第000話 『そして俺は死亡した。』
思いつきで書き始めてしまいました。
面白くなるかはこれからの展開次第…なので興味のある人は続きに期待してください。
続きではこの話以上にエロワードが展開する事は絶対に無いと思いますけどw
俺の名前は山田誠二…誠実に育ってほしいから誠二だったそうだ(一人息子なのにな…そのまま『誠実』にしようと父は言ったのだが流石にソレは酷いと母と祖父母が助言して一人目なのに誠二に成ったんだそうだ。)
だが、俺はあんまり誠実に生きたと思えていない。
なぜなら俺の仕事はAV男優…
男優である以上は演じて人を騙すようなお仕事と言うかヤってる事がヤってる事だし…世の一般の仕事と考えた時に誠実に頑張ってる…そう思ってもらえるのか?絶対に無いわ!そう言わざるおえない仕事である。
でもコレって結構辛いお仕事だぜ?
『毎日の様にヤれて良いよな!!』なんて事を今でも童貞な感じの同級生に言われたりするが、実際には毎日ではないし尋常じゃなく体力を使う肉体労働なのである。
日々の体力トレーニングは欠かせないし(そのおかげで細マッチョと言えないほどシッカリした筋肉が付いた体を維持している)、その上で精神的疲弊も大概にしろ!!と普通なら憤るレベルで過酷なのである。
めちゃくちゃ可愛い女優なんて殆どいないし、その上で好みの娘となんて殆どする事はない。
むしろ嫌いな…と言うか…幾らセックスアピールされてもエレクトしない様な女性を相手にする事が殆ど…
巨乳なのは良いけどタダのデブ、スレンダーなのは良いけどどう考えても骨と皮で婆さんみたいなのとか(フェチモノでは結構な数そういう人を相手にするものがあるんだ)
どう考えても自分の母親みたいな年齢の女優…と言うか素人も相手にしなくちゃならない事すら偶にと言っていい頻度で舞い込んでくる。
ソレこそ成人男性なら誰でも見た事がある!ぐらい有名な男優さんならばそういう仕事は少ないのであろうが俺はまだ新人レベル、駆け出しの男優だ。
そういう仕事を断れるはずもないし、断ろうものならば仕事を干されてあっという間に無収入になってしまう。
でも俺はそれを克服する術を若いうち(まだ若いけど)に手に入れて居たのでこの仕事を確実にこなして行くことが出来た。
その術とは…イメージによる現実の書き換え…『上書き』である…いや、実際には書き換えられてないよ?俺の頭の中の現実を書き換えるんだ。
人間は目から入った情報を脳で処理してそのイメージを理解している。
その理解に入る前に別のものに書き換えてしまう…コレが出来ればどんな女優が相手でも俺はギンギンにエレクトさせる事が出来る!
同時にあんまりにも気持ちよくてダメだ!!って時にも視覚情報ではなく今度は肉体情報にこのイメージの書き換えを使うことで我慢ではなくちゃんとした演技(まぁアレの事なんだが)をする事が出来る。
まぁ小難しく言ったけど、要は生身の女性相手の自家発電である。
一人で致す時、好きな女の子の事を思ってしたりするだろ?
それを本番でもやるんだ、慣れたら案外簡単な事さ!…まぁ同僚に聞いたら俺以外にそんなの出来る奴は居ないみたいだったけどな…
最初にソレを使ったのは学生の時、俺はスポーツ少年でかなりの成績を叩き出す水泳選手(県大会常連)だった…
んだけど、見た目は冴えない顔に丸坊主だったから俺より成績の出てない後輩部員の杉山がやたらモテてたのを悔しい思いでみてたんだ…
が、何を思ったのか俺に告白してきた女子が居た!
