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目覚め

サラが階段を勢い良く駆け上がってくる。

ヒナは何となくそう気付いた。


数秒後。

「ヒナちゃんっっ!大丈夫っ!?」

案の定、そう言いながらサラが部屋に飛び込んで来た。


予想通りで思わず笑ってしまう。

「…うん、もう大丈夫。ありがとう」

そう返すヒナの雰囲気が、昨日までと違う気がして

サラは首を傾げる。



「冷たいもの……りんごジュースでもいいかな?」

ロウが氷の入ったグラスと黄金色の液体が入った瓶を持ってきた。

レイに聞いたのだろうか。


『冷たいもの』という曖昧すぎた発言に、

なんだか無理なリクエストを頼んでしまったようで申し訳ない気持ちになる。



「あ、すみません…!ありがとうございます」

ヒナはベッドに座ったまま、ペコリと頭を下げる。



グラスにジュースが注がれると、氷の溶ける音がする。

その響きが心地よい。

「……何か、変わった?」

ヒナにグラスを手渡しながら

ロウが訪ねる。


「?」


ヒナには何の事か分からない。

サラは隣でうんうんと頷いている。


「私もヒナちゃんを見て何となく違う気がしてたんだけど。何もなかった?」


うーん、そう言われましても…

猫と話しただけで

特に何か変わったとかそういうのは思い当たらず……


そこまで考えてふと気付く。

「あ、ちょっと自分の中でモヤモヤしてたものが……ひとつ、解決した気が…します。」


とだけ伝えた。

職人の考えがどうこうなんて、今ここで話すのはちょっと違うような。


「よく分かんないけど、ちょっとスッキリしたみたいね!よかった!」

サラはニッコリ笑ってヒナのベッドに腰掛けた。


「うん……」

確かにスッキリはした。

いつも見ないフリをしてきた部分を

こんな時にこんな所で

見つめる事になろうとは。


その為にここに呼ばれたのかもしれない。

そう、あの猫は言った気がする。


そういえばあの猫……

最後は人の姿だったような…

でも顔が思い出せない。


『もうすぐ会える』と言っていたけど…

いつ?



「あ」

サラの変な声でヒナは我に返った。

「分かった……ヒナちゃんが何か違うっていうの。」


「へ?」


ヒナはサラを見る。

サラはじぃっと、ヒナの目を覗き込んだ。


「わ、ちょ、ちょっとサラさ……」


「ロウくん見て!!ヒナちゃんの目!!」


「目?」

サラに言われて、ロウもヒナの顔を見る。


美形が二人そろってこっちを……

まぶしすぎます……てか

何見てるんですか!!


ヒナは思わず背中をそらして

少しでも二人の顔から距離をとろうとした。


ベッドの上なのでそれも虚しく。


「……ね?」

サラが確認する。

「……なるほど。そうなんだ。」


何ちょっと二人で

私の事なのに何二人で納得してるんですか。


「……あのう、一体何の事で」

ヒナが訪ねるより早く、サラが言い出した。

「ヒナちゃん、目の色が違うの」


は?


今、何とおっしゃいました?


ホラ、と手鏡を渡され、自分の顔を覗き込む。

病み上がりのスッピンのどうしようもない情けない顔が見えた。

顔色悪いし肌汚いし

何よりつくりが、よろしくない。


見慣れた顔だけど今日のは酷い。

なぜ改めてこの二人の前で

自分の顔を見なければならないのか。


もう穴があったら入りたいです、と心の底で呟いていたら。


「ほら、目の色。よーく見ないと分からないけど、ちょっと明るい。

色素が薄くなったというか。」



「……ホントだ……」

カラコン要らないや、ラッキー

と、思わず言ってしまいそうになった。


普段、休日などに

気分転換を兼ねて、たまにカラーコンタクトを着用していたのだが

その色と似ている。

元の色素を少し薄くしたような、茶色。


でも、自分でも言われないと分からない。

サラが何故気付いたのか知りたいくらいに。



「多分…『力』のせいだろうね。」

ロウがさらりと言う。


「力?」

ヒナには何の事だかさっぱり分からない。


「ヒナちゃん……『結界』破ったの覚えてる?」


「へ?」


ええと。

『結界』という言葉と意味はだいたい理解しました……

非現実ながらも、理解だけしました。

でも。

それを破るとかまだ分かってない領域ですよね?私。

初めて聞きましたよ。

『結界』って破れるんですか?破壊?


