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事の詳細。

「さーどうするんだ、決まったか?」

レイは建物の上の人物を見上げる。


男は表情を変えずに告げる。

「……いささか早まったようだ。様子を見に来ただけなんだがね。」

踵を返して、その場を立ち去ろうとする。


「ケッ、明らかに連れ去ろーとしてたじゃねーか!」

レイは地面を勢い良く蹴り上げる。

そのまま、器用に壁を左右の足で蹴り上がり、屋上へと飛ぶ。


尋常じゃないスピードと跳躍力。

これも『力』なのか


ヒナは唖然と見るしかなかった。

特撮映画を見てる気分だ。



「……聞きたい事が山ほどあるからね。できれば逃がしたくないんだけど。」

ロウは静かに言うと、右手に護符を一枚。

それを見たアレックスは


「……残念ですが、それは次回にお願いします。私も今日はこれでお手上げです。」

と、両手を上に上げ、降参のポーズを取りながら。



パン!



と頭上で軽く手を打った。

その途端。



アレックスの足下から影が四方に伸びる。

それは一瞬で面積を広げ。

『結界』の中を全て包み込んだ。


辺り一面、暗闇になる。


「動くな」

嗄れた声と共に

ヒナは背後から肩を掴まれる。


言われなくても動けません。

とは言えるはずもなく。


ロウはすぐさま、手に持っていた護符を指で挟み、空へ投げた。


護符が突然、鳥の姿に形を変える。

そしてそれは上へ上へと羽ばたき

結界の『頂点』から上へ突き抜けた。


そこから一点の光が指す。

と、同時に。

バラバラ、と黒い羽が空間から

何枚も剥がれ落ちた。



元の町並みが一瞬にして現れた。

何事もなかったかのように、機能している。


地面に落ちたはずの大量の黒い羽も

いつの間にか消えていた。



ヒナの足下に一枚だけ残して。



「……逃げられてしまったね…」

ロウが静かにそれを拾い上げる。



「悪りぃ、こっちもだ」

レイがしかめっ面で帰ってきた。



レイが無事だったのを見て

ヒナは少しホッとした。


「…大丈夫だったかい?」

掴まれていた肩から、手が離れると同時に

そう声をかけられて

ヒナは後ろを振り返った。


「あ…はい。ありがとうございます。」


革靴屋の店主だった。

彼は、ヒナの無事を確認すると小さく頷き。

「…すまない。」

とだけ呟いた。



ヒナには何の事か分からない。

が、

あの青年ーーーアレックスと言う名の彼を

『身内』と呼んだ

その事に関してだろうと理解する。


「じーさん、何か知ってる。よな」

レイが聞く。


「……俺たちも、昨日伺った事が全てではない事くらいは分かっていますよ。」

そう言ってロウは空を見、

右手を軽く上へ持ち上げた。


空から、鳥が舞い降りる。

ロウの放った護符が変化したものだ。

持ち主の指にしなやかに止まる。


「……ありがとう。助かったよ」

ロウが鳥にそう告げると

その鳥は嬉しそうに首を傾け

フッ、と姿を消した。


ひらり、と一枚。

札が落ちる。



「……今まであらゆる『力』の話を耳にした事はあるが……実際にこの目で見る事になろうとは。」


靴屋の店主は驚き、そう呟いた。



「これは、仲間の『力』を拝借しただけです。俺はまだ勉強不足なので」


カイトに借りてきてよかった、と

ロウがヒナを見て微笑む。


そうか、カイトの護符だったんだ。


カイトはまだ本調子ではないから

きっと、こうなる事を予測して

ロウに預けたのだろう。


凄い、とヒナは驚いてしまった。


カイトは何者なんだろうか。

異世界とはいえ

こんな、非現実な技を使いこなすとは。


そしてロウも。

勉強不足だと言いながら、

ちゃっかりカイトの護符を使いこなしているではないか。



やっぱり

自分とは世界が違う。



そう思うと少し

自分だけ何もできない事が

どうにももどかしく感じてしまう。


守られてばかり。



「……話してもらえませんか。あなたの知っている事を全て」

静かに、だが断る事を許さないような口調で

ロウは再度、店主を見た。



店主はふぅ、とため息をつき。

静かに、話し始めた。


「……あの若者…妙な『力』を使うのは、

名をアレックス・ベンジャミンと言う。」


「ベンジャミン…てことは」

レイがロウを見る。


「そうじゃ。ワシの名はアラン・ベンジャミン……アヤツの兄だ。」

店主ーーーーーベンジャミンはそう言うと、

右手で髭を撫で下ろした。


「……アレックス…弟は可愛いヤツじゃった。素直で賢くて……『あの日』までは。」


あの日?



ヒナはじっと、ベンジャミンを見る。



「昨日、そこの二人には話したんじゃが……

ある日、若い娘が連れ去られた。一晩探して見つからなかったが、翌朝には変わり果てた姿で発見された。」


レイとロウも

無言でベンジャミンを見る。



「じゃが。これには目撃者がおった

……娘の幼馴染が一緒にいたんじゃ。

男だから免れたんじゃないかと皆は言うが…それはそれで残酷な話だった」


「そりゃそうだよな……側にいて守ってやれなかったんだ……悔しすぎるだろそんなの」

吐き捨てるように、レイが言う。


ベンジャミンは頷く。

「さよう…その通りじゃ。自分だけが生き残り、幼馴染は帰らぬ人となった。

それからじゃ。ヤツは笑わなくなり、誰とも話さなくなった。」


ロウは理解したようだった。

「その幼馴染が……弟さん、ですね。」

そう問いかける。


「さよう。ワシと弟と…その幼馴染は、本当の兄弟のように仲良く育った。

弟と娘は年が一緒での。二人の仲が深まるのもそう長くはかからんかったよ。」

目を細め、過去を懐かしむように

ベンジャミンは空を見上げた。


「ワシも忘れん。『あの日』を……弟が必死で助けを求め、

死にものぐるいで戻ってきたあの夜を。」


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