部活の帰り、そのやたらモテてる後輩部員も含めた数人で一緒に帰ろうとして居る所を声をかけられた。
『あ、あの…』
最後尾を歩いてた俺に声がかけられる。
『ん?…俺?どうした?』
なにやら顔を赤くして声をかけてきている俺より頭一つ以上背の低い女の子…
はっきり言えば如何にも『生真面目!』ッて感じ。
髪の毛を後ろで大きな三つ編みにまとめ前髪がオンザ眉毛!よりもいささか長めにしている丸メガネをかけたちょっと太めに見える娘だった。
この状態で顔を赤くして声をかけてくる…この流れは前にも何度かあった。
モテる杉山に手紙を…ラブレターを渡して欲しい、そういう流れだ。
『ちょっとゆっくり目で先行っててくれ!』
そう言って俺は他の連中を先に行かせ、彼女が話しやすいだろう人の目につきにくい体育館の裏手に移動した。
一緒に居た奴らは誰も俺が告白される…とは思ってないので俺が茶化されたりはしない、また杉山にラブレターだろうと皆が思ってたので杉山が茶化されている。
『あ…あの……その…』
人の目の付かない所に移動しても中々彼女は話を切り出せないでいる。
まぁ、彼女にしてはコレでも一大事なのだろう…本命に直接手渡しすれば良いだろうに…一分ほどそんな状態が続いたので俺から切り出すことにした。
『どうせ杉山に手紙を渡して欲しいとかなんだろ?ちゃんと渡してやるから出しなよ』
ぶっきらぼうにそう切り出した。
だが、それを聴いた彼女は頭をブンブンと音が出るんじゃないかと思うぐらいに強く振り
『い、いえ!!違うんです!!私は、山田くんが…』
『ん?俺が?』
『山田くんが好きなんでふゅ!!!!』
殆どヒステリックに叫んでいる状態で…そんな事を言われて…しかも噛んでるし…えぇっ!と驚くよりなんか冷静になってしまう俺。
あぁコレ…さっき別れた水泳部の連中が丁度この塀の外側辺りを歩いてるタイミングだから…聞こえちゃってるだろうなぁ…とか思ってしまう。
本当に真剣に俺に告白してるのか?…相手の目を見ようとするが普通にこちらを見ているはずなのにその目は前髪に隠れて良く見えず、
ただプルプルと小刻みに震えながら真っ赤にした頬と耳を観て『あぁ…本気で告白してきてくれたんだな』と思うことが出来た。
だが…如何せん初めて見た娘だし、見た目的にはあんまりイケてない…
正直俺の好みなのはアイドルみたいな派手な娘なのだ…
だが、俺は思春期真っ盛りの童貞少年。そりゃ彼女が出来ればそういう事もするだろう…いや、絶対にしないと意味ないだろ!?
顔は好みじゃないけど…と彼女全体をちょっと引いて見てみる。
顔と髪型、色白な所だけだと如何にも文系少女で生真面目そうなのは変わらないのだが…太めと思ったのはどうなんだろう?…
スカートに隠れて膝までしか見えない足は意外にほっそりとしてるし、腰もそんなに太すぎない…小柄であるにも関わらず…胸の部分はそれなりに…というかかなりのボリュームが有るように感じられる…
制服を着てると胸が大きい子がデブに見えるって言うけど…足を見る限りデブってことはないし…あれ?コレ…大当たりじゃね?めっちゃエロい体してねぇ?!
そう思うと性的にストッパーをかけられない思春期真っ只中の俺としては断る何て事は思いつきもしなかった。
『ん…そうか、俺か…俺だったか…でもその前にさ』
『は、はい?』
『君の名前教えてくれない?』
『あ…はい、私は1年B組の仁科薫子と言います』
『じゃ、これからよろしく!仁科さん』
『あ……はい…よろしくお願いします』
という訳で俺は薫子と付き合うようになった。
どうして俺なんか?と聴いたら、駅で倒れそうになってた所を助けられたり痴漢されていた所を助けたりして貰ったから…というのだが、俺は何時も女性は守らないといけない的な事を親から言われて育ったので困っている女性を見かけたら普通に助けてたし、痴漢とかそういうのを許せなかったので見つけたら即捕まえてたりしていたので薫子が何時の事を言ってるのかは判らなかった…だが、やはり良いことはしておくもんなんだろう、こうして初めての彼女が出来たんだから。
ただ見た目じゃなく俺がそういう『誠実』な人間だと思って其処が好きになったらしい。
その後…水泳の学校応援で逞しい体と泳ぎを見てからは好きで好きで堪らなくなってこの告白に至ったそうだが…いや、そりゃ俺も薫子の体観て付き合おうと思ったんだから其処は言いっこなしだろw
大体最初に体じゃなく俺の行動を観て好きになってくれたっていうのは素直に嬉しい。
その後色々デートなどして仲良くなっていたのだが…親が外出している日に自室に彼女を呼んでイザ事に及ぼうという時に俺のモノが全然エレクトしないで困った。
その時俺は自室の壁のポスターに有ったアイドルの顔を薫子に上書きしてアイドルが今オレの目の前でこんなあられもない格好で俺を待ってる!と状況を書き換えた。
ソレこそ日々日常でよくやる自慰行為そのものをリアルの時に使った訳だ…
まぁ薫子には悪い事をしたがそれでも二人の初めてが失敗で終わってそれぞれが気まずくなるよりはよっぽどいい!
