第001話 『そして俺は・・・どこだココ?』
勢いのまま続きです。
光のトンネルはずっと続いていた…
『なんだろうなコレ?』
昔っから言われてる三途の川とかそういうのなのか?…いやソレはないよな?
なんかこう言う臨死体験ってのでこんなトンネルが有るのはなんかで読んだ事が有った気がする…いや、薫子が読んでた本の内容を聞いたんだっけか?
一年ぐらいしか一緒に居なかったけど何時もいろんな本の話とかしてくれたよなぁ薫子は…
普通に真面目な文学少女かと思っていたらとんでも無いオカルトとか興味が湧いた事なら何の本でも読んでいろんな知識を溜め込む、ソレが薫子だった。
無論文学小説も大量に読んでいたが、モーだかヌーとか言う変な雑誌も愛読してたらしくてホント話のタネには困らかったよなぁ…
あの時の訳の判らん天の声が言ったように薫子がいる世界に飛ばしてくれるんだったらいいんだけど、そんな都合の良いことが有るわけ無いよなぁ…
死んだ後、人はどこに行くのか? ある意味普通の科学では絶対に測れないフリンジサイエンスの部分だよな…なんせ人は死んだ後に情報を送るなんて事は普通じゃ出来ないんだから。
そんな事を考えていたのだが…光のトンネルに入ってどれ位の時間が経ったのだろう…正直暇だ…トンネルは色々曲がりくねったり細くなったり太くなったりしてはいるもののこちらとしては何も変わらない。
俺の意識は常にトンネルの中心にいてトンネルにぶつかる事もない…
俺は暇潰しにいつものイメージによる上書きをしてみることにする。
俺の意識は手も足もない状態…ソレは俺が魂であるから云々以前の問題として『俺がそうだと認識し受け入れてる』からだろ?
居ると言うイメージが有るんであれば、同じように腕も足も胴体も頭も全部しっかり何時もあるようにイメージしてやればいい。
動きたい時にはその動いた姿をイメージすればいいだろう…それこそ生まれてから二十数年も見てきた自分の手足だ。
イメージするのは難しくない…
イメージを自分の意識に被せていくとちゃんと自分の意識のある部分が頭になり、胴体や腕も足もしっかり形作られていく…
元々水泳をやっている時にも自分がどう動いているのか、どう動かしているのかを意識しながらトレーニングを積んできたんだ。
普通の奴より自分の肉体のイメージとコントロールは桁違いに上手いはずだ。
大まかな形から細かい指紋まで何時もの自分をイメージし構築する。
顔はどういうものだったのか…鏡に映った自分を思い出しそして左右反転した姿が自分であると認識する。
後ろ姿なんてものは普通の人は見慣れていないだろう、だが俺は自分のフォームの確認等で嫌というほど自分の姿を何度も何度も見なおしている、忘れるはずがない。
実際の自分の姿と何ら遜色のない体をイメージで形作ってもまだ終点には到着しないようだ…
裸なのも何なんでいつものTシャツにボクサーパンツ、その上にグレーのフード付きのパーカーとジーパン、靴はスニーカー、ソレに黒いキャップと言う何時もの普段着をイメージする…
水泳をやってると肩幅が尋常じゃなく広く、Yシャツとかのピシっとしたのを買おうと思うと安い服屋じゃ体に合ったのを買えなかったりする…ウエスト部分が異常に余るんだよな。
色々面倒見てもらってた女達には『もったいないからシッカリしたスーツとか仕立てれば良いのに…シャツだってオーダーすればいいのよ、スタイル良いんだからおしゃれしたらカッコいいわよ?』とか言われてたが、所詮AV男優である俺がそんなものを着るシーンなんて有るはずもなく…
無難な、それでいてそんなに金のかからないこの格好が何時ものスタイルだった。
全身を普段着に揃え見た目は完璧…とは言え、イメージで姿は形作られた自分の腕で他の部分を触っても感覚はないし、体の部分に腕を突っ込めば何の感触もなく腕が平気で胴体を突き抜ける…なんか3Dポリゴンのゲームのバグみたいだなんて事を思っていた所で状況に変化が起きた。
『お?やっと終点かな?』
光の通路の先がこちらに迫ってくる…と言うか…コレ…トンネルの最後…壁じゃねぇか!?
『ちょ!コレで壁にぶち当たって終わりとかじゃねぇよなぁ!!!』
叫んでいるつもりでも多分コレは魂の状態だ…声なんて出てないし光のトンネルで声が反響もしない。
『う、うわぁ!!!!!!!!』
ガクン!!!と言う衝撃…を感じることもなく。白い壁だと思っていた光の壁に包まれ一瞬の後、俺は…ちゃんと地面に立っている様だった。
足元に感覚がある…何よりさっきまでは感じなかった体の重みもある…
俺の周りを覆っていた光が細かな光の粒子になって周りに消えていく…
すると辺りは完全に真っ暗闇で何も見えない…
『ど、どうなったんだ…っていうか…え?生きてる?』
夢じゃない…さっきまでのイメージでは無く間違いなく肉体がある。
さっきまでの魂の状態では自分のイメージで手足や服をイメージは出来たが、結局は作り物っぽい状態で平気で手で肉体を突き抜ける様な状態だったんだ…
ココには間違いなく自分の身体がある!自分の手足で体を確認できる、しっかり触った感覚も有る。
最後に刺された左わき腹も濡れてもいないし、変にゴワゴワした固まった血の跡や傷もまったく無い。
死んだ俺がそのままココに連れて来られた訳でも無いようだ。
『コレ…どういう状況なんだ…?』
とにかく状況を確認しようと手を前に出し足元を確認しながらゆっくりと一歩前に出てみる…足元はしっかりしてるようだ…硬い床がちゃんとある…
二歩、三歩と進んで行くと手が硬い壁に触れた…
『岩…?』
岩というか石を繰り抜いたような感じの壁だ…多少の凹凸があるもののそれなりになだらかな壁になっているようだ。
光がまるっきり無いこの場所は洞窟か何かの中なんだろうか?同じようにゆっくりと暗闇の中を手探りで探していく…
『ん?ココは…?』
左側の壁に当たる所は石の壁ではなく石積みで平らにで作られているようで平面の壁だ…ということはココは人が作った場所だという事…それならと調べて行くと一箇所壁の一部が凹んでいてどうやら扉になっているようだ…
その扉と思わしき部分の右手側の手の掛けやすい位置にくぼみが有る…ということはコレは引き戸か?
