脳髄をかき回してとどめを刺す…今度は反応がない…一撃目でちゃんとトドメが刺せて居たようだ。
血とかはあんまり出てないけど、生き物をこの手で殺した…その行為に嫌悪感が湧く…でも殺さないと俺が死ぬ…命のやり取り…日本で生きていたらまずありえない状況だった…
でも、俺はなんとか…この熊モドキに殺られずに生き残ることが出来た…コレが本当の熊だったら…間違いなく俺が死んでたな…超重量でありながらも空を飛ぶって馬鹿げた代物だったからこそ勝てた。
こんなバケモノがウヨウヨしてるのかこの世界…考えると途方に暮れそうになる…
『本当にこんな世界に人間が生きてるのかよ?』
洞窟で思った事がモノの数分で覆りそうになる…居るんだとしたらどう考えても俺なんかと比べ物にならないバケモノ揃いに違いない。
それこそ某格闘漫画に出てきた古代人の様に恐竜を素手でブチのめして常食するような連中なんだろう…
それならあの化け物じみた超重量武器のポールアックスとかを持って振るっててもおかしくないよな…
そんな連中に召喚されたと言う『勇者』の俺…何なんだソレ?なんか色々間違ってないか?
タマタマ上手く行って一回目はどうにか生き抜いたけど…水と果物集めようとした途端にコレとか…この世界…薫子探す以前に俺が死にそうな予感しかしなくなってきたぞ…人を探して見つけるまで俺は生き残れるのか?
バケモノ出したのは良いけどどうやって撃退できんだよ?
無駄に悩みました(;´∀`)