一度事に及んでしまうとプレッシャーも何も感じ無くなったし、仲良く成って可愛いと思えてきた薫子が更に凄く…誰よりも可愛く見えてきた。
歯止めも効かなくなり、俺は部活が終わった後に薫子との性的な個人レッスンをするのが日常になって俺も薫子も肉欲に溺れてい色々やりまくっていた…のだが…その日常はある日突然瓦解する。
付き合い始めて一年が経とうという時に、薫子が交通事故に遭い死んでしまったのだ…
あまりにも突然の出来事だった。突然過ぎた…葬式で俺は泣いて泣いて泣いて…涙が枯れると思うほど泣いた…
二人で居た時には街のどこを歩いても以前とは違う素晴らしい景色に見えていたのが…今は全ての色が抜け落ちて何もかもが灰色に見える…絶望…ソレしか言い表せる言葉はない。
こんな悲しい思いをするならもう彼女とか作らないでも良いんじゃないか?そうとすら思えた…
悲しみの中、俺はスポーツ推薦で大学に進学した…大学は都会で一人暮らしになった…
…水泳もちゃんとやっていた…だが記録は伸びない…そりゃそうだ…俺は薫子と共に生きる希望を失ったままなんだ…そりゃどうやったってがんばろうって気はしない…
体力は使っても精力は溜まったまま…俺は性的欲求を満足する相手を失ってしまったために悶々とし…それを開放するために俺は夜の街でナンパをしまくるようになった。
相手はだれでもいい…取り敢えず溜まったものを吐き出したい。
夜の繁華街で取り敢えず女性に声をかける…一人の女を狙って、一人なら誰でもいい、声をかける…無視される…まぁこんな若いのが繁華街で女性に声をかけるなんてのはキャッチだとでも思われてるんだろう…
それでもいい、声をかけ続ける。
…何人にも無視されたが今度はアラサーぐらいのグラマーな女性に声をかける。
『お姉さん?今暇?』
『なぁに?ナンパ?私に?』
多少酔っているのだろう顔は赤めになっているが口調はそれなりにしっかりしてる。
『そうだよ、酔っ払って顔を赤くしてる可愛いお姉さん』
『あはは、こんな若い子に可愛いなんて言われたの初めてよ…で、何?私と一緒に飲みたいの?』
『いや、ヤりたいな~ってさw』
言われて女性はキョトンとした表情を取るものの
『なぁにぃ?私ならヤラせてくれると思ったの坊や?』
『いや、お姉さんとヤリたいと思っただけだよ、俺はそれなりに鍛えてるし…』
俺はTシャツをめくって水泳で鍛えあげられた腹筋を見せびらかせる
『どうだい?こんな坊やと後腐れのない一夜を過ごしてみない?』
彼女はちょっと躊躇ったものの…
『いいわ、行きましょ』と俺の腕を取ってくる…薫子の時とは身長の差から腕に触れる部分や感触も違うし相手から漂う香り等違う…それでもこうやって歩くとなにやらずいぶんと懐かしい感じがした…
彼女とホテルへ直行し先にシャワーを軽く浴び(部活が終わった後に既に浴びているがそれでもマナーとしてだ)、彼女がシャワーを浴び出てくるのをベッドの中で待つ。
彼女が死んでから既に数ヶ月溜まり続けていた…だがナニは全然エレクとしてくれない…こんな状態ならまだ10代の男ならギンギンに成ってるのが当たり前だとおもうんだが…
毎朝エレクトしてるし、夢で薫子が出てきた時には簡単に夢精してたので役立たずになってる訳ではないと思う…やはり俺は薫子じゃないとダメになってしまったんだろうか…そうかもしれない…