『んがぁ!!!!』
思いっきり力んで左に引いてみるが動かない…どうなってる?引き戸じゃないのか?それとも…単純に俺の腕力が足りなくて重い戸を引けて居ないだけなのか?
『そりゃぁああああああっ!!!』
更にもう一度全力で左に引いてみるが…ビクともしない…扉じゃないのか?
『はぁ……』
力尽きその戸に肩を預けて休憩しようとしたら…
ガチッ…と言う音と共に戸だと思っていた所が動き、同時にゴゴゴゴゴッ!!と部屋全体が大きく揺れだした!!
『ちょ!?な、なんだよコレ!!』
寄りかかっていた部分が横に動きだしたので咄嗟に身を引き、四つん這いになって揺れが収まるのを待つ…
5分ほどした頃だろうか…その扉の対面の上部に明かりが見え、右の方に消え、さらに明かりの部分が大きくなり左から来て、また右の方に現れるを繰り返し…やっとゴゴンッと言う音共に扉の高さと明かりの高さが同じになった。
『ネジ式のエレベーター?』
ネジの様に回転して数階分の高さを登ってきた…と言うことなんじゃないんだろうか…
『んで、扉だと思ってた所がスイッチかよ…』
そりゃいくら引いても動く訳が無いわ…コレを作った奴にしてみれば馬鹿な事をやっているように見えるんだろうな…だけどこんなの一発で判るわけないだろ!石でこんな大きなサイズのスイッチとか誰が判るんだよ!脱○ゲームかよ!俺はそんなゲームやったことすらねぇよ!
明かりが入ってきたことによってやっと自分の居る所がどういうところなのかが分かった。
洞窟だと思っていたが、ココは8m程のドーム状に岩を繰り抜いて出来た部屋だったようだ。
部屋の右側の壁には何やら物騒な武器っぽい物が並べられている…
手の平ぐらいの刃渡りのナイフに肘から先ぐらいの刃渡りの剣、俺の足と同じぐらいの長さの刃渡りの幅の広い剣に、俺の身長より高い竿の先に肘から先ぐらいの刃をつけた槍、弓に矢筒、釘バットも裸足で逃げ出しそうな凶悪なトゲトゲの付いたモーニングスターにどうやって使うのかイマイチ判らない爪の様なモノ、どうやったら振り回せるんだよ?って言うような胴体よりもデカイ斧とか、ソレにさらに物干し竿かよ?というような長い柄が付けられたポールアックス…他にも何だかよく分からない物がごっそりと壁に吊り下げられたり立てかけられている。
いや、なんだよほんとにコレ…
どう使うのかすら判らない武器を調べていると足元に紙っぽいものがが一枚落ちた…白い紙ではなく…なんだろう…獣の皮を四角く切ったような物だ。
其処には何故か日本語でこう書かれていた。
【異世界より召喚されし勇者よ。この武器を使って生き抜け】
『はぁ?異世界?召喚?勇者だ?何言ってんだよ…』
とりあえずそれでも邪魔にならないだろう大きさのナイフを鞘ごと尻のポケット…ではあまりにも邪魔だったのでベルト通しに刺し、まだ見ていなかった明かりが入ってきている場所、入り口の方を確認してみる。
今いる所はどうやらかなり高い山の壁面のようだ。
そして…下を見ると…見たこともないような大森林が辺り一面を覆っていた…見渡すかぎり木々で埋め尽くされている…更にこんなの日本じゃ…いや、地球じゃあ絶対にありえない…そう思える風景があった。
ソレは空にあった…真っ青な空それ自体に問題は無い…其処に大きさの異なる赤、青、黄色と3つの月が有ったのだ。
更に雲が有るのは当たり前としても、何やら岩石が雲のように浮いて風に流されているようにも見える…陸地のようなとんでも無い大きさの物も浮いている…更にはどう見ても鳥に見えないシルエットの生き物も多種飛んでいる!?
『ちょっとまてよ…ホントに異世界ってヤツかよ…どこが薫子のいる世界なんだよ!!答えろよ天の声よぉっ!!!!』
…叫んだ声は山彦として帰っては来たが、返答は何も帰って来ないのであった。
ご都合主義で召喚、王などから援助を受けて…と言うのは好きじゃなかったので…思いっきり『どうなんのよコレ?』な展開にしています。