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黒い猫

黒い猫、と聞いて。ヒナはハッとした。


あの夜。目の前を横切った影は。


「………黒い、猫……」

ヒナは確認するように呟く。


ロウはその表情を見て、再度確認した。

「そう。俺たちがこの世界にきた時も、黒猫がいたんだ。そして……彼らの側にもね。」

カイトとサラを目で見やり、情報をうながす。


「……ええ。確かに黒い猫はいたわよ。」

サラは表情を変えずに静かに応える。

カイトは無言で軽くうなずく。


「高崎さんも見たんじゃないのかな。きっとその猫が何か関与してるとは思うんだけど」

まだ確信はないけどね、と付け加えて。ヒナの返事を待つ。


「…猫なのか、ハッキリ見た訳じゃないんですけど…」


いや猫だった。とヒナは今確信している。

でも、それをここで声に出して言うのはちょっと違う気もしたので

曖昧な…だけど確実な情報だけ。


「黒い影が、私を横切ったのは確かです。猫かな、とぼんやり思って…気付いたらここに。」


「……やっぱり。」

ロウは確信したようにうなずく。何か考えているようだった。


「きっとその猫が何か事情を掴んでいるはずだ。」

ロウは皆を見渡してそう告げる。


「猫さがし…か…なかなか難儀だぜソレ。この広い街の中で黒い猫を見つけるなんてよ。」

レイが頭をぼりぼりかきながら呻く。

メンドクセーと聞こえてきそうなそぶりだ。

あえて声には出していないが。


猫探し。

黒い、猫。


ヒナは目の前を横切った影の存在を、ハッキリと覚えてはいない。

何しろ横切っただけの物体を、確認する術はないだろう。

でも。

唯一の手がかりがそれなら。

見つけるしかないだろう。


「それじゃぁワタシはそろそろお出かけの時間なので。猫さん見つけたら報告しますわ。」

カイトがヒナの隣から静かに立ち上がり、部屋を後にする。


「報告より、捕まえてくれないか。」

ロウがカイトの背中に付け加えた。


「キミなら捕まえられるだろう?」


「……どうだか。」


何か意味深なやりとりの後、カイトはヒナに向き直って言った。


「あぁそうそう姫様。ひとつだけお願いが。」


「?」


「単独行動はできるだけ避けてくださいね。特に夕方以降。できればサラと一緒にいてくださいよ。

さすればワタクシ、イザという時すぐに飛んでかけつけますので。」


とりあえずうなずいたヒナを見て、

キラッと歯を輝かせるような笑顔で、右手を振りながらカイトはそのまま部屋を出た。


「……ったく、何カッコつけてんだか。でもま、いいわ。ヒナちゃん、そういう事だからよろしくね」

サラはカイトの背中を見ながら腕組みをして呟き、ヒナのほうを見てニッコリ笑った。


……美人が笑うとまぶしい、です。


カイトもまぶしい部類の顔なのだが、あのフザケたキャラのおかげで少々かすんで見えるのがありがたい。


「さーて!今日はお洗濯日和ね!ヒナちゃん手伝って。あと午後からは買物よ♪」


うーんと背伸びしてサラが元気よく言った。

美人でまぶしいけど、いい人そうだ。

ヒナにとって、女性の存在は有り難い。


「はい」

ヒナもにっこり笑って返事をする。


現実を嘆いても仕方ない。

前を向かなければ。

手探りで進むしかない。


そう決意して。

ヒナはサラの後をついて洗濯物の片付けに取り組んだ。



「……さて。俺たちも行こうか。」

ロウがレイを見る。

レイは無言でうなずいて立ち上がる。


「じゃ、俺たちも行くよ。夕方には戻るから。携帯電話がないのが不便だね。」

苦笑しながらロウは椅子の背にかけていた質のよさそうなジャケットを羽織り、レイと共に部屋を出た。


「いってらっしゃーい」

サラはブンブンと手を振る。

美人なのに可愛い仕草だな、とヒナは笑った。



***



午後。

洗濯と掃除を終えたサラは、後ろに束ねていた髪をほどき、ヒナに言った。

「お疲れさま!さぁ今のうちに外で美味しいランチしよ!」


家のドアに鍵をかけ、サラは軽い足取りで門を出た。

ヒナにとっては初めての街で、初めてのこの世界での『外出』だ。


「アリアの街は、人口約1千万人の大きな街なの。広くて活気があるわ。東京みたいね。」

あんなにゴミゴミしてないし、土地も狭くないけどね〜とサラは説明する。


確かに。

人でにぎわう街だ。

東京のように冷たい人工的な都会ではないが。


「人が集まるところは当然、素敵なお店もたくさんよ!」


さぁどこから行こうかな、とご機嫌のサラと並んで

ヒナは少しオドオドしている。


こんな美人さんの隣で歩く日が来るとは……!