だったら…俺はこの年上の彼女の事を薫子と思えばいい…そうだ…最初に薫子とした時と同じだ…あの時は緊張しすぎてエレクトしてくれなかったんだっけか…酷い思い出に苦笑する。
シャワーを浴びて出てきた彼女は…薫子が成長したらこうなるのかなぁなどとイメージ出来る程度にほっそりした体に巨乳と男好きする体をしていて…その顔に薫子の成長した姿だと上書きをした途端に…俺のモノは元気にエレクトしていた。
彼女は薫子と俺の意識の上で上書きしても現実には薫子じゃない、だから薫子が喜んだ方法を使ってもあまり反応が良かったりはしない…だから相手の喜ぶ所を…薫子を喜ばせる…あの時の事を思い出し彼女の体の隅々までどういう反応を返してくるのかしっかり丁寧に調べてあげていく…その彼女の肌触り、味、色んな物を薫子の記憶で上書きして…俺の脳内に反応が違うだけの薫子を作り上げて行く…
…………
5時間後、俺と彼女は大満足でホテルのベットに突っ伏していた…俺としては吐き出せるだけ吐き出した気分だ。
こんなホテルの一室なのに俺は久々に色付きの昔見ていた世界を取り戻した気分になれた。
心地よい疲れに体を任せ、二人で抱き合いながら寝た…
早朝、目覚めた後軽くシャワーを浴びてから二人はホテルを出た。部屋の料金は彼女が支払ってくれた。
駅で別れるときに
『久々に求められてるって感じの気持ちいセックスだったわ、女として凄い満たされた感じで凄く良かった…後腐れなくとか言ってたけど良かったらまた連絡して!』
と携帯の番号を交換した
『ああ』
とだけ答え別れる。
俺としては彼女ではなく薫子相手にいつもしていた事をして出したいだけ出しただけ…のつもりだったがやはり薫子を思い浮かべてしていたので彼女がからしたらそういう事になっていたらしい。
偽物の薫子が遠のいていく…ソレと同時にまた俺の世界からは色が消えていった…
やはり色付きの世界は素晴らしいし灰色の世界はつまらない…
だが別に俺は今別れた彼女にこだわる必要もない…名前も携帯番号を交換するまで知らなかったぐらいなんだ。
俺は誰でも薫子に上書きして相手をすることが出来るんだから…其の時だけ死んだ薫子を俺の中で生き返らせる事が出来るんだから…
毎日の様に俺は繁華街で女に声をかけ、そしてその女に一晩だけ薫子になってもらっていた…
そんな事を一年ちょっと続けていたのだが、偶々声をかけた相手がAV関係の仕事をしてる女性でその人の勧めで今の男優の仕事を紹介された。
無論期待されていた大学の水泳の方は辞めて(水泳で良い記録を出そうがAVの仕事してる人間を選手にはしないだろう…不祥事扱いだ)、こっちの仕事をいれまくる様になった…あちらもそれなりに期待しているようで経験を積ませたかったらしい。
汁男優などではなくインディーズ扱いの作品とは言えちゃんと男優と仕事最初からまかせてもらった。
そのインディーズレーベルでかなりの数多種多様な女性を相手にした…そのどの仕事でも俺の仕事はいい仕事だと褒められた。
普通の新人男優は相手が好みで無くてエレクトせずに『立ち待ち』と呼ばれる状況になったりするんだそうだが(立ち待ちが多いと給料やランクを下げられてしまうそうだ)…俺は違う、自分の好みじゃないなら薫子に上書きすればいい。
