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当選  作者: 三浦 泰
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くじ運

第1章


「いらっしゃいませー」

最近の若者が何を考えているのか、私には全く理解できない

数年前に妻の律子と愛犬のジョニーを亡くし、娘は今年で高校2年生になる

こんな私をパパとしたってくれる時こそあったが、最近では気難しい年頃になってしまった

それもこれも不甲斐ない私のせいなのかもしれない


「120円になります。福引きを1回どうぞ」

ハズレか…

これまで年末の宝くじやこういった小さな福引きなど、大きな当たりを引いた記憶が一度もない

若者「っしゃー!当たったぜー!」

私には運がない

そう思うようになってから宝くじを買うこともなくなった



「人身事故の影響により遅れて運行しております」

こんなこともあろうかと私は毎日40分早く出社しているのだが、このところ遅れて運行することが常となりつつある

まあ早く着いたところで窓際族の私にやることは限られているのだが

しかし、この年になるまで無遅刻無欠勤ということだけは私の取り柄である

数々の同僚が退職していく中、私だけが残っているのはこの性格のおかげかもしれない


電車の中で時折り聞こえる若者同士の会話は、いくら彼らが楽しそうにしていても私にはいつも、そうしているフリにしか感じられなかった



その日はいつもと違うことが起きた

昼食の時間に自分でこしらえたハムサンドと朝コンビニで買ったコーヒーを持ち、屋上へ向かうといつもはいない人が柵の外に立って見えたのである

私はすぐに直感した

「や、やめなさいな」

咄嗟のことで言葉こそうまく発せられなかったが、私の思いは若者がすぐに死を選ぶ事への否定的な感情にあり、それは今は亡き妻の死因が病死であったことに起因するのかもしれない

私の声に気がつくと、男はゆっくりと振り返り、両手でしっかりと柵を掴みながらそれをまたぎ、自分で並べたであろう靴の横へと座り込んでしまった

男の話を聞いてみると、プレゼンがうまくいかないとか、最近彼女にふられたなど、私にはどれも死に直結する悩みと思えるものではなかった

私は彼にハムサンドとコーヒーを手渡し、ひとしきり元気付け励ますと、今見たことはここだけの話にすると男に約束して、そそくさと自分のオフィスまで戻り少し早めに業務に就いた



その日の夜、私は寝巻きに着替えると今日あったことのもの思いに耽っていた

コンビニの福引きはひとつも当たりはしないのに、人が自殺しようとしている局面にはぶち当たってしまう

私の運命とはいったいなんなのか

ため息をひとつこぼすと、

「いかんいかん」

と独り言を言って布団に潜り込み、私は電気を消した

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