そういや解除したらどうこうって話はちょっとしてましたね。

私は遠くから見てただけのような……


そうです。私はあくまでフツーの人で。

ここにいる人たちはちょっと変わってるけど

それもまた『この世界ならいいか』と思ったワケで。


いやそれより。

私が何をしましたと?


ポカン、と口を開けたままのヒナに

ロウが苦笑しながら。


「…会社に電話したの、覚えてる?」


そう言われて。

あ、と思わず言ってしまった。


少し思い出した。



夢か現実か訳もわからず

とにかく会社は無断欠勤できないから

何とか連絡しなければ、と。


電話をかけた記憶は、ある。


あれ?

レイは電話繋がらないってーーーーー



ヒナは咄嗟にロウを見た。

「……思い出した?」

ロウに聞かれて、今度は首を縦に振る。


「……本当は、『結界』が張られていたら電話は繋がらないんだ。空間が遮断されているからね。」


そう、そんな話を聞きました。

それは覚えてますとも。


「でも、ヒナちゃんは会社に電話をした、と。」


はい。誰か知らんが電話に出ましたよ。

しばらく休むつもりで、引き継ぎまでやっちまいましたよ。


ヒナはこくこくと頷く。が

思わず疑問を確認する。

「あれ?おかしいですよね?電話繋がらないはずじゃ…」


「だーかーらっ!ヒナちゃんが『結界』を破っちゃったの!電話したとき、何か変な音しなかった?」

サラがしびれを切らして言う。


「変な音?」

ヒナはサラに聞き返す。


「そうよ、パーンとかパリーンとかパチンとか何か……弾けるような、割れるような…何か。」

うまく言えなくてもどかしいわっ、と少し苛ついた様子でサラは説明する。


「あぁ、そういえば…」

一瞬、電話が切れたかと思った。

何か音がした覚えが、ある。


「音、した?それよそれ!その音が『結界』を破った音なの!」

ふむ、なるほど。


でも、ちょっと待って。

なんで私が?


「……無意識のうちにやったんだろうね。」

ロウは納得したような顔でこちらを見ている。


いや私まだ納得できてませんけど!


「なんで……なんで私が」

ヒナはサラを見る。

「なんで…って言われても…私も分かんないわよ。

ヒナちゃんに『力』がある事も分からなかったんだし」

サラは困った顔でロウに助けを求める。


「そうだね。誰も気付かなかったはず。でも…

『誰か』がヒナちゃんの『力』をこじ開けたんだと思う」


誰か。

おそらくそれは。

夢の中にやたら出てきたアレだろう。


猫なのか、人なのか

正体すら不明の。


「なんでわざわざ……」

ヒナが恨めしそうに言う。

ただでさえこの設定についていこうと必死なのに

自分自身にそれが降り掛かるのか。


「さぁね。きっと…必要だったんじゃないかな。ヒナちゃんの『力』が。」

うーん、全く納得できません。


私は、いたってフツーの人だと思います。

なのに何で。


次に夢の中で会ったらとっちめてやる

心に誓って。



「多分、そのせいで熱が出たんだと思うよ。もう下がってるなら心配ないかな。」

ロウはそう言って、手に持っていたジュースの瓶をサイドテーブルに置いた。

「まぁ『力』がどうであれ、自分自身は特に何も変わらないよ。大丈夫。」

優しく諭す。

彼に大丈夫と言われると、何となくそう思えてしまうのは何故だろう。

不思議な声。


「…そうですね。結局は自分がどう思うか、でしょうね。」

漠然と、呟く。

独り言のように。


そう。

職業も肩書きも。

友達も環境も。

良いと感じるか悪いと嘆くかは

自分の考え次第。


それこそが、今の自分に分かる事。

それだけで充分。


ヒナの言葉を聞いて。

ロウは少し意外だという顔をしたが。

すぐに笑顔で頷く。

「……俺は下に居るから。何かあればいつでも呼んでくれたらいいよ。」

そう言って、部屋のドアを開ける。

じゃ私も、とサラもベッドから立ち上がる。

そして

「……カイトが『クローネ』のゼリー買ってくるって。楽しみにしててね」

ニッコリと笑顔でそう言い残して、部屋のドアを閉めた。


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