細い娘でも太い娘でもブスでもオバサンでも全部薫子だと思えば俺は全然問題なくエレクトしまくるし濃厚で情熱的なセックスをすることができる。
どんな相手でも出来るだけじゃない。カメラの前でもそのカメラが無いと思えば緊張なんてするはずがない。監督やらの指示だって脳内の天の声だとでも思えばいい。
俺にしてみれば現場でも人の前でもなんでも問題なんて無い、この場に居るのは何時も俺と薫子…愛しい薫子と二人きりだ。
ただ愛しい薫子を貪るように愛すだけだ。
仕事の間、俺はまた薫子の居るカラフルな素晴らしい世界を堪能する。
男優としてどんな相手にでも問題なくエレクトし、其の上で女優と事を致し、タイミングのコントロールなど自制を必要とする部分も俺は自身の『上書き』と言う能力で問題なくこなせる。
体力は元々の水泳での基礎があり、今でも体を鍛えるために二時間以上毎日泳いでいるので体脂肪率は8%を上回る事はないマッシブボディで現場で六時間とか女優の相手をしていても体力的には何ら問題はない。
誘ってくれた人の期待を裏切らず仕事をこなす俺は新人男優として相当に重宝されていた。
そして数年……
男優の仕事をするようになってからは割り切れるようになったのか、それとも時間が経ったことで多少悲しみが薄れたのか…
世界は多少薄い色が付いたように見える様になり、別に薫子に上書きしなくともセックスする事が出来るようになった。
だが未だ彼女を作るには至らず、それでも女優から声をかけられてプライベートでもする様にはなった。
ソレが俺、山田誠二の今だ。
『誠実なれ』と誠二の名前を貰ったにも関わらず、俺は全然誠実なんかじゃない。
今は亡き彼女の姿を上書きして多くの女性を誰彼構わず抱きまくる…そんな外道が俺だ。
その愛しい彼女の処女を奪った時も薫子にアイドルを上書きして奪ったんだから誠実さなんてかけらも見当たらない、それが俺だ。
今日もまた仕事を終え、その後この前お相手した女優に誘われ焼き肉に行きそのままホテルに直行する。
売れっ子の女優なのだがあんまり俺好みの顔じゃなかったので、いつもの様に薫子に上書きして甘い時を過ごした…好みじゃないのに付き合う理由は断ったら次の仕事の時に厄介な事になるからだ、ソレに大体こういう時はオゴリだしな。
二時間ほど彼女と楽しんだ後ホテルを出る…時間はもうそろそろ終電が出るという頃だ。
『今日も気持ちよかったぁ~!また現場でもよ・ろ・し・く!』
ホテルの出口でそんな事を言いつつ電車に間に合わないと駆け出す彼女。
さて、俺の住んでいるのは二駅ほどの所だ、ゆっくり歩いて部屋に帰るか…と思った矢先、イキナリ左のわき腹に衝撃を感じた…
『がっ・・・?』
『お、俺の…マナちゃんに…お前…ナニしてんだよ…!!』
『…へっ?』
なんか俺の肩ぐらいの身長で小太りのちっさいオッサンが俺の体に体当りしてきてた…と言うか…何だこれ…力が入らない…
『ざまぁ見ろ…お前なんかマナちゃんに似合うわけ無いだろ!!!ははっ…はははっ!!』
ちっさいオッサンは高笑いしながらドタドタと走って逃げていく…アレ…ホント何だコレ…力が…全然入らない…脇腹が熱い?