すれ違う人が皆、一度は振り返りサラを見る。

それだけ美人なのだ。

隣のヒナなんて誰も気にとめていないだろう。

その事が。

良くも悪くも自分に突き刺さる。


注目なんてされたくないけど

自分がいたたまれない気持ちになる。


生まれつきの美人って羨ましい。

女子としては本能的にうらやんでしまう。

自分が注目を浴びたいとは思わないけど

やっぱり一度はそんな顔になってみたいものだと思う。

視界が違うんだろうか。


悶々とするヒナの顔を見て。サラが心配した。

「大丈夫?人ごみとか苦手?」


ヒナは一瞬、心を見透かされたような気がして落ち着かない気分になった。

「えっ、あっ…だ、大丈夫です。」


その様子を見て、ハァーと大げさにため息をついて

サラはヒナに人差し指をつきつけて言った。


「ですます口調や敬語を使わないで!私はヒナちゃんと仲良くなりたいの!私も遠慮しないから、ヒナちゃんも思った事バンバン言ってよね!」


「は、はい…」


ヒナは気後れした。

こんな美人に仲良くしよう宣言されて、おじけずかない者なんていない。

いいのだろうか。


ちょっとだけ素直になってみる。


「……ごめんなさい。ちょっと気後れしてた。」


「え?」

予想外なヒナの言葉に、サラは目をぱちくりとする。


「サラさんは美人で元気もよくて、ホント同性の私から見ても魅力的…です。そんな素敵な方と仲良くしちゃっていいのかな〜なんて」


アハハ、と照れ隠しに笑いながらヒナはサラを見る。


サラは真剣な顔だ。

「……ヒナちゃんっっ!」


突然、抱きつかれてヒナは頭が真っ白になった。

そんなヒナに構わずサラはヒナの首に顔をすりすりとして嬉しそうに言う。


「ヒナちゃんも魅力的よっ!なんて可愛いの!気後れなんて言わないで!」


「え…あ…はい…」

ぎゅうとされて身動きができない。


「私は…こんな派手な感じだからみんな近寄りがたいのか、素直に話をしてくれる友達なんていなかった。

好きで派手になってるんじゃないのにね。生まれつきの容姿を恨んだ事もあるわ。」


意外、だった。

美人でも悩むのか、と。

派手な容姿を恨むとは。

凡人には羨ましい悩みだ。


と、同時に。

そんな『妬み』を

彼女は小さい頃から受けてきたのかとも思う。


彼女が悪い訳じゃない。

ただ、『素敵』なだけ。

なのに、それは諸刃の剣で。


人から『羨み』を受ける宿命となる。

対抗するにはーーーーーー強くなるしかない。


だからサラは、いつも気丈に振る舞っているのか。


ヒナは納得して、サラを心から可愛いと思った。

でも。

「あの…そろそろ苦しい…」

ヒナはとりあえず背中をパタパタと叩いて離れて貰う事をアピールしてみた。

力強さは可愛くないくらいだ。


それもまたサラの魅力だなーと

ヒナは改めて思う。


自分にはそんな魅力、あるんだろうか。


「あっごめんなさい!つい…」

サラが慌てたようにヒナを解放する。

そして照れた感じではにかんだ。


「私は私、だもんね。容姿が派手だろうとそんなのどうでもいいって思えるようになった。でもやっぱり友達は欲しいな…」


ヒナの目をまっすぐ見つめる。


「ヒナちゃんがそうなってくれたら私はそれだけで幸せだわ。」


こ、告白ですか。

何ですかこの愛の告白じみたシチュエーションは。


ヒナは違う違う落ち着けと自分に言い聞かせ、改めてサラに向き直った。

「よろしくお願いします」


にっこり笑ったーーつもりだった。


が、サラに突然左右のほっぺを両手でむにーっと引っ張られる。


「⁈」


「だーかーらっ!敬語とですます口調はやめてって言ったでしょ!よろしくね!よーろーしくっ」


「はひ…よほひふ」


うまく言えないけど伝わったようだ。

二人は目を合わせて声を出して笑った。


その様子を、建物の影から

一匹の黒い猫がーーー見ていた。



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