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手紙でつながる人々

拝啓 見知らぬ誰かへ

作者: 白波



 この手紙を拾った人へ


 この手紙を拾った人。どうか、返事を書いてください。


 とおか みく




 *




「出来た!」


 机に向かって、この手紙を書いていたのは、砂浜の近くに住んでいる外岡みく。

 彼女は、この近所の小学校に通う10歳の女の子で、背は低めで小柄、黒くて長い髪は腰のあたりまで伸びている。


 彼女は、その手紙を空ビンに入れると


「行ってきます!」


 と言って、勢いよく家を飛び出す。




 *




 緑色の小さな電車が走っている線路の踏切を渡り、少し走れば砂浜が見えてくる。


「おっみくちゃん! 今日はどうしたの?」


 みくの後ろから話しかけてきたのは、この近くに住んでいる優しいお姉さん。

 高校の制服を着ているから、学校の帰りなのだろう。


「お手紙出すの!」

「手紙か…誰に出すのか教えてくれる?」

「うーんと…ヒミツ!」


 みくがそういうと、お姉さんは、えーずるい。教えてよ。なんて言っている。


「返事が返ってきたら、見せてあげる!」

「そうか…なら、お姉ちゃんも返事が来るまで待ってるよ」


 お姉さんは、そう言い残して立ち去って行った。

 さっきまで、一緒にいた友達のほうに走っていくその背中を見送ると、みくは堤防のところにある階段を下りて海に出る。


「誰かに届きますように」


 みくは、靴と靴下を脱いで、少し海に入ると手紙が入ったビンを海のほうに向けて投げた。

 ちゃんと手紙が流れていくのか、見送りたかったのだが、さすがに冬の海は冷たかったので、急いで砂浜に上がる。


「みくちゃん! どうしたの? 海になんか入って…風邪ひいたらどうするの?」


 いつの間にか、さっきのお姉さんが来ていたらしく、心配そうな顔でみくに話しかけながら、部活で使ってるタオルをカバンから取り出した。


「ほら、これで足ふいて」


 お姉さんは、みくをひょいと抱きかかえると、足を拭いてから堤防に座らせた。

 しばらくして、お姉さんがとってきた靴下と靴をはかせてもらうと、みくは、ありがとう。と言ってお姉さんに頭を下げる。


「それで? お手紙出しに行ったんじゃなかったの? どうして、海岸に?」


 お姉さんは、みくの目線の高さに合うように屈んだ。


 みくは、聞かれるままに正直に答えていく。

 話を一通り聞き終えたお姉さんは、立ち上がってしばし考え込む。


「なるほどね…メッセージボトルか…」

「メッセージボトル?」

「うん。みくちゃんみたいにビンに入れて海とかに流す手紙をメッセージボトルっていうんだよ」

「そうなんだ。みくのメッセージボトル返事来るかな?」


 みくが目を輝かしてきたんだが、お姉さんは、困ったように頭をかく。


「そうねーどこに流れ着くかわからないし、場所によっては手紙が届くまで時間がかかるから、毎日、家のポストをちゃんと見てたらどうかな?」

「わかった! みくは、これから毎朝ポストの手紙を見る!」

「そうそう! がんばってね!」

「うん!」


 みくは、勢いよく家のほうへ走っていく。

 気づけば、日は傾き始めていて、大きな夕日が海に沈んでいくところだった。


「やばい! もうこんな時間じゃん!」


 お姉さんは、急いで家のほうへ走り出した。

 その時、彼女の腕に付けられた時計は、午後5時を指していた。




 *




 みくが手紙を出した次の日。

 朝一番に起きたみくは、パジャマを着たままポストへ走る。


「お手紙着てるかな!」


 音符でも出そうな上機嫌でポストを開けると何通かの手紙が落ちた。


「落としちゃった」


 みくは、必死に手紙を拾って中を見るが、メッセージボトルの返事らしきものは入っていなかった。


「今日はないんだ…」


 落ち込みつつも、お姉さんの何日か待ってればいいという言葉を思い出しながら、家の中に入っていく。

 次の日も次の日もそのまた次の日もポストを見たが、メッセージボトルの返事は返ってこない。


 海に行ったら、返事が返ってきているかもしれない。

 そう思って、海に行くとお姉さんが砂浜を歩いていた。


「お姉ちゃん!」


 みくが話しかけると、お姉さんは、背中に何かを隠したように見えた。


「お姉さん…何か隠したの?」

「うっううん。なんでもないよ。ちょっと、今日は用事があるから帰るね」


 お姉さんは、いつも違ってすぐに帰って行った。


「何隠したんだろう?」


 少し考えてもわからなかったから、みくは、砂浜を歩いては、落ちているビンを拾っていた。




 *




 みくが、メッセージボトルを海に流してから1週間がたった。

 今日もみくは、いつものようにポストの中を見る。


「これは…違うな…これでもないし…」


 ポストの中は、いつもと同じようにお父さんやお母さんのばっかりだったのだが、一番下にある手紙だけ、なんだか様子が違って見えた。


「なんだろう…」


 その手紙の封筒には、“みくちゃんへ”と書かれており、可愛い絵がたくさん描いてあった。


「もしかしてお返事かな!」


 みくは、他の手紙を落とさないように気を付けながら、家の中に入っていく。


 急いで朝ごはんを食べた後、自分の部屋で封筒を開くと、メッセージボトルを拾った人から手紙が来ていた。




 *




 遠くに住んでいるみくちゃんへ


 こんにちわ。


 私は、みくちゃんが住んでいる場所からずっと遠くに住んでいる人です。


 みくちゃんからの手紙を見つけたので、お返事を書きました。


 どこかで会ったら、お友達になれるといいね!


 海沿いの町に住んでいる女の子より




 *




 手紙には、そう書いてあった。

 ほかのところに名前が書いてあるということもなかった。


「なんていう名前の子なんだろう?」


 みくは、手紙を上から見たり、下からのぞいたりしてみるが、やっぱり名前が書いてある様子はない。


「うーん…これじゃあ、みくからお手紙出せないな」


 手紙が誰かに届いたというのはうれしいけれど、この手紙を書いてくれた“海沿いに住んでいる女の子”に手紙を出せないのは残念だ。


 みくは、手紙を書いてくれた海沿いに住んでいる女の子がどんな子なのか考えながら、机に向かった。



 読んでいただきありがとうございます。


 この話、もしかしたら続きがあるかもしれません。


 これからもよろしくお願いします。

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