膝から力が抜け無様に倒れる…どうにか頭を動かしてオッサンにぶつかられた所を見ると…包丁の柄が見えてそこから地面に血が吹き出している…
『刺されたのか…』
そう認識すると激痛が襲ってくる…動こうとか考えられるレベルの痛みじゃない…俺は上書きで痛みなんて無い!と自分の感覚を遮断する。
痛みは無くなり脇腹には違和感だけが残ったが、流石にこの状態で動くのは無理だ…傷を広げるだけだろう。
そういえばあのちっさいオッサンが言ってたマナちゃんって誰だ…
…ああ、さっきのあんまり俺好みじゃない顔の女優か…
え?…あれ?そういえばどこかで見た顔だとは思ってたけど…
あれ…薫子と最初に致した時に壁に張ってあったアイドルが彼女だったんだっけ…
数年たったら顔が一気に劣化して(成長ともいう)アイドルから転落していつのまにやらAV女優やってて俺はその相手をしてたのか…ははっ!全然気が付かなかった…
昔の憧れのアイドルだった彼女とやってて、顔が好みじゃないってずっと薫子上書きしてたから気が付かなかったぜ…なんてこった…つまりは元アイドルの追っかけがラブホから出てきた元アイドルの交際相手を刺したって状況か…笑えねぇ
AV女優やってるんだから男とそういうことやりまくってるのは当たり前だろ…それをなんで俺をターゲットにするんだよ!メチャクチャ納得行かねぇ…
『ふざけんなっ!』と叫びたかったが口から出たのは『ゴフッ』という音と大量の血液だった…
ラブホがあるんだ、この通りは別に人通りが少ない訳ではない…
オッサンが走って消えた後に倒れている俺の姿に気がついた女性がキャーと悲鳴をあげ、それに気がついた数人が大丈夫ですか!?と俺を覗きこんでくる…
『救急車!!救急車を呼べ!』とスマホを持ちながら叫んでる奴が居る…お前テンパリ過ぎだろ…スマホから電話かけられるだろうに…
あれ?それともスマホの場合は119番じゃ繋がらないのかな?…などと思っていると目の前が完全に暗くなった…
体がおもいっきり揺らされてる…目を開けると数人の白い服を着てマスクとヘルメットをした人が俺の周りを囲んで叫んでいる…見えてる天井が下へ流れていく…血圧云々叫んでるのも聞こえる…ああ、コレ救急搬送されてる最中か…どこか冷静な俺の意識。
体は異常に冷たくどこを動かそうにも力なんて入らない…アレだけ鍛えまくってたのに包丁の一突きでそれも全部おじゃんですか…やるせないなぁ…筋肉、俺の筋肉聴いてるのかよオイッ!
男優をしてからはバタフライを意識的に多めに泳いで背筋と腹筋は尋常じゃなく鍛えていたのに…その鍛えた筋肉はまるっきり反応しない…ぎりぎり動くのは瞼だけって…
その瞼もどんなに頑張っても開けられなくなり真っ暗になった…というか…血が足りなくなって目が見えないのか…
バン!っと言う衝撃とともに昔の思い出が目の前を駆け抜ける…子供の頃の思い出が思い出される…ああ、俺両親に大事に育てられてたんだなぁ…そんな事が…そんな当たり前の事が俺の胸を締め付ける…
『もう一回チャージ!…3・2・1…』
また大きな衝撃が体を貫いていく…今度はたった一年にも満たなかった薫子との思い出が目の前を駆け抜ける…子供の頃の思い出なんて全体の10/1にも満たないんじゃないのか?という密度で薫子の記憶が頭を巡っていく…コレだけ薫子の事を思ってたんだな俺…もし俺が薫子と出会ってなかったら…水泳バカのままで居たら…オリンピックに出てたかもしれないよなぁ…
でもオリンピックなんかよりも薫子との思い出の方がよっぽど良い…俺は絶対もう一度生まれ変わっても薫子を取るな…オリンピックで国の英雄になんかならなくたっていい。俺は薫子…ただ薫子がそばに居て欲しかった…
『最後にもう一回…チャージ…………』
はぁ…俺…死ぬんだろうなぁ…
薫子が死んだ時も救急搬送先で死亡したらしいけど…其の時の薫子もこんなだったんだろうか…だったらいいな…今オレは全身が凍えそうなほど寒いけど痛くはない…痛くて苦しんで死んだとかだと流石に辛すぎる…
死ぬのかぁ…俺…どうせ死ぬんだったら…死んで薫子と同じ所に行けたらいいなぁ……もう一度薫子に会いたいよ…
なんて思った時にイキナリ頭のなかから天の声が響く
『はーい、りょう~かい~!行き先は仁科薫子さんの行った先ね!では行っきますよ~!』
コレはアレか…寝る前に聞こえる幻聴みたいなもんか…死ぬ前にも幻聴って聞こえるんだぁ…
真っ暗になった目の前に小さな光が見え、ソレが段々近づいて光のトンネルになり、俺は其のトンネルをくぐっていく…
手術室ににピーと言う電子音鳴り響く…
『13時25分ご臨終です。』
俺、山田誠二は今日死んだ。